ありふれた錬成師と空の少女で世界最強【完結】   作:傘ンドラ

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原作通り?と思いきや。


Just a Heros

「空が……割れる……」

 

誰かがそう呟くと、その空に発生した歪な線は、

まるで人々の恐怖心を煽るように。破砕音を世界に向けて奏でながら

ゆっくりと広がっていく。

 

「そ……」

「総員っ! 戦闘態勢っ!」

 

ガハルドよりも先にメルドが動き、その声に兵士たちが即座に正気を取り戻し、

配置につくことが出来たのは、やはり精鋭の証であろうか。

そしてその最中についに空間が、天が裂け

瘴気の渦の中から、【神山】へと黒い雨のごとくにまずは魔物たちが、

そしてその後を追うように、銀の雨のごとくに使徒たちが降り注いでいく。

その数は合計で幾百、いや幾千万にも及ぶであろう。

 

「魔物に加えて使徒の数も半端ではない……か」

「怖気づきましたかな?陛下」

「抜かせ」

 

メルドの声に鼻白みつつも笑顔を見せるガハルド。

 

「しかしまさか陛下とこうして肩を並べ戦う時が来るとは思いも寄りませんでしたよ」

「ああ、いつか本気で命のやり取りを……とは思っていたがな、

味方同士では拍子抜けだ」

 

そこで連合軍総司令官を勤めるリリアーナから念話が届く

 

『陛下、それからメルド、"女神"と"勇者"が出ます』

 

「総司令官の座をてっきり要求すると思いましたが……」

「俺はせいぜい大将が関の山よ!総司令なんぞ肩書き貰おう物なら重くて動くに動けんわ!」

 

そう豪放磊落に笑うガハルドの視線の先には……、

好き好んで重責を背負った一人の少年の姿があった。

 

「ここまで化けるとはな……」

「光輝……それがお前の答えなんだな……だが……」

 

ガハルドに悟られぬように、メルドはそっと光輝から視線を逸らす。

 

(お前に取って、世界にとってこれが必要なことであっても、

これがお前自身の幸福に繋がることだとは俺にはやはり思えない……それでも)

 

彼が本当に勇者への道を開いたというのであれば、その一端を自分も担えたのだろうという、

誇りにも似た何かが、身体を走るのをメルドは確かに感じ、

そしてその耳に愛子の言葉がまずは届く。

 

「連合軍の皆さんっ!世界の危機に立ち上がった勇気ある戦士の皆さんっ!~~」

 

やや上ずった声で士気高揚の演説を始める愛子、

上手く話せているだろうかという不安がないわけでは決してない。

……それでも、と、愛子の目が光輝の後ろ姿に、

そしてその奥に控えるハジメたちへと注がれる。

そう、これから自分の生徒たちは、戦士としていわば死地へと赴くのだ、

そのことを思えば、その負担を幾ばくかでも……というのが、

女神の、いや教師であり大人の役目ではないのか。

 

「皆さんの自由を見えざる鎖で縛り、弄んできた邪神はっ!」

ついにいまその姿を露にしようとしていますっ!あともう一息、あともう一歩です!

どうか力を、人間の力を意志をっ!」

 

だから愛子は渾身の力で吠える、誰にも教えて貰ったわけではない、

例え拙くとも自分の言葉で。

 

兵士たちの顔から、瞳から怯えが消え、強大なる滅びへと立ち向かわんとする、

確固たる意志が宿っていく。

それは決して女神の言葉だからではなく、

一個のありふれた人間の言葉に胸打たれてのことであるのは明白であった。

 

「「「「そうだ!俺たちは勝つんだ!」」」」

「「「「人間舐めんな!」」」」

「「「「邪神に滅びをっ!我らに自由を!」」」」

 

その歓声を耳にし、僅かに身じろぐ愛子、

これから彼らの何割かは確実に死ぬのだとの思いが、

その何割かの中に生徒たちが、いや自分も含まれるのかもしれないとの思いが、

恐怖が、やはり胸中を巡らずにはいられない、だがそれでも……。

 

「さぁ!勇者よ!今こそその力を人々に示すのですっ!」

 

これは自分たちの未来を掴む戦いでもあるのだからと、

迷いを振り切るかのような愛子の叫びと同時に、光輝が聖剣を神山へと向ける、

と、その瞬間だった。

赤黒い空の一部が一瞬キラリと輝いたかと思えば、

それを皮切りに次々と天から降り注ぐ何かが、神山を覆いつくさんとしていた

幾千万もの魔物を、いや神山そのものを吹き飛ばしていく。

 

