ありふれた錬成師と空の少女で世界最強【完結】   作:傘ンドラ

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情報量が思った以上に多くなりましたので、分割します。
しかし、いよいよ……と、思いますと、やっぱり来る物がこう……ありますね。



エピローグ
As Time Goes By-いつか想い出に


「そうですか、いよいよご帰還の時が来たということですね」

「はい、いずれ愛子先生を含めた全員で改めて挨拶に参りますので」

 

一先ずの報告を終え、リリアーナへとペコリと頭を下げるジータ。

その隣にはもちろんハジメの姿もある。

 

世界の命運を賭けたあの戦い……人呼んで神話大戦から数ヶ月。

ハジメたちに限らず、様々なことが急ピッチで進められていたのは言うまでもない。

 

人々の信仰心を守るために、敵はエヒトルジュエの名を語る邪神であり、

本来の神の名は、エヒクリベレイであったという話が出来たり、

長き歴史の中で反逆者の汚名を着せられていた、解放者たちも、

かつて世界を救おうとした偉大なる七賢人として、

今後は扱われることとなったりという風に。

 

ちなみに解放者唯一の生き残りであるのをいいことに、

ミレディが悪乗りの限りを尽くし、とにかく色々とゴネたので、

あわや彼女抜きの六賢人にされかけたことは、

本人の名誉のために黙っておくべきだろうか?

 

神山のあった場所も整備され、麓に関しては戦勝記念公園として、

一般公開されることとなっており。

その象徴として、世界中の錬成師が総出で造り上げた勇者の像が、

人々を見守るかのように、すでにその姿を明らかにしている。

全高数十メートルにして完全武装の威容は、自由の女神か、

はたまたコルコバードのキリスト像の印象を、ハジメたちに思わせた。

 

「お二人にもぜひ見て頂きたい物があるんですよ」

 

リリアーナに促されるまま、記念公園へと向かうハジメたち、

復興の槌打つ響き、市場の喧騒……、

すなわち新たなる時代へと確実に歩を進める人々の営みの音が、二人のその耳に届いていく。

 

だがもちろん、光あれば影も当然ある、魔人族がその際たるものだ。

【神域】に招き入れられた彼らについては、くまなく調査・捜索をしたにも関わらず、

その消息は未だに掴めてはいない。

そんな彼らがどうなったのか、凡そ想像はついてはいたが……、

二人に取ってはそれを断定する気には、とてもではないが思えなかった。

 

件の勇者像の中身は記念博物館となる予定だと聞いてはいるがと、

思いつつも、足下を潜るような感覚でその像の中に入ると。

 

そこには太陽か何かに向かい、いかにもな笑顔を浮かべながら指を指し示すハジメと、

その傍らでやはり笑顔でどこか追従するようなポーズのジータとユエ、

そしてその姿に感涙にむせぶ人々という、まるで独裁国家の首領一族と、

その国民たちという図式にしか見えない壁画が描かれていた……でかでかと。

 

「あ……あの、これは、どなたがデザインを……」

「はい!ミレディさんです」

 

またしてもと頭を抱える二人、やはりこういう細かい嫌がらせについては、

到底自分たちは彼女に及ぶところではない。

しかし誰も止めようとはしなかったのか?と二人が疑問に思ったところで。

 

「我が王宮お抱えの画家たちの自信作です!お二人ともいかがでしょう!」

 

瞳を輝かせ、自信満々のリリアーナの顔と声が、二人の目と耳に飛び込んでくる、

それは本気でこの壁画が素晴らしい物だと信じ切ってる証であった。

 

ともかく、これは本人の美意識の問題なのか?

