ということで、頑張っているのはハジメたちだけではありません。
ハジメたちがエヒトと、ジータたちがアルヴと対峙していた頃、
地上でも死闘が展開されていた。
ハジメたちイレギュラーの神域侵入を阻止出来なかったとはいえど、
自分らの目的はあくまでも地上の殲滅、そう思い直した使徒どもは、
双大剣を構え、銀翼をはためかせて一斉に降下し始めた。
その様は余りにも無造作で無防備に見えたのも無理はない。
多少の抵抗はあったものの、ただの人間が使徒に及ぶ筈もないのだから、
……本来の話では、であったが。
「撃てぇ!! 遠慮容赦一切無用だっ! 使い尽くすつもりで撃ちまくれぇ!!」
まずはガハルドの号令と共に、連合軍全ての兵士に配備されたライフル銃が、
要塞や塹壕に設置された大型ガトリングレールガンが、
さらには大型ミサイルが一斉に空を閃光で弾幕で埋め尽くし、
完全に虚を突かれた使徒の群れを次々と撃ち落としていく。
しかし第一陣が弾丸の雨の中に散っても、後続は次々と弾幕を掻い潜っていく、が。
「状況を確認、これより戦闘を開始する」
そんな凛々しき声が聞こえたかと思うと、弾幕をやっとの思いで潜り抜けたであろう、
使徒の頭を吹き飛ばす。
シルヴァ率いる狙撃部隊が一斉に改良型シュラーゲンの引金を引いたのだ。
その中には必滅のバルドフェルドこと、パル君の姿もある。
「フフ、この風……この肌触りこそ戦でさぁ!」
「……そ、そうか」
御年十歳の少年の吐く言葉とは思えぬニヒルさに、少し複雑な思いを抱きつつ、
シルヴァは周囲を督戦しつつも、時には自らが銃を取り、次々と使徒を迎撃していく。
ならばとばかりに、今度は遠距離から一斉に銀の砲撃が地上目掛けて降り注ぐのだが、
それもまたカリオストロの手により、さらなる改良を施された大結界によって阻まれる。
しかも要塞の屋上からは、自分たちの行動を阻害する聖歌までもが流れてくる有様だ。
使徒たちは誰彼ともなく、黒山のように寄り集まり、
あの時と同じように結界を力づくで突破しようと試み始める。
もちろん迎え撃つ側とて、そう来るのは百も承知とばかりに、
一層激しい銃弾の雨を使徒へとお見舞いしていくが、
的になることも、同胞の犠牲も覚悟の上で、使徒は結界の破壊を優先していく。
「ヴォルペン!どれくらい保ちそうですかっ!」
「あと二十秒……でしょうか」
「ならば大結界放棄後、錬成師隊は聖歌隊用の多重結界に集中を!」
「「「「「了解!」」」」」
リリアーナの指示を受け、
王国筆頭錬成師ヴォルペン率いる職人軍団の叫びが銃声に負けじと轟く。
「いいか!あの天才嬢ちゃんの仕掛けが発動するぞ、巻き込まれるなよ!」
「カウント始め!三、二、一」
ゼロの声と共に、神代よりこれまで、多くの危機を救ってきたであろう、
円柱形のアーティファクト、すなわち大結界の発動装置が木っ端微塵に砕け散る。
大結界がいつぞやと同じく、キラキラと破片を撒き散らして霧散していくのを確認し、
勝利を確信する使徒たちであったが、
その瞬間、自身を包む閃光に驚愕の表情を浮かべ銀翼を展開し守りを固めようとするが、
すでに遅い。
カリオストロいわく最後っ屁、大結界が破壊された際に、
その与えられた力を全て対象へと弾き返す、が、発動し。
結界に取り付いていた全ての使徒が、一瞬でその身を灰と化していく。
「「「「「おおおおおおっ!」」」」」」
その姿を見た兵士たちから、一斉に歓声があがるが、すかさずそこでメルドの叱咤が飛ぶ。
「戦いはこれからが本番だぞ!俺たち人間の強さを見せつけるのもな!」
その声に一時の勝利に気を良くしていた兵士たちは、再び気を引き締め、
空へと視線を移す、遙かな空の亀裂からは、そして神山からは再び使徒が、
魔物が溢れ出ようとしていた。
「さすがだなメルド、締めるところは任せたぜ」
「全く……面倒事は私に全て押し付けて好き勝手暴れるおつもりですか」
「後ろは任すと言っているんだ、この俺、ガハルドがな……っと来たぞ」
呆れ声のメルドを置いてガハルドが要塞に取り付こうとしている、
使徒の一体へと狙いを定め、
「お前らは聖歌隊の護衛に回れ!行けデビット!