さらに光輝は今度は空へと掲げる、と、今度は光の豪雨が使徒たちへと降り注ぎ、

使徒たちが次々と焼き尽くされていく。

 

その勇者の力に、その勇姿に兵士たちは波の如くに歓喜の叫びを上げる。

 

「「「「「「「「勇者様万歳!救世主様万歳!」」」」」」」」

 

もちろんこれにはタネがある。

光輝の陰、兵士たちからは死角となる位置では、

投影したコンソールを操るハジメの姿があったのである。

 

神山を崩したのは成層圏に用意した大質量の金属塊を自由落下させる、

言うなれば、【メテオインパクト】であり、

今まさに使徒たちを焼き尽くさんとしているのは、

さらなる強化・改造がなされた太陽光集束型レーザー、バルスヒュベリオンである。

それも一機だけでなく七機もである、それらが一斉に発射されたのだからたまらない。

 

辛うじて難を逃れた使徒の一団は、なんとか反撃を試みようと上昇していくが。

バルスヒュベリオンに装備されたミラービット、による、

天空の全てを埋め尽くさんとする、拡散反射レーザーにより、

やはり次々と焼滅していく。

 

それらをまるでタクトを奮うかのように優雅でいて、

それでいて淡々と処理していくハジメの姿は、

これらを全て冷徹な計算・設計の元に行っているという証でもある。

その姿は見る者に慄然たる思いを抱かせずにいられなかった。

 

この世界における南雲ハジメは戦闘を主とする者ではない、

開発者にして研究者、そして探求者として生きる道を選ぼうとしている存在である。

しかし魔王にあらずとも、やはり数多の世界同様に破壊者であることも、

停滞した世界にブレイクスルーをもたらす存在であるのも事実なのだと。

 

もしもここで翼を焼かれて堕ちろ木偶どもだの、

たらふく喰わせてやるよ、それこそ全身はち切れるくらいにだのと口にでもすれば、

まだ可愛げはあったのかもしれないが……。

 

『次、右六十度、そこから三秒後に正対して九十度の方向に剣を』

 

ちなみに一方の光輝だが、こっちはこっちでハジメからの指示に合わせ、

次から次へと聖剣の向きを変えねばならないので、それはそれで大変であったりもする。

 

と、使徒たちは一塊になり、銀翼を最大にまで展開しその場で防御に徹し始める。

 

『天之河……三二一で上段から思いっきり聖剣を振り下ろせ、使徒の塊に向けてな』

『三二一だな、分かった、カウントをくれ』

 

『三』『二』『一』

 

光輝がハジメの念話での指示通りに、聖剣を振り下ろす。

と、同時に赤黒い天空に太陽の華が咲いた。

 

ヒュベリオンの動力源でもある、臨界まで太陽エネルギーを内包させた

太陽光集束専用型宝物庫ロゼ・ヘリオス、いわば大型熱量爆弾、

それをハジメは躊躇なく投下したのだ、それも七つ同時に。

 

七つの太陽が同時に生まれたのかと思うような閃光と、そして熱波と衝撃波は、

現在現世に顕現している使徒たちを全て焼き尽くすには十分過ぎる威力であった。

 

「「「「ユニバァァァァァス!」」」」

 

要塞の下のハウリア族の叫びが微かに届く。

自慢げにはしゃぐティオと、それに対し溜息のような答えを返すアドゥルの声も聞こえる。

 

「って!味方まで巻き込むつもり!?」

 

王都から移設した大結界、カリオストロの手によるさらなる改良が加えられた―――により、

要塞とその周辺には一切の影響はないであろうことも承知していたが、

それでもスッ、と一大組曲を演奏し終わった指揮者のように残心するハジメの頭を、

調子に乗るなとばかりに、思わずはたいてしまうジータ。

無論、ハジメが内心で余りの威力にビビってたことは、例によって彼女も悟っており、

それゆえに少し安心したような笑顔を覗かせてはいたが。

 

全てが終り、一度静寂が戻ったのを確認し、人々に軽く手を振ると、

光輝は引き続き言葉を紡いでいく、力強くもあくまでも静かに呼びかけるように。

 

「そして今ここでもう二人、皆さんに紹介したい仲間がいます」

 

あれ?打ち合わせにこんなセリフあったか?

