ありふれた錬成師と空の少女で世界最強【完結】   作:傘ンドラ

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まさかのスペシャルゲスト参戦か!


最後の大迷宮へ

 

 

それは南雲ハジメらがこのトータスへと召喚される以前の話。

 

「タイムスリップかと思ったが……」

 

氷の迷宮、その最深部で溜息を吐く一人の少年。

その姿はよく見ると、いやその必要もなく南雲ハジメに極めて酷似しているのが、

一目瞭然である、しかしこの世界に於ける南雲ハジメと比べると、

その表情は遙かに猛々しく、そしてその右目は眼帯で塞がれていた、

そう、今の彼は魔王と呼ばれ、時に敬われ、時に恐れられる、そんな存在となっていた。

 

「平行世界……ねぇ」

「タイムスリップじゃないってことは、この今のこの世界にも、

いずれは私たちがやってくる可能性があるんだよね?」

 

ポニテ姿のサムライガール、八重樫雫も、やはり思案気な顔を見せる。

 

「ねぇ……だったら……助けないの?私たちのこと」

 

今の自分たちの力なら、戦いの中で散った命も取り戻せるかもしれない。

そもそも召喚される事もなくなるかもしれない。

いや、実際今この場でエヒトの元へと殴り込んでも構わないのだ、

だが……魔王は静かに首を振る。

 

「いや、止そう、俺たちが干渉することで、

この世界があれ以上に大きく変わってしまう可能性もある……」

 

それでも不安げな銀髪の乙女、白崎香織へと金髪の吸血姫、ユエがそっと口添える。

 

「……この世界のハジメでも、きっと大丈夫」

 

その確信を持った言葉に、かなわないなぁといった表情を見せる香織、

いや、香織に限らず、魔王の背後に控える妻にして巫女たちも、

一様に同じような表情を浮かべる。

 

「さぁ、脱出するぞ、後のことは後の俺たちに任せよう……原因も片付けたし」

 

一瞬、あれは何だったのか?そんな思いも頭に過るが、

この南雲ハジメは、あまりそういうことは気には留めない。

 

ともかく魔王たち一行は、後に続く自分たちにこの世界を託し、

自らの世界へと帰還する。

 

しかし……魔王といえども手抜かりはある、この世界に流されることとなった、

そもそもの原因でもある、異空間での戦い、その際、僅かではあったが、

ハジメの身体に付着した敵の欠片が、このトータスの地に残されたままとなっていたのだ。

その銀の欠片は……その魔王の、南雲ハジメの姿を明確に写していた。

 

そして特異点が……蒼野ジータがこの世界にその存在を露にしたその時、

銀片は、記録と改竄を司る星晶獣アーカーシャの欠片は輝きを放ちだすのであった。

 

 

そして時は経過し、太陽の光を浴びてキラキラと光りながら、

雲海の上を滑るように駆ける飛空艇。

 

目指す最後の迷宮がある、シュネー雪原は魔人領である、

目撃されると厄介ということで、ハジメらは彼らの目が届かないであろう高高度から、

魔人領内へと侵入していた。

 

「バレてるだろうけどね……」

 

ハジメに代わり操縦を担当しているジータが外を眺めつつ呟く。

樹海及びその近辺に潜伏していた魔人族は、ハウリア族とシャレムの活躍によって、

殆ど駆逐されたであろうとのことではあるが、

どうあったって討ち漏らしは当然あるだろうと考えるのが自然であるし、

ハウリア族もシャレムも皆殺しを決して望むような者たちではない。

 

「バレるといえばだが」

 

操縦席にお茶を持ってきたシルヴァが、少し天井を、

正確にはその上の空の彼方を気にするような仕草を見せる。

 

「別に神様だからって空の上にいるってわけじゃないと思うし」

 

笑顔で応じつつも、むしろそっちの方が殴り込むには楽でいいかなと、

ふとそんなことを思いつつも、モニターを真下へと向けると、

相も変わらずの厚い雲の絨毯が広がっている。

 

「この雲の下は、ずっと雪と氷で覆われた大地が続いているんだっけ?」

「……ん、シュネー雪原は常に曇天に覆われてる、外は極寒」

 

