遂に、次の階層でハジメらが最初にいた階層から百階目になるところまで来た。
ここまでの道中、ひと悶着がなかったわけでもないが、概ね順調ではあった。
「私に構わず撃ってって言われてホントに撃つかなあ」
「返す返すも申し訳ございません」
概ね順調であった、ホントだぞ、何があったか調べるなよ。
で、現在彼らは第百階層の一歩手前の階層にて、装備の確認と補充にあたっていた。
ユエは安らかな…というよりは弛緩した表情でハジメたちの作業を見つめている
まるでここが迷宮の最下層ということを忘れさせるほどに。
ユエと出会ってからどれくらい日数が経ったのか時間感覚がないためわからないが、
最近、ユエはよくこういう柔らかく安らかな顔を見せる。
露骨にハジメたちに甘えてくるようにもなった。
そんな彼女を微笑ましく見つめるジータ、いい傾向だと素直に思う。
多少は嫉妬もあるが、もとより庇護の感情の方が強い。
恋敵……ではあるのだろうが、やっぱり妹のような感情を抱いてしまう。
それでいて時折見せる妖艶な表情には、やはり危険信号を感じずにはいられない。
(ハジメちゃんだって男の子なんだよ)
特に拠点で休んでいる時には必ず密着している。
就寝時もハジメとジータの腕を掴んで決して離れようとはせず、
座っていれば背中から、吸血時は正面から抱きつき、
終わった後も中々離れようとはせすに、ハジメの胸元に顔を埋め、
安らかな表情でくつろぐのだ。
勿論、邪魔をするような無粋な真似はしない。
羨ましいと思うよりも、なんとなくそれが実に当然の風景に思えて。
それでジータもまた背中から、時には正面からハジメに抱き着き、
そんな時に私とハジメちゃんにもし女の子が……と、一瞬そんな考えが頭をよぎり
ブンブンと頭を振ってそれを打ち消すのが、彼女に取ってここ最近の常であった。
(最近変だな、私)
「ハジメもジータも……いつもより慎重……」
「うん? ああ、次で百階だからな。もしかしたら何かあるかもしれないと思ってな。
一般に認識されている上の迷宮も百階だと言われてたし」
「ちょっと覗いてみたんだけど、やっぱり他と雰囲気が違うから……そう、
ユエちゃんが封じられてた階と雰囲気が似ているの」
その言葉を聞いたユエの顔が一気に引き締まる。
一瞬で戦闘モードに切り替わったユエの美しい横顔に感嘆めいた吐息を漏らすジータ。
(ギャップ萌えってこんなのかな?)
これまで二人、途中から三人は数々の困難、強敵を潜り抜け
その技に磨きをかけてきている、その自負はある。
ハジメとジータはまるで示し合わせたかのように、同時にステータスプレートを手にする。
そのシンクロするかのような動きを見て、何故か嬉しそうに微笑むユエ。
南雲ハジメ 17歳 男 レベル:76
天職:錬成師
筋力:1980
体力:2090
耐性:2070
敏捷:2450
魔力:1780
魔耐:1780
技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成]
魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作] 胃酸強化 纏雷 天歩[+空力][+縮地][+豪脚]
風爪 夜目 遠見 気配感知 魔力感知 熱源感知 気配遮断 毒耐性 麻痺耐性 石化耐性
金剛 威圧 念話 言語理解
蒼野ジータ 17歳 女 レベル:76
天職:星と空の御子
筋力:200+1386
体力:220+1463
耐性:220+1449
敏捷:210+1715
魔力:200+1246
魔耐:200+1246
技能:全属性適性 団員x1 召喚 星晶獣召喚(条件:同調者)同調(南雲ハジメ、同調率70%)
剣術 統率 防壁Lv8 挑発 威圧 恩寵 背水 コスプレ サバイバル
魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作] 胃酸強化 纏雷
天歩[+空力][+縮地][+豪脚] 風爪 夜目 遠見 気配感知
魔力感知 熱源感知 気配遮断 毒耐性 麻痺耐性
石化耐性 金剛 念話 言語理解
思えば遠くに来たものだと互いに思う。
「……きっと懐かしいって、また会いたいって思える気持ちなんて
もう残ってなかったんだろうな」
ジータの顔を見て呟くハジメ。
「まだ終わったわけじゃないよ、おにーさん」
「おに…やめろよ」
