ありふれた錬成師と空の少女で世界最強【完結】   作:傘ンドラ

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この一連の展開につきましては自分としましてもいいのかな?と、思いながら書いております。
ですが、まずは話し合わないといけませんよね。


Run For Your Life

改めてハジメは目の前の……恐らくは自身とは違った軌跡を辿ったであろう、

自分の、魔王南雲ハジメの姿を舐める様に眺めて行く。

ただしその視線は怖れよりも、物珍しさに満ちており、

それが魔王に取っては少し勘に触って仕方がない。

 

(服装はそれほど変わりはないな……と)

 

魔王が纏うは、かつて自分が着用していた物とほぼ同様の三つ揃えのダークスーツだ。

 

「その服、やっぱりユエに作ってもらったのか?」

「あぁ!?いくら自分でも勝手にユエって呼ぶんじゃねぇ!」

「だよな、悪ぃ」

 

魔王に一喝され首を竦めるハジメ、

確かに初対面で人の女を呼び捨てにするのは失礼なことである。

 

「お前のその服は俺のとは……違うな」

 

魔王の目が訝し気に細くなる、色合いこそ同じだが、

ハジメの服はより威圧感を抑えたシンプルな構造となっている。

 

「こっちもユエが作ってくれたんだよ」

「だからユエって呼ぶんじゃねぇ!」

「俺のユエだ、お前のユエじゃない、お前こそ失礼だぞ」

 

落ち着け落ち着けと、魔王に手をヒラヒラと翳しながら……

それが魔王相手に取って、いかに気安く、そして危険な行為であるかも知らず、

ハジメは観察を続けて行く。

 

(右目は……神結晶を義眼に改良したのか)

 

何をどうしてそうなったのか?もしかするとこれからの戦いで……

いや、神結晶がそうそう入手出来る筈もない、だとすると。

 

「その目、ヒュドラにでもやられたか」

「ああ……お前はどうやら切り抜ける事が出来たようだが……」

 

ともかく、これは明確な違いの一つであると言っていいだろう。

 

(ま、すでに外見云々の問題では無い気もするんだけどな)

 

何より魔王から放たれるその雰囲気は、自分のそれより遙かに獰猛で、

隻眼であってもその眼差しは猛々しい。

ハジメはカムに言われた言葉を思い出す。

 

『以前の滲み出るような猛々しさが影を潜めたといいますか……』

 

ならば、かつての自分もそのものとまでは思わないが、

あれに近い存在だったのだろう。

 

「なぁ……単刀直入に聞くぞ、お前ら、いや俺たちは……」

 

目の前の存在が自分の未来ならば……だが、魔王はそんなハジメの考えを読み取ったか、

面倒臭げにフンと鼻を鳴らす。

 

「お前に答える義務はないな、それに……」

「ああ、これはそもそも俺の、俺たちの戦いだ、お前のじゃなくな」

 

魔王の声音には明確な侮蔑感が籠っており、確かに無理もないなと

これにはハジメも納得せざるを得ない、だがそのどこか挑戦的にも見える仕草が、

ますます魔王の不興を買っていることには未だ気が付かない。

 

(なんだコイツは……こんな奴が本当に俺なのか?南雲ハジメなのか?)

 

「ま……どうしてもってんなら、聞き出して見ろよ」

 

魔王はあくまでも自然な動作でドンナーを抜き放ち、

そしてハジメは目の前の己に呼応するかのように、やはり反射的にドンナーを抜いてしまう、

……それが魔王に取っていかなる意味を持つかも知らぬままに。

 

「例えお前が俺自身であったとしても、これでお前は俺の敵だ!」

 

乗せられたか……いや、こちらが乗ってしまったのか?

ハジメは内心舌打ちしつつも、魔王が放った弾丸を寸分違わぬ軌道でもって

相殺し、さらに左手に握ったシュラークのトリガーを引くが、

こちらは逆に魔王の左手のシュラークから放たれた弾丸によって相殺される。

 

まるで鏡合わせのような、一連の流れるような挙動の後、

二人は互いの眉間にドンナーを突き付けつつ、どちらかともなく口を開く。

 

「やはり根本的には同じ存在みたいだな、俺たちは」

「ああ、でもお前よりは不毛なことはしたくない方なんでね」

 

それには応じず魔王はハジメの眉間めがけ銃口を向け、

容赦なく急所を狙ってくれるのが、むしろ幸いしたと思いつつも、

ハジメはアザンチウム製の大盾を、魔王の眼前へと展開し弾丸を防ぐ。

もちろんこんな物で魔王の猛攻を凌げるとは思えない、

あくまでもこれは魔王の視界を防ぐためのものだ。

 

