ありふれた錬成師と空の少女で世界最強【完結】   作:傘ンドラ

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ランウェイは千雪エンドじゃなく、心エンドだと思うのですが。
それはさておき最終章開幕です。


最終章
王都襲撃 Part2


 

空には使徒、地には魔物と魔人族、そしてそれらを従えるは、

フリード・バグアーと中村恵里だ。

 

「……随分と大仰な歓迎だね」

「お前のために用意したんじゃない!」

 

ジータの減らず口に対し、吐き捨てるかのように叫ぶ恵里。

 

「どこだよ!光輝くんどこだよ!出せよ!」

「光輝はね……」

 

今度は雫が恵里へと言い返す。

 

「もっと広くて大きな物のために戦うって決めたの、だから……」

 

僅かに口籠る雫、その胸に去来するのは教室での他愛なくも、

それでいてもう取り戻すことは叶わないであろう日々の思い出の数々、

だが、それでも郷愁を押し殺し、雫ははっきりと恵里の目を見据えて離さない。

 

「あなたのことなんてもう相手にしている余裕なんてないのよ」

「はぁ!?光輝くんが僕を!こんなに悲しんで苦しんでる女の子を見捨てるなんてこと

あるわけないだろ!お前に何がわかるんだ!ただ傍にいられただけのお前にっ!」

 

その叫びは雫の心の傷を確実に抉り、それを悟ったか勝ち誇ったように恵里はまた叫ぶ。

 

「僕が一番光輝くんのことを分かってるんだ!だから出せよ!隠すなよ!」

 

歯茎を剥き出し、今までの抑圧を全て吐き出すかのような仕草を見せる恵里、

だが、それら全てがジータには……いや、香織、雫、鈴、教室での中村恵理を知る者には、

却って仮面を被っているような不気味さを覚えてならなかった。

 

「で……何しに来たんだお前ら、八重樫の言う通り、天之河はここにはいないぞ」

 

言ってしまってから、ハイそうですかそれじゃバイバイと引き下がられればどうしよう、

藪蛇だったかと一瞬思ってしまうハジメ。

彼の考えとしては、いずれ戦わねばならないのならば、

後腐れなくここで決着を着けたい思いが強い、その為の準備も整っている。

 

そこで今度は仮面の男、フリードが口を開く、傍らの恵里に促されるように。

 

「今日は貴様らと殺し合いに来たわけではない」

「こんな大軍引き連れてか?」

「ギャアギャア煩いな、教室の時みたいに大人しくしてたらどうだい?

ちょっと強くなったくらいで偉そうに」

「お前こそ大人しく図書館にでも座ってたらどうだ?」

「そういう所がむかつくんだよ」

 

言い争うハジメと恵里を横目に、ジータは恐らくフリードであろう仮面の男を、

訝し気に見つめていた。

今一つ抑揚を感じさせない口調もだが、例え誰であっても横から口を挟まれると、

あからさまに不機嫌になるようなタイプと見ていただけに、

今のフリードの態度は彼女には少し意外に思えたのだ。

 

「……寛容なる我が主は、貴様らの厚顔無恥な言動にも目を瞑り、

居城へと招いて下さっている、我らはその迎えだ、異邦人で、何より異教徒でありながら

あの御方に拝謁できるなど有り得ない幸運、感動に打ち震えるがいい」

 

フリードの言葉にそうだそうだ!我らでも拝謁は叶わぬというのに!

と、魔物を引き連れた魔人族の戦士たちから声が上がる。

 

「すまん、話が見えてこないんだが……和平交渉でもしようってのか?」

「ならこんな大軍で脅すような真似はしないよ」

 

ジータの言葉に、だろうなと思いつつも一応は尋ねてはみるハジメ、

どの道アルヴ神がエヒトの眷属ならば、魔人族との和解は難しいだろうと、

覚悟はすでに決めてはいるが。

 

「魔王様はね……フフフ、エヒトとおんなじ神様なんだよ、ホラ!だから僕も

ご褒美にこんなにステキな身体にして貰えたんだ、天使になれたんだ!

あ~あ、光輝くんに最初に見て貰いたかったのにぃ~」

 

天使と言うよりも薄汚れた公園の鳩を思わせる灰色の翼をはためかせ、

自分で自分を抱きしめる恵里。

はらりはらりと舞い散る灰羽は、そのまま地面に落ちると一瞬で触れた部分を分解してしまう。

分解能力、かつて披露する間もなくシルヴァの狙撃の前に散ったノイントと同じ力である。

 

「どう?驚いたかな?鈴」

「……驚いてるよ、さっきからずっとね、だから満足したなら、……ッ、

下の名前で呼ばないでくれる?中村さん」

「ッ!」

 

それは負けてなるのものかという意志を込めた、鈴の精一杯の虚勢であったが、

それでも思わぬ反撃に恵里は眦を吊り上げる。

 

