ありふれた錬成師と空の少女で世界最強【完結】   作:傘ンドラ

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いよいよ反撃開始


師に捧ぐ一撃

それは突然だった。

 

「う…うぐっ」

全身を貫く痺れのような鈍痛と。

 

「ひぃぐがぁぁ!! なんで……なおらなぁ、あがぁぁ!」

 

ハジメの絶叫でジータは覚醒する。

 

よろよろと悲鳴の方向へと穴を這い出していくと、

そこには絶叫を上げて地をのたうつハジメの姿があった。

 

(な…何で)

 

ガブリエルさんは結局何もしてくれなかったのか?

痺れと痛みに顔をしかめ、そんな不敬なことを頭に思い浮かべたジータだったが

叫びに呼応するかのようにハジメの身体が大きく変化し始めたことに目を奪われてしまう。

 

(変わるって…こういうこと?)

 

その髪は白く、体格はより大きく逞しく、そして肌には魔物のような

赤いラインが走り出す。

やがて叫びも変化も終わり、荒い息を整えながらゆっくりと周囲と、

そして自分の身体を見渡すハジメ。

 

「それにしても…」

「ラノベ主人公みたいになっちゃったね」

 

そんな背後の声に振り向くハジメ、そこには夢の中で自分を励まし

背中を押してくれた幼馴染、そして相棒の姿があった。

 

「おはよう…ジータちゃ…いや、ジータ」

 

その身体も口調も眼差しも変わってはいた、

しかしそんな程度の差は些末事、鋭くなった眼差しの奥には

紛れもなくジータの知るハジメだと言える何かがちゃんと残っていた。

 

「おはよう、ハジメちゃん」 

 

二人はそれだけを口にすると、どちらかともなくしっかりと抱擁し合うのであった。

 

 

 

 

「…そういや、魔物って喰っちゃダメだったか…アホか俺は…

まぁ、喰わずにはいられなかっただろうけど……」

 

秘密を分かち合うかの様に互いの背中にもたれ合いながら話し合う二人。

 

「毒でしょ?なんか魔力が人間には害になるって」

「でもさっきから妙に身体が軽いんだよな」

「ステータス見てみない?」

 

ハジメとジータはいそいそとステータスプレートをポケットから取り出す。

 

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:8

天職:錬成師

筋力:100

体力:300

耐性:100

敏捷:200

魔力:300

魔耐:300

技能:錬成 魔力操作 胃酸強化 纏雷 言語理解

 

 

 

蒼野ジータ 17歳 女 レベル:5

天職:星と空の御子

筋力:12+70

体力:12+210

耐性:12+70

敏捷:12+140

魔力:12+210

魔耐:12+210

技能:全属性適性 団員x1 召喚 星晶獣召喚(条件:同調者)同調(南雲ハジメ、同調率70%)

   剣術 統率  防壁Lv5 挑発 恩寵 背水 コスプレ サバイバル 

   魔力操作 胃酸強化 纏雷 言語理解

 

「「……なんでやねん」」

 

どの数値も飛躍的に向上している、その上技能まで増えている

魔力操作とか纏雷とか一体何なのか?

 

「魔物の肉を食べたからその特性を手に入れたみたいだね?」

「ちょっと試してみる」

「やり方掴めたら私にも教えてね」

 

背後でパチパチと火花が走る音を聞きながら

ジータはステータスプレートと再びにらめっこを開始する。

 

同調率の通り、レベルもステータスもきっかりハジメの7割を頂戴してしまっている。

天職に関係する以外の後天的な技能も、そのまま手に入るようだが、

これがガブリエルがいう、魂の繋がりという物なのだろうか?