やはりハジメもこの疑似家族的な雰囲気を多少は意識していたのか、少し照れながら言い返す。
「それに俺は」
「?」
「何でもない」
(俺の命のためだけに戦っているんじゃない……)
忘れるわけにはいかない、爪熊に片腕を奪われた時、
ジータの身体にも同じ傷跡が刻まれたことを。
魔物肉を食べ、痛みに耐えている最中、僅かだがジータも顔を顰めていることを。
(もしかすると俺が死んだら……ジータも)
聞いたことはない、どうせ聞いても否定するし、こればかりは試せない。
心の中にだけその言葉を刻むと、ハジメはまた準備の手を早めるのであった。
「凄いでしょ、ここ」
「凄い」
「ああ」
ジータの案内で第百階層に降り立ったハジメとユエは、
眼前に広がるその荘厳な、その階層は、直径五メートルにもなる、
優美な彫刻が象られた無数の巨大な柱が等間隔にそびえ立つ、
まさしく太古の大神殿としか形容できぬ空間に感嘆の声を漏らす。
警戒しつつも、その芸術的な風景を堪能しながら奥へと進むと、
全長十メートルはある美しい彫刻が彫られた巨大な両開きの扉が現れる。
特に、七角形の頂点に描かれた何らかの文様が印象的だ。
「……これはまた凄いな、もしかして……」
「……反逆者の住処?」
いかにもラスボスの部屋といった感じだ、実際、感知系技能には反応がなくとも
ハジメの本能が警鐘を鳴らしていた。
この先はマズイと、それはジータもユエも感じているのか、うっすらと額に汗をかいている。
しかしそれでも。
「ハッ、だったら最高じゃねぇか。ようやくゴールにたどり着いたってことだろ?」
自身を鼓舞するような口調のハジメ。
「例え、この先に何があろうとやるしかないよね」
「……んっ!」
「ジョブは変えなくっていいのか?」
「いいよ、このままダークフェンサーで行く」
クラスⅣやEXⅡを解放出来れば自分も二人と同等の戦力を得られるのだが、
現状ではやはり支援役が妥当だろう。
そしてハジメとユエ、二人の絶大な攻撃能力を生かすには、やはり防御よりも攻撃だ。
この先に待つ相手が例の大サソリよりもさらに頑丈な存在だと仮定すると、
結局、攻撃が通らなければジリ貧なわけなのだから。
だが……あの大サソリはここまでを鑑みても余りにも異質な存在だった、まるで、
(ユエちゃんを逃がさないためじゃなく、むしろ守ってるみたいな……)
もしかすると、あれを基準にしてはいけないのかもしれない。
守りは行使中は動けなくなるものの"金剛"がある。
回復は神水を使えばいい、本来おそらく大量に消費したであろう毒霧階層を、
ほぼ無消費で切り抜けることが出来たおかげか、ストックはまだ十分だ。
三人は互いの顔を見て強く頷くと、最後の柱の間を超えた。
その瞬間、扉とハジメ達の間三十メートル程の空間に巨大な魔法陣が現れた。
赤黒い光を放ち、脈打つようにドクンドクンと音を響かせる。
「あれはベヒモスのっ!」
「いやあれよりうんとデケェ!マジでラスボスだぞ!こりゃ!」
「……大丈夫……私達、負けない……」
一瞬、後退こうとしたハジメとジータの腕を、ユエがぎゅっと掴む。
「だよね」
魔方陣がより一層強く輝き、光と共に巨大な影が現れる。
光が消えた時、そこにあったのは、体長三十メートル、六つの頭と長い首、
鋭い牙と赤黒い眼の化け物、例えるなら、神話の怪物。
「ヒュドラ」
ハジメとジータはどちらともなく呟いた。
「「「「「「クルゥァァアアン!!」」」」」」
六つの頭が同時に咆哮し、凄まじい殺気がその場に満ちる。
しかしそれよりも早く、ジータのアビリティが発動する。
『ミゼラブルミスト』『グラビティ』『アローレインⅢ』
霧が、重力が、弾幕が、みるみるヒュドラを戒めていく。
赤い紋様が刻まれた頭がガパッと口を開き火炎放射を放った。
が、その動きは散漫で、かつ弾幕に阻まれ、本来の威力とは程遠い様に見える。
無造作にハジメはドンナーを構えトリガーを引く、電磁加速された弾丸が赤頭を吹き飛ばした。
まず一つ、少々拍子抜けしつつもハジメが内心ガッツポーズを決めた時
白い文様の入った頭が「クルゥアン!」と叫び、白い光が吹き飛んだ赤頭を包み込んだ。
すると、まるで逆再生でもしているかのように赤頭が元に戻った。
どうやら白頭は回復魔法を使えるらしい。
ハジメに少し遅れてユエの氷弾も緑頭を吹き飛ばしたが、
同じように白頭が回復させてしまう。
ジータは"念話"でハジメとユエに作戦を伝える。
"白いのを狙って!キリがなくなる!"
