ありふれた錬成師と空の少女で世界最強【完結】   作:傘ンドラ

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作中、少し厳しめな言葉も使ってはいますが、優劣や善悪や正否ではなくて、
あくまでも異なる道程を辿った二人の戦い方や考え方の違いを、
自分なりの解釈でもって書くことが出来ればと思ってます。



ハジメの軌跡

 

ドンナー、シュラーク、シュラーゲン、オルカン、メツェライetc。

それら自身の主装備を確認し、溜息を吐く魔王。

 

「そういうところはフェアにやれってことか」

 

どうやら自身の装備、いや能力も含めて全てが、

かつてこの氷雪洞窟に挑んだ際のものに、ダウングレードされてしまっているようだ。

 

「しかしアイツは本当に俺かね」

 

魔王は羅針盤の指し示す光に従い、サクサクとうっすらと雪が積もった

回廊を標的目指し進んでいく。

 

「ここにいるってことは、ハルツィナをクリアしてるだろうし、

逃げてもムダだってのが何故分からないのか……オマケに」

 

魔王の足下で微かな光が発せられる。

 

「こんなチャチなもん仕掛けやがって」

 

そう独り言ちる魔王の歩いた後には、何かの機械の残骸がただ残っているのみだった。

 

「解除されたか」

 

一方、迷路の中で壁にもたれ軽く息を吐くハジメ。

チンケなクレイモアもどきの地雷で、自分を、ましてや魔王を倒せるだなんて思ってはいない。

あくまでも解除されること前提で、相手の確実な位置を知るために仕掛けただけだ。

自身に向けられた羅針盤の光は段々と強くなっている。

 

「ま、こっちばっかり気にしてるわけにもいかないよな!」

 

自身の頭上へと迫る存在をハジメは敏感に察知する、しかも複数。

 

「お次は空中戦か!」

 

ハジメは影に呼応するかの如くクロスビットを迎撃に向かわせる、

自身を守る武装がまた一つ減ることを承知の上で。

 

「直すの手間なんだぞ、畜生め」

 

それぞれ単機ではあるが、巧みな連動を見せつつ広角に迫る魔王のクロスビットに対し、

ハジメのクロスビットは編隊を組み、互いの死角をカバーしつつ、迎え撃って行く。

自身の背後でクロスビット同士の空中戦が展開される中、さらなる迷路の奥へと走るハジメ。

その瞳には確信めいた何かが光っていた。

 

 

(迎撃……いや、拘束か……)

 

上空での空中戦は膠着状態に入りつつある、いや、引き摺り込まれたというべきか。

攻勢に出れば退き、だからといって回収に入れば、その瞬間撃墜される、

そんな絶妙な距離感を置いて迎撃してくる相手のクロスビット……。

自分と戦うことの厄介さを、ようやく理解したかのような表情を一瞬垣間見せる魔王、

 

上空では未だ火花を散らし飛び交うクロスビットの乱舞が展開されている。

自身で迎撃・撃墜し、一気にカタを付けることも考えたが、本体を倒す方が早い……、

そう結論付けた魔王は、そのまま壁をドンナ―で粉砕し、迷路の中へと足を踏み入れて行く。

―――小細工など圧倒的な力で粉砕すればいいとばかりに、

やはりこの魔王は何処まで行っても、攻撃的な戦術を選択するのであった。

 

ミラーハウスの如き迷路へと足を踏み入れ、標的へと着実に接近していく魔王、

そんな中、周囲の僅かな違和感に気が付いたのは魔王だからではなく、

むしろ錬成師としての性だろう。

巧みに偽装された偽壁の向こう側……そこには紅い魔力光を放つシュラーゲンの銃口があった。

 

「リモートだと!」

 

避けるよりも先に、魔王は自身を狙うシュラーゲンの銃口に

ドンナーを叩きこむ。

充填されたエネルギーが銃口を破壊されたことで行き場を無くし、

その場で大爆発を起こす。

 

さらにその爆発と呼応するかのように、今度は反対の通路から、

時間差でロケット弾が飛来する。

 

「オルカン!こいつもリモートかっ!」

 

シュラークによる撃墜が間に合わないとみるや、

魔王は上体をそらし、いわゆるマトリックス避けで、

自身へと迫るロケット弾を辛くも回避する。

 

爆炎を背後に従えつつ、己らしからぬ小賢しき戦法を取る自分に対し、

眦を吊り上げる魔王、しかしその反面、かつての自分とは違うやり方に、

彼はどうしても違和感を覚えずにはいられなかった。

 

(違う……俺とは、俺なら……)

 

が、やはり違和感よりも苛立ちが勝るようだ、魔王は正直に迷路を進むなど、

もはやまだるっこしいとばかりに、そのまま鏡壁を粉砕しながら進んでいく。

そしてついにハジメの影を捉え、右手のドンナーを構え、

そのトリガーを引こうとした瞬間。

 

