ありふれた錬成師と空の少女で世界最強【完結】   作:傘ンドラ

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数日遅れですが季節ネタ。
平和なら平和なりにやること考えることがあるのです。




GirlFriends

 

 

夕闇迫る寒空の下、買い物に向かうハジメを見送ったヒロイン一同たち。

ハジメの実に渋々とした仕草が少し気になったというか、仕方ないことなのだが、

こちらも不精なことにコタツから一歩も出ることなくのお見送りなのでお互い様なのだろう。

 

海外ドラマはすでに終わっており、先程とは逆に妙な静寂が部屋を包み始める。

こうなると何をしてよいか話してよいかがわからなくなる、

かといって眠りに落ちてしまうのは勿体ない。

せめてとばかりに雫がゲームソフトを棚から取り出そうとコタツから手を伸ばすが、

届かないのを悟ると諦めてまたコタツへと潜り込む。

全く以って今の自分たちの姿はまるでコタツと一体化したかのようだ。

コード抜いたら私たちそのまま止まってしまうのではないかとさえジータは思う。

 

だがこれが普通なのかもしれない。

毎回毎回"エミヤ"や"ストッパー"がBGMに流れるような話ばかりでは身が持たないではないか。

 

「トイレ行きたくなっちゃった、ティオさん代わりに行ってよ」

「何をバカなことを言うておる」

 

そんな下らない香織とティオのやりとりを聞きながら、ジータはぼんやりと天井を眺める。

 

(でもね……ハジメちゃんが頑張ってるのは自分と戦う為や人類の進化とかだけじゃないよね?

知ってるよ、ハジメちゃんが私を転生させた神様の所へ行こうとしていること)

(そして私を普通の身体に戻して貰おうとしていることも)

 

自身の影と対峙したあの氷雪洞窟の試練、

あなたの想いは所詮は生存本能から来る生理現象に過ぎないと、

ただ生きて居たいから生きる為に必要だから愛しているに過ぎないのだと、

影の自分から言い放たれたことをジータは思い出す。

そしてハジメもまた自分の想いに関して微かではあるが同じ疑念を抱いているということも。

 

だがジータにとってみれば"だからどうした"程度の話である。

 

運命だの宿命だのは確かにあるのかもしれない、いや、あって然るべきなのだろう。

だが、運命を宿命を偶然を必然たらしめるのは過程であり、

蓄積され育まれた想いなのだとジータは思う。

 

それはすなわちあの奈落の底から始まり共に傍に、共に励まし合い、

共に最後まで戦い駆け抜けた日々。

あの冒険の日々がなければ例え互いの身体が魂が共有されていたとしても、

仲のいい親戚同然の幼馴染で終わっていただろうとジータは確信している。

 

(だからね、何も案じなくてもいいんだよ、ハジメちゃん)

 

必要だから愛するなんて話はない、

それは人をただの道具へと貶める恥ずべき思想だとジータは思う。

愛しているからこそ誰かは誰かを必要とする筈なのだから。

 

(選ぶ未来が望む道が何処へ続いていても共に生きるから)

 

それが私だけじゃなく私たち、いやもっと多くの人々とならきっといいなと思いつつ、

でも、コタツに籠ってこんなこと考えるのは様にはなってないなとも思うジータであった。

 

 

「雪降るんじゃねぇの、これ」

 

冬とはいえど日没にはまだ早い、にも関わらず重い雲に覆われ始めた空を眺めて

ハジメは溜息をつく

ジータが指定した駅前のスーパーはここから歩いて二十分程の道程である。

 

幸いここから駅までは商店街のアーケードがある。

シャッター街とまでは思わないが、以前異世界に旅立つ前は辛気臭さしか感じず、

何となく足を避けていたのだが……。

 

「あれ?」

 

そんな商店街はハジメの知る以前とは全く異なった様相を呈していた。

駅へと続いているにも関わらず、人もまばらでさびれる一途であった街は

見事な再生を遂げており道行く人々でごった返していた。

 

(あ、これ俺が……)

 

アーケードの天井を飾る独特の光を放つ照明パネルを見て、

それが自分が提供した技術によって作られた物だと理解するハジメ。

 

ハジメがはじめまして世界と挨拶代わりその他諸々の意味で世に提供した技術のいくばくかも、

すでに医療や資源を中心とした分野で実用化に入っていると聞く。

 

(ついでに言えばハジメも特許料及びロイヤリティetcで莫大な富を得ていたりする)

 

だがこれはトータスにいた頃からすでに構想していたことでもある。

何故ならばカリオストロと出会って数日後にはすでに内緒だぞと耳打ちされていたからだ。

この異世界、トータスで得た自分たちの力が。

 

