ありふれた錬成師と空の少女で世界最強【完結】   作:傘ンドラ

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爪熊戦と地上の様子を少しだけ


喰われるモノたち

「ウサギっても所詮魔物だからマズイのには変わりないのな」

「肉は食べ手はあるのにね、せめて」

 

調味料でもあれば毒抜きした肉を漬け込んで、

それなりの保存食みたいな物を作れるかもしれないが…。

二人で色々と手を尽くしたが、結局薄い岩塩程度のものしかここでは手に入らないようだ。

 

「さて、行きますか、お待ちかねの」

「ステータスオープーン♪」

 

 

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:12

 

天職:錬成師

筋力:200

体力:300

耐性:200

敏捷:400

魔力:350

魔耐:350

 

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査] 魔力操作 胃酸強化 纏雷 

天歩[+空力][+縮地] 言語理解

 

 

蒼野ジータ 17歳 女 レベル:12

天職:星と空の御子

筋力:15+140

体力:15+210

耐性:15+140

敏捷:15+280

魔力:15+245

魔耐:15+245

技能:全属性適性 団員x1 召喚 星晶獣召喚(条件:同調者)同調(南雲ハジメ、同調率70%)

   剣術 統率  防壁Lv5 挑発 恩寵 背水 コスプレ サバイバル 

   魔力操作 胃酸強化 纏雷 天歩[+空力][+縮地] 言語理解

  

 

伸びかかなり大きい、どうやら食べたことのない魔物を食べると

ステータスが大きく上昇するらしい。

 

素直に喜ぶハジメとは裏腹にジータは少し首を傾げる。

どうも経験の割りにはレベルの伸びが低い。

ハジメがドンナーを製作している間は、代わりにジータが狩りをしていたのだが…

ハジメの分と自分の分でむしろ今頃はハジメを追い越してないとならない筈だ。

 

いや…これも同調とやらに関係があるのかもしれない。

 

(ハジメちゃん以上にはなれないみたいね)

 

恐らく新しい技能、"天歩"を試しているのだろう、

ガンガンと何かをぶつけるような音を聞きながら、

ジータは隠された本来のステータスをスマホを呼び出して確認する。

 

 

【クラスⅢが解放されました】【プライマルシリーズが解放されました】

 

「しゃあ!」

「わあ!」

 

ジータの叫びに集中を解いてしまったハジメが空中から落下し、尻餅をつく。

 

「ッ!いきなりなんだよ」

「ご…ごめん」

 

ジータはソーサラーから、クラスⅢ、

漆黒の鎧を纏いし暗黒剣士、ダークフェンサーへとジョブチェンジする。

ジータがとりあえずの目標としていたジョブだ。

手に握られるは火属性の剣エッケザックス、あの爪熊の斬撃はおそらく風属性、

ならばということで用意した。

 

 

バハムートやオメガ、天司や虚空や終末といった冠がつく特別な武器以外は、

クラスを解放することで直接装備出来ることをジータはあらかじめ確認していた。

クラスⅣやEXを解放できればより強い…。

火属性で言うならウシュムガルやクリムゾンフィンガー、夏ノ陽炎といった武器も、

装備できるようになる。

もっとも本来の力を得るためには召喚石の加護が必要なのだが。

 

ともかく準備は整った、いよいよあの爪熊へのリベンジを果たす時が来たのだ!

 

「けど…ちょっと休憩」

 

この黒い鎧姿だとなんか色々と面倒臭くてやる気がなくなる感じがする。

 

「服装で性格変わるクセ…治ったんじゃなかったのか?」

 

座り込んだジータの手を引いて立ち上がらせようとするハジメ。

その頭はコブだらけだ。

 

「なんかこれが特別っぽい」

 

こういうクセの強いコスチュームだと再発するらしい、

アルカナソードの時もそうだった…後で思いだして死にたくなった。

もっとも何度か着用すると耐性がつくのだが。

 

「とにかく天歩の習得だ、行くぞ!」

「えー、巣に帰って寝よーよ、今日はもう充分だよ」

「巣とか言うなよ!オラ立て!」

 

 

 

迷宮の通路を、姿を霞ませながら高速で移動する二つの影があった。

 

言わずと知れたハジメとジータである。

"天歩"を完全にマスターした二人は、"縮地"で地面や壁、時には"空力"で足場を作って

高速移動を繰り返し宿敵たる爪熊を探していた。

本来なら脱出口を探すのを優先すべきなのだが。二人はどうしても爪熊と決着を着けたかった。

一度砕かれた心を取り戻すために、左腕の仇を取るために。

 