それともこれがこの世界の標準的な美意識なのか?と、

そんな判断に苦しむ中で引き攣った笑顔で応じるしかない二人であった。

 

「あーもう、参ったな」

「私、恥ずかしくってもうあそこに行けないよ」

 

リリアーナと別れてから、ようやく本音を口にするハジメたち、

その耳に今度は子供たちの声が届く。

 

「バーン!バキューン!僕は勇者だぞお」

「ダダダダダダダーン!」

「うわぁやられたぁ~~っ」

 

木の棒を銃に見立てた神話大戦ごっこといったところだろう、

それ自体は、ハジメたちにとってはありふれた戦争ごっこに過ぎない。

だが……。

 

「いいの?」

 

ジータが少し不安げな表情を覗かせる、

自分たちの技術は、本来この世界にはあってはならぬ物と、

ハジメ自身が再三口にしているのである。

 

大戦で使用したアーティファクトについても、ハジメとカリオストロが、

その場で責任をもって全て破壊した。

ガハルドあたりが何かを隠匿している可能性もあったが、

それについても回収用アーティファクトを作っているので、取りこぼしは無い筈である。

 

「いいんだ、そうやって世界は発展して行くもんだろ」

 

何かを欲する心は、知りたいと願う心は、誰にも阻まれてはならない。

その為に自分たちは神と戦ったのだから。

 

どれ程の時間がかかるのかはわからないが、

いずれはこの世界も地球に追いつく時が、そして南雲ハジメに追いつく時が、

きっと訪れる筈、そしていつかは……。

自分を超える存在も、きっと現れることになるのだろう。

 

そんなことを考えつつ、未来を担うであろう子供たちへとハジメはそっと微笑みかける、

俺たちもまだまだ子供なのになとも思いながら。

 

 

そんなハジメたちから少し離れた、一連の戦役での戦没者を祀る慰霊塔の前には光輝がいた。

もう自分はこの世界には存在しないことになっているので、

認識阻害効果が付与された巡礼者のフードで身を隠してはいたが。

 

この慰霊塔には確認された戦没者全ての名が刻まれることになっている、

檜山大介と近藤礼一の名もすでに刻まれている……そして。

 

(中村恵理)

 

その名が刻まれた箇所を指で辿りながら、

あの日、戦いが終わった日の夜を光輝は思い出していた。

誰もがさすがに戦勝気分を隠さない中、そっと鈴に袖を引かれ、

人気のない場所へと連れ出された時のことを。

 

「恵里のだよ」

 

人目をはばかる様に、鈴は親友の形見を光輝へと手渡す。

そのひしゃげた眼鏡が、恵里の辿ったであろう運命を物語っていた。

 

「じゃあ……鈴は行くから」

 

それだけを言い残し、また宴の会場へと戻って行こうとする鈴、

だが光輝は、まるで金縛りにあったかのように、呼び止めることも出来ず、

立ち尽くすのみだ。

 

聞かねばならぬことが、言わねばならぬことが山ほどある筈なのに……と、

だが、それは……許されることではないとの思いが、光輝の身体を縛って離さない。

自分は友を救うことよりも、勇者の責務を優先したのだから、

これは眼前の小さな悲鳴を聞き逃し続けた、自分への罰でもあるのだから、

そんな自分が今更どうしてと、光輝が思った時であった。

と、そこで激しい痛みと衝撃がその身体に走る、ミレディが思いきり彼の頬を殴ったのだ。

 

「何我慢してるのさ……」

「俺はっ……」

「俺は?何なんだよ、俺は何なんだよ!その先を言ってみなよ!」

 

重力を操り、ギリギリと光輝の身体を締め上げるミレディ。

 

「分からないなら教えてあげるよ!今の君はもう勇者じゃない!

ただの天之河光輝だっ!……だから、もう思いっきり泣いてもいいんだ!