 

そして防壁というのが、精神や肉体を保護するための技能なのだろう。

防壁レベルを操作することで、同調率を操作することも可能なようだ。

多分80%を超えたあたりから感情の、90%で肉体のフィードバックが始まるという感じか。

しかしながらLV5で70%ということは、

実際の同調率はおそらく100%を超えているのかもしれない。

 

今までは知らなかったので仕方がないことだが、

心や気持ちを意図的に覗き見するのは望まないし、

痛みを分け合うのも何か違うと思うので、だから同調率は7割程度に抑えて置こう、

非常時は別として。

 

非常時…という言葉と共に思いだしたかのように、強烈な飢餓感がジータを襲う。

サバイバル技能で強引に抑え込んでいたのが、安心感でうっかり手放してしまったようだ。

 

「何か食べるもの…」

 

心から申し訳ないといった表情でハジメは二尾狼の肉を差し示す。

 

(ハジメちゃんが食べてる時に同調率を上げれば…)

 

ふと芽生えた邪な考えをぶんぶんと頭を振って彼方に追いやるジータ。

自身の根幹に関わる箇所をそんな理由で操作するわけにはいかない。

 

ともかく7割でも全身が痺れるような鈍痛が走ったのである

実際は相当な激痛だったのだろうと想像がつく。

ましてそのラノベ主人公を思わせる変貌ぶり…。

さしものジータもキューッとお腹が絞られるような感覚を覚えてしまう。

これは飢餓感のためではない。

 

「とりあえず準備するね」

 

クレリックにジョブチェンジし、魔物の肉にクリアオールをかける。

魔物の肉が毒だというのならば、これで毒素を除去できるかもしれない。

以前、回復役にチャレンジした時はそのパラメータの低さゆえ、

 

(香織ちゃんはおろか辻さんにも及ばなかったんだよね)

 

結局、回復役は香織一人でほぼ賄えるということで、

最も層が薄い盾役担当になったわけだが、勇者並みの能力を得た今ならば!

 

以前試した時は豆電球程度の明るさだった緑を帯びた浄化の光が

今度は柔らかでそれでいて鮮やかに、ほの暗い洞窟の中に満ち。

どず黒かった肉の色が明らかに瑞々しくなる。

何となくだが毒の効果を消したというより、毒という概念を消したような感じがした。

 

「じゃあ…行くよ」

「痛くなったらすぐ飲むんだぞ」

 

と、ハジメはジータに神水の入った試験管を手渡す。

すはーと深呼吸してからジータは二尾狼の肉にかぶりつく。

 

「マズイだろ?」

「あれ?…でも」

 

首を傾げるジータ。

 

「マズイ…というか?何の味もしないよ」

 

もごもごと生臭いちくわぶのような食感の肉をゴクリと飲み込み

試験管を手にする…大体10秒後くらいに来たと聞いている。

 

10秒…1分…10分……。

何事も起こらない。

 

「あれ?」

 

痛みも何も走らない、当然身体も変わらなかった。

それからステータスもスキルも変化なし。

胃酸強化の効果もあるのだろうが、

おそらく浄化されることで魔物の肉の持つ効果も消えてしまうようだ。

 

「なんかごめんね、ハジメちゃんだけ痛い思いさせちゃって」

「でも良かったよ、俺みたいにならなくってさ」

 

それについては同感だ、これ以上妙な属性やそれに関わる柵を増やしたくはない。

 

(ただでさえゲームの主人公なんだもんね、私)

 

「でも俺はとりあえず処理なしで肉を食べないとならねぇんだよな

でないと魔物の能力や固有魔法を入手できなくなるからな」

「重ね重ね申し訳ごさいません」

「気にすんなよ、相棒だろ、俺たちは」

 

 

と、もう一つ大事なことを思い出した、これも今ならば出来る筈だ。

 

「ハジメちゃん、召喚行くよ!」

 

あの苦い失敗を払拭したかったし、それに何より

 

(ガブリエル様にお礼を言わないと)

 

呼吸を整え意識を集中すると、あの時と同様に青い石がその胸元に現れる。

慈愛の感覚を覚えながらそのまま両手で包み込むように石を翳す。

ジータの掌とそしてハジメの掌が輝きだす。

二人が互いの右手を翳すと、その中心の空間から魔法陣が展開され、

そして光が疾って…慈愛の天司ガブリエルが微笑を湛えて出現────。

 

ガン!

