ありふれた錬成師と空の少女で世界最強【完結】   作:傘ンドラ

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古戦場ですが編成が縛られるとはいえど、まさかフィオリトがあんなに輝くとは……。
やはり筋肉は正義か。


今回の話につきましては少し解釈の余地があるかなと思います。
ですがハジメたちのみならず、私としてもディンリードがユエを戦力として、
切り札として考えていたとは、どうしても思えないんですね。



虚々実々

 

「何が切り札だ!反逆の狼煙だ!ふざけるのもいい加減にしろ!」

「もう少しで私たちも騙されるところだったよ」

 

ハジメとジータの怒りの声が同時に響き、さらに放たれた紅い閃光が、

ディンリードの手足を打ち砕く、そしてジータは宝物庫からボーラを取り出し

ディンリードへと投げつけるハジメを横目に、

斃れている使徒へと、闇属性の短剣、オールドコルタナを構える。

 

『チョーク』

 

これまで何度も使われた、通常攻撃を全体化するアビリティである。

 

『チェイサー』

 

そして質量を伴う残像攻撃が、倒れ伏す使徒の身体を次々と斬り裂き砕いていく。

 

「……ハジ、メ?……ジータ?」

 

そんな一方的な蹂躙劇の中、目の前で叔父を銃殺されたユエは、

ただただ唖然とした表情を見せるのみである。

 

「すまない、だが……どうしても我慢できなかった」

「ユエちゃんがちゃんと自分で区切りをつけるまではって思って黙って見てたんだけど

ほら……信じちゃいそうだったから」

 

蹂躙劇が一段落し、武器を降ろすと、ハジメとジータは自身らが感じた違和感を、

ユエへと説明していく。

 

木を隠すにはまさに森、恐らく目の前の男が語ったことは九割は真実なのだろう、

だが、僅かだが隙があった。

人と人との情愛という物を理解する術を持ち合わせていなかったという。

 

ユエの封印は厳重極まりないものだった、

それこそ三百年もの年月を愛する姪を孤独地獄に追いやり、

正しく己の死をもって永遠に封印を、秘匿を完璧なものにせんとするほどの……、

確かにあの封印はかつて自分たちが思っていたユエを遠ざける為ではなく、

エヒトの手からユエを守護するための封印だったのだろう、

 

だが、愛する者の存在をそこまでの覚悟でもって秘匿する者が、

いざ時が来れば戦いの尖兵として愛する者を利用する、そんな話がある筈がない。

それは人に対する、ましてや娘とまで称する存在への情愛ではない、兵器への愛だ。

 

ハジメは呆然とするユエへとゴーグルを手渡す、あの男の正体を見て見ろとばかりに、

ゴーグルでディンリードの魂魄をスキャンしたユエは、

驚愕と、そしてそれ以上の怒りに息を詰まらせる。

ゴーグル越しに見える愛する叔父の魂は、

蜘蛛が張り巡らせた巣のように肉体を侵食している

明らかに寄生しているとしか思えない薄汚い物でしかなかったのだから。

 

「けれどアレーティア、いやユエ……お前の叔父さんは確かにお前を心から愛していた、

愛していた筈なんだ……あんな薄汚い神モドキに言われるまでもなく、

だから、そのことは誇りに思っていい、いや思うべきだ」

「全てが終ったらちゃんと真実を探しにいこ」

「……うん」

 

ハジメの力強い言葉に、髪を撫でるジータの温もりに頷くユエ、

その瞳には光るものがあった。

 

と、そのとき、パチパチとまるで揶揄するかのような拍手が響き、

頭部と四肢を穿たれ、ボーラで何重にも拘束されていた筈の

ディンリードが起き上がる。

 

「いや、全く、多少の不自然さがあっても、溺愛する恋人の父親も同然の相手となれば

少しは鈍ると思っていたのだがね、まさか、そんな理由でいきなり攻撃するとは……

人間の矮小さというものを読み違えていたようだ」

「お前は人の心ってのを理解出来てないようだがな」

 

明らかに致命の傷を受けていたにも関わらず、その身体はおろか魔王の衣装に乱れは一切ない。

 

「せっかく、こちら側に傾きかけた精神まで立て直させてしまいよって、

次善策に移らねばならんとは……あの御方に面目が立たないではないか」

「……叔父様じゃない」

「ふん、お前の言う叔父様だとも、但し、この肉体はというべきだがね」

「……それは乗っ取ったということ?」

「口の利き方には気をつけろと何度も教えた筈だが……悪い子だ、アレーティア」

 

アレーティアと呼ばれたことに対し、さも汚らわしい言葉を聞いたかのように、

ユエが右手に蒼炎を浮かべる。

 

「むしろ有効な再利用と言って欲しいものだ、このエヒト様の眷属神たるアルヴが、

死んだ後も肉体を使ってやっているのだ、選ばれたのだぞ?