正直になっていいんだ!」

 

ミレディの叫びが解放者の叫びが、光輝をまさに勇者という名の戒めから解放していく。

光輝の目から涙が止めどもなく溢れ、そしてその顔が歪み始めたのが、

その証拠である。

 

「う……ううっ……ひっく……ああああああ~~」

 

地に伏せ、眼鏡を握りしめ光輝はついに慟哭する、

これまで封じ込めていた思い全てを吐き出すがごとくに。

 

「恵里ぃ……うあああっ、ぐずっ…恵里ぃ、ごめん、ごめんよぉ~~~あああああ~~」

 

そしてその様子を物陰で見守っていたジャンヌも、静かに頷くと、

そっとこの場を離れて行く、自分の心残りはきっと、

あのミレディが何とかしてくれると確信しながら。

 

 

「じゃあ……行くよ、恵里」

 

光輝は、そっと目頭を拭い、もう一度だけ刻まれた名に指を這わせると、

もう振り向くことなく慰霊塔を後にする、小声でそっとさよならと口にしながら。

 

そしてミレディであるが、こちらはかつて神山であった山の中腹に設けられた、

こじんまりとした祠の前にいた。

祠に刻まれていたのはかつての神聖教会の紋章、

すなわちこれが現世に於けるエヒトの墓標だった。

 

「聞いたよ、アンタの最期……あの子たちにさ…アンタは、その……感謝しないとね、

燃え尽きることが出来たんだから」

 

祠を前に語り掛けるミレディ、その口調は静かではあったが、

内心を抑えきれぬ震えもまた感じられた。

実際、ハジメたちにエヒトは全てに満足し、安らかに笑って死んだと聞かされた時には。

 

『ふざけるな!あのクソ野郎にそんな安らかな最期が許される筈がない!』

『そうですわ!醜く足掻かせて苦しませてそれから殺してやるべきだったんですわ!』

 

と、リューティリスと二人して大いに荒れ狂ったわけなのだから。

 

「けど……思ったんだ」

 

そっと紋章に手をやりながらミレディは続ける。

 

「アンタがどんなクソ野郎でも生まれた時からクソだったわけないよね?」

 

運命だの宿命だのそんな軽々しい言葉で人の意志や選択が片付けられていい筈がない。

それが他人から見てどれほど愚劣で滑稽なものであったとしても。

 

「一人ぼっちは寂しいよね、例え神であってもさ、想い出だけじゃ生きてけないよね

アンタもかつて人間だったのなら尚のことさ」

 

孤独は当人も気が付かぬ間に静かにそして確実に人を蝕み狂わせる毒だ、と、

つくづくミレディは思う。

もしもあのまま大迷宮で同志たちとの誓いを果たせぬまま、虚しく燻り続けていたら……。

 

「私もきっと恨んだよ、人間を、自分の選択を…だから」

 

そこまで言ったところでミレディは一度言葉を止め、迷うような表情を浮かべた後

まずは小声で皆ごめんと口にし、そして祠の奥に届くかのようにはっきりと宣言する。

 

「許してやるよ、アンタをさ……私たちだけいつまでも恨んでても仕方ないしさ」

 

どうせ自分の死に様を聞いたら悔しがるだろうとエヒトは思っていたに違いない。

だからもうその手には乗らないことにする。

それに今となっては互いに人間止めているので或る意味おあいこである。

正直勝ち逃げされたという憤りは未だに胸の中に残ってはいるが。

 

「それに私にはやらなきゃいけないことがあるんだ」

 

今の自分には見届けたい者がいる、そして解き放ちたい者がいる。

先に進むべき者が終わったことに心を配る暇はないのだ。

 

「アンタはそこで今度こそ黙って人間が自分たちの選択によって

造り出される新しい世を眺めてればいい」

 

そして人々がかつての自分が与えた以上の何かを産み出せたのならば

せいぜい悔しがるがいい、

もしも人間元来の愚かさ故に滅んだのならばそら見たことかと笑えばそれでいい。

 

「でも……さ」

 

ミレディは同志たちがいるであろう天へと手を伸ばす。

 

「ちょっと違うよね?やっぱりこんなの……でも皆らしいと言って笑ってくれるかな?ともかく」

 

何かを振り払ったような笑顔でミレディは続ける。

 

「勝手に幕を下ろしてゴメン」

 

