ありふれた錬成師と空の少女で世界最強【完結】   作:傘ンドラ

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地上編です。
光輝くんは書いてて面白いけど、難しいキャラですね。



乗り越える者、縛られる者

ガナビーオーケーと、高らかに宣言する天乃河光輝の姿を見た時は全て上手くいくと本気で思えた。

 

ここはあの日以来、主のいなくなった工房、遠藤は仰向けに横たわったまま、

換気用の天窓から覗く星を眺め……己の迂闊さにため息をつく。

鐘と共に魔法が解けたお姫様のような気分だった。

 

愛子に付きっきりのカリオストロに、留守を守るよう言い遣ったのもあるが。

天蓋付きのふかふかのベッドも、やたらと広い部屋も、小市民の彼には元々性に合わなかった。

 

(だから毎晩寝れなくって…外歩いてたら)

 

あの出会いがあってから、毎晩よく眠れるようになったのは、

決して、こき使われてただけではないんだろうな。

そう思いながら、夜風に当たろうと開けっ放しの天窓まで跳躍した時だった。

 

「!」

 

天窓から不意に姿を現したカリオストロに驚き、空中でバランスを崩してしまう。

 

「と」

 

あわや転落…寸前に胸元を掴まれぐいと屋根まで引き上げられる。

 

「だからなんでテメェはいつも突然目の前に現れるんだ!」

「アンタこそどうして普通に入り口から入らないんだよ!…って」

 

キョロキョロと周囲を伺う遠藤、カリオストロの雰囲気から何かを察したかのように。

 

「アンタがここに来たってことは、何かあったとか?」

 

小声で尋ねる遠藤。

 

「ああ、何かも何かだ、よく聞けよ」

 

カリオストロは遠藤にハジメとジータの生存を伝える、自分が知りえたことを包み隠さずに。

 

「~だからきっと大丈夫だ」

「本当に……良かった、良かった」

 

俯き加減でコクコクと頷く遠藤、その目には光る物がある。

 

「愛ちゃんも知ってるんだよな、じゃあ後は白崎と八重樫に、あ、でも…」

 

またここで人目を憚るような口調になる遠藤。

 

「天之河と坂上には…」

「分ってる教えりゃしねぇよ」

 

あの二人に教えればノリノリでまたクラスメイトを戦いに巻き込みかねないのは、

遠藤にも十分理解出来た、しかも今度は救出という明確な大義名分があるのだ、例えば。

 

『君は命惜しさにジータと南雲を見捨てるのか!』

 

と言われて、ハイ死ぬの怖いです、別に友達じゃないから見捨てますとは、

思ってても誰も口には出せない。

無論、遠藤個人は俄然ファイトが湧いてきたし、自分に出来ることがあるなら喜んで協力するつもりだが、

それはあくまでも個人の決断であって、親友の永山や野村にまで協力を願うつもりはない。

 

幸いと言うべきかは迷うが、あの日以来、光輝もだが、

鬼気迫る雰囲気で訓練に励む龍太郎の姿を度々見かけている。

それと何故か檜山のツレの近藤の姿も。

 

(蒼野にホレてたってのはマジだったんだな…)

 

まぁ、彼らはどの道教えなくてもこれまで通りに動くはずだ、なら彼らに同行すればいい。

 

「でも、どうするんだよ、白崎と八重樫にはあの二人がピッタリ張り付いてるぜ

アンタが出張っても、ややこしくなるだろうし」

「そこでテメェに協力して貰いたいんだよなぁ、ククク」

 

八重歯を剥き出し、例の笑顔でポンと遠藤の肩を叩くカリオストロだった。

 

 

 

 

医者の話ではあれから五日ほど眠っていたらしい。

 

多少は整理はついたとはいえ、目覚めた折の―――その時の自分の荒れ狂いぶりは、

今も生々しく己の記憶の中に残っている。

 

そしてさらに数日…香織はベッドからその身を起こしてはいたものの、

唇を真一文字に結んだまま、じっと窓にかかったカーテンの模様を見つめている。

もう何日目だろうか?