ジータの隣で操縦の補助を担当しているユエが答える。

そう、【シュネー雪原】とは【ライセン大峡谷】によって南北に分かたれた、

大陸南東部にある一大雪原だ。

ユエの言う通り、年中曇天に覆われ、雪が止むときはあれど、

太陽が覗くことはなく、氷雪で覆われた大地が続いている

 

「そしてその奥にあるのが……」

「……ん、氷雪洞窟、私たちの最後の目的地」

「外気温は推定マイナス数十度……南極並みだね」

 

地形や天候が記された地表用のソナーの画面を見ながら、身体を震わせるジータ、

と、そこに。

 

「ふぅ」

 

今度は作業用の白衣を身に纏ったハジメが操縦席に入って来る。

 

「お疲れ様、ハジメちゃん」

 

ジータの労いの言葉に応じるかのように、

すかさずシルヴァが注ぎたてのお茶をハジメへと手渡す。

熱々のお茶をふーふーと冷ましつつ、ハジメは精密作業用のゴーグルを外し、

先程までの作業の緊張を解くかのように、壁へともたれかかる。

 

「お前らも休憩しないか、あとは真っすぐ進むだけだろ、オートに切り替えりゃいい

あの厄介な鳥やデカブツも、ここまでは飛んでこれねぇだろうし……」

 

ハジメは掌の上の羅針盤―――望んだ場所を指し示すという概念魔法が込められた、

を、宙へと翳す。

 

「こいつも機能しているみたいだからな」

 

 

「で、見て貰いたいものがあるんだ」

 

車座に、いわゆる円卓に座った仲間たちを見回した後、ハジメが指を鳴らすと、

3Dモデルが中空へと投影され、映し出されたその威容に息を呑む一同。

それは空飛ぶクジラ、そんな印象を見る者に与える巨大船、いや戦艦だった。

この飛空艇のゆうに三倍はあるだろうか?

 

「これが日本に帰るための船なの?南雲君」

「ああ、最初はこの飛空艇で何とか事足りゃいいって思ってんだけどな」

 

ハジメは雫にそう答えつつ、フェアベルゲンで調べた地球の座標を、そしてその後に感じた

魔力枯渇による虚脱感を思い起こす、もちろん単に地球の位置のみだけではなく、

その他、様々な比較や検証を繰り返した上で必要と判断されたのが、

この巨大船である。

 

「動力その他を組み込むと、計算上どうしてもこれくらいの大きさになってしまうんだ」

 

事実、その巨大な船体の殆どは、動力部と燃料に占められており、

居住スペースは、この飛空艇とそれほど変わりはなかったりもする。

 

正直、帰還のみを考えるならこの飛空艇でも何とかなるかもしれない、

しかし自分の造り上げねばならぬ物は、単なる帰還のためのものではない、

まずはハジメの目がシアとティオをチラと捉える、

そう、彼女らの為にも往復・往来が可能なものを造らねばならない、

何より自らの第二の故郷を弄ぶ神と決着を着けるためにも。

 

そしてハジメの目は彼女らと同じく、興味深げにモデルを覗き込む、

シルヴァとシャレムにも注がれる、この船は単に帰還のみが目的ではない、

彼女らの故郷、空の世界へと、さらなる未知の世界へと羽搏くための翼なのだから。

 

「まぁ、安定したエネルギーが供給出来れば、この半分まで全長はカット出来るんだがな」

 

戻るためのエネルギーが地球で都合よく確保できるとは限らない、

その事も考慮にいれてのこのサイズ、この船である。

 

「こんな凄いものを……」

 

『俺はお前の一番の幸せは家族と共に、この故郷で暮らすことだと思ってる』

 

かつて自分が、あの何処までも着いていくという決意を伝えた時の、

ハジメの言葉を思い出し、そしてその言葉通りの心遣いを察し、声を詰まらせるシア、

そんなシアのウサ耳をハジメは労わるように撫でて行く。

 

「何度も言ってるだろ、ここはもう俺にとって第二の故郷なんだ、

里帰りはいつでも出来るようにしたい、それだけなんだ」

「はぃい……ぐずっ」

 

鼻声になりながらハジメへと頷きその胸に顔を、いや鼻を埋めようとするシア、

いつかのように服で鼻をかまれたらたまらないと、すかさずジータが鼻紙を手渡してやる。

 

