ありふれた錬成師と空の少女で世界最強【完結】   作:傘ンドラ

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少し長くなりましたが、オルクス編も残り数話です。


反逆者の真実

(疲れちゃったんだね、ハジメちゃん)

 

ジータの身体にその身を預け寝息を立て始めるハジメ、そんな彼の髪を、

彼女は優しく撫でてやる

傷の治りがいつもより遅い気もするが、彼の半身を覆う火傷も少しずつ回復しつつあった。

その証拠に彼女の肌を包む僅かなヒリヒリ感も収まりつつある。

 

そんな二人の様子を目にしたユエがおねだりをするようにジータの身体にもたれ掛かる。

ジータは笑顔でユエの頭も撫でてやる。

 

「ふぁ……」

 

猫の様に目を細めるユエ、その仕草は実に自然で、まるでこれまでも、

そしてこれからも続いていく、当たり前の光景のようにジータには思えた。

自然と言えば、いつのまにやら撫でられるだけでは足りないのか、

ユエはハジメの頬にスリスリと頬ずりをしている。

 

(やっぱりこの子抜け目ないなぁ)

(私も、もう少し欲張りになってもいいのかも……)

 

苦笑しつつも、ジータは本格的なハジメの治療のために、

ビショップにジョブチェンジしようとするのだが、

ズズっという目の前の扉から響く轟音を耳にし、その手を止める。

 

(中に気配はない…けど)

 

「ユエちゃん!」

 

ユエの口元に自分の手首を持っていくジータ。

 

「ダメ…ジータの身体が持たなくなる」

「いいの…もしも新手が現れたら、ハジメちゃんを連れて逃げて欲しいから」

 

それは、自分が足止め役を務めるという意味だ。

ふるふると首を振るユエ、その眼には涙が溜まりつつある。

背中にハジメとユエを隠すように身構えるジータ―――しかし。

 

扉からはいつまで経っても何も出て来ることはなかった。

 

「?」

 

二人は意を決して中を覗いてみる、そこには。

 

「これが…反逆者の住処」

「凄い」

 

まず、目に入ったのは天井高く浮く円錐状の物体、

その底面には煌々と輝く球体がふよふよと浮いている。

 

その輝きは蛍光灯のような無機質な物とは違い、自然そのものの温もりを確かに感じる

そうまるで。

 

「「太陽」」

 

ポツリと二人は同時に呟いた。

 

 

それから天井から床、そして壁へと視線を移していく。

 

耳に心地よい水音が聞こえる。

扉の奥のこの部屋はちょっとした公園といってもいいほどの広さがあり、

奥の壁一面には巨大な滝がある。

滝の傍に寄ればマイナスイオンを含む、清涼な……滝の傍特有の空気が

二人の鼻腔をくすぐる、滝壺を見ると魚も泳いでいるようだ、

もしかすると地上に繋がっているのかもしれないと、

奥の洞窟へと流れ込む大量の水を眺めながら考えるジータ。

 

じゅるりと口から涎を溢れさせそうになってるのに気が付き慌てて飲み込むジータ。

なにせあの日以来、基本魔物肉以外口にしていないのだから。

ともあれ今夜?は、魚料理で決まりだ。

 

しかも川から少し離れたところには大きな畑もあるようである。

野菜っ!と一瞬思ったが、何も植えられていない様子なのを見て落胆する

……その周囲に広がっているのは、もしかしなくても家畜小屋である。

 

さすがは反逆者のアジトだ、ここに何日、いや何年でも引き籠…いやいや立て籠れそうだ。

 

そう思ったところでジータの胸にチクリと不安が過る。

もしかすると脱出口は無いのではないのか?

反逆者はここを終の棲家にする覚悟だったのではないのかと。

そう思うと地下深くとは思えないほど、豊かな自然が逆に不気味にも思えてくる。

 

ジータはとりあえず周辺に危険がないことを再度確認すると、

ホークアイにジョブチェンジし、

未だに寝息を立てるハジメを起こさないようにそっと担ぐと、

今度は岸壁を加工してして作ったであろう、住居と神殿の方へと足を向ける。

 

期待と不安とで胸の鼓動が早くなる、これは決してハジメの温もりを感じているからじゃない。

で、まず最初に入ってみた神殿はただの寝室だった、少し拍子抜けしつつも

ハジメをベッドに寝かせ、ユエにハジメを見てるよう頼み、

 

