ありふれた錬成師と空の少女で世界最強【完結】   作:傘ンドラ

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古戦場、三か月も開いちゃうとなんか調子が出ないですね。


殺し合うのが正義でないと、知って戦う戦場だけど

 

 

「ふざけるなぁ!それが勇者のやることかあぁぁぁっ!そんな奴ら放っておいて、

僕を救えよ!僕を守れよ!僕を愛さないのに、僕を救わないのに、

僕を見てくれないくせにっ!憎んでもくれないくせにっ!

そんな顔も知らないような連中を救うのかあぁぁぁぁっ!」

 

限りない呪詛と、そして後悔が入り混じった恵里の慟哭が戦場に木霊する。

 

何故ならば、鏡に写る光輝の姿は、かつて、いや今でも憧れて、焦がれて焦がれ続けた、

勇者の、王子様の理想の姿そのものだったのだから。

何処で間違ってしまったのか、僅かの勇気を振り絞り踏み込むことが出来たのならば、

僅かの我慢に耐えることが出来たのならば……いいや、最初から諦めることさえしなければ。

 

―――自分もあの場所に立っていられたかもしれないのに。

 

と、恵里は濁った瞳で地上のジータたちを睨みつつ思わざるを得なかった。

そしてもう一つ悟ったことがある。

もはや中村恵理の居場所は、存在理由は、天之河光輝の敵としてしかありえず、

その天之河光輝の瞳の中には、もう中村恵理は映ってはいないのだと。

 

「分かったでしょ……光輝はね、もっと大きな物を守るために十字架を背負ったのよ」

 

その掌から零れ落ちる小さな物があるということを承知の上で……、

それが自身にとって、どれほど掛け替えなき物であったとしても。

 

「だから僕を無視していいわけがないっ!」

 

声を震わせる雫へと反駁する恵里、そこに鈴が声をかける、雫とは違う理由ではあったが、

やはり声を震わせながら。

 

「恵里っ!鈴はっ……恵里とっ、そのっ、もう一度話したくて!」

「……僕はもう……鈴と話したいことなんてないよ」

「嘘だよ……なら、どうして目を逸らすのさ」

 

心の準備をしてきた鈴とは違い、むしろ恵里の方が突然の遭遇に戸惑っているようだ。

 

「恵里は……悪い神様に操られて、命令されてこんなことしてるんだよね?

あんなことしたんだよね?」

 

王都の惨状を思い浮かべながらも、鈴は訴えるように恵里へと言葉を続けて行く。

 

「大丈夫だよ、その神様は南雲君がやっつけてくれるから」

 

え!そこでそんなこと言う?と、目を剥いたハジメの足をジータが踏む。

 

「だから……だから……」

 

それでもそこから先は言葉が出て来ない、

そもそも恵里にとっての救いはただ一つしかないことを鈴は分かっていたから、

そしてその救い主たる天之河光輝は、恵里の前に姿を現すことはもうないのだということも。

 

「なんだよ、結局思いつかないんじゃん……そんなにさ、また恵里の友達に戻りたいなら

ここに光輝くん……連れて来なよ」

 

内心の動揺を隠すかのように、恵里は無理難題を鈴へと突き付ける。

それは見る者にオモチャ売り場で駄々をこねる子供を思い起こさせた。

恐らく当の本人も承知の上なのだろう。

 

そこで鈴の限界を見て取ったジータがその腕の中に鈴を収める。

自分を避けるかのようなその仕草に、また何かを口にしようとする恵里であったが……。

その瞬間、何かに気が付いたかのように、目を見開きジータの顔を彼女は凝視する。

あった……まだ残っていた、中村恵理が天之河光輝を手に入れる方法がまだ一つだけ、

それは獣の知恵としか思えぬ程の悍ましい思いつきであったが、

まだそれを知る者はここにはいなかった。

 

「いい……もういい……もういいよ」

 

自分の表情を、愛と憎悪が入り混じった自分の感情を隠すかのように、

掌で顔を覆いつつ恵里は叫ぶ。

 

「そこの金髪のガキさえ生きてればそれでいいんだ!」

 

そこの金髪と言われてシャレムが呼んだかとばかりに豊かな黄金の髪を掻き上げる。

もちろん分かった上でわざとである。

 

「お前じゃない!」

「……だろうな」

 

ともかく恵里の叫びと同時に、上空の使徒が、地上の魔物が魔人族が包囲の輪を狭めて行き。

その様子に生唾を飲み込むハジメ、もちろん圧に押されているわけではない。

 

「撃つかい?あのレーザー……」

 

そんなハジメたちの様子を見て取った恵里が上空で煽る。

 

「撃てないよね、撃てるわけないよね、自分たちだって黒焦げだもんね」

 

だったら試してみるかと、喉の奥から出掛かった言葉をハジメは飲み込みつつも、

改めて周囲を、特に魔物たちを率いる魔人族の姿を見やる。

ここで決着を着けるのがベターという思いはあれど、やはり僅かながらの逡巡が頭を過る。

それが今更の迷いなのか、人間らしさという物なのかは、当のハジメにも判断が着かなかった。

 

