ありふれた錬成師と空の少女で世界最強【完結】   作:傘ンドラ

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奈落の底の吸血姫

 

 

流石に予想外の事態にハジメは硬直し、紅の瞳の女の子もハジメをジッと見つめている。

緊張のあまりゴクリとハジメが唾を飲み込む音が、背後のジータにも聞こえたような気がした。

 

「……」

 

ひとまず無言でそっと後ず去ろうとしたハジメだったが。

 

「ま、待って!……お願い!……助けて……」

 

それを金髪紅眼の少女が慌てたように引き止める。

その声はもう何年も出していなかったように掠れ、

まるで呟きのようにしか聞こえなかったが。

 

それでも少女の言葉に、とりあえずは足を止めるハジメ。

そこに扉を固定し終わったジータが歩み寄る。

 

「どうする?」

「…ハジメちゃんはどうしたい?」

「俺は……少なくとも話くらいは聞いてやりたい気持ちはある、けどな…」

 

眉間に指を当てて考え込む仕草をするハジメ。

 

「こんな奈落の底の更に底で、明らかに封印されているような奴に

迂闊に関わっていいものかどうかってな」

 

美少女に擬態する魔物は、マンガやゲームではお馴染みである。

実は中身がおっさんという生きた実例も経験済みだ。

可愛いから許すという思考は、ここでは命取りなのである。

ましてや、こんな場所に封印されている以上、相応の理由があるに決まっているのだ

 

一方、話を聞くという言葉を聞いて内心ホッとするジータ。

ここまでの容赦も躊躇もない戦いの渦中にあっても、

ハジメの中には優しさや思いやりがまだ残っているのだと。

 

「助けて……なんでもする……だから……」

 

少女はもう泣きそうな表情で必死に乏しい声を張り上げ、

ここから先はと、ジータがハジメに変わって応じてやる。

 

「ねぇ?ここから…この迷宮から出られる方法知ってる?」

 

とりあえず試しに聞いてみる。

 

「それは…知らない、だってっ!だって…ううう」

 

(あ、ホントに泣いちゃった、けど)

 

試しに聞いただけだったが、これである程度の確証は得られた。

目の前の少女は知らないと素直に言った。

ここから抜け出したいだけの邪悪な存在なら、知っているから出して、

ないしは、出してくれたら教えるとでも言うだろう。

 

(少なくとも騙すつもりはないみたい)

 

「ケホッ……私、悪くない!…お願い」

 

紅の瞳から涙を零しながら懇願する少女。

 

「私……裏切られただけ!」

 

裏切り、その言葉にハジメの肩がピクリと動く。

恨みか妬みか、檜山の放った裏切りの火球のせいでハジメとジータは

この奈落の底で地獄の苦しみを味わったのだ。

同じ境遇ならば、話を聞かないわけにはいかない。

 

「裏切られたと言ったな? だがそれだけだと、

お前が封印された理由になっていない気がする、その話が本当だとして、

裏切った奴はどうしてお前をここに封印したんだ?」

 

「私、先祖返りの吸血鬼……すごい力持ってる……だから国の皆のために頑張った。

でも……ある日……家臣の皆……お前はもう必要ないって……おじ様……

これからは自分が王だって……私……それでもよかった……

でも、私、すごい力あるから危険だって……殺せないから……封印するって……

それで、ここに……」

 

訴えかけるように、枯れた喉で必死に語る少女。

 

そのたどたどしい訴えを耳にしながら、ジータは思いだす。

無能と思われていたハジメが、カリオストロの助力で薬を造り出し、皆に配る姿や

少しでも戦いを楽にしようと、必死で武器や兵器の研究に取り組んでいた姿や

ベヒモスを相手にただ一人足止めをしていた姿、そして…。

 

(やっぱり似てる…おんなじだ)

 

少女がその波乱万丈な境遇を語り終わって一息つくのを見てから。

二人はいくつかの気になるワードを尋ねていく。

 

「お前、どっかの国の王族だったのか?」

「……(コクコク)」

「殺せないって何?不死身ってこと?」

「……勝手に治る。怪我しても直ぐ治る。首落とされてもその内に治る」

「……そ、そいつは凄まじいな。……すごい力ってそれか?」

「これもだけど……魔力、直接操れる……陣もいらない」

 

なるほど。

 

ハジメも魔物を喰ってから、魔力操作を使えるようになり

身体強化や他の錬成などに関しては詠唱も魔法陣も必要ないのだが。

ただし彼の場合、魔法適性がゼロなために、魔力を直接操れても、

巨大な魔法陣は当然必要となり、やや宝の持ち腐れ気味なのは否めない。

 

だが、この少女のように魔法適性があればノータイムで魔法を乱発できるわけなのだから

正しく反則的な力を持っていると言ってもいい。

さらに不死身、おそらく絶対的なものではないにせよ、

それでも勇者以上のチートであることは間違いない。

危険視されるのも無理はないということか。

 