"オッケー!"
"うんっ!"
白頭を狙い出したのを察知したか、青い文様の頭が口から、
散弾のように氷の礫を吐き出し、さらに赤頭も火炎弾を発射する。
その狙いはともかく攻撃の密度が高く、ハジメとユエを以ってしても容易に射線を取らせない。
「召喚行くよ!ハジメちゃん」
頷くハジメ、魔力が上がり、特訓を重ねたからなのか、
互いに手を翳す動作は必要なくなった。
どうやら両者の意思が確実に重りあえばそれで充分なようだ。
「セレスト!」
ジータの求めに呼応して顕現したセレストが、闇のベールにヒュドラを包む…が。
ヒュドラたちは一切動じない―――暗闇が効かない!
「蛇だから匂いや体温で感知してますってこと!」
「緋槍!」
ユエから放たれた炎の槍が白頭に迫る、が、直撃かと思われた瞬間、
黄色の文様の頭がサッと射線に入りその頭を一瞬で肥大化させ、
そして淡く黄色に輝き、ユエの魔法を受け止めてしまった。
そこに空力を使い跳躍したジータが白頭に斬り込むが……。
やはり黄頭がすかさずカバーに入り。
ぼよおぉぉぉんん~。
大サソリとはまた違うタイプの硬さで防御しているのだろう、
まるでゴムボールを叩いたような真の抜けた音と共に、ジータは大きく弾んで
後方の壁へと叩きつけられそうになる。
剣が当たった際の感触の気持ち悪さに顔をしかめつつも、空中で体勢を整えるジータ。
さらにハジメのドンナーをも黄頭は受け止め、平然とこれで終わりかとばかりに、
ハジメ達を睥睨している。
「ちっ! 盾役か、攻撃に盾に回復にと実にバランスのいいことだな!」
焼夷手榴弾を投げながら毒づくハジメ。
「一体で一つのパーティってことなのね」
手榴弾の爆発に巻き込まれないように距離を取りつつ、作戦を練るジータ。
あの白頭の回復能力は回復なんて生易しいものではない、復活に近い。
一時的に止めてその間に……という手は有効だとは思えない。
やはり何とかして白頭を落とすしかない。
もう一つの方法としては、ハジメのシュラーゲンと、
ユエの蒼天で六つの頭を同時に潰すというもの。
だが、これは仕留めきれない場合、後が無くなる。
ジータがそこまで考えた所だった。
「クルゥアン!」
「いやぁああああ!!!」
ヒュドラとユエ、二つの叫びと悲鳴が同時に耳に届く。
咄嗟にユエの方を見ると、何かに酷く怯え悶えている。
さらにそんなユエを大口を開けて狙う青頭、ユエをその目に捉えて動かない黒頭。
「ハジメちゃん!黒頭っ!」
縮地で一気に接近するとその勢いのままに剣を振るい、青頭の首を切断しつつ、
ハジメに指示を飛ばすジータ、返事代わりのドンナーの発射音と同時に黒頭が弾け飛ぶ。
さらに赤頭もユエを狙おうとするが、ハジメの投げた閃光手榴弾と音響手榴弾に怯んだか、
慌てて首を引っ込める。
その隙に二人はユエを抱えて柱の陰に隠れた。
「おい! ユエ! しっかりしろ!」
「ユエちゃん!何されたの!」
きょとんと二人の顔を眺めるユエ、その瞳はしっかりとしていたが、震えが止まっていない。
「…よかった……見捨てられたと……また暗闇に一人で……」
ギュと二人の身体に抱き着くユエ。
彼女曰く、突然、強烈な不安感に襲われ気がつけば、一人ぼっちで、
再び封印される光景が頭いっぱいに広がり
恐怖と動揺で何も出来なくなってしまったのだという。
「トラウマを呼び起こすってわけか、あの黒頭は」
「バッドステータス系の魔法ね、タチが悪いよ、どこまでも」
そもそもこんな少人数で挑むこと自体間違いなのだろう、
ヒュドラが正気を取り戻しつつある気配が届き、身構える二人、だが。
「……ハジメ、ジータ」
こんなことをしている場合ではないと分かっていても、ユエは二人の服の裾を掴んで離さない、
いや、離せない。
「大丈夫、みんなで日本に…私たちの故郷に帰るの」