「しかしこれだけの物を作るのじゃからのう……」

「建材やそれに伴う費用もバカにならんと、わたちも思うが?」

「そこは確約済みだからな、心配ない」

 

ティオとシャレムの疑問にニヤリと即答するハジメ。

 

『ハイリヒ王国の名において宣言します!此度の件、収拾の暁には、

皆様の王国における行動の自由と、そして帰還のための全面的な援助を約束すると』

 

ジータも同様にリリアーナの宣言を思い出していた、

同時に、国債がどうのと青い顔で呟く彼女や大臣の姿も思い出し、

少しばかりお気の毒にと、そんな気持ちにもなってしまってはいたが。

 

「ま、実際は現状でどうっていう仮定で考えたものに過ぎないからな」

 

ハジメは雲海の下で吹き荒れているであろう吹雪を、

そしてその先にある大迷宮へと思いを馳せる。

 

「俺たちが全ての神代魔法を、帰還の、そして世界を渡るための、

概念魔法を造り出すことが出来れば、また話は変わって来る筈だ」

「全てはそれから……だね」

 

しかし果たして解放者たちの言う極限の意思が、今の自分たちに備わっているのか?

そんな不安が一瞬ハジメの胸を過る、だが。

 

そんなハジメの不安を癒すかのように、ジータとそしてユエが、

そっとハジメの手を握る、ただ無言で……。

その様子を見、雫と鈴が心配げな表情で香織の顔を覗き込む、

しかし香織は、二人の心配など何処吹く風と言わんばかりに、

ハジメたちの姿をむしろ微笑まし気に眺めている。

 

どうやらあのハルツィナでの機神との一戦以降、

明らかに香織の中でハジメへの想いの何かが変わったのだろう、無論いい意味で。

 

と、その時、ハジメが不意に視線を前方に向けてスっと細め、操縦席へと向かう。

その表情、雰囲気を察したか、リラックスムードは即座に臨戦態勢へとスイッチされる。

 

「……着いた?」

「ああ、雲の下に降りるぞ」

 

その言葉と共にフェルニルが雲海に、そして猛烈なブリザードの中へと突入していく、

外の眺めに身震いを隠せないのは、やはりと言っては失礼ではあるがティオである。

 

「……妾、寒いのは余り得意ではないんじゃがのぅ」

 

そう口にしてから"ああ、そうだろうと思った"と言いたげな周囲の視線に、

妾はトカゲではないぞと、慌てて抗議の表情を見せるティオ。

そんな彼女の様子に苦笑しつつも、

ジータは防寒用アーティファクトを各自へと配布していく。

 

「火山の時は大変だったもんね」

「ああ、これさえあれば常に快適な大迷宮の旅が約束されるってわけさ、

全員絶対無くすなよ、カチンコチンになりたくなけりゃな」

 

 

かくしてハジメたちが最後の大迷宮を目指し、シュネー雪原へと降下した、

その数日前、魔国ガーランドでは、魔人軍総司令官たるフリードの傍らにて、

戦況の報告を聞く中村恵理の姿があった。

 

数度に渡る樹海への攻勢は全て失敗に終わり、多くの魔物のみならず、

兵たちをもが失われた、悲嘆に満ちた声と表情でそんな報告を行いつつも、

フリードの顔を見上げる騎士、こういう時のフリードは敗戦や同胞の死に憤りを隠さず、

かつ労いの言葉も決して忘れない、凡そ彼の知るフリード・バグアーとはそういう男である。

 

だが、フリードは彼の期待に反し、抑揚のない声でただ一言、こう告げるのみであった。

 

「分かった……下がってよい」

「……」

 

何故か顔の上半分を覆う仮面を被ったフリードのくぐもったような冷たい声音に、

明らかに腑に落ちない表情を見せつつも、言われたとおりに騎士は執務室から退出する。

戦況が思わしくないのは確かだ、心を塞がれることもあるだろう、

だが、それでも最近のフリード様はお変わりになられた、

それも……この女がやって来てから、そんな思いを抱きながら。

 

「ふぅ~やっぱ早まったかなぁ」

 

