ありふれた錬成師と空の少女で世界最強【完結】   作:傘ンドラ

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水着ポセイドン、果たして需要があるのか?
それ以前に普段からして水着みたいなもんでしょうが……。
でも第三部完!には笑わせて貰いました。



確率なんてクソ食らえ

まずは事情聴取とフリードの亡骸を預けるべく、先の平原へと戻るハジメたち。

そこにはすでに戦意を失い、ただぼんやりと自身らの本拠、

魔国ガーランドの方角を眺める魔人軍の生き残りたちがいた。

 

「フリード様!」

「よくもっ」

 

それでもジータの腕に抱えられたフリードの亡骸を目にするや、

途端に彼らの目に再びの戦意が宿り始める。

心から敬愛する将に辱めを与えた者を討たんとばかりに、だが……。

 

「止さぬか」

 

生き残りを纏めていたのであろう、一人の老将がいきり立つ魔人族たちを制していく。

その声、振る舞いには歴戦の気骨が漂っていた、

恐らく軍の中でもかなりの地位にあったのだろう。

 

「フリード様のお顔を見ろ……満ち足りておられる」

「しかし……」

 

尚も不満を漏らす幾人かには構わず、老将軍はジータへと頭を下げる。

 

「どなたが討ったのかはあえて聞き申さぬ、なれど、

我らが将に戦士としての最期を与えて下すったこと、感謝いたす」

 

その言葉振りから見て、おそらく彼もフリードの変化を内心で悟っていたのだろう。

 

「すいませんが、私たち魔人族の弔いのやり方を知らなくって、それで無礼とは思いますが

こういう運び方をさせて頂きました、それから……」

 

ジータの言葉にむしろそこまでと恐縮するような素振りで、

老将軍は改めてジータへと頭を下げる。

 

「ご遺体、下げ渡して頂ければ丁重に葬むる次第にて、どうか」

 

ジータは神妙な表情を見せつつ頷くと、これでまずは一仕事終わりとばかりに、

老将軍に亡骸を手渡しつつ、さらに神域について、

神門についての質問を魔人族らに尋ねていく。

 

「【神域】については、我ら魔人族の楽園ということしか聞いていない

そこに迎え入れられれば、我等はより優れた種族になれるのだそうだ……

それに、新天地でより繁栄できるとか……だが……」

 

そこまで口にしたところで、頭を抱え蹲る魔人族の男。

 

「こうして外からあの光を眺めていればよくわかる、あれはそんなものなんかじゃ……ない」

「じゃあ【神門】って何?」

「それについても分からない、ただ、使徒様ならどうにか出来るのではと思っただけで……」

 

彼らの答えは概ね同じだった、とりあえず魔国には戻らない様にと言い含め、

近くの集落に辿り着けるだけの食料を渡すと、

ハジメらはようやく王都への帰路に就くのであった。

 

 

「というのが、これまでの話です」

 

舞台は王宮へと変わって例の大広間、そこにはハジメやジータ、光輝、愛子らのみならず、

残りの生徒たち、そしてリリアーナ、メルド、ミレディ、シモンら、

この一連の出来事に関わった者たち、ほぼ全員が集まっていた。

 

「エヒトが現れるまで三日の猶予があるというわけか」

「奴らの言葉が正しければ、ですけど」

 

メルドに答えつつ、それについてはきっと正しいのだろうとジータは確信していた、

もしそうでなければ、今頃怒りにその身を震わせ自分たちを皆殺しにせんと、

即座に取って返してるに違いないのだから。

 

「完全に読み違えていたぜ……」

 

怒りに身体を震わせているといえば、カリオストロもそうである、

こちらの場合は自分に対してであったが。

 

「まさか自分の肉体一つ満足に作れない半端者が神を名乗ってただなんてな!

オレ様以下の存在が神だとォ!許し難いにも程があるぜ!」

「カリオストロさんが言うとこっちの常識がワヤになりますから、どうか黙って、ね」

 

私情交じりの鬱憤を隠さないカリオストロについては遠藤に任せつつ、

話を続けようとしたハジメたちであったが、その機先を制するように、

今度は龍太郎が口を開く。

 

「なぁ、俺の時みたいにユエさんの魂をだな……もっとちゃんとした身体に

移植することは出来ないのか?」

 

ハジメの頭の上でカタカタと動く、

まるで市民権を奪われた某三等官の如き姿のユエを注視する一同、

そんな視線を受けても当のユエは沈黙を保ったままである。

もしかすると、自分の現状に何らかの責任を感じているのかもしれない。

 