ギュッとユエを抱きしめるジータ。
「もう私たちは家族だから、一緒だから」
「ヤツを殺…倒して生き残る。そして、地上に出て故郷に帰るんだ……一緒にな、だから」
ハジメもまたユエの頭を撫でてやる、本当ならキスの一つでもすべきなのだろうが、
流石に余裕はない。
「一緒に乗り越えよう、アイツを!」
上手く笑えているだろうか?と思いつつ自分で思った最高の笑顔をユエに向けるハジメ。
少なくとも、かつての、ただ厄介事を避けるだけの愛想笑いではないことだけは確かだ。
「んっ!」
ユエも負けじと綺麗な笑顔で応じる。
「ジータ、ユエ、シュラーゲンを使う、連発できないから援護頼む」
「「任せて!」」
ジータはともかく、一段とやる気に溢れた口調のユエ。
もう先程までの不安や恐れはその声からは一切感じられない。
三人は作戦を確認すると一気に柱の陰を飛び出し、今度こそ反撃に出る。
「"緋槍"!"砲皇"!"凍雨"!」
『アローレインⅢ 』
ジータの呼んだ矢の弾幕を縫うように、ユエの魔法が立て続けにヒュドラに炸裂する。
黄頭がカバーに入ろうとするが、白頭を狙うハジメの動きを察知し、
その場で咆哮を上げる。
「クルゥアン!」
すると近くの柱が波打ち、変形して即席の盾になろうとしたが。
『ディレイ』
ここぞと時に温存しておいたアビリティを使うジータ。
柱の変形が一拍遅れ、ユエの魔法がそのままヒュドラの頭に直撃する。
黒赤青緑の頭が悲鳴にのたうつ。
その隙にハジメは空中にてシュラーゲンを構えるが、それよりもヒュドラの回復が早く
黒頭の瞳が今度はユエではなくハジメを捉える。
一瞬動きが止まるが、歯を喰いしばり悪夢を振り払う。
そこに今度は赤青が一斉射撃を仕掛けるが。
「召ぶよ!ハジメちゃん!」
「ガルーダ!」
ジータの叫びと共に翼を生やしたワイルドな外見の少女が幻影でハジメたちを包み、
ヒュドラの感覚を狂わせる。
ハジメは炎と氷をすり抜けるように、空中の足場に立ったまま、狙いを定める。
その姿は風の幻影に包まれブレている。
黄頭が白頭を守るように立ち塞がるが、そんな事は想定済みだ。
「まとめて砕く!」
気合いと同時にトリガーを引く。
大砲でも撃ったかのような凄まじい炸裂音と同時に、
約一・五メートルのバレルにより電磁加速を加えられた、赤い弾丸が射出される。
その威力はドンナーの最大威力の更に十倍を誇る。
その発射の光景は極太のレーザーのようにジータには見えた。
衝撃でシュラーゲンのベルトがちぎれ、銃身ごと後方に吹っ飛ぶ。
しかし、それでも射出された弾丸は真っ直ぐ周囲の空気を焼きながら黄頭に直撃し。
さらにその背後の白頭をも粉々に粉砕しながら貫通し、最後は背後の壁に当たって大爆発する。
いつぞやの相方を速攻で殺られたサイクロプスのような感じで、ヒュドラの動きが止まる、
そこへ。
「"天灼"」
残る四つの頭の周囲に六つの放電する雷球が取り囲み、次の瞬間、
それぞれの球体が結びつくように放電を互いに伸ばしてつながり、
その中央に巨大な雷球が現れたかと思うと、
範囲内に絶大な威力の雷撃を注ぎ込んでいく。
雷の轟音とヒュドラの悲鳴が重なりあい、やがてその音と光が消えた跡には
六つ全ての首を失ったヒュドラの亡骸が残るのみだった。
全力を出し切ったユエがその場にへたり込む。ジータが二人へと笑顔で手を振る。
ハジメもまた笑顔を見せると、シュラーゲンを拾うべくヒュドラの残骸から背を向ける。
が!
「ハジメ!」
ユエの叫びに振り向くと、そこには七つ目の頭が胴体から生えようとしていた。
その口内には先程のシュラーゲンを思わせる光。
ガルーダはもう使ってしまった、ディレイやミゼラブルミストetcも、
まだ待機時間中だ。間に合わない、いや、まだ手はある!