と、いささか地味ではあったが、こうして千年に及ぶ神と解放者との長き戦いは終焉を迎える。

そしてミレディ・ライセンはまだ見ぬ未来へと軽やかにその足を踏み出していく。

錬成師が造り出すであろう世界を見届け、そして勇者を過酷な道程から解放するために……。

 

そんな彼女は後に勇者一族の小姑として長きに渡り世を騒がすことになるのだが、

それはまた別の話。

 

そんな日々を過ごしつつもついに帰還の時がやって来た。

リリアーナ、メルド、カム、クリスタベル、ガハルドらが、それぞれの言葉で一時の別れを告げ、

レミアとミュウも手を振るその傍らには、ユエの姿もあった。

 

(ユエ……)

 

控えめにではあったが、そっと手を振るユエの姿を見ながら、

ハジメたちは、ユエがこの世界に残りたいと口にした時のことを思い出す。

 

「私はもっとこの世界を知らないといけない、何よりも叔父様が守ろうとした物を」

「でもそれは……」

 

私たちとじゃダメなのと、そう言おうとしたジータを遮るように、

自身の決意を示すかのように、ユエは言葉を続けて行く。

 

「それは、ハジメたちの手を借りずに、自分の力でやらないといけないことだから」

 

ユエもまた、自立した存在としてハジメたちと向き合おうとしていた。

だが、そのためには自身の、一族の過去を清算せねばならないと。

 

「私は吸血族最後の女王にして、ディンリードの姪、アレーティア、その過去は変えられない

そしてその過去への決着は私だけで着けないといけないから、だから……その時までは

ハジメたちの傍に、ユエに戻るわけにはいかない」

 

一度は捨てたと言い放った過去をもう一度拾い直そうとする覚悟に、"お姫様"の面影はなく、

ハジメとジータは、頷くより他はなかった……頼もしさと、一抹の寂しさを覚えながら。

 

ちなみにそんなユエの腕にはブレスレットが装着されている。

羅針盤を応用してハジメが作った、世界間連絡用のアーティファクトである。

 

「連絡するよ、毎日」

「……んっ、必ず連絡して」

 

当たり前のようにそう約束したハジメだったが、

彼はまだ知らなかった……遠距離恋愛の何たるかを。

 

 

「一度神域を通過する、慣れてない奴は眩暈がするから気を付けろよ」

 

神域については、最初は自然に崩壊するに任せるつもりではあったのだが、

その後の調査により、各世界を接続するトラフィックゲートとして、

非常に有用であるということが判明したのだ。

何せ、この神域を一度通過することによって、クリスタルキーの消耗は、

直接世界間移動を行う時と比べ、数分の一にまで減少するのだから。

 

敵の本拠地を使うのはどうかとも思えたが、それでもメリットが美味しすぎる以上、

これを利用しない手はない、それにエヒト本人がそれを今際の際に認めているのだから。

と、本来一ヶ月で済ませる筈の帰還への行程が、

さらに数ヶ月伸びたのは、神域を管理できるレベルまで縮小することと、

その安定化に取り組んでいたからでもある。

 

 

そしてハジメはクラスメイトに加え、

シアとティオとミレディらが加わっていることも確認しながら、

ゆっくりとクリスタルキーに力を込める、その刹那、ミレディがここより遙か彼方、

ハルツィナ樹海の方角へとそっと視線を移す。

 

(リュー……)

 

ちなみにではあるが、クリスタルキーの再作成に関しては神結晶を使用している、

今後のことを考えるとそれが最適であると、ハジメは判断したのだ。

 

と、いっても世界のどこかにあるかもしれない物を探したり、

膨大な時間を掛けて作成するわけにもいかない。

そこで重力魔法と空間魔法を使い、

さらにハジメを筆頭に異世界チート組が毎日魔力を注ぎ込むことにより、

幾千の時が必要とされる神結晶を、僅か数ヶ月で精製することに成功したのだった。

 