今度は住居の探索を開始する。

白く清潔感のある外観は、コンクリ打ちっぱなしのこじゃれた前衛住宅みたいな印象だ。

しかも吹き抜け三階建て、ともかくリビング、台所、トイレ…とくに異常は無い。

 

外に出ると、水の枯れたプールのような円形の穴があり、その淵にはライオンぽい動物の彫刻が

口を開いた状態で鎮座しており、その脇には魔法陣が刻まれている。

試しに魔力を注いでみると、ライオンモドキの口から勢いよく温水が溢れ出した。

どこの世界でも水を吐くのはライオンというのがお約束らしい。

 

「お風呂っ!」

 

ジータが思わず声を弾ませたのも無理はない。

例え迷宮でも出来るだけ人間らしい暮らしを!

その掛け声通り、余裕がある限りは水を出し、お湯を沸かし、

さらにバスタブを錬成で作って貰い、ちゃんと入浴はしていたのだが。

殆どが代り映えのしない薄闇を眺めての入浴では、単に汚れを落とすだけの作業に過ぎない。

 

露天風呂とは思わぬ収穫だ、あとで皆で……と自然に考えてしまい。

ブンブンと頭を振るジータ。

 

それから、二階で書斎や工房らしき部屋を発見した。

しかし、書棚も工房の中の扉も封印がされているらしく開けることはできなかった。

後でハジメに錬成で開けてもらえばいいと思いなおし、ジータは探索を続ける。

 

最後に三階の奥の部屋に向かった。

三階は一部屋しかないようだ。奥の扉を開けると、そこには直径七、八メートルの、

今まで見たこともないほど精緻で繊細な、まさに一つの芸術品とも思える、

見事な幾何学模様の魔法陣が部屋の中央の床に刻まれていた。

 

しかし、それよりもジータが注目したのは、その魔法陣の向こう側、

豪奢な椅子にもたれかかり、黒に金の刺繍が施された見事なローブを羽織った、

白骨化した人物の亡骸であった。

 

アイ〇ズ様みたいだなとジータは少し思った。

おそらく反逆者と言われる者達の一人なのだろうが…。

だが、寝室やリビングではなく、この場所を選んで果てた意図は何ゆえか……。

 

「過労死…?」

 

これほどの魔法陣を記すには相当な労力が必要だったに違いないという、

第一印象から来たイマイチ情緒に欠ける感想をジータはつい漏らしてしまう。

それは冗談として、その静謐さすら感じさせる姿は、まるで誰かを待っているかの如くである。

招きならば……応じるまでだ。

 

「なむさんっ!」

 

金髪碧眼の外見に似合わぬ掛け声と共にジータは魔法陣へと踏み込んだ。

その瞬間、カッと純白の光が爆ぜ部屋を真っ白に染め上げる。

 

まぶしさに目を閉じるジータ。直後、何かが頭の中に侵入し、

まるで走馬灯のように、いや頭の中を覗かれているかのように、

奈落に落ちてからのことが駆け巡る。

やがて光が収まり、目を開けたジータの目の前には、黒衣の青年が立っていた。

 

 

ハジメは、体全体が何か温かで柔らかな物に包まれているのを感じた。

随分と懐かしい……まるで自分の部屋のベッドのような感触だ。

そう思ってから、自分が本当にベッドで眠っていることを認識する。

 

(何だ? ここは迷宮のはずじゃ……何でベッドに……)

 

混乱する意識を覚醒させるべく、まどろみの誘惑に耐えて

一気に両目を開く、そこには見慣れた少女の寝顔があった。

 

「ユエ?」

 

その声は安心と同時にほんの少しだが落胆した響きもあった。

これは……ここまではやっぱり夢じゃなかったのだと。

 

そんなハジメの心境を知ってか知らずか、やや寝苦しそうに寝返りをうつユエ

そんな彼女の頬をぷにぷにと指で触れるハジメ。

 

「大丈夫、心配ないぜ」

 

そう、夢である筈がない、夢であっていい筈がない。

 

しかし目の前の光景はやっぱりこれは夢か天国か?と思わせる荘厳なものだった。

純白のシーツに豪奢な天蓋付きの高級感溢れるベッド、吹き抜けのテラスに

緑の空気を含む爽やかな風、神殿を思わせる太い柱と薄いカーテン。

 

(夢じゃないなら……ここは天国か、いやいやまさか)

 

「おはよう、やっと起きてくれたね」

 