神殿騎士団生き残りの意地を見せてやれ!」
「言われずとも!」
メルドの叱咤にも似た命令に、デビットら四人を中心とする、
神殿騎士団生き残り部隊が高らかに吼える。
誰よりも信仰に対して敏感でなければならなかったにも関わらず、
内心でその信仰に疑問を感じていたにも関わらず、偽神の教えを惰性で信じていたという、
過去を償わんとばかりに。
そしてその隣にはカム率いるハウリア族の部隊がいる。
神殿騎士と亜人族、世が世ならば生涯こうして肩を並べるどころか、
言葉を交わし合うことすらなかったであろう……そんな騎士たちの視線に気が付いたか
カムがニヒルに言い放つ。
「人間族だけにいい思いはさせませんよ」
「だがお前たち兎人族は本来戦闘には向かぬと聞くが?」
ハウリア族の実力を未だ知らない騎士の一人が不思議気な顔で問いかけ、
苦笑しつつもカムは応じる。
「例えそうだとしても……世界が駄目になるかならないか、でしょう?」
「やってみる価値はあるということだな、総員抜剣!」
デビットの号令に神殿騎士たちは一斉に剣を抜き放つ。
その唸りをあげ震える剣のみならず、鎧、籠手、兜、
彼らのあらゆる装備が全て最新鋭アーティファクトであることは言うまでもない。
「ハウリア族と連携し、司令部を死守する!続けッ!」
かくして司令部を、そして多重の結界に守られた聖歌隊を巡る攻防は激化していく。
連合軍が戦力を集中させれば使徒たちもまた、狙い撃ちにされるリスクを冒してでも、
戦力を集中させていく、上空はすでに使徒と、その使徒を撃ち落とさんとする光の雨で、
真昼の如き輝きを見せている。
そんな中で、聖歌隊を守る結界に上空に何体かの使徒が辿り着こうとしていたが、
「行かせない!」
そんな重々しい声が響いたと同時に、聖歌隊を守る結界に取り付こうとした使徒たちが、
そのままバラバラと地面に落とされていき、さらに結界から離れた場所へと、
引き寄せられていく。
そこにはパラボラアンテナのような形の背面武装を展開した一体のゴーレムと、
それを従えた柔道着を纏った巨漢、永山重吾の姿があった。
基本的に神代魔法を習得している、光輝、香織、遠藤、
そしてボディが特別性の龍太郎を除く生徒たちは、愛子の護衛に回ることになってはいるが。
永山に関しては、ずっと自重を、我慢をしてくれていたということで、
特別に攻撃側に参加することを許可されていた。
その我慢を、これまでの鬱憤を晴らさんとばかりに、
永山は地に落ちた使徒をその剛腕でもってちぎっては投げ、ちぎっては投げて行く。
その背後にはさらに六体の生体ゴーレムが控えており、永山のサポートを欠かさない。
そして頃合と見たか、リリアーナが光輝へと念話を送る。
『お願いします!』
光輝は自身の肩の上のミレディと視線を交わし合い、頷くと同時に旗を天高く掲げる。
この戦場の全ての戦士たちに届けとばかりに。
「見下ろすことしか知らない人形どもよ!地に生きる者の怒りを今こそ知れ!」
(全グラヴ・ファレンセン起動だよ~~っと)
光輝の叫びと同時に、ミレディが戦場の各地に備え付けられていた重力発生装置を
一斉起動させる、その結果、地上から五百メートルほどの位置にいた使徒の群れが、
一斉に地上へと落ちてくる、もっとも叩き落されたわけではなく、
双大剣を構え、むしろ臨むところとばかりにではあったが。
「……我らを地に落とそうと、アーティファクトで身を固めようと、所詮はただの人間、
我らに勝てる道理などありはしません、大人しく頭を垂れ、神の断罪を受け入れなさい」
そう不敵に宣言した使徒の一人であったが、次の瞬間、
ありえない速度と威力を備えたありえない一撃を受け、胴体を両断されてしまう……、
名も無き一兵士の手によって。
「その輝きは……」
そういえば、おかしいと上空で思っていたのだ、いかに装備を固めようと、
いかにこちらの行動を阻害されようと、そもそも人間と使徒ではその身体能力に、
雲泥の差がある筈だというのに、何故彼らはこうも互角に戦える?