途中で二尾狼の群れや蹴りウサギに遭遇するが、ことごとくハジメの弾丸と

ジータの刃によって瞬殺されていく、そして。

 

宿敵発見、爪熊はクチャクチャと蹴りウサギを咀嚼している。

その様は巨体と相まって悠然さに満ちていた、知っているのだ

自分がこの階層の王であることを。

 

「よぉ、爪熊。久しぶりだな」

 

爪熊はその鋭い眼光を訝し気に細める。

何故王たる我に背を向けぬ?何故恐怖しないと言わんばかりに

 

「ハジメちゃんの腕…美味しかった?」

「リベンジマッチだ、まずは俺達が獲物ではなく敵だと理解させてやるよ」

 

ハジメはドンナーを抜き銃口を真っ直ぐに爪熊へ向ける。

もう二人の心に恐怖はない、あるのは生きるという渇望と、

それを阻むものは全て屠るという強靭な意思のみ。

 

「俺たちの」「私たちの」

「「糧になれ」」

 

その宣言と同時にハジメはドンナーを発砲する。

ドパンッ! と炸裂音を響かせ、超速の牙、もとい弾丸が爪熊に迫る。

 

「グゥウ!?」

 

爪熊は咄嗟に崩れ落ちるように地面に身を投げ出し回避する。

弾を見切ったわけではなさそうだ、発砲よりほんの僅かに回避行動の方が早かった、

おそらくハジメの殺気に反応した結果か?流石は階層最強の王である。

パワーのみならずスピードにも優れている、といったところか?

だが、完全に避け切れたわけではなく

肩の一部が抉れて白い毛皮を鮮血で汚している。

爪熊の瞳に怒りが宿る。どうやらハジメたちを"敵"として認識したらしい。

 

「今のがゴングだ!さぁ来い!」

「ガァアア!!」

 

爪熊は咆哮を上げながら物凄い速度で突進する。

二メートルの巨躯と広げた太く長い豪腕が地響きを立てながら迫る姿は途轍もない迫力だ。

しかし、ここでハジメの背後に控えていたジータが動く。

初撃は俺にやらせろと言われていたのだ。

 

『ミゼラブルミスト』

 

黒い霧が爪熊の身体に纏わりつく、爪熊は明らかに集中を乱し

その剛腕は空しく空を切る。

 

『グラビティ』

 

さらに爪熊の動きが一段と重くなる、

魔物の固有魔法の発動を遅らせる効果があることは確認済みだ。

 

初撃こそ不発だったものの、今度こそと言わんばかりに

再び爪熊が突進を開始する。

その眉間目掛けハジメはドンナーを発砲するが、

爪熊は突進しながら側宙をして回避する、霧と重力に苛まれながらもこの身軽さである。

 

侮れぬ強敵であることを再度認識し頷きあう二人、

しかしその表情は"こうでないと"という充実した笑顔である。

 

自分の間合いに入った爪熊は突進力そのままに爪腕を振るう。

固有魔法が発動しているのか三本の爪が僅かに歪んで見える、だが。

 

『ディレイ』

 

ジータの握った枯れ枝のような二又の剣から放たれる炎が、

風を纏った爪に纏わりつき、結果ただの力任せの一撃へとそれは変化する。

いわゆるフィズったという奴だ。

 

本来放たれる筈の一撃が発動しない、そのことに明らかに戸惑いながら爪を振るうが、

そんな攻撃が今の二人に通用するはずもない。

 

盛大に空ぶった爪の一撃を余裕ですり抜けると、ハジメは熊の側面やや後方へとその位置を変え。

ドンナーを構えてすかさず発砲する、電磁加速された絶大な威力の弾丸が、

熊の左肩に命中し、根元から吹き飛ばした。

 

「グルゥアアアアア!!!」

 

その生涯でただの一度も感じたことのない激烈な痛みに凄まじい悲鳴を上げる爪熊。

その肩からはおびただしい量の血が噴水のように噴き出している。

吹き飛ばされた左腕がくるくると空中を躍り、ドサッと地面に落ちる。

 

「お返しだよ」

 

さらに縮地で斬り込んだジータの真一文字の炎の斬撃が爪熊の右腕をも斬り飛ばす。

 

「倍返し、ちょっと古いかな」

 