アルヴ神の使徒という立場であっても、先程の自身を見つめる武官の、

いや宮殿内の訝し気な視線には辟易したという、そんな声を上げる恵里、

 

「退屈だなぁ……」

 

長椅子に身体を投げ出しポツリと呟く恵里、この私室を兼ねた執務室は、

一軍の司令官、何より神の使徒に当てがわれたにしては質素な造りに思えてならない。

元々の部屋の主の性格にも拠るのだろうが、

人間領に比べ、魔人領は資源に乏しいことも理由の一つだろう。

 

その上、勇者である天之河光輝の痕跡が全く確認出来ないということも、

彼女の憂鬱な気分に拍車をかけていた。

 

「光輝くんは……」

 

手持ち無沙汰を紛らわせるためか、恵理は花瓶から一本の花を抜き取ると、

そのまま花弁をちぎり花占いを始める。

 

「来る、来ない、来る、来ない、来る、来ない、来る……こな……」

 

花弁はいつの間にか残り一枚となっていた、震える手で恵里は花弁に手を伸ばすが……。

 

「こな……こな……こな……ぃ、があああああっ!」

 

たかが児戯にも等しき占いでも耐えられなくなったか、

恵理は叫びと共に花瓶を床へと叩きつける。

身を焦がす憎悪と、それでも捨てきれぬ恋慕、二つの相反する感情に苛まれ、

どうやら恵里の精神も、また摩耗の一途を辿っているようであった。

 

他……他に何か占いに使えそうな物は……周囲を見渡した後、

仕方なさ気に履いている靴を恵里が蹴り出そうとした時であった。

また部屋をノックする者が現れ、恵理は面倒臭げにフリードの肩を叩き、

それを受けたフリードが騎士を部屋へと通すのであった。

 

騎士の報告は以下の二つであった。

まずは各都市へと放った、人間爆弾の効果が期待できそうであったということ、

そして空を飛ぶ船のようなものが樹海から、我が魔人領の方角へ向かったのを目撃したと。

 

……やはりいかにハジメたちが細心の注意を払っても、

完全にその航跡を隠蔽することは叶わなかったようだ。

 

「やっぱりあの洞窟、氷河の底に砕いて埋めてやれば良かったかなぁ、

そしたら蒼野や南雲はどんな顔をしたんだろう」

 

一先ず騎士を下がらせ独り言ちる恵里。

大迷宮を巡り神代魔法を入手することが、この世界から脱出するために、

神と戦うために必要だというならば、

先に大迷宮を破壊し、攻略そのものを不可能にする、

やはりハジメらの推測通りの手段を彼女は実行しようとしていた。

 

だがシュネー雪原、そしてその最深部にある氷雪洞窟は、先の通り極寒の魔境である、

かつ、魔人族にとっても聖地の一つということもあり、

アルヴ神の使徒という立場上、おいそれと破壊させるというわけにはいかなかった。

もっとも縛魂による上層部の掌握が順調に進めば、その限りではないが。

 

ともかく、魔人族の聖地を事もあろうに人間族が、

それもエヒト神の使徒が踏み込もうとしている、これは十分に軍を動かす名分が立つ。

さらに言うならば、王国、ひいては人間側の最大戦力が出払っているということでもある。

 

感覚としては嫌がらせの当てつけに近いものではあったが、

一応は魔人族に籍を置いている者として、恵里は早速フリードを通して命令を出す、

残存空中戦力の全てを王都に差し向け、

さらにフューレンやアンカジを始めとする衛星都市には人間爆弾を、

そして残り全軍をシュネー雪原へと進軍させよと。

 

そして自らも身支度を整え始める恵里、しかしその姿は出撃というよりも、

デートに赴く恋する少女を思い起こさせてならなかった。

 

「いるかないるかな光輝くん♪きっといるよね♪だって勇者なんだもん♪

勇者は悪い奴を見逃したりなんかしないんだ……一人で泣いてる……

可愛そうな女の子も見捨てたりなんか……きっとしない……筈なんだから」




かまってちゃんは本当にタチが悪いです。
で、光輝がいない+全員の最終試練を書く予定ではない関係上、
内容が薄くなりすぎるかなと思いまして、
対ハジメ用にスペシャルゲストを用意しました。
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