そんなことを考える間もなく、ススと自分の身体が舞台の袖から中央へと、

傍らに立つジータと共に、まるで重力に導かれるように引き寄せられるのを感じるハジメ。

 

「今から悪しき神を討ちに空へと殴り込みを掛けてくれる、

俺が、勇者が認めた最強のコンビです」

「お、おい!」

「ちょっと!」

 

不意打ちに驚く二人を尻目に、ニヤと微笑む光輝、その笑顔は爽やかなようでいて、

何処かわざとらしさが漂っており、誰の影響かなど考えずとも分かろうというものだ。

 

「ここまで見せつけて置いて裏方のままなんて許せるわけないだろう」

 

先の御前試合など表に出る機会はあったにせよ、南雲ハジメと蒼野ジータの存在は、

世界全体ではまだまだ"知る人ぞ知る"という程度である。

 

「影の立役者(フィクサー)気取りだなんて虫が良すぎるよん」

 

ミレディの言葉に、まんまとしてやられたことに気が付く二人。

どうやら最初から自分たちを表舞台に引きずり出すと決めていたのだろう。

ミレディにとってはいつぞやの仕返しも含まれているのかもしれないが……。

流石にこの予定外かつ粋な不意打ちに戸惑いを隠せず、視線を泳がす二人へと、

光輝はそっと耳打ちをする、その顔からはすでに笑顔は消えている。

 

「頼む、約束してくれ、この場で皆に必ず勝つと……いや‥…生きて帰ってきてくれると」

 

それは、自分の思いを押し殺し、人々のためにと、

光を希望を背負うことを決断した男の切なる願いであった。

 

「お前たちの骨を俺たちに拾わせるような真似はしないって、

ここではっきりと誓ってくれ、俺たちだけじゃなく、皆の前で」

「それは勇者としての言葉か?」

「いや、クラスメイトとしてのお願いさ、二人とも肩書で動く気なんてないだろ?」

 

そうまで言われてしまっては心の準備云々だのと言う理由では、

流石に引っ込みがつかないなと、ハジメはジータと二人頷きあう。

 

「わかったよ、必ず帰る、皆で生きて帰る」

「……」

「嘘吐きの卑怯者は嫌いなんだよね」

 

言葉を詰まらす光輝へと軽く頷き、それから笑顔を作りつつ、

ハジメは手渡されたマイクを握りしめる。

 

「ええと……紹介に預かりました、南雲……ハジメです」

 

勇者の言う"最強"とは余りにも似つかわしくない、そんな声音で、

ハジメはただ率直に今の心境を語っていく。

 

「俺は……その、別に勇者でも何でもなくって、その……錬成師なんだ、ありふれた」

 

だからハジメはありふれた一人の存在としての言葉を口にすることにした、

この戦いはありふれた人々が、ありふれた人生を掴むための戦いなのだから。

 

「その俺が……沢山の幸運や、出会いによってなんか最強とか呼ばれるようになって」

 

少し謙遜が過ぎるかなと思いながら、ハジメは言葉を続けていく、

図らずも得てしまった巨大な力と、それに起因する冒険の日々を思い起こしながら。

 

「それでも……人間ってきっとさ、出来ないことを克服しようとするから、

知らない物を知ろうとするからこそ、生きるのが楽しいって思えるようになるんだと思う」

 

それは単に自分のことだけではなく、この場に集う全ての者たちへの呼びかけであった。

 

「つまり……何が言いたいのかっていうとさ、自分の道は自分で決めろってことで

その道を未来を阻む神を、ブチのめしにこれから行ってくるってことで、だから……

俺たちが帰って来れる場所を、皆で守って欲しい」

 

そこから先は、ジータが締めくくる。

 

「私たちも頑張るから、皆も頑張って!そして皆で未来を切り開くために」

 

少し強引な締め方だなと、二人で顔を見合わせつつハジメもまた絞めの言葉を叫ぶ。

 

「さぁ!次は皆の番だ、人の強さを無慈悲な神に見せつける時だ!」

「そしてこの戦いに、長き偽りの歴史に終止符を打とう!みんな!」

「この世界に本当の朝を呼び戻すために!本当の夜明けを皆で迎えるために!」

 

「「「「「我らに夜明けを!勇者と共に夜明けを!最強と共に夜明けを!」」」」」

 

ハジメの、ジータの、光輝の呼びかけの返答は一体となった叫びで返された、

それは興奮が闘志へと転化した証であった。

 

戦士たちの叫びを耳に、甲冑へと乗り込みいざと光輝が大旗を掲げる。

この戦いで散って行くであろう全ての命に、勇者の名の下に意味を与え、

責任を背負うために自分はここに立つのだという悲壮なまでの決意と共に。

 