「……ヲイヲイ」

 

魔王は唇を僅かに歪めると、無言かつ無造作に大盾を分解する、

が、目の前に開けた光景に彼は一瞬絶句する。

そこにあったものは、南雲ハジメとしては、まさにあり得ない光景だった。

なんとハジメは躊躇うことなく逃走と言う選択肢を選んだのであった。

 

一本道をひたすらに駆け、みるみる小さくなっていくハジメの背中に、

後を追うことも忘れ、魔王は叫ぶ。

 

「何故尻尾を巻いて逃げる!お前は本当に俺か!」

 

 

「魔王に向ける銃口は持ち合わせちゃいないのさ!」

 

と、捨て台詞を吐きつつも、ハジメは次に魔王が打つであろう手を必死で考える。

距離……環境……導き出される一手は……。

そこで自身の周囲に展開させたクロスビットが背後の熱源を感知する。

 

「シュラーゲン!やっぱりそう来るよな、俺!」

 

ハジメは数瞬で弾道を予測すると、

ゼリー状の対衝撃吸収用のクッションを通路に幾重にも展開し、

自身はそのままクロスビットのバリアを最大出力で自身の背中に集中させると。

スライディングで床へと伏せる。

張り巡らせたクッションが一瞬で蒸発・貫通する音がまずは耳に届く。

だがそれでも威力は確実に減衰させ、かつ、弾道を強引に捻じ曲げていく手応えはあった。

そして目論み通り自分の頭上を紅の魔力を迸らせた弾丸が、

轟音と共に通過していく感触をハジメは確かに覚えていた。

 

「まずは命拾いか……」

 

ハジメはこれも計画通りとばかりに、穿かれた壁の大穴から外へと脱出する、

意外にも抜けた先にはまた迷路が広がっており、

迷うことなくハジメは中へと逃げ込んでいく。

流石に一息ついて仕切り直したかったのもあるが、

何よりオープンな環境で撃ち合えば、どちらに転ぶか分からない、

負ける……とは思わずとも、ハジメはそう判断せずにはいられなかった。

 

もしも自分が敗れれば……死ねば……ジータの顔が頭に浮かぶ。

 

「こっちの気も知らねぇで攻撃全振りかよ……流石は魔王」

 

しかしここまで思いきりのいい真似をしてくるとは思わなかった。

この迷宮の試練の特性からいって、恐らくは攻撃的・破壊的な箇所を、

より一層、カリカチュアライズされた存在ではあるのかもしれないが。

 

「逃げてもダメなら……か」

 

自身へと向けられた羅針盤の光を認識し溜息をつくハジメ。

それでも……この苦境に何故か胸中に心躍る物を感じながら。

 

 

 

と、ハジメが己が進む筈であった未来との対峙を始めた頃。

ジータもまた己の影との対峙を続けていた。

 

「随分と楽しんでるみたいじゃない?第二の人生を」

 

そこにいたのはごくありふれた容姿のOLだった、

歳の頃ならば、大卒間もないくらいといった感じか。

ああ……そういえばと、ジータは生前の記憶、

いや、今となってはかつてそうだったという記録を手繰り寄せる。

かつての自分は体重と残業時間を気にする、どこにでもいる会社員だった。

趣味と言えば精々、週末にネット配信のアニメを、

発泡酒を片手にダラダラと視聴したり、たまに友人と飲みに行くことくらいの。

 

「で、わざわざ前の姿で出て来たのはどういうことかな?」

「そんなの決まってるでしょ、あなたが今の生そのものに対して、

根本的な罪悪感を抱いているからよ」

 

影の鋭い指摘にジータの喉の奥からぐっ……という声が漏れる。

確かに今の自分の生は、家族旅行中の爆破テロという不慮の死に対する転生特典であり、

いわば真っ当な形で生まれたわけではないのは事実である。

 

「テロリスト様々ってところね」

 

そう……久々にあの女神の言い草を思い出すジータ、

思えば自分の神様不信はあの時から来ている、だが……。

 

「それは言っちゃダメだよ」

 

やんわりとだが、それでもそこは影へと釘を刺すジータ。

この試練の意味はとうに悟っている、だが、それでも聞き捨てならないことには、

はっきりと異を唱えねばならない。

 

「そりゃ……ラッキーだったとは……思わないわけじゃないよ」

 

