ありふれた錬成師と空の少女で世界最強【完結】   作:傘ンドラ

15 / 173
ようやく方向性が定まったかな。


アルビレオ(二重星)

ガブリエルに手を引かれ導かれるままに空間を渡るジータ、そしてその先に

 

「これが…今のハジメちゃんの…」

 

ジータの前には何者をも拒むかのように荒れ狂う闇の渦がある。

 

「怖くなった?」

 

悪戯っぽく微笑みながらジータの顔を覗き込むガブリエル。

無言でキッとガブリエルを睨み返すジータ。

 

「そうじゃないと、ね」

 

鋭い視線をあっさりと受け流しながらガブリエルは続ける。

 

「チャンスは一度だけ、それもほんの少しだけよ、でないとあなたの心が保たないわ」

 

ジータが強く頷くとガブリエルはポンとその背中を叩く。

それを合図に荒れ狂う黒い渦の中に迷うことなく身を投じるジータだった。

 

 

渦の中は恐ろしいくらいに静かだった。

 

その静寂さは例えるなら海の底…いやもっと原初的な何か

勿論、海の底になんかもちろん潜ったこともないし、

その原初の何かも知る由もないジータだったが、

なんとなくそうなんじゃないかと思わせる、そんな静けさと暗さだった。

 

ともかく目印のない闇をもがくように進んでいく、

 

「ハジメちゃん!どこ!」

 

助けにきたよ!と続けようとして自分の声がまるで聞こえてないことに気が付く。

 

(それでもっ!)

 

届かないと思ってもそれでも叫ばずにはいられない。

声を限りに叫びながら闇の中をもがくように進んでいくジータ。

と、闇が少しづつ薄くなっていくのを感じる。

 

そろそろ終着駅だろうか?とジータが思った刹那

まるでカーテンが開け放たれたかのごとく、闇が晴れる。

 

「え…あ」

 

突然のことでふっと意識が一瞬飛んで、

そして眼前に展開されている光景にまた意識が飛びそうになる。

 

ジータの前にあったそれは、幾重もの鎖に縛られた影を纏った巨大な獣の姿だった。

獣は今鎖を断ち切り自由になろうとしている。

その獣の姿がジータにはハジメに見えて仕方がなかった。

 

「ダメだよ!獣になんかなっちゃダメ!」

 

ジータは断ち切られようとする鎖に手をやろうとするが。

 

「ジータちゃん!やめてよ」

 

不意に背中から掛けられた声にはっと振り向く。

そこにはハジメがいた、身体こそ透けてはいるものの、彼女のよく知る姿の。

その幻影のハジメは獣をジータから守ろうと、通せんぼをするように立ちはだかる。

 

「どうしたの?ハジメちゃん…帰ろうよ」

 

いつも通りの姿なのに、何かが違う…そんな雰囲気に戸惑いつつも、

ジータはハジメへと手を差し出す。

 

「ごめん…僕はもう帰れない」

 

「気が付いてしまったんだ…今の僕の優しさでは誰も守れないって」

「だから…」

 

だったら私がっ!と叫ぼうとして声が出ないことに気が付くジータ。

今それだけは絶対に言ってはならないと精神が警告を放っているかのように。

 

ハジメの背後の獣が咆哮し、鎖がピシピシと軋みだす。

だが、その咆哮の雄々しさに比べて、ハジメの身体は小刻みに震えている。

今ここで変わらねば未来がない、だがささやかなあの日々を、思い出を捨てる

踏ん切りがつかないのだ。

 

その小さな姿をジータを通して見つめるガブリエル。

ああ…この少年は本当に優しいのだ、だがその優しさが彼を縛る鎖になっている、

だからこそ優しさを強さに変えたいと今まさに彼は願っているのだ、

そのためには…。

 

(さぁ、頑張りなさい女の子)

 

しかしガブリエルは余裕の表情だ、まるで答えなんか分かってるかのように。

そう、慈愛の天司は決して乗り越えられない試練を課すことなどないのだから。

 

 

「ジータちゃん…憶えてるかな、僕が不良たちに絡まれて…土下座した話」

「憶えてるよ」

 

忘れる筈がない、あの日たまたま南雲家を兄と共に訪れていたのだから、

ボロボロの姿で戻って来たハジメ、事情を聞いている兄の表情が

みるみる変わっていったのもついでに思いだす。

その後、その不良たちがどうなったのかはここでは割愛しよう。

 

「じつはあれ…白崎さんも見てたって言ってた」

 

それについても知ってるよ、とは言わなかった。

 

「そんな僕を白崎さんは強いって言ってくれた、強い人が暴力で解決するのは簡単だよねって」

「でも…僕はあの時心の中で少しだけこうも願ってもいたんだ…もっと力が欲しいって」

「きっと今必要なのは尊さじゃない…尊さだけじゃ僕も君も助からない」

 