そしてキーを作成した後の神結晶の残りは、ハルツィナ樹海の最深部、

リューティリスの思念が宿る大木の根元に埋められている。

解放者の一人として、この世界の行方を見届けたいと願う、彼女の言葉を受けて。

 

『だってミレディだけ外の世界に旅立てるだなんて不公平じゃない』

『あのね、私に新しい世界を見て欲しいって言ったのはキミじゃないか』

『だから私はここで、神の手から解放された人々がどんな世界を造り上げるのかを、

眺めることにしたいの、これでおあいこでしょ』

 

七大迷宮もまた、封印などはせず、来るもの拒まずで残されることとなった。

だからいつの時代か、己が野心の赴くままに七大迷宮を踏破し、

トータスの支配者たらんとする存在も現れるのかもしれない、だがそれでいいと思う。

それこそが、人の世の営みの一つであろうから。

 

(じゃあ皆……行ってくるよ、まだそっちに行くわけにはいかないけどさ、

お土産話はたくさん仕入れて来るから、待ってて)

 

そんな万感の思いを胸に抱くミレディの耳に光輝の声が届く。

 

「ミレディさん、ホームシックにはまだ早いですよ」

 

勇者としてはやや辛辣とも言えるその言葉に、相変わらずの軽口でミレディは応じる。

 

「ヒキコモリだったからねぇ~~でも、キミも言うようになったじゃん」

「誰の影響でしょうか?」

 

そんなことを口にしつつ、二人もまたハジメに、クラスメイトらに続き、

神域へと入って行くのであった。

 

そして彼らはついにほぼ一年ぶりに、日本への帰還を果たす。

夜半過ぎではあったが、見慣れた屋上の景色に一先ず歓声を上げはしたものの、

だが、彼らに安堵はあっても、喜びの表情を見せる者はまだいない。

何故ならば、ここでまた別れが訪れることを皆知っているのだから。

 

「あーやっぱりか、こうなるとは思っていたんだ」

 

カリオストロらの身体が光を帯び始める。

 

だが、クラスメイトたちの間に名残を惜しむ空気はあっても、驚きはない、

事前にこうなるであろうことは聞かされていたからだ。

 

『お前らの身体を調べた時から分かってたんだ、お前らの身体の構成要素と、

オレ様たちの身体の構成要素……内臓とか血液とかそういう話じゃねぇぞ、

もっと根本的な……とどのはつまりは、だ』

 

その時のカリオストロの、いつも通りの傲慢でありながらも、

どこか寂しげなその笑顔は、きっと生涯忘れることは出来ないだろうと、

ハジメには思えた。

 

『お前らの故郷、地球だとオレ様たちは存在を維持できねぇ、強制排出ってやつだ』

 

青い光に包まれていくカリオストロらの姿を見ながら、ジータも改めて思う、

恐らく召喚された当初からカリオストロは分かっていたのだろう、

自分たちの故郷への帰還は、そのまま自分らの帰還にも、

そして別れにも繋がるということを。

 

ジータの身体から、空の世界へのゲートである前世のスマホが自動的に出現する。

いよいよお別れの時が来たのだ。

それに合わせてカリオストロらの姿も青の輝きが強くなっていく、

もう十分に別れは済ませている筈なのに、

それでも流石に感極まった何人かの鼻をすするような音が漏れ聞こえ始める。

 

「バカ野郎、オレ様たちに取ってもようやくのご帰還なんだぞ、引き留めるんじゃねぇよ」

 

カリオストロがいつも通りの笑顔を見せたところで、清水が感極まった声を上げる。

 

「カッ!カリオストロさんっ!やっぱ俺っ、俺っ!」

「こんな中身おっさんにホレるんじゃねぇよ、ゆっきぃにはぁ~

ぜぇ~~ったいステキな出会いが待ってるんだから」

 

最後のサービスとばかりに、カリオストロは一瞬、媚び媚びの擬態に満ちた、

極上の笑顔を見せたかと思うと、そしてすぐさまいつもの不敵な笑顔を浮かべ、

しっかりとハジメの肩を掴み将来の課題を言い渡す。

 