 

届いたはず…だった、あと数秒、あと数十センチ…だが。

ハジメを固く抱きしめ闇へと消える、ジータの姿が瞼に焼き付いて離れない。

 

思ってはいけないことだと分かっていても、どうして自分じゃないのかとの思いが湧き出しては、

必死でそれを否定する……それでも。

 

「ズルイよ」

 

と、誰にも聞こえないようにだが、何度も呟いてしまう。

そもそもどうしてこうなったのだ…ああそうだ。

 

「香織……君の優しさは俺も認める。でも、クラスメイトの死に、

いつまでも囚われていちゃいけない! 前へ進むんだ。きっと、南雲もそれを望んでる」

 

感情の籠らない視線で、先ほどから光輝を眺める香織。

勿論、彼が自分を助けようと身を呈してくれたことは理解している。

そして現在、彼が自分を心配して時間の許す限り付き添っていることもだ。

 

「出てってよ…」

 

だから、感謝こそすれ恨むのは筋違いだ……それでも。

 

「いや、俺は出て行かないぞ! 君をこのままにして出ていくわけにはいかない」

 

香織の肩を両手で抱き寄せる光輝、かつては頼もしいと思えたその言葉が温もりが、

今はひどく煩わしく思える。

 

「香織、大丈夫だ。俺が傍にいる」

 

何の疑いもなく、まっすぐに幼馴染の、

守るべき存在だと勝手に思い込んでいる――――瞳を見つめる光輝。

 

「俺は死んだりしない。もう誰も死なせはしない、香織を悲しませたりしない

ジータも必ず助け出すと約束するよ!」

 

「やめて…」

 

「辛いかもしれないが、現実を直視して乗り越えるんだ!

この世界には俺たちの救いを待っている人々がたくさんいるんだ!立ち止まってはいけない!」

 

じゃあ、私が苦しんでるこの現実を直視してよ、と香織は思ってから、

まるで今の私ってジータちゃんみたいだなとも思う……ジータもこんな気持ちだったのだろうか?

だが同時に香織はこうも思う、光輝もまた無意識だろうが、苦しんでいるのだと、

 

何故なら、彼の言葉は己に対して言い聞かせるような響きがあることに気が付いてしまったから。

だからこそ使命感に、誰かを救うという行為に縋ることで、無意識に精神の均衡を保とうとしている。

しかしそれでも縋られる余裕はこちらにもないのだ。

 

必死で光輝から目を逸らす香織、これ以上はいけない。

これ以上彼の言葉を聞いていたら、きっともう……友達には、幼馴染には戻れなくなってしまう。

 

「だからっ!」

「いい加減にしなさい!」

 

光輝の言葉を遮るように雫の叱責が飛ぶ。

背後からの怒気にポカンとした表情を浮かべる光輝と龍太郎。

 

「雫……俺たちは」

 

なおも言い返そうとする光輝を制する雫。

 

「あなたたちが香織の事を思ってくれてるのはよく分ってるわ、でもね、

これはやっぱり時間が必要なのよ」

「大丈夫よ、こういうことは同じ女の私に任せて、今日は恵里ちゃんもいるし」

 

雫の背中からペコリと中村恵里が顔を出し、光輝らに頭を下げる。

 

「あ…ああ」

「隣にいるから、何かあったらいつでも言うんだぞ」

 

納得いかない表情を見せつつも、二人はひとまず部屋から退散する。

背後でパタリと扉が閉まる音がした。

 

 

 

「南雲君とジータがあんなことになって、焦ってるのは分るけど……もう少しさ」

 

話しながら雫は、香織のほつれた髪を梳かしてやる。

 

「光輝くん、ジータちゃんのことばかり言ってるの、酷いよね、南雲くんも一緒に落ちたのに」

 