「これは人類の存亡を賭けた戦いだぞ、限界の一つや二つ、
越えられなきゃ嘘ってもんだろう? さて、普通の限界越えにも慣れたころだ、
最強が与えてくれた最高の限界超え、クソ神の手下共にみせてやろうじゃねぇか!」
「この場に集う全ての戦士たちの皆さん!今こそ限界を超える時です!人の心の力を
心無き人形どもへと見せつける時です!」
光輝の号令に戦士たちが一斉に叫ぶ。
「「「「「「「限界突破ッ!」」」」」」」
人類総戦力限界突破、ハジメの遺した最後の強化策がここに発動した。
もちろんアーティファクトによる人為的なもののため、
様々なセーフティーは施しているものの、長時間は保たない。
だが、ここで命を惜しんで何になるというのか?
文字通り、世界が駄目になるかならないかの時、今が正念場なのだから。
その一方で、連合軍の象徴ともいうべき巨大甲冑に搭乗し、
旌旗を高く掲げる光輝の姿に目を細めるメルドとガハルド。
「あいつめ……本当にやるようになりやがった」
「フッ、お陰でこのガハルド、久々に一介の戦士に戻れるというものよ!」
ガハルドとて光輝の力そのものは認めてはいた、但し開花するまでには、
時間がかかる、いや、ともすると花開く前に手折られてしまう、
蕾のままで立ち枯れてしまうだろうと。
まさによくぞここまでと、男子三日会わざればの諺そのものだと感服せずにはいられない。
だが、同時にこうも思えてならなかった。
この僅かな期間でどれほどの荊の道を歩んだのであろうかと。
その光輝がついにここで動く。
「この旗ある限りっ!勇者ある限り!人間は不滅ッ!
邪神の走狗どもよ!勇者の前に道を空けよ!」
さらにジャンヌダルクも、その清楚な姿に似合わぬ大音声で雄叫びを上げ、
戦場に轟くその言葉もまた強烈なバフとなって、
戦士たちの身体を心を、大いに奮い立たせるのであった。
要塞を中心とし、死闘は続いていく。
使徒の攻撃目標は、どうやら聖歌隊に加え、新たに参戦した勇者へと、
二分されつつある。
一人の使徒が双大剣を振りかざし光輝へと襲い掛かる。
「そのような鈍重な姿でよくもっ!」
それは速度角度共に申し分のない一撃であった、普通ならば避けようのない、
普通ならば……。
だが、大剣が光輝を捉える瞬間、その姿が文字通り使徒の前から消失する。
「!!」
ありえない俊敏さ、そしてなにより運動の法則を半ば無視した相手の回避を、
疑問に思う間もなく、使徒の身体は袈裟懸けに両断される。
続いて複数の使徒が囲い込むように光輝へと斬りかかるが、やはり結果は同じ、
まるで居を外されるかのように大剣は空を切り、
そして代わりに自身の身体が両断される始末である。
「この甲冑……凄い」
甲冑の中で嘆息する光輝。
この甲冑、全身に施された重力魔法を付与した紋章により、
文字通り慣性を無視した挙動が可能となる。
つまり圧倒的な重装甲と、圧倒的な高機動という矛盾する二つの要素を、
両立させることが可能となっているのだ。
但し、弱点としてはやはり搭乗者には重力魔法への高い適性が必要とされる。
習得者以外が、例え習得こそしていても適性の低い者が動かそうとすれば、
数秒でGに耐えられず失神の憂き目となるであろう。
「ほらっ、ボサっとしない!上からまた来るよ!」
「分かってますから耳元で騒がないでくださいっ!」
ミレディにボヤキつつも、光輝は口内で聖剣技の詠唱に入る。
複数体の使徒が自身の射線の一直線上に入ったのを見計らい、
光輝は詠唱を完成させる。
『神威!』
甲冑の右手に握られた大剣から放たれたそれは、従来の神威の数倍の威力をもって。
使徒たちを真っ二つに斬り裂いていく。
しかし大技の隙を狙われたか、背後から忍び寄るように一体の使徒が剣を振りかぶる、が、
「へっ!天之河光輝の露払いはな、昔からこの坂上龍太郎の役目だって決まってるんだ!」
そんな声と同時に光を纏った正拳が使徒の頬を直撃し、そのままその頭を砕く。
「後は俺が固めてやる!ひたすら進みやがれ光輝!」
それが自分が憧れた天之河光輝なのだから。
「へへっ……昔を思い出すな、お前がいて、俺がいて、香織がいて、雫がいて、
グランとジータもさ……」
「ああ、けれどそれは昔の話だ」
「所詮は思い出……だよな」
懐かしい目をしつつ、それ以上はきっぱりと否定する二人。
より良き未来のために、互いに一人で歩む道を自分たちは選んだのだから
手を組み、肩を並べ合う関係であったとしても、決断を下すのは、
自分一人であるべきなのだから。