「魂の扱いはな、本来豆腐のようにデリケートでなけりゃならねぇ、

龍太郎、お前の時もそうだったろ」

 

豆腐の例えに奇妙なものを感じつつ、

ああ……と、カリオストロに言われて自分の移植の例を思いだす龍太郎。

 

「それを強引に引っこ抜いているんだぞ、それにエスペシャルな魂には、

当然エスペシャルな肉体が必要なんだ、このままだとユエの魂も……そう長くはねぇ」

 

そしてユエのコンディションが万全でなければ、帰還のために必要な、

クリスタルキーの再作成は不可能ということも包み隠さずハジメは語っていく。

 

「もしかすると俺がユエの身体を取り戻すことを優先して嘘をついている、

そう思う奴も中にはいるかもしれない、けど、どうか信じて欲しい」

「オレ様の見込み違いもあったんだ、どうかハジメを責めないでくれ」

 

カリオストロの口添えを聞くまでもなく、全てを打ち明け深々と頭を下げるハジメの、

そのかつての教室の頃とは打って変わった真摯な態度と、

その言葉に疑いを抱く者は誰もいなかった。

 

「つまりこっちはユエの身体を取り戻したい、向こうはユエの魂を奪いたいってことだ」

「いずれにせよ激突は避けられないってことかぁ~~」

 

淳史が頭を抱えてボヤく。

 

「それにこっちが滅んだら俺たちの世界の番なんだろ」

「何が何でもここで決着を着けるしかないのか……」

 

同時にそんな声も生徒らの間で漏れ始める。

 

と、そこで今度はリリアーナが発言を求める。

 

「戦いが避けられないということは分かりました、

では具体的にはどう迎え撃つおつもりなのでしょう?

エヒトたちの話の通りであるのならば、始まりは【神山】から、ですよね?」

「具体的にどうするかはまた詰める必要があるんだが、一応俺の計画としては

俺の作成したアーティファクトをだな、一般兵や冒険者、傭兵たち……、

ともかくそういう全ての人々に装備させるってことだ」

「時間あんまりないから皆にも協力して貰うけど、いいかな?」

 

ジータの言葉に多くの生徒たちが力強く頷く。

 

「武器はお前さんに任せるとして、戦力の動員についてはどうするんだ

申し訳ないが、我が騎士団のみではお手上げだぞ」

 

実際現場で戦う者としては当然の不安を口にしたのはメルドである。

 

「動員についてはゲートを利用して貰えればいい」

「慧眼じゃの、羅針盤やら攻略の証やら神水とかについては万一を考え、

宝物庫からオルクスの工房へと転送させておくとは流石じゃ、ご主人様」

「クリスタルキーを手元に残しておいたのは失敗だったけどね」

「だからゲートを使えれば数日で戦力を集めることは可能だろ

交渉については姫様たちに任せるよ、人員とかもそっちで割り振って貰えると助かる」

「そのための資料もちゃんと用意してあるから、いつでも言ってね」

「この際だっ!ミレディちゃん秘蔵のコレクションも大開放しちゃうよっ!

あのクソ神がいかに悪事を重ねてきたか、これを見ればバッチリってくらいのをね!」

 

「俺にも一言いいか?」

 

と、ここで意外な人物、ようやくお咎めなしとなり、

晴れてクラスメイトらと合流かなった清水幸利が挙手し意見を口にしていく。

 

「直接被害を喰らった俺としては、人間爆弾への対処についても聞かせて貰いたいもんだ

こんな時に背後でドカンドカンやられたら準備どころじゃなくなるんじゃないのか?」

「それもちゃんと考えてるよね、ハジメちゃん」

 

確かに、確実に銃後を、人心を脅かすであろう人間爆弾への対処も優先すべきことだ。

 

「清水、確か縛魂により操られている人間の精神には、特有の波長があるんだったよな」

「ああ」

「なら、話は早い、魂魄そのものの探知となるとかなりの骨になったけど

精神の波長を測定する程度の機器なら、それほど時間を掛けずに生産できると思うぞ」

「では、南雲さんが探知機を完成させ次第、それを各都市の冒険者ギルドに配って貰えますか?