ポツリと呟く香織。

それについては何か思うところがあるのか表情を曇らせる雫。

 

「雫ちゃん、私、信じないよ。南雲くんは生きてる。死んだなんて信じない」

「香織、それは……」

 

香織の言葉に悲痛そうな表情で諭そうとする雫。

しかし、香織は両手で雫の両頬を包むと、微笑みながら言葉を紡ぐ。

 

「わかってる。あそこに落ちて生きていると思う方がおかしいって、……でもね、

確認したわけじゃない、可能性は一パーセントより低いけど、

確認していないならゼロじゃない。……私、信じたいの」

 

「それにジータちゃんがいる、ジータちゃんならきっと南雲くんを守ってくれてるはず」

 

ここでニコと笑う香織、その目には狂気や現実逃避の色は見えない。

 

「光輝くんがジータちゃんが生きてるって思い込むなら、私も南雲くんが生きてるって

思い込んだって別にいいよね」

「でも…やっぱり…このままじゃ、天之河くんのいう事にも私、一理あると思う」

 

どことなく板挟み…そんな雰囲気で恵里が話に割って入ろうとしたその時。

窓がコンコンとノックされた―――四階の。

 

 

 

 

 

「やっぱり雫や恵里だけには任せておけない、行くぞ龍太郎」

「ああ」

 

さも当然といった風に二人は部屋を出、隣室に向かおうとするが。

 

「あ、ちょうどよかった」

「?」

 

不意に掛けられた声にキョロキョロと周囲を見回すが、

気のせいかと思い直し―――。

 

「気のせいちゃうわ!」

 

この大声には流石に気が付く。

 

「なんだ遠藤か、いきなり出てくるな」

「正面からちゃんと声掛けただろうが!」

 

憤懣やるかたないといった体で言い返す遠藤だが、本題はそんなことではない。

 

「ちょっと頼みがあるんだ、新しい技思いついてさ、お前らで試したいんだ」

「永山や野村がいるだろう」

 

鬱陶し気に言葉を返す光輝、こいつは南雲の使っていた工房に出入りしている、

それが自分に取って当てつけのように思えてならなかった。

 

「いや…アイツらじゃなくってお前ら相手でも通用するかどうかをだな」

「俺たちは今大事な用事があるんだ、後にしてくれ」

「インスピレーションって大事だろ、な」

 

光輝のみならず、龍太郎の眼も剣呑な雰囲気を帯びてくるが、遠藤は退かない。

彼らよりもカリオストロの方がずっと怖いのだから、

とはいえど、あまり口が達者な方じゃないので、かなり苦しい。

 

(おい、しっかりしやがれ)

(わかってるよ、でも)

(あんまりこっち見るんじゃねぇ)

 

遠藤から見て正面、光輝と龍太郎の背後の窓にはカリオストロが貼りついていて、

香織の部屋へと訪れる機会をうかがっている、ちなみにここは四階だ。

 

「?」

 

遠藤の視線に何かを感じたか、振り向く仕草を見せる光輝、

慌てて身を隠そうとするカリオストロ―――そこに。

 

 

「私も皆さんの訓練にとても興味があります」

「愛子先生!もうお身体はいいんですか」

 

思わぬ人物、畑山愛子が助け舟を出した。

意外な人物の来訪に声を弾ませる光輝、それをジト目で眺める遠藤。

 

「ええ、教師足るもの、こういう時こそ動かないと……それに

天之河君と坂上君には今後のことについてお話を聞きたいと思ってますので」

 

彼らも愛子が自分たちの戦いを快く思っていないことは知っている。

それに加えて此度の件で、彼女に関してはバツの悪い思いを抱えていたのだ。

この来訪を光輝は例の如く、ご都合主義で自分たちがようやく認められたと解釈した。

 

「愛子先生がそういうなら喜んで!なぁ」

「あ…ああ」

 

愛子と遠藤を伴い、階下へと消えていく光輝と龍太郎。

その際、そっと愛子がカリオストロへと微笑んだのを彼女は見逃さなかった。

 

(愛子、ナイスアシスト!)