―――地球に戻ってからでも行使できるという可能性があることを。

 

『噺半分と前置きはしたが恐らく間違いねぇ、何故ならオレ様がそう思えば正解だからだ』

 

その余りにも自信満々な言葉に首を傾げたのをハジメは苦笑いと共に思い出す。

出会った当初だから加減してくれていたのだろう、

もし今そういう態度を見せようものなら間違いなく拳が飛んできたであろうから。

 

『お前の住んでるのは戦のない平和な国なんだろ、だからぁ~』

 

カリオストロはクルリとその場でスカートを翻しターンを決める。

 

『戦うことしかできない天之河のお兄ちゃんたちよりぃ~

ハジメお兄ちゃんの方がずうっと世の中の役に立てる筈なのぉ』

 

今思えば不自然極まりない美少女ムーブに当初は騙されっぱなしだったなと回想するハジメ、

もちろん見とれたその直後に髪をぐいと掴まれ凄みを入れられたことも決して忘れない。 

 

『だから絶対に気ィ抜くな、オレ様の言葉から動作から何から何まで絶対に見逃すな

それが完璧に出来てようやくオレ様の1/1000人前くらいにはなれるぜ』

 

当時は機械の修理とか色々出来るようになれば精々いいな程度だったのだが、

思えば遠くに来てしまったもんだとつくづく思う。

ともかく自分が与えた物が少しは世の中の役には立っているのなら、

これがきっとカリオストロの言う世に寄り添う生き方であり、

この星に生まれたこと、この世界で生き続けることなのだろう。

 

と、そこまでハジメが考えたところで人気アイドルのPOPが目に入り、

ああそんな頃かとハジメは腕時計のカレンダーをチラ見する。

 

(バレンタインかぁ)

 

何故か溜息をつくハジメ、貰えない、とは流石に思わないが、

しかし今回は貰う貰わない以上の悩むべき問題がある。

 

(ホワイトデー……どうすりゃいいんだ)

 

これまでのハジメにとってバレンタインは母親からチョコを貰う日であり、

女の子からチョコを貰う日では決して無く、

したがってホワイトデーなど彼にとっては無縁の行事に過ぎなかったのではあるが……。

 

ちなみにそういうのに慣れてそうな光輝に相談をしてみたのだが、

全員クッキー一包みずつじゃダメなのか?という余りにらしくてしょっぱい答えに、

教室が一気に微妙な空気となり、そんなんだからキミはっ!と、そんなんだから恵里がっ!と、

ミレディと鈴が光輝へと説教を始め、さらに続けるのならば説教が終った後、

じゃあ今年はちゃんとしたの雫に贈るよなんて余計なことを言うもんだから、

お前そういうところだぞ!と、今度は清水が光輝へと詰め寄る顛末となってしまった。

 

いずれにせよ全員クッキーだのキャンディだの、

増してや渡さないなどと横着をしてはならないのは事実なのだろう、

かといって明確に差をつければそれはそれでブーイング物である。

実際に差は明確に存在している自覚はあるだけに、それが余計にハジメの悩みを深くしてしまう。

 

「お決まりでしょうか?」

「あ…え、あ、いえ出ます」

 

知らず知らずに店の中に入り込んでいたらしい、慌てて外に出ようとして、

入ろうとしていた客と肩が触れ合う。

 

「あ、すいませ……」

「いえ、こちらこそって、あれ?清水」

 

クラスメイトとの意外な場所での遭遇に、ハジメは少し驚いた風な表情を見せる。

 

「なんでこんなとこいるんだよ?」

「いや、チョコどんなのあるかなって?」

 

清水はハジメほどは驚いてはいないようだ、

というより他に考えることで頭が一杯といった様相である。

 

「チョコぉ?」

「友チョコってホラ、あるじゃないか、だからそれ、俺っさ…愛ちゃんに渡そうってさ」

 

ハジメに背を向けたままで清水はショーウィンドウの中のショコラに視線を注ぐ……。

"友"に贈るにしては結構値が張る、脈無しなら間違いなく持て余すレベルの。

自分が貰えないかもならこっちからということか、これに関してはなかなかだと思うハジメ。

 

「お前攻めるようになったな」

「一度死んだ身だからな」

 

開き直りのようにも思えるが、清水のその言葉の響きには確かに決意があった。

 

(今の俺はどうなんだろう?)

 

結局のところ、決めてしまうことがただ怖いだけであって、それは迷う以前の問題ではないのか?