「南雲ハジメの造り出した物を自分一人だけの宝箱になんぞ仕舞い込むな、

発明や発見はな、世に受け入れられて初めてモノになったって言えるんだ

どのカードを出すのかは慎重かつ有効であるべきだが……

ケチくさい出し惜しみなんぞすんじゃねぇぞ」

 

開祖と呼ばれる錬金術師の言葉は、新しき物を生み出す以上に、

世に受け入れられる努力を決して惜しむなと、

ありふれた暮らしを送りたいのならば、それが己とそれに関わる人々を守る、

最善手だと、そう諭しているようにも聞こえた。

 

「ま、大切なのは何が出来るかやりたいかじゃなくて、何を為すべきかだ

それさえ肝に銘じてりゃ」

 

カリオストロはドン!とハジメの胸を叩く。

 

「オレ様よりはきっと世の中に寄り添って生きて行くことが出来るさ、そして」

「いつか、いや必ず来い!俺たちの世界へ、宿題だぞ!」

 

ハジメが無言でしっかりと頷いたのを、しかとその目に焼き付けたカリオストロは、

別れの言葉を口にし、青き光へと変じて行く。

 

「チャンスを出会いを生かすも殺すもお前ら次第だぜ、と、じゃあねぇ~~♪」

 

カリオストロの次はシルヴァである。

 

「机に齧りつくばかりではなく、たまには銃を撃つことも忘れるな、ハジメ」

 

そのやや物騒な言葉には、ハジメではなく愛子が反応する。

 

「いえ、私たちの世界、というか国では銃は基本ご法度といいますか……」

「何だと、それは随分とつまらな……いや、失礼」

 

最後にそんな本音をついつい漏らしつつ、シルヴァも青い光となって、

スマホの中へと吸い込まれる。

 

そして光輝とジャンヌダルクにも別れの時が迫っていた。

 

「ジャンヌさん、あなたが俺を変えてくれた、あなたが俺に教えてくれた」

 

そう、正義とは決して煌びやかなだけの物ではなく、むしろ残酷で険しき物だということを、

輝き以上の闇を背負い、それでもなお輝かんとする意志と、

そして憧れと願いを託す者たちの傷や悲しみに向き合う覚悟を持つ者だけが、

勇者と呼ばれる資格を得るのだということを。

 

「ありがとう光輝……だが、出来れば君には、戦いの日々ではなく、

ありふれた平和な日々を、人生を送って欲しい」

 

自身と同じ宿命を帯びているのならば、それは叶わぬことだと察しながらも、

あえてジャンヌは切なる願いを言葉にせずにはいられない。

 

「大丈夫さ、このミレディちゃんが付いているんだから!」

 

そこでミレディが、この少年を戦いの宿命から解放することこそ、

自らの新たな役目と心得るかつての解放者が、

どんとこいと光輝の肩の上で薄い胸を叩き、それを見て安心したとばかりに、

ジャンヌもまた微笑む。

 

(あなたなら……私よりもきっと)

 

こうして鏡合わせの二人も、また別離の道を歩むこととなる。

ジャンヌを見送った光輝の目に光る物があるのを見た、ミレディが、

誰にも聞かれないようにと、そっと彼に耳打ちをする。

 

「初恋はさ、実らないって思った方がいいよ」

「そんなじゃ……ないです」

 

口ではそういいつつも、きっとそうなんだろうと思う光輝だった。

 

ファラとユーリもまた別れの挨拶を交わしていく。

 

「彼女、大切にするっすよ、コースケ先輩っ!」

 

そんなことをストレートに叫ばれ、赤面する遠藤、

彼が最後の戦いの際に助けた、ハウリア族の少女といい仲になりつつあるのは、

周知の事実である。

 

「光輝殿も浩介殿もハジメ殿もジータ殿も、その他皆さんもお元気で!」

 

