ありふれた錬成師と空の少女で世界最強【完結】   作:傘ンドラ

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このあたりから原作で顕著になってくる、ピロートークノリが苦手なので……
少しアレンジしてます。


難しい話はともかく

 

 

「粉はもう少し多い方がいいよ、雫ちゃん」

「少し切り方が雑かのう」

「……ちょっと辛い、かも」

 

キッチンから振り向きざまのフロストオーガに驚いたか、

折角の鍋料理を盛大にブチ撒けてしまったシア。

作り直しますですぅと、涙声でまたキッチンへと向かう彼女へと、

いつもシアにばかり作ってもらって申し訳ないと雫が言い出し、

そしてキッチンには女性陣の輪がすっかりと出来上がっていた。

 

その腕前はといえばジータや香織、雫は言わずもがな、

鈴も彼女らに比べるとやや危なっかしいが、中々の物に思える。

何だかんだで料理とは縁がなさそうなユエやティオもそれなりの腕を披露している

しかし、その一方で。

 

「オマエという男は……野菜の皮一つマトモに剥けんのか?」

「戦いばかりに現を抜かしていいわけではない、時間が取れたらそのことについても

愛子を交えた上で、君と話し合う必要があるようだな」

 

シャレムとシルヴァに囲まれ、その身体を縮こませて野菜クズを量産しているハジメがいた。

 

「大丈夫です」

 

そんなハジメを見かねたか、黙って見ててと言い含まれている筈のシアが助け舟に入る。

 

「皮はこうして優しくムキムキするんですよ、ハジメさんっ」

 

ハジメが手に持つバナナとトウモロコシを足したような野菜へと、

まるで野菜以外の何かを握るかのように優しく手を添え、

言葉通りの仕草を行っていくシア。

 

「お……おい」

 

そのシアの無垢な声は、一切自らの言葉と行為の意味を理解していないのは明白だった。

 

「先っちょが出たら……こうしごくと……」

 

いつの間にか周囲の音が一切聞こえなくなっていることに気が付くハジメだが、

とてもじゃないが恐ろしくて、周囲を確認する気にはなれない。

 

「ホラ……剥けました、こんなに大き……いびびびびびびびっ!」

「ぎゃああ!な……なんで俺まで……」

 

案の定何者かの放った雷撃を受け、昏倒するシアとハジメ。

顔を顰めながら、ジータがそんな二人へと呆れたような声を掛ける。

 

「しっかりしてよ、私まで……たく、痺れちゃったじゃないの」

「……ん、ハジメはお皿並べたらそこで見てるだけでいい」

「ハイ」

 

ユエによる露骨なまでの戦力外通告を受け、寂しげに背中を丸めるハジメであった。

 

そして出来上がった料理の数々は確かに美味しかったが、

ハジメにとっては何処かホロ苦い味がしたのは、言うまでもなく、

後片付けも全て自分一人で引き受けるはめになったことも付け加えて置く。

 

ともかく食事と休憩が終った後、彼らは二手に別れて宝珠の回収へと向かう。

あのままリモートでの回収だと、やはりズル認定されてしまうのではないか?

という不安は、やはりハジメといえど完全に拭い去ることは出来なかったのだ。

 

「っと、向こうは今回収が終わったみたいだ、こっちも急ぐぞ」

 

ジータからの連絡を受け、自身が受け持つ班のメンバー、

雫、鈴、ティオ、シャレムの四人へと、向き直るハジメ。

遠回りのルートを選んだ分、こちらはまだ回収まで時間がかかりそうだ。

 

敵はおろか罠すらない、そんな中で足音だけを響かせ先へと進むハジメたち。

 

「で、結局南雲君はどうするつもりなのかしら?」

 

間が保たなくなったのか、それとも単なる興味か、

雫が唐突にハジメへと問いかける。

 

「どうするって?」

 

こういう表情を彼女が見せるのは珍しいなと、ハジメが思った所で、

雫はいきなり核心を衝いていく。

 

「ジータとユエさん、どっちを選ぶのかってこと」

「……」

 

聞かれて驚かないあたり、やはりハジメの心の片隅には、

常にそのことが留まり続けているのだろう。

 

「香織のことは聞かないのか……」

 