決めてしまう、これまで定まってなかった物が定まってしまうことが怖いのか、いや……。

 

「はぁ……」

 

何が最強だ、未来だ、世界だ……と思う、たかが女の子の気持ちにこうも揺れてばかりで。

 

(大体何だよ、マシュマロなんて別れたいって意味かと思えば、

一緒にいたいって意味もあったりで正反対じゃねぇか)

 

 

 

「なんかハジメちゃんまた悩んでるっぽい」

「バレンタイン、ううん察するに」

 

卓上カレンダーにチラと目をやっただけで香織は皮を剥いたみかんを丸ごと口に含む。

 

「ひょはいほへーろろろふゃな?」

(うわぁ)

 

何気ない仕草ではあったが、ジータにとって今の香織の行動は、

どこか蛇を連想させてしまってならず、直接目の当たりにしてしまうとやはり考えざるを得ない。

ハジメの態度の変化は本人のいうロールプレイが染みついたのもあるのかもしれないが、

結局のところはやはり魔物肉が影響しているのではないか?と。

 

実際香織がいい例ではないか?バイアスの片手を切断し恫喝したことは元より、

後に生きたまま檜山を魔物の大群の中へと笑いながら投げ落としたと聞いた時には、

ハジメ共々背筋が凍る思いがした。

しかしこれは当の檜山本人の裁判での発言であり、

従ってかなりの誇張が入っている可能性もある…だよね?そーだよね?と一縷の望みを託し、

当時香織と同行していた筈のシアにそれとなく尋ねてみたのだが……。

 

(檜山はすでに鬼籍に入っており確認は不可能となっていた)

 

その時の様子を聞かれたシアはただ涙ぐみ、震えながら首を横に振るのみであり、

その怯えた姿こそが話の真偽を物語っていた。

 

 

(興味のある方は第94話を読んで下さい、檜山の最期は111話です)

 

 

もちろん普段の香織は今も以前の快活で心優しい姿のままだ。

むしろ優しさについてはハジメ一人に向けられていた情愛をより多くの人々へと、

広くそれでいて深く注ぐようになったとさえ思える。

 

だがその陰で今でも時折であるが、教室で不意に遠い目をして溜息をついたり、

まるで猫のように何もない部屋の角を凝視しながら濡れた瞳で微笑んだりと、

妖しげな姿態を垣間見せているのをジータは見逃してはいない。

 

檜山は香織のことを魔女ですらバケモノですらない悍ましい何かだと称していたそうだが、

ジータとしては堕天使というのが今の香織には相応しいのでは……と思えてならない。

堕落の快楽を知り、博愛と同時に魔性を併せ持ってしまった。

 

ともかく魔物肉によって本来覚醒させてはならない何かを目覚めさせてしまったのならば、

やはり一時の情に絆されてやるべきことではなかったとの思いや後悔は当然ある。

だが香織が言い出したら聞かない強情さを備えた少女であることを、

逃げ出すよりも進むことを選ぶ少女であることを長い付き合いの中でジータは把握している。

だから拒んで事態をより拗れさせるよりは、

ああいう形にしておけてよかったのかもしれないと思うことにはしている。

……責任逃れ感を抱えつつも。

 

それはともかくとして、バレンタイン、それに伴ってのホワイトデーについては、

弛緩した空気が部屋に漂う辺り、どうやら彼女らにとっては何を今更な話なのだろう。

 

「……いっそあげない、それでハジメの慌てる所を見たい、どう?」

「ユエさん、それはちょっと」

 

ユエの冗談とはいえ辛辣な言葉を窘める雫、私もそれ見たいけどねと思ったのは内緒である。

とりあえず雫に言わせると貰える貰えないやお返しどうしようと悩んでくれる存在には、

むしろ新鮮さを感じてならない。

何せ彼女に取ってのバレンタインとは、貰って当然といわんばかりにいつも通りな

光輝の姿なのである。

今思うとあーハイハイと渡すくらいならば、

一度くらい殴るなり無視するなりしてやれば良かったのではないか?

 

そう、思えばそういう惰性的ともいえる関係が互いの甘えを呼び、

光輝の内心の歪みに気が付いていながら半ば放置を許し、

そのくせ龍太郎の心の奥底の蟠りにはまるで気が付かぬままで、

思わぬ苦難を味わせてしまったことを雫は忘れてはいない。

 

しかし幸いにもこの世界では光輝自身がその慣れや甘えを自ら振り払い、

痛みを伴うことを覚悟の上で自立の道を選んでくれた。

いや、その道を示し選ばせてくれたのが……。

天之河光輝がきっと初めて心から"護りたい"と願った少女。

 

(ジャンヌさん)

 

他にも様々な要因があったのかもしれない、しかし自分たちには出来なかった、

いや、やろうとも思わなかった、輝きに、その才に惑わされることなく、

天之河光輝という少年のその心の岩戸を開き導いた、

伝説の戦乙女と同じ名を冠す聖少女に雫は限りない感謝と尊敬と、そして敗北感を覚えていた。

 

(本当ならそれは私たちがやらなきゃいけないことだったから)

 

だが、ジャンヌダルクとの邂逅が、それからの二人の重ねた想いと時間が、

光輝にとって勇者という運命を宿命を必然たらしめることとなったとするのならば、

それはとても皮肉なことではないのだろうか?