「!」

 

その銃口に僅かに散った紅い火花に慌ててドンナーを収納する魔王。

周囲の空間には可燃粒子が充満している、

この状態で銃器を扱えば、その瞬間火ダルマである。

 

「撃ってみろよ、お前も俺もドカン!だ」

「てめぇ……」

「おっと、錬成なんぞさせやしねぇよ!」

 

ハジメは滑るように魔王へと足払いを仕掛けていく。

 

「さっきから俺にしちゃやることがセコいぞ、何より……」

 

魔王は振り下ろす様にハジメの顔面へと拳を叩きこもうとするが、

すでにハジメは上体のバネを生かすかのように立ち上がった後であり、

さらに魔王の側面に回り込むと、そのまま肘を入れようとするが、

魔王は数歩下がったのみで、ハジメの肘を空かし、

逆に掌底を突き入れるべく、一気に踏み込んでいく。

 

「格闘戦で俺に勝てると思ったか?」

「撃たれるよりは殴られる方がいいんでね!」

 

拳と拳、蹴りと蹴りの応酬が続く中、言葉でも応酬を続ける二人、

だが、やはりではあるがハジメの方が若干ではあるが、息の荒さを感じてならない、

 

(あーやっぱ強いわ、さすが俺)

 

それでも撃たれれば互いにとってそれで終わるが、

殴られるならまだ何発かは耐えられる。

ハジメにとって、自分の命は自分だけのものではないのだから。

 

「お互いに慣れっこだろ……教室で」

 

魔王の顔が一瞬の戸惑いと、そしてそれ以上の怒りと屈辱に彩られていく。

 

「お前も捨てきれてないんだな!結局は」

 

そう吐き捨てるなりハジメが宙を舞うと、無数のナイフがその手の中から、

空間を覆うが如き密度で魔王へと投擲される。

このナイフは相手の魂魄を探知し、何処までも追尾するようになっている。

 

「チッ!」

 

だが、火器が使えないことを失念したか、いや、それよりも、

後に自分が開発するリビングバレットや、この後戦うことになるエヒトの"神剣"にも、

通ずるコンセプトの武器を、目の前の南雲ハジメがこの時点ですでに開発していることに、

驚きを覚える魔王、そしてその分挙動が遅れ、何本かが魔王の身体を掠め、斬って行く。

それでも瞬時に無数の鉄球を錬成し、自身に迫るナイフ全てを叩き落としたのは、

見事の一言に尽きる。

 

「オイ!格闘戦じゃねぇのかよ!」

「答える必要はないな」

 

遠心力をたっぷりと込めた互いの回し蹴りが空中で交錯する。

 

「てめぇはこの俺を激しく苛立たせた、もうお前が何処の誰だろうが、

それこそ俺自身だろうが関係ねぇ、死ね」

 

灼熱の業火の如くに熱く、そして一切の迷いなき魔王の殺意が、

ハジメの全身を射抜いていく、それを受けたハジメの身体が僅かに震える。

だが、その表情には畏れではなく一種の憧憬が籠っている様にも見えた。

 

何故ならばその圧倒的なまでの暴を纏った姿は、

ある種の人間の原初の欲求を刺激されてならないからである。

だからこそハジメは認めざるを得なかった、魔王の威に……己とは違う道程を辿った、

その姿に惹かれる物を感じてしまっていることに。

 

蟲……かつて己の歩む筈の運命を聞かされた時のハジメは自身のことをそう称した。

全ては生存と、そして繁殖の為に特化した存在……。

だが今にして思う、だからこそ人は昆虫の持つ美に魅せられて止まないのだと。

 

(本人の前では失礼かな……この例え)

 

そんなことを思いつつも、ハジメもまた永久凍土の風の如き静かな殺意を放ち、

魔王の殺意を振り払うかのように連打を続けて行く。

 

「死ねと言われてハイそーですかって死ぬバカがどこにいる?お前こそ死ね」

「チッ!」

 

苛立ちを隠さず舌打ちを見せる魔王、いつ以来であろうか?

錬成によって空間内に充満する可燃粒子を除去出来れば、

お得意の火器による制圧攻撃が可能となるのだが、もちろんそうはさせじと、

纏わりつくようなハジメの攻勢がそれを阻んでいく。

 

「最強はな!最強の倒し方をいつも考えてるから最強なんだぜ」

 

もちろんフカシである、ただ少なくとも今を生き延びることが出来れば、

ちゃんと真面目に考えようとは思ってはいるが。

それはともかく、倒し方とまではいかないが、相手の最大のアドバンテージである、

火力に関しては封じることが一応は出来ている、あとは……。

 

「こきやがれっ!紛い物がっ!」

「俺に取ってみりゃお前の方こそ紛い物なんだがな、ここは俺の世界だっての」

 