自慢の爪を失った爪熊、いやもはやただの熊はそれでも残った両足を使い、

ハジメのさらなる銃撃を辛くも回避するが、両腕を失った影響でぐらりとあからさまにバランスを崩す。

そしてそれを見逃すジータではなかった。

すでに縮地で地を這うように着地場所へと先回りしている。

 

己に纏わりつく少女へとふらつきながらも蹴りを放つ熊だが、

それは蹴りウサギのそれに比べると遥かに遅かった。

僅かに頭を動かすだけで蹴りを回避すると、ジータはそのまま掬い上げる様に

地面スレスレから二又の刃を一閃し、蹴りを放ってない側の脚、

つまり熊の左足を切断していた。

 

この間、僅か数秒。

 

その僅かな時間で両腕と片足を失った熊……もとい元爪熊は、

地響きを立ててそのまま仰向けに地に臥す。

それは今まで食物連鎖の頂点に立っていたものが、最下層へと転落した瞬間だった。

 

元爪熊はなおも咆哮し、のたうち回っていたが、やがてその血の匂いに誘われた二尾狼や

蹴りウサギの大群に己が取り囲まれていることを察知すると、

その咆哮はまるで許しを請うような響きへと変わる。

恐る恐る巨体へと近づいた一匹の二尾狼が元爪熊の傷口へと牙を立てる。

 

「キュウウウウウウッ!」

 

明らかに悲鳴だった。

それを合図にその場全ての魔物たちが元爪熊へと殺到し、

その牙を突き立て、生きた肉を喰い始める。

 

その様を空中の足場から冷たい目で眺めるハジメとジータ。

元爪熊と目が合う、その目はかつての捕食者の目ではなく、救いを求める被食者の目だった。

 

「生き残れるか試してあげる」

「ま、お前には無理だろうけどな」

 

この隙に本来の目的である、脱出口の探索を少しでも進めて置きたい。

元爪熊が完全に、ただの肉塊と化したことを確認すると、

戦利品の熊の腕を抱え、二人は足早にその場を去るのであった。

 

 

 

ここで時間は遡る、ハジメが初めて魔物肉を口にした頃に。

 

 

王宮の一室にて。

 

 

「もうこんな時間かよ…」

 

遠藤に借りてきてもらった膨大な書籍に囲まれ、うたた寝をしていたカリオストロ。

ちなみにここは愛子の部屋だ。

愛子はあれ以来元気を無くしてしまって、目を離せないのもあるし、

迂闊に外に出ると、光輝に何を言われるか分かったものではない。

 

とはいえど、いつまでも萎れて貰っていては困る、

もう事故から十日、発覚から一週間だ、そろそろ教会の連中が動き出す頃だ。

 

「生徒たちを守るんだろ?愛子」

 

同じく自分の隣で本を枕に眠りこけている、愛子の背中に毛布をかけてやる。

生徒たちを守るには、まずは状況を、ひいてはこの世界のことを知らねばと、

未だ癒えぬ悲しみを抱えつつも、愛子は気丈にも各種の文献にあたっていた。

 

「?」

 

不意に身体を走る何かにキョロキョロとまずは周囲を見渡すカリオストロ、

ゆっくりと両掌の開閉を繰り返し、トントンとその場で軽くジャンプを繰り返す。

どうやら確証を得たらしい、キュウと口元が三日月状に開き、例の凶悪な笑顔が浮かぶ。

 

「アイツらやりやがったな!ククク」

「愛子喜べ!アイツらは無事だ!」

 

歓喜の声を上げながらカリオストロは愛子の頬をぺちぺちと叩いて起こしてやる。

 

「南雲君と蒼野さんがですか!あ、痛った!」

 

急に起き上がったものだから山積みの本がドサドサと頭上に降り注ぐ。

 

「ああ、間違いねえ!オレ様の身体にアイツらからの力が確実に流れ込んでいる…しかも」

 

この漲る充実感、おそらく光輝らよりも彼らの力は今や上だろう。

奈落の底とやらで、きっと何かを掴んだに違いない。

 

(動いてくれたか、ガブリエル)

 

「ウロボロス!」

 

カリオストロの叫びと共に魔法陣が展開され、そこから金属の肉体を持つ巨大な蛇が姿を現す。

その口元は剣で縫い付けられて、かつ頬に申し訳程度の翼が生えている。

それが口髭に見えて、蛇というよりナマズみたいだなと愛子は少しだけ思ったが。

 