彼女が常に親友のことを気にかけているのは知っている。

その香織のことにしても、当然ハジメも気にはかけてはいる。

もしも過ぎし日の教室で、自分に人の好意を素直に受け止められる強さがあったのならば、

強さを得ようとしていたのならば自分と香織、それぞれに違った"今"があったのかもしれない、

いや、ジータやユエ、シア、ティオについても……。

 

しかし、ハジメは静かに首を振る、そんな自分の逃避にも似た気持ちを打ち消すかのように、

結局、今を受け入れ生きるしかないのならば。

 

「南雲君?」

 

ハジメの沈黙を訝しんだ雫の声が彼の耳に届く。

 

「え……あ、香織のことは聞かないのかって」

「うん、香織はもう自分の中で南雲君への気持ちに、向き合い方に決着が付いたんだと思う」

 

恐らくはハルツィナでの最終試練での死闘で、何かを乗り越えるに至ったのだろう。

ハジメへの香織の態度があの日以来、明確に変化していることに雫は気が付いていた。

もちろんそれは諦めたというわけではなく、

より確固とした何かへといわば昇華したのであろうと雫は解釈していた。

 

―――但しそれを何と呼ぶのかは、未だ形容することが出来なかったが。

 

「でもさ……」

 

そこで今度は鈴が口を挟んでくる。

 

「カオリンとシズシズと光輝くんだって、見てる分にはそんな感じだったよ」

 

ああ、外から見れば俺たちもああいう風に見えてるのかもなと、

妙な既視感を覚えるハジメ。

もちろん当時の彼らにしても三者三様の内面を抱えていた上での話であり、

単純に自分たちのケースに当てはめていいわけではないのは、

雫の今の表情を見れば察しはつく。

 

「だからさ、時間が経てば結局纏まる所に纏まるよ」

 

だったらいいなと思いつつ、

それもまた逃げではないのかと思わずにはいられないハジメへと、

今度はティオがハジメへと話を振る。

 

「うむ、時が許したその結果ずっと一緒というのもまたありじゃろうな、

ところで、妾と交した子種の約束の件はその後どうなっておるのかの?」

「こんな所でそんなこと喋るな、大体約束なんぞ交わした覚えはないぞ」

 

もちろんティオとてそれなりの羞恥心は持ち合わせている、いる筈、いるんじゃないかな?

だが、その竜人族として生まれ育った上での倫理観については、

やはり人間とは何処か違うのだろう。

 

「でも、お前らの一族って、やっぱりブリードってか血統って重要なんじゃないのか?

言って見りゃ、こんな何処の馬の骨とも知れない奴の子種でいいのかよ……それに」

 

口籠るように、ずっと心の奥底にあった戸惑いのような澱みを、

ハジメは言葉へと表していく。

 

「結局の所こんな身体になっちまった以上、真っ当な子供が出来るのか……

そもそも妊娠だって出来るかどうか分からないだろ?ましてや……」

 

母体そのものに影響があるかもしれない。

そう、そしてそれもまたさらなる一歩を踏み出せない理由の一つには間違いないのだろう。

 

実際、オスカーの工房で散々楽しんでいた頃も、そういう所にはちゃんと気を遣っていた。

もちろん、今と違ってそこまで深く考えていたわけではないが、

少なくとも、自分の後ろでお腹を大きくして大迷宮に挑むジータやユエの姿など、

当時も今も悪い冗談以外の何物でもない。

 

「少なくともシモンさんが御墨付きをくれたんだ、亜人も人間も変わらないって、

だからこれからは大手振って、他の生き残りの竜人族を探せるんじゃないのか?」

 

単に種族の命脈を保つためならば、それが最も望ましい道かもしれない。

もちろん他に見つかればの話ではあるが。

 

「確かに生き残りを探すのも重要かもしれぬが……

別に妾は約束とか一族のことを抜きであっても……その、じゃな、ご主人と……」

 

そこでようやく今更ながらにティオは、はにかむような顔を覗かせる。

普段の実に締まりなく、だらしない笑みを見慣れてる一同に取っては、

ギャップ萌え的な印象を与えずにはいられない。

 

「ま、体外受精で良ければ何とかしてやるよ、安全性が確認されてこんな俺ので良ければな」

 

しかしその安全性は誰が、どうやって確認するのか……?