「……ま、南雲たちはオマケに過ぎないんだけどさ」

 

それはどういう……と、言いかけたジータの声を遮るように恵里はさらに言葉を続ける。

 

「これだけじゃ足りないって思って、あのミュウとかいう子も攫ってやろうって

思ったけど失敗しちゃった、仕方ないよね」

 

その言葉を聞いた瞬間、絶対零度のプレッシャーがハジメから、そしてジータから放たれる。

確かに何をして来るかは予想できないとは考えてはいたが、

それでもまさかそこまで堕ちているとは思わなかったのだ

 

「そこまで……堕ちて……」

「あれ?もしかしてそっちの方が有効だった?ハハ、さすがキモオタ

あんな魚モドキの何処がいいんだか……」

 

憤怒の中にも恵里の認識違いに心の中で胸を撫でおろす二人、もしも恵里が本腰を入れ、

ミュウとレミアを拉致しようと、それこそ使徒を使ってでも実行に移せば、

エリセンの街に設置したアーティファクトでは防ぐことは難しかったであろうから。

 

「あの忌々しいカリオストロもだけど、どうやらちっちゃいのが南雲の好みみたいだしね」

 

ハジメを見る恵里の視線が軽蔑に、そしてその顔が憎悪に歪む、

何かトラウマでもあるのかもしれない。

 

「ま、本命はこっちなんだ……」

 

今にも引金を引きそうなハジメらへと慌てるなよと言わんばかりに、

恵里が口元を歪めると、鏡のようなものが空間に発生する、空間魔法の一つである"仙鏡"

遠く離れた場所の光景を空間に投影する魔法だ。

 

―――果たしてそこに映っている物は。

 

 

そこで時間は遡る。

恵里たちが軍勢の展開を終え、そしてハジメらが氷竜の背ではしゃいでいた頃に。

 

 

「魔物……魔物だ」

「また空からやって来たぞ!」

 

再び空中から襲い来る魔物の来襲に、王都に再び緊張が走ったが、

それでも人々にはまだ余裕があった。

何故ならば、王都の守護の要である大結界はさらなる強固さを加えて、

再構築されており、実際魔物らの攻撃を防ぎきっていたのだから……しかし。

 

灰竜らは王都への爆撃が不可能と知るや、周辺の集落や森や畑を焼き払い、

さらに一部の魔物は毒を放射し、土壌や水源を汚染させる作戦に出たのだ。

それらの行動は、あからさまな示威行為として行われているようにも見えた。

まるで特定の存在を誘いだすかのように……。

 

召喚された生徒らの拠点となっている大部屋では、

そんな状況を不安げな面持ちで見守る愛子たちがいた。

 

「先生、皆を連れて来たよ」

 

奈々や淳史の誘導に従い、生徒たちが次々と大部屋へと集まってくる。

後いないのは?残りは坂上だけ……そんな声が聞こえた時だった。

 

「先生……先生……聞こえているか」

 

愛子ら一部の者のみに与えられている通話用アーティファクトから、

何やら呼びかける声が発せられる。

その声の主、坂上龍太郎は現在王都の城壁の上にいた。

視線の先には、無抵抗をいいことに破壊の限りを尽くす魔物らの姿がある。

 

「坂上君……まさかたった一人で……」

「今ここで逃げるわけにはいかねぇ!俺がこの身体を選んだのはこの時の為だ!」

 

この身体―――ノイントの肉体には、やや不釣り合いな荒々しい口調で愛子へと返す龍太郎。

もっとも、本来の艶やかな銀髪は勿体なくもベリーショートに刈り込まれ、

白銀の鎧の代わりに、着慣れた道着を身に纏っているが。

 

「バカ!強い身体になったからってまともに使い熟せやしないんでしょ!

大体アンタ空飛べるようになったの!?」

 

優花は自身の肉体の機能を引き出そうと四苦八苦していた龍太郎の姿を思い出す。

 

「それでも今ここでやらなきゃどうする!俺は龍なんだ……このままじゃ名前負けしちまう」

「坂上君……」

「先生!皆を頼んだ!それから俺に何があっても……光輝や南雲に助けは求めないでくれ!