「紹介するねっ、この子のぉー名前はウロボロス、カリオストロのぉかわいー相棒なの♪」

 

錬金術の粋を集めて産み出した、相棒にして生体兵器である大蛇の喉を

愛おし気に撫でてやるカリオストロ。

 

「生きてるんですか…それ」

 

見た目こそ機械だが確かな呼吸の息遣いを、愛子はウロボロスから感じとっていた。

 

「ああ、生きてるからには餌が必要だよなあ、新鮮な生餌が」

 

ニィと笑って視線を外へと移すカリオストロ…その先は。

 

「まさか…」

「さーて」

 

わざとらしくゆっくりとカリオストロはクッションから腰を上げる。

 

「檜山君を殺しに行くつもりですね!やめてください!」

「殺したりなんかしねぇよ」

 

縋りつく愛子へとニヤと笑いかけるカリオストロ。

 

「身体を消しに行くだけだ」

「それを殺すって言うんです!」

「じゃあ止めてみろよ、センセ」

 

その声音には明らかな挑発が混じっている。

 

「言っとくが安っぽい感情論じゃ愛弟子を殺られたオレ様は止められないぜ…ククク」

 

愛子は必死になって頭をフル回転させ、自分たちの状況とそれを鑑みた上での、

今度の方針をカリオストロへと、訴えかけるように説いていく。

何度も同じ言葉を繰り返しては、言い換えて。

 

「~と、いう風に私は思ってます」

「…ま、優はやれねぇが、良はつけてやるよ」

 

またクッションに腰を下ろすカリオストロ、その姿を見て胸を撫でおろす愛子。

とはいえ途中から愛子にも気が付いていた、目の前の少女が本気で動けば、

自分程度に止められるはずもない、要は試されていたのだ。

 

「カリオストロさんには確かに檜山君を裁く権利はあります、ですが…まずは

南雲君と蒼野さんの意見を聞いてからでもいいのではないでしょうか?」

 

これは問題の先送りに過ぎないと愛子にも分かっている。

 

(南雲君はともかく蒼野さんは間違いなく檜山君を殺すことを主張するでしょうから)

 

「それにカリオストロさんは、まずは白崎さんや八重樫さん、遠藤君たちに

南雲君と蒼野さんが生きていることを伝えないといけないのでは?」

 

「だよな」

 

ため息をつくカリオストロ。

あの勇者コンビ、光輝と龍太郎が香織と雫にはピッタリと張り付いている。

ハナからハジメが死んだと決めつけている上、

公言こそしていないが、ハジメがジータを巻き添えにしたとさえ思っている節がある彼らには、

詳細を教える気にはなれなかった。

 

「天之河君たちには、やはり……」

「ああ、教えない方がいいだろうな」

 

二人は生徒たちを戦いから引き離すには、戦いの現実を知った今しかないと考えていた。

もしも光輝と龍太郎にハジメとジータの生存を伝えれば、

間違いなく声高にその救出を叫び、皆を焚きつけるはず、そしてそれが教会の耳に届けば、

迷宮の闇に囚われた仲間を救出という大義名分を成立させ、

さらなる戦いに生徒たちを駆り立てるに違いない、そうなればもう手遅れだ。

 

勿論、生きているに違いないと勝手に信じてるだけだと、

思われてる現状なら全然構わないのだが。

 

香織についてはもしも暴発しようとしても、雫が押さえてくれる。

それにハジメに関してのことになると、周囲が見えなくなりがちな彼女だが、

本来は聡明なのだから、言葉を尽くせば理解してくれるはずだ。

 

まぁ、檜山の件は預けておいてもいいだろう。

 

(…それにあいつはもう)

 

「ところでこの子さっきから私の頭を甘噛みしてるんですけど、止めさせて貰えませんか?