そこでまたジータとユエの顔が思い浮かぶハジメ。

もしかすると華岡青洲もこんな気分を少しは味わっていたのだろうか?などと、

彼は、古の先人へと思いを馳せずにはいられなかった。

 

「体外受精というと、ホラあれか……例の工房で作っている、ホム……ホムラ……」

「ホムンクルス」

「そう、それじゃ、しかしあれでは味気ないというか、正しく単なる交配ではないかの」

「あれとは少し違うけどな、結局胎内に戻して……って形になるだろうし」

 

と、そこでシャレムから念話が届く。

わざわざこの距離で念話を使うのだから、ロクな話じゃないんだろうなと、

思いつつも一応応じてやると、やはりというかロクな話でなかった。

 

『本人がいいと言っているのに何故にオマエは躊躇う』

『あのな』

『あれほどの身体の持ち主はそうはおるまい……』

 

確かにと、ティオの肢体を思い浮かべ、それからブンブンと頭を振るハジメ、

突然のことに目を丸くする雫たち。

 

『一度味わってしまえば、オマエはもうジータやユエでは満足できなくなるかもしれんな』

『そういう話は控えてくれ』

 

と、そんな事を話しつつも、ハジメは何故か五等分の花嫁を、

いや、正確には上杉小太郎のことを思わずにはいられなかった、

マンガの登場人物に答えを求めるなんて、ちょっとないなと思いつつも。

 

(あんたは選ばなかった残りの四人にどんな笑顔を向けるんだろうな?

そして選ばれなかった四人は、あんたにどんな風に笑うんだろうか?)

 

 

大扉の前に集合したハジメたち、それぞれの手から預かった四つの宝珠を、

ハジメはレリーフの窪みに嵌め込んでいく。

 

直後、氷の扉の全面に掘られた茨の細工に光が奔り、

宝珠が一際強く輝くと、両開きの荘厳な扉は、

ハジメたちを迎え入れるかのように音を立てて開いていった。

 

「凄いな、まさにミラーハウスだ」

 

チラリと中を覗いただけでも、氷壁の反射率が高くなっており、

鏡の如く、自分たちの姿が鮮明に映っているのが見て取れる。

 

「ゲームとかだとさ、鏡に写った自分のコピーと戦うことになるってのが多いよな

こういうステージだと」

「南雲君のコピーだなんて、厄介極まりないよ」

「そりゃどういう……」

 

本音をボソッと口にした鈴と、その言葉聞き捨てならぬと振り向くハジメ、

もちろん二人とも笑顔ではあったが。

 

「それじゃ皆行くよ……ユエちゃん?」

 

号令を掛けようとしたジータが、傍らのユエの表情を見て言葉を止める。

 

「……何だか吸い込まれてしまいそう」

 

確かに、まるで合わせ鏡のように無数の己の像が重なり合い、

深奥の闇へと繋がっていく光景は、そう思わせるだけの得体の知れなさに満ちていた。

 

「だとしても、みんなで入れば怖くないよ」

「ああ」

 

不安げなユエの髪を撫でるジータと、その肩を抱いてやるハジメ、

そんな三人の姿にうんうんと頷く、香織を始めとする残りの仲間たち。

そして彼らはスクラムを組むように互いの肩を合わせると、いざ!と、ばかりに、

一斉に扉の向こう側へ飛び込むのであった。

 

しばらくはトラップも魔物の気配もなく、

羅針盤の導きに従って順調に進んでいたハジメたちだが、

不意に全員が立ち止まり、キョロキョロと辺りを見回し始めた。

 

「今の……」

「ああ、もしかして皆も聞こえたのか?」

 

最初は各自が気のせいだと思っていた……しかし。

 

「ハジメちゃんは何て聞こえた?」

「……もっと正直になれって、そういうジータは?」

「私は……それで満足出来るの?って、ねぇ皆は?」

 

二人はその場で聞き取りを始めて行く。

 

「どうやら聞く相手によって言葉は変わるみたいだな」

「それもどこかで聞いたような声みたい」

「……ハルツィナでは擬態能力を持った魔物もいたし、

知っている誰かを真似ているのかもしれないわね、香織も鈴も何かあったら

すぐに言いなさい」

「うん、気を付けるよ、雫ちゃん」

 

―――おあいにく、骨折り損だったね。

 