罪悪感は確かにある、いかな神様特典とはいえど、

結局は誰かの犯した罪と不幸の上に成り立っている現在なのだから。

 

(さらに言うならば勘違いも含まれてはいるが)

 

「それでも、この姿になっちゃったんだから、それはもう仕方ないよね」

 

過去は……それこそ前世など、どうやったって変えられない、

ならせめて今を、そしてより良い未来を目指すしかないのだから。

 

「随分と前向きね……それもその姿のお陰かしら?」

 

影の言葉には若干の嫉妬が混じっていた、

影もそれなりの容貌ではあるのだが、やはりジータとは比べようもない。

 

「それも否定はしないよ、人は余裕があってこそだもの……そういう意味で言うと、

やっぱりなりたい自分になれたってことなのかもね」

 

サバサバとそれでいて開き直ったような態度でくるりとその場で身を翻すジータ、

こんな媚びた真似も、この姿であってこそだ。

 

「でも、だからって私は自分の幸せを放棄したりなんかしないよ」

 

過去を変えられないのなら、生まれだって選べない、自分の場合はやや特別ではあるが。

 

「私が私であった時だって、だいたい同じような日々だったけど、

それなりに幸せだったしね、でしょ?」

 

フン!と、影が苦笑したか否かの内に、鏡像がまた揺らめき、

影の形が今度こそ現在の、ジータの姿へと変わって行き、

影のジータの持つ剣が一切の躊躇いもなくジータへと振り降ろされる。

 

「随分と攻撃的ね」

「嘘吐きは嫌いなの」

 

土属性の剣、ワールドエンドを互いに構え、

ジータとジータは睨み合う。

 

「嘘吐きってなにが?」

「わからないの?本当にあなたが好きなのは」

 

影の繰り出す突きを交わしながらも、何故かズキンと胸が鳴るのを感じるジータ、

普段の彼女ならば迷うことなくハジメだと即答できる筈なのに、

何故か言葉が出て来ない、それは相手が紛れもなく自分自身であるからだろう。

 

確かにそれは己の胸の中に、封じ込めていた思い、いや、もう忘れた筈の思い、

だが、やはりそれは未だ川の澱みの奥底の泥の様にその胸にこびり付いていたのだ。

そのことをはっきりと自覚するジータ、それに伴い、

己を狙う影の突きの速度が明らかに早まって行くようにも感じられた。

 

そして影はジータの動揺を見透かし、嗤いながら不都合な真実を高らかに口にする。

 

「グラン兄さんなのにね」

「確かに……私は兄さんが好き、恋していた時期もあった……けどっ!」

 

心が、呼吸が、乱れて行くのを自覚した上で、ジータは叫ぶ。

そもそも実の兄妹なのだ、ありえないしあってはならないこと、

それに兄にはすでに……。

 

あの日……自身が転生者である自覚もまだ無かった、そんな幼い頃。

他愛なく兄の背中をこっそりと尾行した先で見た物……。

それは自分らと殆ど歳は変わらないであろう少女の手を、

限りない愛情を込めて固く握りしめる兄の姿。

 

『もう少し大きくなるまで僕らのことは秘密にしないと、皆が驚いてしまう』

 

漏れ聞こえたそんな兄の言葉に、二人はまるで前世からの恋人……と、

そんな直感を覚えたのは、今思うと、自分が転生者だったからだろうか?

ともかく、その瞬間ジータの初恋は脆くも崩れ去ったのである。

 

とはいえど、人は恋を愛を探し求める生き物である。

兄への敬愛はそのままに、ジータもまた新たな想いを預けられるそんな相手を

探し求めるのはまた当然のこと。

だが、完璧な存在がすぐ目の前にいるのである、どうあったって他の男への点数は辛くなる。

それは南雲ハジメに対しても、天之河光輝にしても変わりはなかった。

 

「天之河光輝は見た目だけなら合格点だったけど、余りにも性格に難があり過ぎた

……何より」

 

ぐぐぐ……と、影は鍔迫り合いに持ち込み始める。

その膂力に押され、ジータの顔が歪む。

 

「彼は自分の思いばかりが先に立って、自分への思いに対して無頓着過ぎた……

恵まれているのが当然だと思い込み過ぎていた」

 

体軸をずらすようにして、何とか鍔迫り合いから逃れるも、

影の繰り出すさらなる追撃の刃がジータの肌を掠めていく。

 

「その点、南雲ハジメは良かった、最初から今もあなたに懐いてくれている、

それにしたってカラクリがあったわけだけど……私の言いたいことわかるよね?」

 