 

とはいえど、結果的に生徒を騙そうとしているのだ、

全体の利益のために―――教師ではなく大人の判断を以って、

日々常に生徒のために教師たらんと努めている姿を知るだけに、カリオストロにとって、

愛子のその心中は察して余りあった。

 

 

 

 

「これノック……だよね」

 

窓を叩くコンコンコンコンと規則正しく響く音に怪訝な顔をする恵里。

 

「でも、ここ四階」

 

木刀を握り、そっと窓際に立ち気配を探る雫、その耳に。

 

「雫…雫だな、オレ様だよ」

「カリオストロちゃん!」

「え!」

 

カリオストロという言葉に反応し、ベッドから飛び跳ねるように立ち上がる香織、

だが十日以上ベッドの上で過ごした足は震え、ふらふらとその場に頽れる。

 

「おひさしぶりっ!雫お姉ちゃんにカオリン!」

 

雫に窓を開けて貰い手早く部屋に入りながら周囲を見渡すカリオストロ…、

余計な奴らは…あれは。

 

(……恵里とか言ったな、まぁいいだろう)

 

「えりちもお久しぶりっ!」

「もう!えりちって言うの止めて下さい!」

 

顔を真っ赤にしてプンプンと抗議する恵里。

 

「かしこくってかわいーと思うんだけどなー」

「だからそれ以上はホント止めて…」

 

彼女のことはそれほどよく知らないが、

香織と雫、この二人の不利益になるようなことはしないだろうとは、

雰囲気や二人の彼女への態度で理解出来た。

 

「カリオストロちゃん!」

「挨拶はいいよっ!、本題から入るからっ」

 

声を弾ませる香織を手で制しながら、カリオストロはいきなり核心に入る。

 

「三人とも喜んでっ!ハジメお兄ちゃんとジータお姉ちゃんはちゃんと生きてるよっ」

 

生きている、この単語を耳にした香織の瞳から涙が溢れだす。 

この少女がどこの何者なのか、正直未だに得体が知れないのは事実だ。

だが、ハジメとジータのために彼女が尽力している姿を何度も見ている二人にとっては、

長年の幼馴染の"生きている"よりも、彼女の"生きている"の方が信じるに足ると、

正直にそう思った。

 

「生きて…生きているの!南雲くんもジータちゃんも!」

 

嗚咽交じりで身体を震わせる香織の背中を、同じく目を潤ませながらさすってやる雫。

良かったねと恵里も香織の肩に手をやる。

 

「うんっ!天才のこのカリオストロちゃんが言うことに間違いはないよっ!」

「しかも二人ともすっごく強くなってるんだからっ!でもね!

 安心してもいいけど、気を緩めちゃダメ」

 

「そうだよね」

 

確かにその通りだ、今は生きていることが確かだとしても、

奈落の底がどんなところなのか、誰も知らないのだから。

 

二人は未知の領域で手を取り合い、今も共に戦っているのだろう。

香織の胸がチクリと傷んだが、それは決して嫉妬だけではない。

むしろ自分の代わりに、ジータはハジメを守ってくれているのだ。

それをズルイだなんて思っていた、自分が恥ずかしくてならない。

 

だから自分のやるべきことは…。

 

「だから元気出して、二人が帰って来る時まで頑張らないとね!」

 

もう涙は止まっていた、カリオストロの言葉に強く頷く香織。

 

「私、頑張るよ、ジータちゃんに負けないくらい、でないと、

あの二人の隣に立つ資格すらなくなるよね」

 

朧げな希望が確信に変わった、もう香織に迷いはない、

もはや光輝に何を言われようとも、揺らぐことはないだろう。

その決意に満ちた顔を見て、安堵の笑みを浮かべる雫。

これなら安心して香織を送り出すことが出来る。

 

