ありふれた錬成師と空の少女で世界最強【完結】   作:傘ンドラ

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最終回!


Out Of Orbit-新たな地平へ

徹夜でふらつく体でなんとか踏ん張り教室の扉を開けるハジメ。

その瞬間、教室の生徒の大半から、気の毒に、いたたまれない……そんな視線が、

土気色となったハジメの顔へと注がれる。

 

「なぁ……今日もユエさんは」

 

中野の問いに無言で首を振るハジメ。

 

「……そうか」

 

男子生徒全員がとても見ちゃいられないとばかりに、悲し気に顔を伏せる。

 

ハジメとユエが、世界を隔てた遠距離恋愛中なのは、先に述べた通りだが、

ユエが連絡に指定した時間は、時差の都合上、ここ日本では深夜三時に相当し、

さらに世界間通信に必要な魔力は、全てハジメが賄うことになっている。

いかに膨大な魔力量を誇るハジメとあっても、その負担は尋常ではない。

 

それに加えて本来の学業と、そして自身の研究、

さらに遅れを取り戻すとばかりに、意地になってゲームもアニメも控えないものだから、

半ば自業自得とはいえ、疲労困憊となるのは必定である。

 

だが、それだけならばここまでのことにはならない。

ハジメの、そして周囲の悲嘆の原因、それはここ一週間、

そのユエとぷっつり連絡が取れなくなってしまっていることと、

さらにもう一つ、ハジメの隣の席の女子、すなわちジータもまた、

ここ一週間連絡も無しに学校を欠席しているということが重なり、

まさにハジメは煩悶地獄に片足を突っ込んでいた。

 

「そりゃキミ、フラれちゃったんだよ」

「ぐはっ!

 

光輝の肩の上から放たれた、ミレディのクリティカルな暴言を受け、

その場でのけぞるハジメ。

 

「ミレディさん、それはいくら何でも」

 

ミレディを窘める光輝だが、その表情には微妙な何かが籠ってるようにも見える。

とはいえど、もちろん他人の不幸を喜んでるわけでは決してなく、

それは彼が飾り気無き、一人のありふれた少年になりつつあることの証である。

 

「だってディンリードさんだもんね、ユエちゃんの男の原点って」

 

映像の中の金髪イケメンと、目の前の白髪の少年をまるで比べるような目で見つめる優花。

ハジメもそのことは痛いほど心得ているのだろう、丸まった背中がさらに縮こまる。

 

「そうそう、それに蒼野さんの男の原点はお兄さんだしね」

「それに異常な状況で結ばれた男女は長続きしないって、よく言われるし」

 

奈々と妙子も面白半分、溜息半分で優花に同意する。

ちなみにもう一人の遠距離恋愛者である遠藤浩介もまた、胸を押さえ蹲っているのだが、

そのことに気が付く者は、例によって誰もいない。

 

しかし言葉こそ厳しいが、それでもハジメを見るクラスメイトらの視線は優しく温かい。

皆、知っているのだ、こうして自分らが平穏な生活を送れているのも、

表は光輝や愛子の、そして裏ではハジメたちの尽力あっての物だということを。

 

『全てを救うことも出来なきゃ、全てを守ることだってきっと出来ない……だったら

多少の窮屈や不自由は受け入れるさ』

 

そんなハジメの言葉を思い出しつつ、スマホの画面に目を移す鈴、

そこにはリニア開発大きく前進!だの、海底資源採掘に目処だのという、

ネットニュースの見出しが表示されている。

 

そう、幾つかの技術供与と引き換えに、

ハジメは自分たちの安全と自由を政府に保証させたのであった。

もちろんその中には報道管制も含まれている、鈴が窓の外に目を移すと、

自分らの教室の様子をドローンで撮影しようとした不届きな何者かが、

黒い服の人々によって何処かへ連行されていく様子が、その視界に入り、

懲りもせずにと鈴は視線を外から教室に戻す、と、今度は視界の中に三つの空席が映る。

 

(恵里……近藤くん、檜山くん……)

 

彼ら三人の席は、卒業までそのままにしておくことになっている。

あの異世界からの帰還を、単なるめでたしめでたしで終わらせないために、

何より自分たちの現在が、犠牲の上に成り立ってるということを心に刻みつけるために。

 

帰還が叶わなかった彼ら家族への報告、交渉も、光輝と愛子が主に行った。

最も難航すると思われた檜山の家族に関しては、彼の友人であった中野や斎藤らの証言や、

同じく死亡した近藤と恵里が遺体すら残ってない中で、

遺体を引き渡すことが出来たことなども幸いし、最終的には納得を得ることが出来たと聞く。

 

それにしてもと、恵里が死んだと聞かされた時の恵里の母親の、

悲しんでるとも喜んでるともつかぬ表情が一瞬浮かび、

それを鈴が頭の中から追い出そうとした時だった。

 

「お前らぁ~~いい加減にしろっ!」

 

イジリに耐えかね、ついに抜き放ったドンナーの銃口を天井へと向けるハジメだったが、

肝心の身体がついて来れず、その場にへなへなと頽れてしまう、

日常生活には不要と、普段は能力の大半をあえてセーブしているとはいえど、

その様は山王との試合の後の湘北か、はたまた頭が濡れて力が出ないアンパンマンか。

 

「嘘のようにボロ負けで、う~~力が出ないよ~~」

 