(避けられない……のか、いや、避けられないからこそ)

 

「不死身なんだろ……キミ、だったら証明してみなよ」

 

恵里の目がユエを捉える、どうしてそれをとユエの眦が僅かに上がる。

そして恵里に促されるままに、フリードが片腕を上げる、恐らくそれが降ろされた時が、

地獄の開宴となるのであろう。

 

(天之河、お前が光を背負うなら……他人の願いの為に自分を捧げるというのなら、

俺たちも背負ってやるよ、闇ってやつを)

 

ヒュベリオンはもう照準済だ……ハジメは後ろ手にタブレットを握りながら、

ジータと視線を交わす、そしてフリードが掲げた腕を振り下ろす。

ハジメたちへと殺到する使徒、魔物、魔人族、

それと同時にハジメはタブレットのキーを押し、ジータと共に上空へと腕を翳し叫ぶ。

 

「「ゴッドガード・ブローディア!」」

 

二人の召喚に応じ顕現するは絶対の守護者たる赤髪の姫騎士にして大地の使徒、ブローディアだ。

 

「我が障壁を以て、汝らを守ろう!抗え!刃鏡展開!」

 

朗々たる声と共に姫騎士が剣を構えると、鏡の如き障壁が大地を砕きながら発現し、

時を同じくしてハジメたちの頭上に放たれた太陽光レーザーを、

すなわち断罪の光を全てシャットアウトしていく。

地下風水光闇、世界の法則に則った物である限り、あらゆる全てのダメージを、

彼女は完全遮断する力を持っているのだ。

 

ハジメたちが姫騎士の障壁に守られる中、

あくまでも撤退を促す牽制目的で放った王都の時とは違い。

まさにフルパワーで放たれた灼熱の輝きが、使徒を、魔物を、そして魔人族を焼滅させていく。

だが、それをハジメとジータは……いや、彼らの仲間たち全てが身じろぐことなく、

固く唇を噛みしめ、瞳を見開くのみだ。

その惨劇を、まさに自身らが造り出した地獄の全てを見届けんとばかりに、

それこそが自分のいや……自分たちの背負うべき業―――カルマなのだと。

 

そして光が晴れたその時、そこにあったのは、

焼け焦げた無数の使徒、魔物、そして魔人族の亡骸であった。

 

「……」

 

ただ無言で自分たちの周囲を除き、焼き爛れて白煙を上げる大地と、

巨大なクレーターを見渡す雫たち、

何人かの生き残りが蜘蛛の子を散らす様に彼方に逃げ去るが、もちろん追い討ちなどしない。

まるで上から見たらドーナツのように見えるんだろうなと、

そんな奇妙な感想を、香織がふと思ったのと同時に彼女らは重大なことに気が付く。

 

ハジメとジータ、そしてユエの姿がどこにもないことに。

 

 

「ここは……」

 

驚きを隠すことなくキョロキョロと周囲を見渡すハジメ、ジータ、ユエの三人。

灼熱の光の中、ユエの足下にゲート状の何かが開いたのを見、咄嗟に二人は飛び込んだのだ。

そしてその先にあったのは、赤い絨毯と豪奢な柱に飾られた、

まさに玉座の間と呼ぶに相応しい荘厳な空間であったのだから。

 

だが、窓を覗いてみるとやはりというか使徒が空を舞っている。

結構な数を焼いたとは思ってはいたが……一体どれ程の数が存在しているのか?

いずれどれ程の数を相手せねばならないのか?

考えただけで頭が痛くなる思いを抱えるハジメたち。

 

「どうする?」

「招待って言ってたから、多分ここが魔人族の本拠地、ガーランドなんだろうけど」

 

クリスタルキーを使えばここから即座には脱出できる、しかし……。

と、三人が顔を見合わせた時であった。

 

「いつの時代もいいものだね、仲間の絆というものは、私にも経験があるから分かるよ、

もっとも」

 

玉座の背後から声が響き、壁がスライドして開く。

そこから姿を現したのは年の頃こそ初老といったところではあったが、

それを見る者に感じさせない金髪に紅眼の美男子だった。

 

どことなくユエに……ユエがもしも男ならこんな風になるのでは?

そんな感想を覚えるハジメとジータ。

 

穏やかに微笑み、マントを翻すその姿は、美しさと力強さと、老練さをも感じさせる。

恐らく彼こそが魔王にして、魔人族の神たるアルヴ様なのだろう。

その見る者を惹きつけて止まないカリスマに抗するべく、目を細めつつも、

まずは詰問すべく口を開こうとしたジータであったが、

傍らの愕然とした声によって、その口を閉じてしまう。

 

「……う、そ……どう、して……」

「ユエちゃん?」

「ユエ?」

 

二人の呼びかけにも応ずることなく、動揺を隠さず震えながら掠れた声を漏らすユエ、

その瞳は金縛りにあったかのように、魔王を捉えて離さない。

一方で魔王とユエ、二人の姿を見比べ、やはりという思いを強くするハジメとジータ。

 