 

雫は聞いてしまったのだ、訓練場の片隅で龍太郎に話しかける光輝の言葉を。

 

「南雲は確かに立派だった、惜しいことをした、だが遅すぎた、

あいつのこれまでの誰かの好意に甘えてばかりの生き方を認めるわけにはいかない!」

「ジータはあいつの見せかけの優しさに惑わされて見誤ったんだ、だから俺たちが」

「で…でもよ」

 

明らかな戸惑いの色を見せる龍太郎……あの決闘の夜以来、光輝は変わってしまった。

確かに、元々人の言うことに耳を貸さないところはあった。

だが……ここまで己の正義に拘る、独善的な男だっただろうか?

あの兄妹が……ジータが絡んでしまうと、あからさまに彼は心の平衡を失ってしまう。

さらにこの異世界召喚という異常な日々がそれに拍車を掛けている

 

そこで光輝は何か逡巡しているような表情の龍太郎の肩を掴む。

 

「龍太郎、俺の言ったことに今まで間違ったことがあったか?」

 

流石に龍太郎とて、あの状況で二人が生きているとは考え難い。しかし

光輝の言葉を聞くと、自然となんだか信じられてしまう、そんな気がしてしまうのだ。

それは幼き日々からの"刷り込み"のようなものなのかもしれない。

 

「お前になら(俺の)ジータを託せる、お前にはその資格がある、俺の一番の親友だからな」

「ああ!必ず助け出そう!」

 

光輝の言葉に違和感を覚えつつも、今はこう答えることしかできない龍太郎、

彼もまたジータに想いを寄せているのは事実なのだから。

生きていれば当然嬉しい、だから今は余計なことを考えず、

鍛錬に励めばいい、それだけだ。

 

(ジータさえ救い出すことが出来れば)

 

そうすればきっとあの頃の、少し困ったところもあるが、いつも光り輝いていた

自慢の親友、天之河光輝が戻ってきてくれるに違いないのだから。

坂上龍太郎にとって、まだ世の中は単純な構造で出来ていた。

 

 

目に見える努力、分かりやすい強さ、正しさを求め、それを実際手にしてきた光輝にとって、

南雲ハジメはそういう人間にしか映ってなかった。

そしてそんな彼を止められない龍太郎。

 

いや、ハジメに限らず天之河光輝にとって殆どの人間は"その他大勢"なのだろう。

理想郷の王たる自分に称賛と名誉を贈るためだけの、だからこそ、

理想郷の住人たる資格を与えてやっているにも関わらず、

正しい筈の自分を決して認めないジータに執着し、自分の王国に踏み込み、

宝物を奪おうとしていたハジメを許せないのだろう。

 

悲しみと憤りで視界が滲み、呼吸が乱れていく、そして何より腹が立つのは、

こんなことを聞かされてなお、光輝を見捨てることが出来ない、

離れることが出来ない、中途半端な自分たちの弱さだった。

 

ともかくこんなことを先程までの状態の香織に聞かせるわけには行かなかった。

 

「あ、でもあの二人には」

「わかってる、だから遠藤くんたちを使って遠ざけたんだよね」

 

彼らの話し声はドアの向こうからでも聞こえていた。

 

「恵里もお願い、このことはみんなには…光輝と龍太郎には内緒にしてて、

鈴にも言っちゃダメよ」

 

雫の頼みにコクリと頷く恵里。

 

その様子を見て、ククク、じゃあなと例の笑顔を見せるとカリオストロは帰っていく。

メカニカルな大蛇の背に乗るその姿は、某昔ばなしのOPみたいだと三人は思った。

 

 

そしてハジメたちがユエと出会い、サソリモドキとの死闘を生き抜いた日。

 