何処で覚えたのか、またまたハジメへとピンポイントにして、

クリティカルな煽りを入れるミレディ、それは流石に聞き捨てならんと、

シュラークの照準をミレディに合わせるハジメだったが、

狡猾にも、すかさず光輝の背中へサササと彼女は身を隠していく。

 

「お前ら教育番組のお兄さんと人形みたいだな……」

「……俺も常々そう思ってるよ、と、ジータとはリンクがあるんだろ?だったらさ」

 

見かねた光輝がハジメへと魔力を与えてやりつつ質問するのだが、

その問いにも、ハジメは悲し気に首を振る。

 

「そのリンクが繋がりにくくってさ……多分ガブリエルが邪魔しているんだ……、

かと言ってLINEや電話も素っ気ないしさ、シアやティオに聞いても分からないって言うし、

……シャレムに至っては煽ってくる始末だし、やってられねぇよ」

「あんまり気にせずにさ、リラックスした方がいいよ、ハジメくん」

 

光輝に続いて香織もフォローを入れつつ、自身の魔力をハジメへと分けてやる。

 

だが、それを傍で聞いていた雫は香織の態度にどこか違和感を抱いていた、

こういう時の香織は、ハジメを放置するジータやユエへの憤りを隠さないか、

ここぞとばかりにハジメに猛アタックを掛けるかのどちらかだろうと思うがゆえに。

 

ともかく魔力を充填出来たことにより、顔色は良くはなったが、

今度は眠気が襲ってきたようだ、ハジメの瞼が明らかに重くなって行くのが見て取れる。

 

「一時間目は自習だ、少しは寝ろ」

 

自分の身体のメンテをハジメが行っている関係上、慮るような言葉を口にする龍太郎、

ちなみに制服こそ男子の物であったが、その姿は今もノイントのままだったりする。

なんでも家族の意向なのだそうだ。

 

(親父とお袋さ……このまま女の子のままでいいって、

姉貴までいっそ妹になっちまいなとかそんなこと言うんだ……)

 

と、その時、そんな坂上家の家庭の事情には一切忖度することなく、

教室の扉が開き、そこから愛子が姿を見せる。

 

「先生、今日は自習じゃ?」

 

優花の言葉に愛子は微笑みで返すと、そのまま話を始めて行く。

 

「今日は皆さんに転校生を紹介します」

 

その言葉を聞いた清水が、いや教室内のほぼ全員が、

色めき立ちつつ、まさかそんなベタなと教卓へと視線を集中させると、

案の定、ジータに付き添われた制服姿のユエが教室へとその姿を現わすのであった。

 

「え!あ、嘘っ!ユエさん!」

「なんで、どって?」

 

優花と鈴の驚きの声にも動じず、ユエはしれっと答える。

 

「……ハジメを愛し求める私の心が新たな概念を……世界を越えさせた」

「あ……さいですか」

 

もちろんこれにはタネがある、神域の改良管理についてはユエが中心となって行っていた、

その時、いずれ自力で世界を、ハジメの元へ向かう為の仕込みを密かに行っていたのである。

さらに吸血族の足跡を辿る中で入手した、幾つかの秘奥も、

世界を越えるための助けとなったことは言うまでもない。

 

ともかく、概念舐めんなと思いつつも、

それでもそう口にされると納得するしかないわねと苦笑する雫、

香織の態度が余裕だったのも、これで合点が行った、

要はハジメを驚かせるために皆で口裏を合わせていたのだ。

しかし、少々溜めすぎではないか、これでは……。

 

(思ったよりも時間かかっちゃったなあ)

 

ハジメに申し訳ないと思いながらも、ジータはここ数日の奔走を思い起こす、

家の力を借りつつも、色々煩雑な手続きをハジメにバレないように、

かつ、滞りなく行わねばならなかったからだ。

ちなみに羅針盤を使えばすぐにユエがこっちに来ていることは判明したのだが、

ハジメといえども、その考えには思い至らなかったようだ。

 

ともかく、少し寂しい思いをハジメにはさせてしまったが、これからは違う、

今までよりももっと楽しい日々が……と、そこでジータがハジメへと視線を向けた時、

彼女は信じられない物を見てしまった。

 

この感動的なシーンとなるべき時に、まさにフィナーレを飾るに相応しき時に、

なんとハジメは机に突っ伏し寝落ちしていたのである。

 

ジータと同時にユエもハジメが寝ているのに気が付いたのだろう。

豊かな金の髪を逆立て、その身体から怒りの静電気を発しつつ、静かにハジメへと歩み寄り、

クラスメイトたちが素早くハジメの周囲から席ごと離れる。

 

そしてゴチバトルの会計のごとく、ポンと突っ伏すハジメの肩に手を置き、

ユエは目覚ましとばかりに電撃を炸裂させる、もちろん手加減無しのフルパワーで。

 

「あばばばばばばばばばっ!」

「ユエちゃ……私までっででででででっ!」

 

と、これからの騒がしくも楽しい新たな物語の開幕を告げるベルと、

一つの物語の終幕を示すファンファーレを兼ねたかのような、

主人公コンビの悲鳴が教室に響き渡り、かくして一先ず冒険の幕は下りたのであった。




新訳というコンセプトで書いてきたこの作品も、これにて完結です。
世界を救ったにしては、やや冴えない終わり方ですが、
原作ではお目にかかれないであろうこんなシーンで〆るのも、
またありと思って頂ければ幸いです。

本当にここまで応援ありがとうございました。

完結に寄せて、他にも書きたいことは幾つかありますが、
ここで長々と書くのも、と、思いまして、
それらにつきましては活動報告の方へと記させて頂きます。
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