ホントに食べられそうで怖くって」

 

自分の頭上の空間でとぐろを巻くウロボロスを指で示す愛子、

敵意は無いのは雰囲気で分かるが、それでも怖いものは怖い。

 

「獅子舞とでも思ったらいい、少なくとも今年中は無病息災でいられるぞ」

「獅子舞ですか…」

 

この少女が一体どういう文化圏で育ったのか、時折愛子は疑問に思う。

少なくとも自分たちの元居た…地球に存在していた物の大半は、

彼女の世界にも存在していたのではないのかと。

とはいえこの件で深く考えるのは止そう、話が早くて助かるくらいに思っていればいい。

 

「愛子はエサじゃねぇ、喰うな」

 

ともかく主に制されたウロボロスはキューと声を上げて、今度は愛子の膝の上に頭を乗せる。

喉を撫でてやりつつ、ガマ口の様な巨大な口元を見て、

やっぱりナマズだなと愛子は思った。

 

 

 

オルクス大迷宮における内紛めいた惨劇は、公式には事故として扱われることとなった。

 

帝国が謁見の使者をこちらに送るのではないかと噂されており

そういう微妙な時期に、勇者同士の内紛を明るみに出すわけにはいかないという判断だ。

 

もちろんその裁定について、各人思うところはあったのだが、

それはまた別の機会に記されることになるだろう。

 

で、表向きには無罪となった檜山だが、

もちろん、公の罪は消えても遺恨まで消えるわけではない。

ケガの治療こそ施されたものの、檜山はかつての仲間である近藤を中心とした、

一部のクラスメイトたちから執拗な暴行を受け続けていた。

それは実に巧妙であり、光輝やメルドらの目をすり抜けるように行われており、

 

また技術者として異世界の知識をもたらす片鱗を見せていたハジメと、

複数の天職を扱い、ステータスに拠らず活躍が期待されていたジータ。

この二人を失わせた事実は、王宮や教会の人々も知るところであり、

それゆえに彼に救いの手を差し伸べるものは誰もいなかった。

 

こうして彼は自室に引きこもり、一歩も外に出なくなった。

外に出て近藤らに出会えば暴行が待っているし、

たとえ逃れられても、次は突き刺さるような非難と侮蔑の視線に晒される。

 

何より香織の顔を見るのが恐ろしかった。

あの美しい顔と、闇と冷たさを纏った虚ろな瞳が檜山の脳内で交互に重なり合うと

思慕と恐怖が入り混じり、それだけで気が狂いそうになってしまう。

 

さらに…傷つき追い詰められた今になって、

ようやくカリオストロが刻んだ心の傷が顕在化した。

 

(出て行けばあのガキに殺される…)

 

毛布を被りベッドの上でその身を震わせる檜山。

幸い、食事や部屋のゴミはメイドが何とかしてくれる。

ここでしばらくやり過ごせば…。

 

ところがである。

 

数日前からメイドが部屋を訪れなくなり、同時に食事も届けられなくなったのだ。

水も食料も供給がストップし、檜山もまた飢餓地獄に苦しんでいた。

 

(なぜ俺が苦しまなきゃならない……俺が何をした……)

 

(なぜこんな目にあってる……なにが原因だ……)

 

(どうして誰も助けてくれない……)

 

(誰も助けてくれないならどうすればいい?)

 

などと、主人公でもないのに、飢餓感に苦しみながら考えていた時だった。

 

「?」

 

空腹で敏感になった嗅覚が何かをキャッチする。

スンスンと鼻を鳴らしながら、フラフラと吸い寄せられるようにドアへと向かう。

ドアのすき間から漂う匂いを確かめる…メシの匂いだ

 

もうこれが誰かの誘い出す罠であっても構わない

駆られるようにドアのノブを捻る檜山。

 

そこにいたのは意外な人物だった。

クラスこそ同じだが、殆ど会話を交わしたこともない

とにかくその人物は手にパンと、まだ湯気が残るスープを持っていた。

 

「そ…そっ…それえ」

 

檜山はその人物が持つパンへとふらふらと手を伸ばすが

パンは彼の手の届かない場所へとひょいと移動し。

そして床へ、正確には彼の足元へと投げ落とされる。

 

「あ…」

 

檜山が間の抜けた声を上げているうちにも、

その人物はパンを土足で踏みつけ、さらにスープを床にぶちまける

そしてさあ喰えと言わんばかりに微笑む。

 

「……」

 

檜山の顔に一瞬だけ躊躇の色が浮かぶが、次の瞬間にはもう彼は床に這いつくばっていた。

 

(人はお金で飼えるっていうけど、エサでも飼えるもんだね)

 

床に這いつくばりパンとスープを啜る檜山の姿は、人ではなくゴキブリのように

その人物には映った。

 

(ま、ゴキブリでも生きてりゃ立派なもんか)

 

 

 




ちょっとジータちゃん強くし過ぎかなと思ったのですが
原作だとハジメの戦力ってオルクス突破時でほぼ完成してるんですよね。
ということでクラスⅢ習得を早めました。
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