「……助けて……」

 

ポツリと女の子が懇願する。

 

ハジメは一瞬視線を泳がした後、少女が埋まった立方体に手を置き、

そして確認するようにジータの顔を見る。

 

「そこで迷う必要ある?ささっと決めちゃいなさい」

 

バシと背中を叩き、ハジメを促すジータ。

その顔は心からの笑顔に満ちている。

もしハジメが動かないなら説得するつもりだったが、その必要はなさそうだ。

 

もう優しい南雲ハジメを求めて縛るつもりはないが。

それでも生きること、守ることを理由に優しさを忘れてほしくはなかった。

その先に待っているのは、誰からも顧みられない獣の道なのだから。

過酷な戦いの中で、ハジメの心から優しさの灯を守り続けること、

そしてハジメを一人ぼっちにしないこと、それがジータの戦う理由なのだから。

 

(ガブリエル様に誓ったから…ハジメちゃんの心を守るって)

 

「あっ」

 

 

少女がハジメの行為に、自身を救い出そうとしていることに気がついたのか大きく目を見開く。

だが、ハジメはそれに応じる余裕はなかった。

ハジメの魔物を喰って以来変質した、色濃い紅色の魔力が立方体に迸るのだが、

しかし立方体は迷宮の上下の岩盤のように、ハジメの錬成を拒んで行く、

 

「ぐっ、抵抗が強い!……だが、今の俺なら!」

 

ハジメは更に魔力をつぎ込む、ここまでの探索の中でも使ったことがない程の魔力量だ。

周囲がハジメの放つ魔力光により濃い紅色に煌々と輝き出す。

そこまでやってようやく魔力が立方体に浸透し始め、徐々に震え出す。

 

「まだまだぁ!」

 

ハジメは気合を入れながらさらに魔力を注ぎ込む。

どんどん輝きを増す紅い光に、女の子は目を見開き、

初めて使う大規模な魔力にハジメの額に脂汗が滲む。

それは、少しでも制御を誤れば暴走する危険を孕んだ行為でもあるという証だ。

 

そんな僅かでも均衡を崩せば全てが台無しになってしまいそうな緊張感の中、

ジータはハジメの傍らでハラハラしながら見守るしか出来ない、

そしてそんな相棒の姿は、今の俺には完全に埒外とばかりに、

ハジメの眦が吊り上がり、勢いのままに彼は己の魔力を全放出する。

 

(何やってるんだろうな……俺)

 

なぜ、この初対面の少女のためにここまでしているのか、ここまで出来るのか?

ただ人助けという言葉だけでは片付けられないだろうという疑問が、

不意にハジメの中に浮かんでくる。

だが、とにかく放っておけないのだから仕方ない。

 

そんなハジメの感情の昂りは防壁を超えてジータの心に届いていく。

その昂りは不思議な温もりがあった、そうこれは…。

 

そしてハジメ自身が深紅の輝きを放ちだし、立方体がようやく崩れ出し。

少しづつ少女の身体が露になっていく。

そして全ての戒めを解かれた少女は地面にペタリと座り込む。

一糸纏わぬその裸体はやせ衰えていたが、それを感じさせないほど神秘的な輝きに満ちていた。

 

肩で息をするハジメに神水を手渡たそうとしたジータだが。

 

未だ震えるハジメのその手を少女が弱弱しくもギュッと握り、

その深紅の瞳で真っ直ぐに、ハジメの顔を見つめているのを目の当たりにし

身体が固まってしまうような感覚に襲われる。

 

「……ありがとう」

 

その言葉を贈られた時の心情をどう表現すればいいのか、ハジメには分からなかった。

ただ、今まで感じたことが無い、そして忘れることも消えることのない何かが

まるで夜空に月の光が差したように心の中を満たしていく、そんな気がした。

 

それもまた防壁を超えてジータにも伝わる。

例えるならば確かな温もりを帯びた、夜空を照らす月のような柔らかく暖かい光だろうか。

 

(まさか…でもこの気持ちは…)

 

もしそうならば、少し寂しい気分も勿論あるが、

ハジメの中には誰かを好きになれる、愛する心もちゃんと残っているということ、

残すことが出来たということに、ジータは喜びを覚えていた。

 

ガブリエルにハジメを一人にはしないと大見得を切って叫んだが、

やはり本当は不安だったのだから。

だからこそ、ハジメにはたくさんの大切なものを得て欲しい、得ようとして欲しい。

 

しかし、恋の指南役としては般若、もとい香織には詫びなければならなくなるかもしれない。

そんなジータの心境を知ってか知らずか、ハジメと少女はいい感じになっている。

 

「……名前、なに?」

 

少女が囁くような声でハジメに尋ねる。

そういえばお互い名乗っていなかったと苦笑いをしながらハジメは答える。

 

「俺は南雲ハジメ、んでこいつは蒼野ジータ」

「ジータでいいよ、よろしくね」

 