身に余る栄誉だと感動の一つでもしてはどうかね?しかし全くこの男ときたら、

死ぬ前にお前を隠したときの記憶も神代魔法の知識も消してしまうとは、

肉体以外は使えない男よ、生きていると知っていれば、

なんとしても引きずり出してやったものを」

「……お前が叔父様を殺したの?」

「ふふ、どうだろうな?」

「……答えろ」

 

ユエの掌の上の蒼炎が煌めきを増していく、その炎は魂すらも焼き尽くす

凶悪極まりなき魔法、"神罰之焔"だ。

 

「ほぅ、いいのかね?実は、今の言葉も嘘で、ディンリードは生きているかもしれんぞ?

この身の内の深奥に隠されてな?」

「っ……」

 

魂を焼かれる脅威をまるで感じていないのか、ディンリードの皮を被ったアルヴは

人を喰ったような笑みを浮かべ、ユエが炎を、ハジメが銃弾を放とうとしたその時だった。

その瞬間――天から白銀の光が降り注いだ。

天井を透過した綺麗な四角柱の光は、頭上から真っ直ぐユエへと落ちて来る。

 

「――"堕識ぃ"」

 

さらにそのユエに向かって、いつの間に現れたのだろうか、

恵里の闇系魔法が放たれる。

 

「先程のお返しだ、イレギュラー」

 

アルヴが指を鳴らすと同時に、ハジメ目掛けて特大の魔弾が飛ぶ、

 

「駆逐します」

 

何もない空間が波打ち、にじみ出るように現れた数十体の使徒達が、

一斉に魔弾を、剣を振りかざす。

 

二人は咄嗟に瞬光を発動して刹那を数十秒へと引き伸ばす。

時の流れが緩慢となり色褪せた世界で、ゆっくりと襲い来る数多の攻撃を掻い潜り、

二人は光の柱に飲み込まれようとするユエへと走る、が、その行く手を阻むかのように、

無数の魔力弾がまさに飽和状態、という言葉が相応しいほどの密度で、

彼らの前に立ちはだかったのであった。

 

 

その数刻前、光の洗礼を受けた草原、いや焼け野原では。

 

「これって転移用の……」

 

ハジメらの立っていたであろう足下に広がる虚のような空間を眺めるシアたち。

試しにシアがドリュッケンの柄で、そっと空間の中をつついてみるが……、

案の定というか、バチリと火花を散らし弾かれてしまう。

 

「幽世の奴らだな……余りにも多く紛れていたから却ってわからなかった」

 

口惜し気に呟くシャレム。

 

「でもさ……あの光の中でどうやって」

「奴らは個にして全、全にして個だ、ゆえに目的のためならば、

個体のいかなる犠牲でも払ってのける」

「何とかならないのか?」

 

シルヴァが少しずつ姿を薄らげていくブローディアへと尋ねるが。

 

「……残念ながら、私は魔術には疎くてな」

 

その言葉を力なく残すと、彼女の姿は掻き消えてしまう。

 

「金髪のガキって、ユエちゃんのことだよね……何で狙ってたんだろ?」

「さあな、いずれにせよこの先に向かわねば始まるまい」

 

そしてそれからまるで誘うかのように口を開けているだけの、

転移ゲートの解析に悪戦苦闘する香織たちの姿があった。

 

「私じゃムリだよ……これ」

 

この中で最も魔法に関しての知識が深い香織が頭を抱え、

彼女にしては珍しく泣き言を口にする、ことハジメが絡むこととなれば、

いかなる場合でも諦めることはなかった彼女がそう口にするのだから、

相当のものなのであろう。

 

「香織の知識でもお手上げとなると……あとは」

 

ティオの脳裏に、いやここにいる全ての者がある人物の姿を思い起こす、しかし。

 

「無理だよ、カリオストロさんは王都にいるんだよ……とても、こんな所に」

 

と、鈴が天を仰いだ時であった。

その耳に聞き覚えがある風切り音が届く、確かそれはあの氷竜の……。

そして雪原と草原の際の霧の中から声が聞こえる、彼女らが最も今待ち望んでいた人物の声が。

 

「オイ!ユエの奴が狙われ……って、ハジメは?ジータは?ユエはどこだ?」

 

霧の中からウロボロスに乗って現れたカリオストロは、

残された者たちの表情を一瞥し、

どうやら最悪の事態が起こりつつあることを察知する。

 

かつての檜山、それから清水や恵里の時もそうだ、どうも自分は一歩出遅れてしまう。

何が天才美少女錬金術師だと歯噛みしながらも、カリオストロは早速ゲートの解析を開始する。

つい先程のミレディとの会話を思い出しながら。

 

 

「勇者様!」「救世主様!」

 

王都にて、大歓声を耳にしながらバルコニーの緞帳が下りるのを確認し、

ようやくその身体をぐらつかせへたりこむ光輝、これは限界突破による脱力感だけではない。

その姿にそっと目を伏せるリリアーナ、

やはり余りにも多くの物を背負わせてしまったことへの慚愧の念は隠せないのだろう。

 

「よく……頑張りました」

 

未だ震えが止まらぬ光輝へと労いの言葉をかけ、その背中を抱きしめんとするジャンヌ、

彼の今の心境はやはり聖女として、多くの人々の命運を背負った彼女こそが、

最もよく知るところであろう、だが。

 