清水さん、お願いできますか」

 

横からリリアーナに振られ、少し驚くような仕草を見せる清水だが、

次の瞬間には強い意思をもって頷いていた。

その顔は誰かの役に、誰かの為に動けるのだという充実感に満ちているようにも見えた。

 

ちなみに我らが勇者は、ただ一点のみを見据え沈黙を保つのみだ、

もちろん会議が紛糾すれば、意見の一つも出すつもりではあったが。

それにもう誰も自分の姿や顔色を伺う者はいない。

クラスメイト全員が己の意思で意見を交わし合うその光景は、

天之河光輝が彼らに取っては、特別な存在ではなくなった、

ありふれたクラスメイトの一人となったという証でもあった。

 

(俺や南雲たちだけじゃない……皆だって)

 

成長している、変わろうとしている、そのことを光輝は頼もしく思う反面、

 

「ちょっと寂しいんじゃないの?」

「ちょっとだけ……ですけどね」

 

ついこの間までの、縋り頼られる日々を思い起こしつつも、

ミレディの言葉を否定しない光輝。

 

「でも、今の方がずっと皆との距離を近く感じるんです」

 

ともかく後はとんとん拍子に話が進んでいく、どの道やるしかないのだ。

 

「なぁ……勝てるのかよ、それで」

 

ふと耳に届いたそんな声に光輝とハジメの視線が交錯する、

譲り合うかのような暫しの沈黙の後、仕方ないなとばかりに、

ハジメはあくまでも静かな口調で答えて行く。

 

「俺は錬成師だ……まぁ武器とかそういうのを作る職業だってのは、当然皆知ってるよな

で、その錬成といっても単に金属を捏ね回してるだけじゃない、

頭の中だったり、紙の上であったりとか……とにかくだな計算が不可欠なんだ」

 

少し口籠りつつもハジメは続ける。

 

「その俺が、数字でもって語らねばならないこの俺が、こんなことを言ってしまったら

本来はおかしいのかもしれない……確かに勝てるかどうかを確率だけで語るなら、

恐らく1%もないだろうな……けど」

 

そこでハジメの語気が強くなる、それはかつての自分を戒めるかのようにも見えた。

 

「例え俺たちが負けても諦めたとしても、試合も悲劇も終わってはくれない……

だったら立ち向かう他ないよな、だから……」

 

バンと机を掌で叩き、周囲へそして自身への決意を奮わせるために、

ハジメは静かにではあったが、それでも力強く宣言する。

 

「今さら確率なんてそんなものクソ食らえだろう」

 

 

 

「アルヴヘイト!貴様どういうつもりだあぁぁぁっ!」

「お……お赦しを、お赦し下さいエヒト様ぁ」

 

南雲ハジメが考えるよりは、エヒトはマヌケではなかったようだ。

神域に帰還して数分後には、もう自身がまんまと出し抜かれてしまったことを、

いわば中身を全て抜き取られた宝箱を掴まされてしまったのを悟ったのだから。

とはいえど、もはや後の祭りである。

 

まさに腸が煮えくり返る、そういう憤怒を覚えている最中に、

両足を失い、這う這うの体でアルヴが逃げ戻ってきたのだからたまらない。

その無様を晒す姿を目の当たりにした瞬間、エヒトの堪忍袋の緒は切れてしまい、

かくして現在アルヴは、エヒトの格好の憂さ晴らしの対象となってしまっていた。

パチリとエヒトが指を鳴らすたびに、アルヴの身体が吹き飛んでは壁に叩きつけられる。

 

「イレギュラーにしてやられた上に、無様を!生き恥を晒しおって!」

「ひぃぃぃぃ」

 

エヒトは頭を抱え土下座するアルヴへと、今度は容赦なく魔弾を放って行く。

 

「何故生きて戻ったぁ!何故その場で死ななかったぁっ!」

「お赦しを!どうかお赦しをぉ~~」

 

ひたすら泣き叫び平伏するしかないアルヴ、無理もない。

エヒトの怒りを買うのは半ば覚悟はしていたが、

ここまでの怒りを、罰を受けるとは思いも寄らなかったのだ。

 

「貴様の無様はひいては我の無様!貴様が受けた嘲笑は我への嘲笑だ!」

 

まだ怒りが収まらないのかアルヴへと直接殴打を加えて行くエヒト、

一見すると小娘にしか見えないエヒトが、大の男であるアルヴに折檻を加えるのは、

見る者にとってかなり奇妙な印象を与えた。

 

(ふ~~ん、神様だの何だのって、結局僕らと大差ないんだね)

 

そんな神々の、神々らしくない小物ぶりを冷ややかに、火傷の治療のためだろうか?