少女は「ハジメ、ハジメ」と、さも大事なものを内に刻み込むように繰り返し呟いた。

ハジメちゃんだけじゃなくって、私の名前も…と言いかけて

少女の表情が全く動いていないことに気が付くジータ。

 

それは、表情の出し方を忘れるほど長い間、

たった一人でこの暗闇で孤独な時間を過ごしたという証だ。

しかも、信じていた相手に裏切られて。

 

状況は違えど、僅か十日ほどですら、気が狂いそうなほどの苦しみを味わったのだ。

もしも一人きりならばとっくに狂っていただろう。

例え狂うことはなくとも、その心は完全に凍っていたに違いない。

 

ハジメもそのことに気が付いたのだろう、二人は心から互いの存在に感謝し、

そして、改めて思う、目の前の少女を助けたことはやはり間違いではなかったと。

 

「そういうお前の名前は?」

 

少女は問われた名前を答えようとして、思い直したようにハジメにお願いをした。

 

「……名前、付けて」

「は? 付けるってなんだ。まさか忘れたとか?」

「もう、前の名前はいらない。……ハジメの付けた名前がいい」

 

(こっ…この子やりおる、平然と境界線を踏み越えよった)

 

そう、これは遠回しだが、明らかな告白の響きである。

 

(この押しの強さ、香織ちゃんに匹敵するかも…)

 

「……はぁ、そうは言ってもなぁ」

 

助けを求めるようにジータの顔を見るハジメだが、

勿論ジータは笑顔のカーテンでSOSを遮断する。

 

(こういうところも変わってないね)

 

ジータはGOGO!といったそぶりでハジメを促す。

きっとこの子もハジメと同じ、新しい自分と新しい価値観で生きるために、

新しい名前が欲しいのだろう。

 

(ホラ、迷ってないでキメなさい)

 

「そうだな……そうだな」

 

相棒の協力が得られないのがわかり、必死で頭を働かせるハジメ。

 

「"ユエ"なんてどうだ?、ネーミングセンスないから気に入らないなら別のを考えるが……」

「ユエ? ……ユエ……ユエ……」

「ああ、ユエって言うのはな、俺の故郷で"月"を表すんだよ。最初、この部屋に入ったとき、

お前のその金色の髪とか紅い眼が夜に浮かぶ月みたいに見えたんでな……どうだ?」

 

相変わらず無表情ではあるが、少女はどことなく嬉しそうに瞳を輝かせ、

それを少し複雑な気分で眺めるジータ。

普段は鈍感なクセに、それでいてサラリと急所を抉ってくる。

全くもって油断ならない、だからこちらとしては気が気でない。

もしかするとそっちの方面でも開花してしまったのかもしれない。

 

「……んっ。今日からユエ。ありがとう」

「おう、取り敢えずだ……」

「?」

 

ハジメは着ていた外套を脱ぎいで、ユエに手渡す。

 

「これ着とけ。いつまでも素っ裸じゃあなぁ」

「……」

 

そう言われて差し出された服を反射的に受け取りながら自分を見下ろすユエ。

そこで初めて自分が生まれたままの姿、平たく言えばすっぽんぽんなことに気が付く

ユエは一瞬で頬を染めると、ハジメの外套をギュッと抱き寄せ上目遣いでポツリと呟いた。

 

「ハジメのエッチ」

「……」

 

まるでよくあるラブコメのような典型的ボーイ・ミーツ・ガールの姿がそこにはあった。

ジータにしてみれば、疑似家族的展開にすんなり進むかと思いきや、

お父さんを娘に取られてしまった気分だ、だったら私の役は小姑で、

香織ちゃんの役はお父さんの…不…。

 

「わぁ!」

「?」

 

いきなりのジータの叫びに、こちらへと視線を移すハジメと少女。

 

「な…何でもないから」

 

取り繕うジータ、何故か自分の背後に般若が立っているように思えたのだ。

 

(ハジメちゃんが幸せなら、私も幸せだからいいけど)

 

これは強がりではなく、本当の気持ちだ。

こちとら十年選手だ、ましてあの地獄を共に超えたのだから、

もう恋だの愛だのは超越している自負はある……まぁちょっとは寂しいが。

 

ユエについてもまた同じだ、彼女もまた裏切りとそして孤独という地獄に苛まれてきた。

いわば同志といってもいい、何よりハジメの本当の……ごくありふれた意味での、

特別な一人になってくれるかもしれないのだから。

 

(でも、香織ちゃんはどうなんだろう?)

 

そんなことをふとジータが考え始めた時だった。

 

「上っ!」

 

ハジメの叫びとほぼ同時に天井から何かが降って来る。

ハジメはユエを抱きかかえ、ジータと共に縮地で咄嗟に回避する。

そして土煙が晴れた後には、二本の尻尾と四本のハサミを持つ巨大なサソリの姿があった。




難産でした、三人の関係がこれからどう進展していくのか
作者もある意味楽しみです。
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