光輝たち勇者一行は、再び【オルクス大迷宮】にやって来ていた。

但し、訪れているのは光輝達勇者パーティーと、

近藤を中心とした檜山を除く、中野、斉藤の小悪党組、

それに永山重吾という大柄な柔道部の男子生徒が率いる、遠藤含む男女五人のパーティーだけだった。

 

しかし、光輝達は現在、立ち往生していた。正確には先へ行けないのではなく、

何時かの悪夢を思い出して思わず立ち止まってしまったのだ。

 

そう、彼らの目の前には何時かのものとは異なるが同じような断崖絶壁が広がっていたのである。

次の階層へ行くには崖にかかった吊り橋を進まなければならない。

それ自体は問題ないが、やはり思い出してしまうのだろう。

皆、奈落へと続いているかのような崖下の闇をジッと見つめたまま動かなかった。

 

「香織……」

「大丈夫だよ」

 

雫の心配そうな呼び掛けに、強い眼差しで眼下を眺めていた香織は、

ゆっくりと頭を振ると雫に微笑んだ。

こんなところで躊躇している暇はない、ここを超えないとハジメたちの元には、

辿り着けないのだから。

 

「行くよ、みんな」

 

力強く宣言し自ら先頭に立とうとする香織。

それをようやくわかってくれたという表情で頷く光輝。

 

「香織の言う通りだ!そして死んだ南雲のためにも、今も暗闇の中で一人俺たちを待っている

ジータを早く救い出そう!

 

彼の中では、南雲ハジメという異分子はすでに過去の存在でしかなかった。

 

 

 

 

一方でハジメの存在をどうしても過去に出来ない男もいた。

 

荒れ果てた部屋のベッドの上で、屈辱にのたうちまわるのは檜山大介、

その目には憎しみが爛々と燃えていた。

数日に一度の食事、いやエサの時間。

彼の飼い主は信じられない、信じたくないことを彼に教えたのだ。

 

「南雲くんたち、生きてるんだって、それも、すっごく強くなってるみたいだよ」

 

床のパンを拾う檜山の手が止まる。

 

「二人が戻ってきたら…そしたらキミどうなっちゃうんだろうね?」

 

ひいと檜山は怯えるような―――いや実際怯えの声を上げる。

その声を満足げに聞きながら、床にスープをブチ撒け、嘲るような口調でさらに続ける。

 

「そして香織姫は南雲王子の物だね、いいのかな?」

「い……けねぇだ……!」

 

可能な限り大声を出したつもりだが、空腹で衰えた身体では掠れるような音しか出なかった。

 

「じゃあ、ボクに従ってくれるよね?」

「あ…がっ…」

「あの怖い天才少女もボクが何とかしてあげるよ、逆を言えば」

 

出方次第では何とかしないという意味だ。

 

「ね」

 

コクコクと頷くしかなかった檜山、こうして命とパンの一片と、ぬるいスープで彼は魂を売った。

 

「じゃあボクはこれから訓練に出かけるから、それまで死なずに待ってるんだよ」

「もちろんそのまま死んでもらってもいいけどさ、ハハハ」

 

その癪に障る笑い声が耳に残って離れない、いやそれよりも。

 

(南雲のくせに俺をこんな目にあわせて、その上お前は蒼野と二人でのうのうと生きているのか!

渡さねえ…香織だけは絶対に)

 

 

 

しかし、ハジメとジータの生存を知らされているのは、カリオストロ以外では、

畑山愛子、白崎香織、八重樫雫、中村恵里、遠藤浩介の五人だけだ。

彼らの中に人面獣心の輩がいるとでもいうのであろうか?

だとすれは、それは一体何者なのだろうか?

 

 

 

 




檜山くんは南雲絶対殺すマンにクラスチェンジしました
ある意味彼は魔王の生みの親でもあるので、
ただのやられ役で終わらせるのは少し惜しいなと思ってます。

3/23 光輝と龍太郎の描写を若干ソフトに修正
光輝はともかく、龍太郎については少し酷く書き過ぎと感じたので
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