「ジータ!」
召喚を―――のハジメの叫びを聞く前に、すでに彼女は動いていた。
「黒麒麟!」
ハジメの頭上の空間から漆黒の装甲を纏った悍馬がいななき、銀色の頭に吶喊する。
銀頭は小煩げにプイと頭を振るだけで麒麟は消えてしまったが、その一瞬で十分だった。
『ディレイ』
ユエを焼き尽くすはずの極光が放たれる前に一度掻き消える、
その隙にユエを抱きかかえ、縮地で飛びのくハジメ、その数瞬後に、
ユエの立っていた場所を光が焼き尽くす。
そして、後方の床に転がってるシュラーゲンからカチャリとリロードの音。
そう、この黒麒麟は召喚することにより、
ジータのアビリティおよびユエの特殊技の即時使用、さらにはハジメの特殊武器のリロードをも、
自動的に行ってくれる。
ただしその召喚間隔の長さから、戦闘中使えるのはおそらく一度が限度ではあるが。
ユエをジータへと投げ渡すとハジメはそのままシュラーゲンの元へと走る。
それを援護するように黒霧と重力、そして矢の雨の弾幕が銀頭を戒める。
黒霧で精度を半ば失なわせ、矢の雨で攻撃を相殺させているとはいえ、
元々の精度も攻撃力も半端ないのか、次々と光弾がハジメの身体を掠めていく、
だがそれだけだ、決して当たらない。
"天歩"の最終派生技能[+瞬光]。知覚機能を拡大し、
合わせて"天歩"の各技能を格段に上昇させる。
この死闘の中でハジメはまた一つ、"壁を超えた"のだ。
ユエもまたさらなる魔法攻撃でハジメを援護しようとするが、
「ダメ!魔力は蒼天に取っておいて!」
彼女の操る技は威力も甚大なら、消費する魔力も甚大なのだろう、
明らかに燃料そのものが足りてないのが見て取れる。
今度こそシュラーゲンと蒼天の同時攻撃で確実に止めを差したい。
「ジータの血……飲ませて」
「いいの?」
いつものことなのに、何故か今回に関しては聞き返してしまった。
「いい、私はハジメを守りたい、ジータもハジメを守りたい、同じ、それに」
「ハジメちゃんも私たちを」
「「守りたい」」
ジータの喉に牙を立てるユエ。
そんな二人を彼らを狙う光弾が花火のように照らすが、
ハジメ同様瞬光に目覚めたジータはユエを抱いたまま、全てが減速された―――
いわゆるゾーンに入った、そんな感覚でステップを踏むかのように、
一つ一つが致命の威力であろう、死の光を避けていく。
まるで花火のように瞬く光弾に包まれる二人の姿は、死闘の最中とは思えぬほどに
幻想的な光景だったと後にハジメは語った。
心を奪われたのは一瞬、ハジメはシュラーゲンを拾い上げ、そのまま空力と縮地を使用し
宙へと跳躍する。
銀頭がそれに反応し極光を放つ、しかし。
「遅せえよ」
ハジメはそのまま硬直中の銀頭の直上から、半ば勝利を確信しつつ、シュラーゲンを発射する。
それでも避けた筈の極光が己の身体を僅かに掠め、それだけで半身が灼けていく。
さらに、先程の発射に加えて落下の影響か、僅かだが弾道がブレ、
頭を吹き飛ばさんとした一撃は銀頭の下顎のみを砕き、そのまま本体に大穴を穿つ。
銀頭は穴を穿かれた本体から盛大に吹き飛ぶ、いや自らパージしたか?
ともかく最後のあがきとばかりに、跳躍した銀頭はその鋭い牙を、
ジータとユエへと突き立てんとする。
しかしジータの剣が翻って銀頭の牙を斬り落とし、返す刃で奥義を放つ。
「黒召刃」
降り下ろされた剣から黒い球体状の魔力の塊が放たれ、銀頭の上顎から尻尾に至るまでを、
グシャグシャと潰していき。
「蒼天」
そして魔力十分のユエの放った青白き炎が、未だのたうつヒュドラの胴体を焼いていく。
「いつ見てもすげぇな」
地上の星のような輝きを眺めながら、神水を口にするハジメ。
そして感知系技能からヒュドラの反応が消えるのを確認し、
ハジメはふぅーとため息を付くと、そのまま床に倒れ込む。
「流石に……もうムリ……」
自分を抱きかかえる少女たちの温もりを感じながら、ハジメは意識を手放すのであった。
もう少し楽に勝っても良かったかなと思ったのですが、やはり
瞬光こそハジメの強さの根幹なので、そこは外せないなと
ともかく、一人増えたおかげでハジメは片目を失わずに済みました。