普段の実直さをそのままにシンプルな言葉を残し、

光に包まれながら、笑顔で手を振るユーリ、

こうしてジータがトータスへと呼び寄せた空の世界の者たちもまた、

全て帰還を果たしたこととなった、いや……そういえば誰か忘れてる気が……。

 

「オイ、あの店は何だ?前を飛んでいたら寿司が回っていたぞ」

「あ、あのお店安くて美味しいんですよ」

「ふむ、ではそこに早速わたちを案内しろ、この世界の味を早く知りたい」

「……」

 

ハジメとジータは、ギギギとまるで油を差し忘れた工業用ロボットのような動きで、

声の方へと振り返る、そこには……案の定、金の髪を足元まで垂らした褐色少女が、

ふわりと宙に浮いていた。

 

「シャ!シャレムさん!」

「なんでアンタまだ残ってるんだ!」

「何故と言われても、残ってしまったものは仕方ないだろう」

 

そういえばシャレムは世界の壁をこじ開けて自分でやって来たんだっけと、

その出会いを思い出すジータ。

 

「どうやらあの時、世界の理からある意味外れてしまったようだな」

 

しれっと何やら重要なことを口にするシャレム。

 

「じゃあ……帰るには」

「オマエが頑張るしかないな、期待してるぞハジメ」

 

相変わらずのその尊大な口調に、顔を見合わせげんなりとするハジメとジータ、

そしてそんな二人には一切構うことなく、

シャレムは急かすかのように物珍し気に夜空を舞うのであった。

 

「わたちが残ってくれて嬉しいのは言わずとも承知している、従って、

ちゃんと感謝と歓迎の意を込めて、あの回る寿司をとっととわたちにご馳走しろ」

「……安上がりなこって」

「何か言ったか?」

 

と、色々とあった物の、ともかく帰還を果たした彼ら。

そこからさらなる色々を経て、半年の時間が経過し、

ようやく彼らがかつての日常を取り戻した頃であった。

 

月曜日、それは一週間の内で最も憂鬱な始まりの日、

大多数の人々が、これからの一週間に溜息を吐き、

前日までの天国を思ってしまう、そんな日。

 

ハジメは徹夜でふらつく体でなんとか踏ん張り教室の扉を開けるのであった。




次回、ついに最終回です。


グラブルキャラについては一人くらいは残って置いた方が、
寂しくなくっていいかなと思いまして、やっぱり全員帰っちゃうのもね。


それからユエに関しては、なんかこうなっちゃいました。
ハジメの変化を受けて、ユエもまた変化したと思って頂ければ。
彼女はメインヒロインではあるんでしょうけど、
原作を読んだ印象としては、マスコットに近い感じを受けていました、実は。

(ハジメとユエの関係は互いに取って刷り込みに近いんじゃないかなとも)

ただ、主張の激しい連中の中では、なんだかんだで控えめなので、
書いていてある種の扱いやすさはありましたね。

この作品では、ジータという存在があったこともあり、
それなりに自己主張するヒロインへと変化することとなりました。
(せざるを得なかったというべきかも)
その結果、ちょっと暴力路線に入ってしまいましたが。

で、そのもう一人の主人公でもあるジータについては、
コンセプトは以前活動報告に書いた通りですが、
今はどうかは置いといて、この作品を始めた当初は、
こういうタイプのオリ主はいなかったと記憶してます。

それでも序盤はありふれ二次のセオリーに少々引っ張られ過ぎたのと、
いわゆる暴言ジータちゃん的な気性の荒さが前面に出過ぎているのは、
反省すべき点ではありますが。

(序盤の光輝らへの対応につきましても、ムカついてはいるけど、
同時に心配もしているという部分をもっとちゃんと書ければなと、今では思ってます)

ともかく、南雲ハジメのプロデューサー、そしてストッパー&ツッコミ役を、
なんとか最後まで勤め上げさせることが出来たかと考えております。
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