「よし!ここから先は俺たちが指揮を取る!」

「総員、武器構え!!目標上空!勇者と共に人間の強さを見せつけてやれ!」

 

メルドとガハルドの指揮の下、

兵士たちがそれぞれ役割ごとに支給された重火器を上空へと向ける、

あれだけの数の使徒を焼いたにも関わらず、

空間の裂け目からは新たな使徒達が続々と溢れ出てきている、

まさに無尽蔵と言わんばかりに。

 

しかしそれでも、誰も下を向く者は恐怖に怯える者はいない。

 

「我らが御旗の下にいざ戦わん!」

「オォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」

 

ジャンヌの激励が戦場へと響く、こうして人類と神との戦争が、

ここに開幕した。

 

「じゃ、俺たちも行くか」

「そうだね」

「……んっ」

 

頷きあうハジメたち、そして愛子らと共に、その背中を見送るのは香織である、

彼女もまた自身の戦場を地上に定めた者の一人であった。

 

香織自らが地上に残ると口にした時はハジメたちも驚いた、

彼女の回復魔法は当然のことながら、戦力の計算に入っていたし、

それにも増して、香織自身がハジメと離れる道を選ぶこと自体が、

ハジメらに、特にジータとユエにとっては予想外に思えてならなかったのだ。

 

だが、そんな彼女らの驚いた顔を尻目に香織は、さも当然とばかりに理由を説明する。

 

「だって私は元々勇者パーティのメンバーだもん、それにいつか言ってたよね、

ユエちゃん、在り方は一つじゃないって」

 

同じ道を共に進むだけが友の、仲間の在り方ではない、

同じ志を持って別々の道を共に歩めてこそ、友達であり仲間なのだと、

香織は一連の冒険の中で答えを得ていた。

 

「だから私は光輝くんや龍太郎くんや先生や皆と一緒に、ハジメくんたちの帰って来る場所を

ううん、それだけじゃない、この戦いに身を投じた皆を一人でも多く守ることにするよ」

 

そう迷うことなくはっきりと口にした香織の姿は、ジータたちに取っても、

とても眩しく見えてならず、特にユエに取っては何か思うところもあったようだ。

 

「回復ならオレ様も得意だぜ、心配すんな」

 

ハジメと香織の背中をバシバシと叩くカリオストロ、

そんないつも通り彼らの姿に微笑みを見せるジータ。

その姿は白を基調としつつも、赤と青の大きなリボンによって彩られており、

戦士の凛々しさと、少女の愛らしさを見事に両立させていた。

ヴァーミリオン、これが最後の戦いに臨むにあたってジータが選んだ戦装束であり。

そしてこの最終決戦に於ける彼女のジョブはカオスルーダー、

弱体と妨害のスペシャリストと言ってもいいジョブである。

 

「じゃあ行ってくるよ」

 

まるで試験の答え合わせをするかのような、そんな気軽な声を残し、

ハジメたちはスカイボードを使い、上空八千メートル目指し一気に上昇する、

途中使徒たちの妨害はあったが、もはやそれらはハジメたちの敵ではない。

ハジメの開発したガトリングパイルバンカーが、

そして地上からの、主にハウリア族による援護射撃が次々と使徒を屠っていく。

 

そしてハジメたちは、ヘドロのようなドス黒い瘴気を吹き出す空間の裂け目に到達した。

裂け目に手を伸ばすと、黒い瘴気がハジメたちを阻む、だがそれも予測済みだ。

 

「はぁ~~い、この天才美少女錬金術師のカリオストロちゃんのぉ出番だよぉ~~♪」

 

カリオストロが避け目に触れると幾重にも重なった魔法陣が展開されていく、

瘴気の中に隠されたゲートを探り当てハッキングを掛けているのだ、

魔王城に隠されていた脱出用ゲートを参考にして。

 

「ここだ!鍵をブッ刺せ!」

 

カリオストロに指示された位置へとハジメは劣化版クリスタルキーを差し込み

渾身の魔力を注ぎ込む。

と、劣化版クリスタルキーの穂先が、ズブリと空間に突き立ち、

ハジメは成功を確信しながらキーを捻った。

 

と、その場所を中心に別空間、すなわち神域への道がついに開く。

 

「みんな行くよ!」

 

ジータの号令に全員が頷くと、一丸となってゲートへと飛び込むハジメたちであった。




ヴァーミリオンスキンは、ほぼ再配布は無いだろうと思われるので、
今思うと無理してでも取っておいて正解でした。

それはさておき、完結がいよいよ見えて来ました。
恐らく残り十話以内で収まるかなと思っております。

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