言葉と拳の応酬の中でもう一つ問わずとも分かったことがある、

それは……目の前の魔王の世界には、蒼野ジータは存在しなかったということだ。

だとするのならば……この目の前のかつて南雲ハジメだった魔王は、

あの奈落の闇の中にただ一人で……。

 

(迷うな、南雲ハジメ!例えそうだとしても今のコイツは倒すべき敵だ)

 

迷いを振り払うように面を上げたハジメと魔王の、

いや魔王に成らざるを得なかった南雲ハジメとの視線が交錯する、

この状況を打破しえる手は一つ……あとはそれをどのタイミングで使うかだ。

限界突破というカードを……。

 

 

魔王とハジメが激しくも静かな格闘戦を展開する数分前、

試練を終えたジータは、影の示唆に従いハジメの救援へと走っていた。

 

(この壁の……向こう)

 

緩いカーブが掛かった一本道、おそらくここは上から見ると円形の体育館のような形状で、

それぞれ中の小部屋で試練を受けているのだろう……。

そんなことを思いつつ、通路の突き当りの厚い氷壁を隔てた先に、

ジータはハジメとのリンクを確かに感じ取っていた。

だが、肝心のその氷壁を突破する手段をジータは持ち合わせてはおらず、

全身を時折走る痛みもあいまって、気持ちばかりが急いてしまっていた。

 

(せめてあと一人……誰かが試練を突破してくれてたら)

 

もどかし気にジータは氷壁をばんばんと叩く、と、背後に気配を感じる、

自分がとてもよく知る者の。

 

「ユエちゃん!」

 

ジータの振りむいた先にはユエがいた、一度は喜色に満ちた表情を浮かべたジータだが、

ユエの姿を改めて見つめ、その顔を一変させる。

何故ならばユエの身体は傷だらけで服はあちこちが焼け焦げていた、

どうやら攻略にかなり手こずったようだ。

 

「ユエちゃん……大丈夫」

 

ジータの声に、ややふらつきつつもユエははっきりと応じる、

その瞳に乗り越えた者の強い意思を込めて。

 

「……大丈夫、私がやるべきことはわかった」

 

身体こそ傷ついてはいるが、ユエのその顔に精気が充実しているのを、

確かに察すると、ジータはユエへと状況を説明していく。

 

「……この先にハジメが?」

「うん……だけど私だけじゃ壁を壊せなくって」

「んっ……任せて」

 

ユエの両の掌に魔力が込められ始める、が、

一まずジータはそれを先んじて制止する。

 

「確実に一回で壊したいの、だから」

 

どうして?と問いかけるような、その上気した頬を見る限り、

やはり急いているのはユエも同じなのだろう、だからこそここは確実に一手で突破したい。

 

「でも、その前に……」

 

ああいつものとそんな表情を見せるユエへと、申し訳なさげな顔を見せると。

ジータは周囲を見張って貰いながら、ジョブチェンジを開始するのであった。

 

そして数分後……ジータはベルセルク、獣の毛皮を身に纏いし狂戦士の姿となって、

光の中から姿を現す。

 

『ウェポンバースト』

 

ジータの行使したアビリティによって、手にした剣、ワールドエンドに魔力が充填されていく。

このアビリティ、ウェポンバーストの効果は奥義の即時発動である。

 

『レイジⅣ』

 

かつて王都で級友らに使用した攻撃バフ、それのさらに上位版を行使し、

『ミゼラブルミスト』『アーマーブレイクⅡ』

防御デバフを重ねて使用し、氷壁の防御力を下限まで下げる。

おそらく本来の半分程度までその強度は下がっている筈……ここまですればと。

 

ジータとユエは剣を、そして掌を同時に振り上げる。

 

『ヴェルヌス』

 

まずはジータが氷壁へと叩きつけるように剣を振り降ろす、

と、紫の魔力の奔流が確実に氷壁を軋ませ始める、

その痕跡はまるで冬を切り裂く春の花の如きであった。

 

「"蒼天"」

 

ユエがタクトを振るうように指を操ると、

かつてサソリモドキの装甲をも溶かした青白い炎が吸い込まれるように

氷壁の中央、もっとも深く穿かれたヒビの中へ入って行く、そして。

音もなく氷壁はその衝撃の全てを吸収しきったかのように崩壊し、

そして彼女らの目の前にはまた広大な迷路が姿を現していた。

 

「行こう、ユエちゃん、私たちは私たちの未来を守らないといけない」

「……ハジメは、ううん……ハジメとジータは私が守る」

 

頬に微かな風を感じながら、ジータとユエは壁の穴を越え、

迷路へと踏み入れて行く。

かくして少女たちは手を繋ぎ合うと、意地と運命の戦いを繰り広げている

二人のハジメの元へと向かうのであった。




しょっぱいと言われれば否定は出来ませんが、
魔王にとって、自分の長所である制圧力を封じられるという経験は、
これまで皆無なんですよね。
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