 

『君には戦いの日々ではなく、ありふれた平和な日々を、人生を送って欲しい』

 

そう、ジャンヌダルクの光輝への願いはその別れの言葉通り、

煌びやかな活躍とは例え無縁であっても、

ありふれた平穏な人生を送ってもらうことに他ならないのだから。

そしてジャンヌのその言葉を聞いた時、雫は直感した。

自分には出来ない、いや、ジャンヌの願うありふれた平穏な人生を光輝に与える、

その資格はもはや自分にはないのだと。

 

(でも今の光輝には)

 

ミレディ・ライセンがついていてくれている。

あのお節介焼きを自称する彼女ならばきっと探し出し、巡り合わせてくれる。

ジャンヌダルクに代わって光輝がいつかその胸に秘めた刃が鎖を断ち切るまで、

ずっと共に闘うと言ってくれる女の子を必ず、但し。

 

―――探し巡り合わせた後の手腕については極めて不安を感じずにはいられないが。

 

(そこからは結局私が何とかするしかないのね)

 

全くどう転ぼうともあの幼馴染は心配を掛けさせずにはいられないのかと、

つくづく思えてならない雫であるが、ふといつもの疑問が浮かぶ。

 

(もしもジャンヌさんがいなかったら?)

 

その結果、何も変えようとせずいつまでも光輝が心地良さに縋る道を選んでいたとしたら……。

勿論それだけで決定的な別離や破綻を招く程ヤワな仲だとは思わないが、

それでもきっと今の自分たちの関係は大きく異なるものになっていたのかもしれない。

 

(そういえば南雲君が魔王の世界の私ってどうしてるのかしら?)

 

一度ならず尋ねてみたことがあるのだがハジメは躍起になって聞くなと否定し、

ジータとユエも白を切るような態度ばかりである。

それが余計に雫にとってはある種の怪しさを抱かせてならない。

 

(もしかして私が南雲君と?とか?ありえないわね)

 

ちなみに龍太郎についてもう一つ触れるのなら、とある事情によって、

外見が大きく変化したこともあり、せめて気分だけでもと男子の切なる要望に応えて、

希望者全員にチョコを渡す羽目になってしまったことを付け加えて置く。

本人は園部たちに作り方教わるんだぜと割と乗り気ではあったが。

 

いずれにせよハジメの切実な悩みが杞憂に終わるのは確定済みである。

抜け駆けを防ぐのとハジメを悩ませないように全員で一つのチョコを作って贈るということで、

すでに話はついているのだから。

 

「ま、抜け駆けをしそうな子は一人いるけど」

 

えへんと胸を張るジータ、抜け駆けしそうなこの場にいない誰かさんのことを、

同時に思い出しながら、だがそれも対策済みである。

 

(貸しだからね、シアちゃん)

 

 

「やっぱ降って来たじゃねぇか、たく」

 

アーケードを抜けると案の定雪が降り始めた、道行く用意のよかった幾人かが傘を開き始める。

こいつだけは遙かな未来であろうともこの形のままなんだろうな、と、

傘を眺めながらふと思った時。

 

「あっ、ハジメさん迎えに来てくれたんですかぁ~~」

 

覚えのある声に顔を向けるとそこにはコートを来たシアの姿があった。

前にもこんなことが何度かあったような、ああ……。

 

「別にお前の為じゃなくって白菜の為だけど、でも本当に漁夫の利ってのが多いなお前」

「何のことですか?」

 

それともシアのためにって所かもなと、いってらっしゃいと手を振るジータたちの

先程の姿を思い浮かべるハジメ、そして当のシアは雪ですよ雪!

だなんてはしゃぎ始めている、さらには。

 

「大切な人といる時の雪って特別な気分に浸れて私好きなんですよ」

 

などと口走り出す始末であり。

 

「あんま調子のんな」

 

そんな浮かれたシアの頭をハジメは思わずはたいてしまうのであった。




ハジメが得ている莫大な収入の使い道については?
とりあえず次回はシアと街歩き、光輝たちも出せたらいいな。

参考までに作者が一番好きなガンダムソングはGの閃光で、その次が君を見つめてです。
皆さんはどうでしょうか?
但しBeyond The Timeは別格ということで。
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