 

「うぷ」

 

したかと思うと、狭い天井に思いきり頭をぶつけてうずくまるのであった。

 

「ああそういやこの穴、俺らが座れる程度の高さしかなかったわ」

 

わりぃわりぃとさほど悪いと思ってない口調で詫びを入れるハジメ。

てて…と頭頂部をさすりながら、立ち上がろうとするガブリエルだが。

またぶつけますよとジータに言われて身を竦め中腰になる。

 

「で、…今度は何かしら」

 

余程痛かったのだろう、涙目になっている。

 

「さっきのお礼が言いたくって」

 

ペコリと今一つ状況を理解していないハジメの頭を、ひっつかんで一礼するジータ。

 

「私は何もしていないわ、ただほんの少し手を差し伸べただけ」

「ですが…」

「それはあなたたちの魂がそうさせたこと、その神水もそう、

決して諦めなかったからこそ、奇跡に辿り着いたの」

 

ジータと、そしてハジメの肩に手をやるガブリエル。

 

「そして、これからはこの程度のことでもう私を呼んではなりません」

 

その言葉は先ほどまでの砕けた口調とは違い、まさに天司と呼ぶに相応しい

厳かさに満ちていた。

 

(その通り無礼であろう、人の子の分際で)

 

ガブリエルの背後から美しいが、どこか感情の希薄な声が聞こえる。

口調こそ静かで丁寧だが、その声音には明らかに人間への侮りが含まれていた。

ああ、きっとこの声の主とは仲良くなれないんだろうなと、

朧気ながらジータは思った。

 

ともかくガブリエルは帰っていった、帰り際にジータに頑張ってねと耳打ちして。

 

 

それからまた幾日かが経過した。

 

 

ハジメは拠点にて、ひたすら錬成を含む技能の鍛錬を行っている。

なんでも鉱物の鑑定が出来るようになったらしい。

拠点をたまに離れては、色々と鉱石を採取して戻って来る。

ジータはそんなハジメの身の回りの世話をしつつも、やはり自身の鍛錬に励む。

そして…

 

「出来た」

 

ハジメはついに完成した己の"牙"を手に取りしげしげと眺めまわす。

 

迷宮で発見した素材を――

この辺りでは最高の硬度を持つタウル鉱石と、

火薬と同等の性質を持つ燃焼石を利用して製作した

全長約三十五センチにもなる、大型のリボルバー式拳銃だ。

しかも、弾丸は燃焼石の爆発力だけでなく、

ハジメの固有魔法"纏雷"により電磁加速されるという小型のレールガン化している。

その威力は最大で対物ライフルの十倍である。

ドンナーと名付けた。なんとなく相棒には名が必要と思ったからだ。

 

本来ならば数千回にも及ぶトライアンドエラーが必要だったに違いない。

だが、驚くほどすんなりそれは完成した。

 

ハジメの脳裏に甦るのはあの工房でのカリオストロの怒声だ。

 

(バカ野郎!こんなんで弾が飛ぶか!)

(この精度は何だ!斬る前に折れるぞ!)

(見てわからねぇのか、歪んでる!やり直しだ!)

 

同じ失敗は二度までは許して貰えたが、三度目からは容赦ない叱責が

場合によっては拳も飛んだ。

専門外だと毒づきながらも数々の武器、兵器製作のノウハウを叩き込んでくれた

カリオストロの、いや師匠の怒声が耳に蘇る。

 

 

そして二人の眼前にはあの時見下された蹴りウサギがいる。

ウサギは彼らの姿を認めると、あの時と同じように後ろ脚に力を貯めて爆発的に跳躍する。

だが、かつて速いと思ったその動きは今となっては酷くスローモーに見えた。

 

『ブラインド!』

 

魔術師、いやシャーマンを思わせる扮装のジータが持った杖から

黒い幕が放たれウサギの視界を遮るように覆い被さる。

ご自慢の脚が空を切る。

その僅かなスキだけで充分だった。

ドンナーから放たれた電磁加速された弾丸が一瞬でウサギの頭を粉砕した。

 

それは反撃の烽火にして、そして師に捧ぐ一撃だった。

 

 




次回は爪熊戦+地上の様子を少しだけ
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