「それと露払いだなんていうのは止めろ、俺はお前をそんな風に思ったことは
一度だってないんだからな」
そんな光輝の言葉に、自分でも信じられないくらいにすんなりと頷くことが、
出来ていることに気が付く龍太郎。
それは長年友情の裏に潜んでいた劣等感が払拭された証でもあった。
(俺……やっと本当の意味で、お前のダチになれた気がする)
『光輝、右翼が薄くなりつつあります、お願いします』
『了解』
リリアーナの念話にあくまでも事務的に応じながら、戦場を移動する光輝たち、
だが、やはりというかその目に映るのは、使徒の前に力尽きて行く兵士たちの姿の方が
圧倒的に多い。
いかに能力の大半を削いていようと、ガハルドやメルド、シルヴァやジャンヌらのように、
個人で使徒と渡り合える者はそうそう多くはないという証である。
「「「人間バンザイ!勇者様バンザーイ!」」」
そんな恐らくは戦士たちの最期の声が光輝の耳に木霊し、
一瞬悲し気に光輝が目を伏せた時であった。
「香織か」
「だな」
その瞬間、戦場に癒しの光が駆け巡り、
傷ついた戦士たちが、いやすでに息絶えた戦士たちまでもが、
再び甦り戦列へと復帰していく。
だが、それを心強く思うのと同時に、
もう起きないでくれ、これ以上皆が戦わなくてもいいんだ……。
そんな思いもまた、光輝の胸中に広がって行く。
そんな彼の胸中を察したか、ミレディもまた静かに目を伏せる。
(戦とあらば、勝利のためならば友であっても塵芥の如く、死地へと送り込むべし、
これが今、君が立っている世界、勇者の世界なんだよ……)
そしてそれは自分たちがどうしても出来なかったことでもある……と、
過ぎ去った遠い戦いの日々を、彼女がふと思い出した時だった。
周囲から湧き上がるかのような熱烈な歓声があがる、
その歓声はアドゥル率いる竜人族がついに出陣したという証であった。
聖歌隊を巡る攻防もまた激化の一途を辿っていた。
もう何体目であろうか、永山が使徒の顔面を肘で潰したと同時に、
直接戦闘では分が悪いと見た使徒の一団が、永山めがけ水平射撃を実行する。
咄嗟に横っ飛びで回避を試みたものの、間に合わない何発かは……と、思った刹那。
「ここはアタシに任せるっす!」
そんな叫びと同時に白髪の騎士見習い、ファラが永山のカバーに入る、さらに。
「自分も加勢する!」
ユーリが裂帛の三連撃で使徒を次々と切り伏せて行く。
「二人とも愛ちゃんたちの護衛に……」
「重吾殿、我々二人だけではないのであります」
それはどういう?と、首を傾げる永山の前に。
「へへ……黙って飛び出してきちゃった」
優花、奈々、妙子、淳史、昇、明人の愛ちゃん護衛隊組が姿を現す。
とはいえ、ファラとユーリを後から送り出すあたり、愛子も実際は承知の上であったのだろう。
「ところで遠藤君は?」
「あいつなら……」
と、言いかけた永山の目の前で、使徒の首がズルリと背後から斬り落とされる。
「ま……まぁ、あいつのことだからきっと上手くやってるさ」
心の中で泣くんじゃないぞ浩介と詫びる永山君なのであった。
光輝君、そんなに勇者になりたきゃ、俺が勇者にしてやんよ、但し……。
これもこの作品の目的の一つでした。
以前にも書きましたが、彼は原作におけるハジメ以上のキーパーソンだと自分では思ってます。
ぶっちゃけハジメのいないありふれは想像できても、
光輝のいないありふれは想像できないので。
そんな彼の抱える数々の問題点につきましては、今更なのでここでは書きませんが。
一点だけ取り上げるのならば、彼が甘い奴ってのは皆散々指摘してますし、
実際そうだと思いますが、その甘さというのは、
書き方次第では作劇上絶大なアドバンテージになった筈なんですよね。
(例としては嘘喰いの梶ちゃんでしょうか)
そういう美味しい部分を原作では否定されてばかりいたのは、
やはり不憫かつ、勿体ないなと思わずにはいられません。
ただ贔屓の引き倒しのように、将来性や善性ばかりを取り上げるのは、
このキャラの魅力を却って損なうことになると思ったので、
自分がダメだと思った箇所についての矯正は、
一切妥協をしなかったのはここまでお読みになられた方々ならばご存知かと思います。
いずれにせよ、自分の考える勇者像の一つを、彼を通じて体現することが出来、
また、読者の皆様にも受け入れて頂けたのならば、作者としても嬉しい限りです。
と、纏めに入ってしまいましたが、
勿論まだ戦いが終わったわけではありませんので、もう少しお付き合いして頂ければと思います。