仮面越しに見つめる恵里、その髪の色は何故か金色へと変わっていた。

 

そして一頻りの折檻が終り、ようやく溜飲が下がったのか、

えぐえぐと泣きじゃくるアルヴには一切構わず、

恵里と共にその場を去るエヒト、しかしながらその表情には、

怒り以外の……興味めいた何かが宿りつつあった。

 

(フッ、我を出し抜くとは、あのイレギュラー……面白い)

 

「ど……か」

 

去り行くエヒトの背中へと懇願するような声をアルヴはかけるのだが、

一切それには構うことないエヒト、その後ろ姿にアルヴは直感する。

自分は棄てられるのだ、この世界と同じくして……と。

 

と、背後に気配を感じる、振り向くとそこには使徒がいた、手に剣を携えた。

 

「ヒィ!」

 

剣の輝きに慄き後退るアルヴ、だが両足のない身体ではそれもままならない。

そんなアルヴへとつかつかと歩み寄る使徒、思わず目を閉じ、その時を待つ彼であったが、

その耳に届いたのは意外な言葉であった。

 

「このまま、棄てられて終わるのですか?エヒト様の無聊をこれまでお慰めしてきた

貴方の忠誠は、他の誰にも勝るものです」

「!」

 

何故、申し訳程度の自我しか持たぬ使徒がこのような言葉を……?

しかし疑問を感じる間もなく、使徒は矢継ぎ早に言葉を紡いていく。

……まるで祝詞のような独特のリズムで。

 

「しかしどうやらエヒト様のご寵愛はあの恵里とか言う娘に移ってしまったようですね

新天地では今までの貴方の役割を彼女が担うこととなるのでしょう」

「ひ!」

 

目の前が真っ暗になる思いを覚えるアルヴ、

それこそまさに自身の不安への正鵠を射抜いていたからだ。

 

「わ……私はいやだ、棄てられるのは嫌だ」

 

使徒の足下に縋りつくアルヴ、もはや目の前の存在が、本当に自分の知る存在なのか、

はたまた何者なのか?そんな疑問は彼の頭の中からは消え失せていた。

 

「どどど……どうすればっ、どうすれば私っ私はぁ~~」

「簡単ですよ」

 

そこで使徒は微笑みを見せる、楽園のリンゴを食べろと唆す蛇のごとき微笑みを。

 

「受け入れるのです……我を」

 

そこでようやく自分が良くない物に取り込まれようとしていることを、

認識するアルヴであったが……遅い。

もはやその時には無数の斑色の蛇が、言わずと知れた幽世の徒が、

次々とアルヴの肉体を侵食していくのであった。

そして……。

 

「ふふ……ふふふ、ハハハ」

 

全身から今まで以上に禍々しき気を漂わせながらアルヴは立ち上がる、

その胴体からは新しい足が生えている。

 

「素晴らしいぃ、この力があれば、エヒト様はまた私を寵愛して下さるに相違ない!

アアアア、エヒト様ァ!今度こそこのアルヴがイレギュラーどもを!

滅殺してご覧にいれましょうぞぉ~~~ハハハハァ~~」

 

そんなアルヴの叫びをその身体の中で聞き、

溜息交じりの感想を漏らすのは、幽世の蛇たちだ。

 

『愚かな……その力で寝首を掻けばいいものを、この男、どこまでも飼い犬でしかないようだ

ま、地上が長きに渡る戦の怨嗟に満ちるのを暫く待つとしましょうか』

 

そんなことは露知らず、狂喜するアルヴ、今すぐこの新しく得た力をエヒト様へと披露したい、

そんな気持ちに満ちてはいるのだが、残念なことにエヒトは神域のさらなる奥へ、

自身以外の何者をも通さぬ領域に籠っている、邪魔をすれば今度こそ……、

何よりも一度不興を買っているのである、やはりそう気安く顔は合わせられない。

 

だが、あせることはない、三日、三日待てば、

きっと主は驚きと共に素晴らしいご褒美を与えてくれるに違いないのだ。

今からその時が……と、端正な顔を歪めて舌なめずりをするアルヴ。

それはまさに飼い犬の思考そのものであった。




をや?エヒトの様子が。

この作品のハジメは、こういう時は言葉少なめなのです。
従って煽り成分はカリオストロさんで補給して下さい。
思えばジータも当初より随分大人しくなった感があります、
これもキャラの成長と考えるべきでしょうか?
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