「私の場合、姪と叔父という関係だったけれどね、やぁ、アレーティア、久しぶりだね

相変わらず、君は小さく可愛らしい」

「……叔父、さま……」

 

ユエの掠れた声音が王の間に響く中、魔王は殊更優しく微笑みながら再度、

アレーティア……恐らくはユエが棄てたと言う本名で呼びかけて行く。

 

「そうだ、私だよアレーティア、驚いているようだね……無理もない、

だが、そんな姿も懐かしく愛らしい、三百年前から変わっていないね」

「アルヴ様?」

 

アルヴの傍らに控えていた使徒が訝し気な声を漏らす、と、

金色の閃光が魔王を中心として周囲を覆い、その光が晴れた時には

王の間を固めていた使徒や魔人族がことごとく倒れ伏していた、

さらに魔王は指をパチンと慣らし、何らかの術を発動させた。

 

「結界か?」

「ああ、盗聴と監視を誤魔化すための結界さ、

私が用意した別の声と光景を見せるというものだ、

これで外にいる使徒たちもここで起きていることには気がつかないだろう」

「……なんのつもりだ」

 

これではまるで……そんなハジメたちの疑問に無理はないとばかりに、

魔王は、子供の物事を言い含めるかのような柔らかい微笑みを見せる。

 

「南雲ハジメ君に蒼野ジータ君といったね、君たちの警戒心はもっともだ、

だから、回りくどいのは無しにして、単刀直入に言おう、

私、ガーランド魔王国の現魔王にして、元吸血鬼の国アヴァタール王国の宰相、

――ディンリード・ガルディア・ウェスペリティリオ・アヴァタールは……神に反逆する者だ」

 

その言葉にはいかにハジメたちとはいえど、驚愕の余りに息を呑むしかなかった、

まさか、人間族と敵対していた魔人族の王が、神への反逆者だったなどとは……、

いやいやゲームやラノベでは割とある話でもあったが。

 

「うそ……そんなはずはないっ!ディン叔父様は普通の吸血鬼だった!

確かに、突出して強かったけれど、私のような先祖返りじゃなかったっ!

叔父様が、ディンリードが生きているはずがない!」

「アレーティア……動揺しているのだね、それも……当然か、

必要なことだったとは言え、私は君に酷いことをしてしまった、

そんな相手がいきなり目の前に現れれば、動揺しない方がおかしい」

「私をアレーティアと呼ぶなっ!叔父様の振りをするなっ!」

 

激昂するユエに対し、あくまでも魔王は余裕である、

幼子をあやす様な態度を一切崩さぬまま、滔々と事情を説明していく。

 

変成魔法に適性があり、強力な魔物使いであった彼は、

変成魔法を己の肉体に行使し、肉体を強化し、寿命を延ばしたこと、

そしてエヒト神の非道に内心の憤りを覚え反逆の意思を抱いていたアルヴ神に、

自らの肉体を提供し、地上にて反逆の同志を密かに探していたこと、

―――表向きは地上を混乱に陥れる魔王として。

 

「……いつから」

「君が王位につく少し前だね、同時に、

真実を知っていてもどうすることも出来なかった私にも、

できることがあると分かった。使命だと思ったよ」

「……使命」

「そう、神を打倒するという使命だ、エヒト神や使徒達に真意を掴ませないようにするには

大変だったけれどね、おかげで、本意でないことも幾度となくさせられたよ」

 

ユエの心が揺らぐ、目の前の魔王の姿と、自分の記憶の中の心優しき叔父との姿が

重なり始めて行く。

 

「……どうして祖国を裏切ったの、どうして、私を……」

「済まなかった」

「っ……謝罪を聞きたいわけじゃないっ!理由をっ」

 

魔王、ディンリードは沈痛な表情のまま再び説明を続けて行く。

 

幼き頃から天才的な魔法の素養を見せたアレーティア、いやユエが、

イレギュラーとして神に狙われたこと、

エヒト神の信仰から遠ざけようとしたことが仇となり、

神の使徒からの暗殺の対象となってしまったこと。

 

「アルヴを体に宿し使命に目覚めた私は、君という切り札の一つを失うわけにはいかなかった

いつか共に神を打倒するため、かつて外敵と背中合わせで戦ったように」

 

切り札……共に神を打倒……その言葉を聞き、これまで沈黙を保ってきた、

ハジメとジータの肩が僅かであったがピクリと動き。

それを契機と見たかは知らないが、両手を広げ祭壇からゆっくりと降りて行くディンリード。

 

「だから、暗殺が成される前に、死んだことにして君を隠したんだ

いつか反逆の狼煙を上げることができ……」

 

その言葉が言い終わるか終わらないかの間に、ディンリードの身体が大きく吹き飛ぶ、

言うまでもなくハジメがドンナーを抜き撃ったのだ。

 

「何が切り札だ!反逆の狼煙だ!ふざけるのもいい加減にしろ!」

「もう少しで私たちも騙されるところだったよ」




愛することと憎むことは、矛盾しているようでいて、
個人への執着という意味では限りなく等しい感情なのかもしれないと、
恵里を書いていて改めて思いました。
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