例え刺し違えてでもあいつらは俺が止めてみせる!だから俺がくたばってもだ!」

 

その声を最後に通信は切れ、何人かの生徒に動揺が走るが。

 

「俺たちに何が出来るんだ……俺たちはあの戦いで思い知ったんじゃないのか?」

 

部屋の最後列に控えていた永山重吾の静かな声が響き、

生徒たちは王都での戦いを否応なしに思い出す、

本当の戦という物を、そして自分たちの力の程を……。

 

「認めよう、俺たちは弱い、これからの戦いにはもうついていく事が出来ないってことを」

 

恐らくこの中で誰よりも神と戦いたいであろう男の言葉に、

例え騙されていたとしても、愛する者を奪われた男の言葉に、静まり返る生徒たち。

 

(これでいいんだろう……浩介)

 

両の拳を握りしめる永山、その手にはヘッドドレスはもう握られてはいなかった。

 

「永山君の……言う通りです」

 

生徒の尻馬に乗るようで、少し心地の悪さを覚えつつも愛子が続ける。

 

「私たちに出来ることは自分の身を守ること、そして南雲君や天之河君、

坂上君たちが心置きなく戦えるようにすることです」

 

自分たちがこれまでの王宮で受けて来た訓練、そして厚遇を鑑みれば、

これは言ってはならないことだ、それこそ龍太郎に続き、

自分たちも出撃するのが本来の筋というものなのだ。

 

だが、それでも愛子は動かない、動かさない。

生徒たちの帰還、生命、そしてその先に待つ神との戦いという大事にとって、

これは小事なのだと自らに言い聞かせながら、

そしてそのことに拭い難い罪悪感を覚えながら……。

 

(薄汚い……大人です、私は)

 

そして何より、南雲ハジメも、天之河光輝も、蒼野ジータも、白崎香織も、

八重樫雫も、谷口鈴も、坂上龍太郎も……自分の生徒であることに間違いないのだ、

にも、関わらずこうして……。

 

いつか分かってくれるだなんて、おこがましいことは思わない。

例えそれがあの場に居合わせただけであっても、

今でもちょっとでも早く教室を出ていれば良かったと思うことがあっても、

ただ一人の大人としての責を業を全て背負う、それが畑山愛子の戦いなのだと……。

 

(それでも卑怯者は……私一人だけで充分です)

 

 

「とは……言ったものの……はぁ」

 

一方、城壁の上では大見得を切った割には、ロクなプランを持ち合わせていないことに、

今更のように気付いてしまった龍太郎の姿があった。

増してや優花の言う通り、自身に備えられた機能の殆どを、

未だ使い熟せていない状態なのだから、無理もないことかもしれない。

 

「なぁ……光」

 

そう言いかけていないんだっけなと、これもまた今更のように思い出す。

そう、ここにはいつも答えを与えてくれる、自分に取って光り輝く者はいない。

何もかも一人で考えなくてはならないのだ。

 

「悩んでもしょうがねぇ……か」

 

元より自分は脳筋である、だったらしおらしくしてても仕方がない。

龍太郎は今度は眼下へと視線を移す、ここは特に城壁が高い箇所にあたる。

数十メートル下の地面を目にすると、さしもの彼も眩暈のようなものを覚えてならない。

しかしそれでも、あの先が見えなかった奈落の闇に比べれば……。

 

(こうなりゃ荒療治しかねぇ)

 

すぅっ……と、一つ深呼吸をすると、

あろうことか龍太郎はそのまま城壁から宙へと身を躍らせた。

こういう所は自分でもちっとも成長してねぇと、自嘲しつつも。

 

「アイキャンフラーーーイ!」

 

ともかく、そんな叫びを上げながら頭から飛び降りてみたのはいいが、

やはりというか、ただただ地表が自分の視界へと迫るのみだ。

 

(畜生……せめて、飛べるように、飛べさえすれば……)

 

思えばハジメや光輝らが去ってここ数週間、ここまで必死に願ったことはあっただろうか?

修行の手を抜いていたわけでは決してない、だが、強靭な肉体を得たことと、

魔力の直接操作が出来るということだけで満足してしまってはいなかったか?

 

(こんなことじゃ……またアイツに……)

 

違う、背中に追いつくというそんな考えがそもそも甘かったのだ。

光輝は何の為に俺たちの元を離れたのだ?俺たちに何を願って離れたのだ?

その思いを汲むためには、何を為さねば、願わねばならない?

 

(そうだ、俺は……俺自身のために……)

 

その時、龍太郎の中で何かがカチリと噛み合ったような感覚が走った、

それは、まるで自転車に初めて一人で乗れた時のような、そんなありふれた、

それでいて強固な感覚だった。

 

その感覚に操られるままに、その身を空に風に預ける龍太郎。

 

「俺……飛べてる、空を……」

 

覚醒したのは飛行能力のみではなかった、まだまだ一部ではあったが、

ノイントにインプットされていた数々の戦闘技能や経験も、

また龍太郎の脳へとフィードバックされていく。

 

「やったぜ!これならやれるぜ!俺」

 

歓喜と闘志の入り混じった叫びと同時に、その両の手に光の刃を発生させると、

龍太郎は勇躍し魔物らの群れへと突入する、目指す標的は、

魔物どもの中でも明らかに大きい……。

 

(あのエイのようなデカブツ、アイツさえ墜とせば……)




無抵抗で攫われてばかりじゃ能がないぜってことで、色々と今回は抵抗します。
それだけの備えも人材も確保してますので。

次回 龍太郎vs魔物軍団
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