その身体はやはり小刻みに震え、目には涙が光っている。

それでもその声には明確な決意が籠っていた、いや籠っていることにジータは気が付いてしまった。

そして同時にこうも思う、自分も香織も優しい南雲ハジメを求め、愛でるがあまりに、

彼の心を縛り付けていたのではなかったのだろうか?とも。

 

「優しさを捨てるんじゃない、生きることを諦めたくないから変わろうとしてる

だよね?」

 

「ホントはずっと優しいハジメちゃんでいて欲しかったよ…」

「でも決めてたんだよ、ハジメちゃんがもし戦うなら

ちゃんと自分で決めたことなら、私応援するって」

 

(優しいからだけじゃない、例え迷っても止まっても決して折れない挫けないそんな強さ

だから私も香織ちゃんもそんなハジメちゃんに惹かれたんだよ)

 

(だから変わりたいと願う心を、今までの自分を変えてでも誰かを守りたいと願う心を)

 

「止められるわけがないじゃない!」

 

突然の大声にハジメも獣もギョッとした表情でこちらを見ている。

 

「わかってる…僕は、いや俺は一人じゃないから」

 

ハジメの声と獣の声が重なり始める。

 

「だから」

 

「うん…」

 

滲む視界の中で上手く笑えてるだろうかと思いながらジータはくしゃくしゃの顔で頷く。

 

 

(きっとガブリエルさんが私をここに連れて来たのはハジメちゃんを止めるためじゃない。)

 

 

『もう時間がないわ!限界よ!』

 

脳裏に響くガブリエルの声。

 

「大丈夫」「僕は」「俺は」「絶対に」

 

そのハジメの声を最後に今まで静かだった闇がまた荒れ狂いだす。

異物を弾き出すかのごとく。

 

その渦の中でジータはガブリエルへと叫ぶ、声を限りに。

 

「大丈夫です、私があんなイキリぼっちになんかさせません

ハジメちゃんの心の中から優しさや思いやりを消えさせたりなんかさせません」

 

「たとえ世界中がハジメちゃんの敵になっても」

 

そんなこと私が許さないとジータは思うが続ける。

 

「私だけはハジメちゃんの隣に立ち続けて、ハジメちゃんの生きる標になります!」

 

 

(私がハジメちゃんをあきらめずに支えられるかを試すためだったんだ。)

 

 

「渾沌に身を賭す覚悟、、女の子の心意気、確かに見せてもらったわ」

 

薄れゆく意識の中でガブリエルのそんな声を確かにジータは聞いた気がした。

 

 

こうして『僕』と『俺』二人のハジメの意思は

ただ一つに固められる。鍛錬を経た刀のように。鋭く強く、万物の尽くを斬り裂くが如く。

苦痛と本能、そして願いを以って焼き直され、鍛え直された新しい強靭な心と共に。

 

生きる、今度こそ守ってくれた、守るって言ってくれた人たちのために

共に罪を傷を背負うと、支えてくれると言ってくれた

大切な幼馴染…いや相棒のために。

 

俺を愛してくれた信じてくれた全てに報いるために俺は喜んで汚れよう。

もう絶対に失わない、己の大切は必ず守り抜いてみせる。

そして帰ろう…あのささやかで平凡な日常に。

そのためなら立ち塞がるモノは全て…。

 

こうして新たなる魔王は産声を上げた。

 

ガブリエルの目に映るは、

凄惨な笑顔を浮かべながら石壁に狼を閉じ込め、

ゴリゴリとその頭部を貫こうとするハジメの姿

 

「カリオストロ…あなたはきっと私を責めるわね」

 

かつて共に世界を守るために戦った同志の名を口にするガブリエル。

 

「でも、あの子が昔のあなたにそっくりだったから、あなたもそう思ったから

だから弟子になんかしたんでしょ」

 

 

戦いが終わり、ハジメは爛々と目を輝かせ狼の肉に喰らいつこうとしている。

傍目から見れば陰惨な風景なのかもしれない。

しかし…ガブリエルはそんな彼の選択に、

人の持つ心の強さと美しさを確かに見出していた。

守るべき、愛する者の為に己が変わることを厭わぬその精神を。

 

「勇敢なのね、そして何より男の子なのね、素敵」

 

そして、よく頑張ったわねとジータの寝顔に話しかけるガブリエル。

 

(でもね、男の子の身勝手さはこんなもんじゃないのよ♪)

 

天司といえども全ての未来を見通す力はない、

あの光景はジータを焚きつけるための、いわばフカシである。

それでもそう遠くない未来、いやもうすぐ南雲ハジメにとって、

運命の出会いがあることを、ガブリエルは感じ取っていたのであった。

 

 




そして作者はヒロインタグをこの作品についに付けるのであった。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。