光輝はそんな彼女へと気遣い無用とばかりの笑顔で応じるのみだ。

与える側に立つと決めた者が与えられることを、

救うと決めた者が救われることを求めてはならないとの決意を込めて。

 

(それもあなたが教えてくれたことです、ジャンヌさん)

 

一方でミレディと共に、アハトの骸を色々と調べながら独り言ちるカリオストロ。

 

「しかし神って奴は随分と余裕かましてやがるな、こんな回りくどい手を使いやがって」

 

ここまでの手を使うなら、自分で動けばいいものをとの思いを、

恐らく神の正体を知らぬ者ならば当然の如く思うであろう疑問を口にしたカリオストロへと、

ミレディは何の気もなく答える。

 

「ああ、それは仕方ないんだよ、神は現世に干渉出来る、自分の肉体を持っていないのさ、

だから神域って別空間に引きこもって使徒を使って人々を、世界を操って遊んでいるのさ」

「ヲイ……今何つった!神がテメェの肉体を持ってないだと!」

「あ……ああ、神の力を支え切れるだけの肉体をどうやら自力じゃ造り出せないみたいなんだ」

 

カリオストロの大声に耳を塞ぎつつ答えたミレディの……、

まさに何を今更といわんばかりの言葉に思わず手を止め、

カリオストロはわなわなとその身体を震わせる。

自身の読み違えに、そして何より相手の過大評価に。

そればかりではない、かつてあのウルでの水浴びの際、

ユエに関して僅かながらではあったが感じた違和感が、疑問が甦ってくる。

 

自動再生、地の底への封印、神の力を支え切れる肉体……。

 

「……おい、今ハジメたちは氷雪洞窟って言ってたな」

「詳細は愛子かメルドに聞かないと分かりませんが、確か……」

 

リリアーナが少し考え込むような仕草を見せつつ答えるよりも早く、

カリオストロが立ち上がる。

 

「ミレディ、先回りだ、氷雪洞窟にやってくれ、

間に合うかどうかは分からねぇが……このままだとユエが危ねぇ!」

「コーちゃんはどうするの?」

 

コーちゃんと言う呼び名には未だ慣れないのか、少し面喰らった表情を見せながらも、

それでもはっきりと首を横に振る光輝、今の自分が最も必要とされている場所は、

自分の責務を果たすべき場所はここなのだと、

未だ渦巻く人々の不安を鎮めるには、自分の存在が必要なのだという思いを込めて。

 

「ユーリ……行ってくれ、頼む」

 

実直極まりなき剣士が頷くと同時に、横から声が聞こえる。

 

「オレも行くぜ、まだまだ元気が余ってんだよ」

「龍太郎!」

 

懐かしの……と、呼ぶ程離れていたわけではないが、

それでも親友の……かなり変わってしまってはいるが……その姿に、

顔を綻ばせる光輝。

 

「と、その前にセンセー身体直してくれよ」

「抜かせ、傷だらけじゃねぇか、まぁちったあその身体も

使い熟せるようになったみたいだがな」

 

やや呆れつつも、それでも笑顔で龍太郎の身体を修復してやるカリオストロ。

そしてカリオストロ、ミレディ、龍太郎、ユーリの四人で組織された、

救援部隊が神山のショートカットを経由し、氷雪洞窟へと向かったのであった。

 

 

カリオストロがゲートの解析を始めて暫くの後。

光りなき虚のような穴に過ぎなかったゲートが本来の機能を取り戻し始める。

 

と、同時にぱちぱちと、やはり揶揄するかのような拍手が焼け野原に響き渡る。

 

「わざと残してやがったな……このゲート」

「ええ、半端な希望ほど、人を惑わすものはございませんから」

 

斑色の蛇を全身に纏わりつかした怪人、幽世の徒がいつぞやと同じく、

慇懃無礼なまでの礼をして見せる。

 

「この世界でもそうやって多くの人々を惑わしているのか!」

 

剣を構えるユーリへと幽世の徒は、相も変わらずの態度で応じる。

 

「この世界でも?いえいえ、どの世界ででもございます、と、をや……

急いだ方が宜しいのではありませんかな?」

 

蛇が促したその先の、遙か彼方の空に光の柱が立っているのが見える。

まるで地から天へと何かを吸い上げているかのような……。

その様子を眺めながら、雫はあの王都で出会った時の蛇の言葉を思い出す。

 

『いかなる時代、世界であっても、人の心の本質が邪であり、奸である限り、

人が死を、闇を恐れる限り、我々は何処にでも存在するのです、姿形や呼び名は変わってもね』

 

「あなたは……誰の味方なの?何をしたいの?」

 

雫の言葉に蛇は何を今更とばかりな口調で答える。

 

「多くの血を流して頂ける者の味方でございます」

 

そして、ゲートを潜り、カリオストロに率いられたシアたちが玉座の間に辿り着いた時、

そこにあったものは……。

 




カリオストロたちは果たして間に合うのでしょうか?

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