骨折り損、何が?一瞬言葉の意味を掴み兼ね、

そして次の一瞬で意味を悟った香織の表情が強張って行く。

自身の中で決着が付いた筈の想いが、

再びムクムクと頭をもたげるような感覚を振り払うように、

香織はブンブンと己の頭を左右に振る。

 

「……とにかく進むしかあるまい」

「まぁ、そうだな」

 

シャレムに促され、また先へと向かうハジメたち。

但し、そう言うシャレムの顔も珍しく不快げに歪んではいたが。

 

ともかく彼らは羅針盤の導きに従い、複雑に入り組んだ迷路を迷わず進む、

早くこの場所から抜け出し、この煩わしい囁きから逃れたいとばかりに。

しかし、そんな風に彼らが焦れば焦る程に、囁きはその頻度を増していく。

 

――また裏切られる。

――自分のせいでまた失いますよ。

――受け入れられることなど有りはせん。

 

「一体いつになれば抜け出せるのじゃ!」

「どう急いでも半日はかかる!空を飛べれば別だがな!やってみるか!」

 

忌々し気なティオの叫びに、同じく忌々しくハジメが応じ、

その言い方が気に障ったのか、ティオはあろうことがハジメに向かって反駁する。

 

「何じゃその言い方は!ご主人様と言えども聞き捨てならんぞ!」

「聞き捨てならなきゃどうなんだ!あぁ!」

 

眦を吊り上げ睨み合う二人にジータがすかさず割って入る。

今、この二人に暴れられると文字通りの大惨事なのだから、それに……。

彼女は冷静さを失いつつある仲間たちへと呼びかけていく、

自身の苛立ちを抑えるかのように静かに。

 

「落ち着いて耳を澄ませて……まずはちゃんと聞いて」

 

ジータに従い、彼らは暫しの沈黙し囁きに耳を傾ける、やがて。

 

「……俺の、自分の声だな」

「うん、自分の声って自分で聞くと意外に違和感があるもんだから気がつきにくいけど」

「ああ、俺も親父の手伝いでボイステストで何度も自分の声を聞く機会があってな、

うん、確かにジータの言う通りだ……もっと早く気が付きゃよかった」

 

二人の言葉に、全員が「ああ、そういえば」と得心のいった表情となる。

 

「でも、だとすると、この声が言っていることって……私たちの心の声かも」

「……ですねぇ、心の中を土足で踏み荒らされているみたいで凄く気持ち悪いです」

 

暗澹たる口調で顔を見合わせる、香織とシア。

その一方では、互いに謝罪の言葉を口にするハジメとティオ。

 

「さっきは悪かったな……ティオ」

「それはお互い様じゃ、ご主人様もかなりキツいのであろ」

「でも、こういう時だからこそ、だよな……」

「香織ちゃん、治療で何とか聞こえなくすることって出来るかな?」

 

今更思い出したかのように、ジータは香織へと質問する、が、

香織は申し訳なさそうに首を横に振る。

 

「それなんだけど……いわゆる状態異常ってわけじゃないみたい」

「状態異常……デバフならジータのバリアで防げるしな」

 

考えてみればそれが出来るならさっさと実行してる筈なのだ。

 

「諸君……確かに不愉快だが、だからといって囚われてはならない、自信を持て

君たちは過去を、疵を乗り越えてきたからこそ、今ここに立っていられるのだから」

「シルヴァさんは……大丈夫なのですか?」

 

この揺ぎ無き狙撃手にも疵はあるのだろうか?深く考えることなく、

シアは頭に浮かんだ疑問を口にする。

 

「私にも当然聞こえている―――所詮努力では才能は超えられない、諦めろと、何度もな」

 

その傍で思わず息を呑み込むハジメ、

シルヴァをも超える狙撃の名手が、空の世界にはまだ存在しているのか……。

だがその事実は、彼に畏れ以上の昂りを覚えさせていた。

 

(行きたい……そして知りたい……もっと遠くへ、もっと多くを)

 

ともかくそんなやり取りを交えつつ、彼らはまた先へと進む、

そして先頭を歩むハジメとジータの背中を追うユエの耳に。

 

―――彼も彼女もあなただけの騎士じゃない。

 

その自らの声がまた響いた。




この作品のハジメはこういう面倒くさいことも考えてしまうのです。
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