舐めるような上目遣いでぐっ……と、身体を迫り出す影ジータ。

一方のジータは、いつもの自分はこんな風だったのかと、

その挑発的な仕草に、改めて我が身を鑑みざるを得ない。

 

「恋した男はすでに運命の相手がいて、ましてや実の兄、

どうやったって結ばれやしない」

 

影は我が意を得たかのように笑うと、唄うように言葉を続けて行く。

 

「かといって他のどんな男も魅力的には思えない、そんな中であなたは見つけたの、

退屈を紛らわせる格好の存在をね」

 

嘲るような影の指摘に、歯を喰いしばるしかないジータ。

 

「つまりあなたはハジメちゃんを、兄さんの代わりにしようとしてるだけなのよ!

代用品、ううん……オモチャにしているだけなのよ、未来を変えるって名目でね!」

「……っ!」

 

確かにそうかもしれない、いや、そうだ。

あくまでも自分にとって南雲ハジメは弟のような存在でしかなかったし、

それは向こうも似たような物だった筈だ。

少なくともこの世界に、トータスにて、己の正体に気が付くまでは、

南雲ハジメとの宿縁めいた関係を知る時までは。

 

「……確かに、以前は……日本にいた時はそうだったかもしれない、けれど」

 

この地に召喚されての日々が出会いが、自分たちを変えた。

今ははっきりとそう思える。

 

「吊り橋だよ、それは」

「かもしれないね」

 

だとすれば随分と大きくてスリリングな吊り橋だろうと思う、

渡らざるを得なかった者全てを、良くも悪くも変えてしまう程に。

逆に言えば……変われなかった、変わることを拒否した者は、

皆、橋から谷底へと落ちる運命を辿ってしまった様にも、ジータには思えた。

 

やや影がたじろいだのを見て、今度はジータが反撃に移る、

だがその刃には殺意はない。

 

「私はハジメちゃんを兄さんに負けないような男にしてみせる!

ハジメちゃんが魔王の未来に抗うというのなら、私も共に抗ってみせ……っ」

 

その時、ジータの身体に痛みが走る、まるで誰かに殴られているような……。

 

(ハジメちゃん!まさか)

 

影も同じく身体を押さえ、痛みを堪えているような仕草を見せている。

そういう所はやはり陰であっても自分なのだ、そう思えると一応敵ではあるが、

どこか親しみを覚えてしまう。

 

「……例えそれが、自分の気持ちが……魂の共有ゆえの自己防衛でしかないとしても?」

 

影はジータを見据え詰問する、何かを確認するかのように。

 

「なかったとしても!私は私の道を、私たちの未来を選んだつもり……それを阻むのなら

誰であろうと私は退かない」

「彼が自分以外の誰かを選んだとしても?」

「それが私たちのより良い未来の一部なら、けれど分かってるでしょ?」

 

ジータもまた影を見据え宣言する、ただし笑顔で。

 

「それは私が認める子が、ハジメちゃんの前に現れてからの話だから」

「随分と高いハードルね」

「それでも易々と乗り越えてしまう子だらけで困っちゃうな」

 

ハジメの周囲の少女たちの姿を思い浮かべるジータ、皆ハイレベルだと、

やはり認めざるを得ない。

 

「それはそうと、どうやら……未来がやって来てるみたいよ」

 

影の姿と声が、少しづつか細くなって行く。

 

「クリアって認めてくれるの?」

「私だって……ハジメちゃんがいなくなったら困るもの、まだ死にたくないしね」

「大丈夫、ハジメちゃんは……ううん、私たちは私たちの未来になんか、負けたりはしない

この私の……蒼野ジータのいなかった未来になんかには」

 

ああ……今ならばはっきりとわかる、自分がこれまでハジメと歩んだ道程は、

自身の存在しない未来への挑戦だったのだと。

 

「さぁ立ち向かいなさい、自分たちのあったかもしれない未来に」

 

その言葉を最後に影は鏡像へと戻り、その声のした場所へとジータは頷くと、

ハジメの元へと迷いなく駆け出していく。

その全身には未だ痛みが走り続けている。

だが、ジータの心には不安はない、何故ならばハジメの心からは、

決して怖れではなく、むしろそれを乗り越えた高揚感が伝わってくるのだから。




次回こそ、ちゃんと戦ってくれるんじゃないかな?

と、原作と本作の違いとしてましては、
色々な存在がハジメに自重を促してます。
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