ハジメがベッドから半身を起こしたところに、ジータが部屋へと入って来る。

ハジメはユエを起こさないようにそっとベッドを降りてジータへと歩み寄る。

神水と、おそらくジータの治癒のお陰もあったのか、光に焼かれた身体はすっかり元通りだ。

 

「ここは?まさか天国とか言うなよな」

「反逆者の住処だよ、まさにアジトだね」

 

冗談めかした口調のジータだが、彼女の表情がやや固いことにハジメはすぐに気が付く。

 

「何か……あったのか?」

「うん……ちょっと見てもらいたいものがあるんだ、ユエちゃんにも見て貰いたいから

起こして貰ってもいいかな?」

 

 

これまでのことを簡潔にハジメとユエへと語りながら、住居を案内するジータ。

そして目的地である三階の大広間へ到着する。

 

「ア〇ンズ様?」

「あ、私と同じこと思った」

 

巨大な魔法陣の向こう側、豪華な椅子に腰かけた人骨を見て、

奇しくもジータと同じ感想を漏らすハジメ。

 

「じゃ、二人ともそこの魔法陣の中に入って」

「大丈夫か?」

 

少しジータの表情が微妙な気がしたが、ともかくハジメはユエの手を引き

魔法陣の中央へと足を進める。

 

カッと純白の光が爆ぜ部屋を真っ白に染め上げる。

直後、何かが頭の中に侵入し、まるで走馬灯のように奈落に落ちてからのことが駆け巡った。

やがて光が収まり、目を開けた彼らの目の前には、黒衣の青年が立っていた。

 

その衣は後ろの躯と同じローブだった。

 

「試練を乗り越えよくたどり着いた。私の名はオスカー・オルクス。

この迷宮を創った者だ。反逆者と言えばわかるかな?」

 

話し始めた彼はオスカー・オルクスというらしい。

【オルクス大迷宮】の創造者のようだ。驚きながら彼の話を聞く。

 

「ああ、質問は許して欲しい。これはただの記録映像のようなものでね、

生憎君の質問には答えられない。

だが、この場所にたどり着いた者に世界の真実を知る者として、

我々が何のために戦ったのか……メッセージを残したくてね。

このような形を取らせてもらった。どうか聞いて欲しい。

……我々は反逆者であって反逆者ではないということを」

 

そうして始まったオスカーの話は、ハジメとジータが聖教教会で教わった歴史や

ユエに聞かされた反逆者の話とは大きく異なった驚愕すべきものだった。

 

神代の少し後の時代、今よりもずっと種族も国も細かく分かれていた時代、

世界は争いで満たされていた、争う理由は様々だったが、その一番は"神敵"だから、

それぞれの種族、国がそれぞれに神を祭っており、

その神からの神託で人々は争い続けていたのだ。

 

だが、ある時、偶然にも神々の真意を、自分たちの戦争が神々を楽しませる為の、

遊戯であったことを知ってしまった者たちがいた。

そして彼らは同志を集め、人々を巧みに操り戦争へと駆り立てる神々に戦いを挑もうとした

それが当時、"解放者"と呼ばれた、神代から続く神々の直系の子孫たちの集団であった。

 

しかし、その目論見は戦う前に破綻してしまう。

ついに世界を弄ぶ神々の本拠を突き止めたのは良かったが、

それ故に彼らは相手に、神々に時間を与えすぎてしまったのだ。

神々は人々を巧みに操り"解放者"たちに神敵、そして"反逆者"のレッテルを貼り、

守るべき人々に相手をさせたのである。

 

守るべき人々の手で次々と討たれていく"解放者"たち。

最後まで残ったのは"解放者"のメンバーでも先祖返りと言われる、

強力な力を持った七人だけだった。

 

彼らはもはや自分たちでは神を討つことはできないと、

自分たちは、神の奸計の前に敗れたのだと認めざるを得なかった。

そして、バラバラに大陸の果てに潜伏すると同時に迷宮を造ったのだ。

試練を用意し、それを突破した強者に自分たちの力を譲り、

いつの日か自分たちの遺志である、神の遊戯を終わらせる者が現れることを願って。

 

 

長い話が終わり、オスカーは穏やかに微笑む。

 

「君が何者で何の目的でここにたどり着いたのかはわからない。

君に神殺しを強要するつもりもない。ただ、知っておいて欲しかった。

我々が何のために立ち上がったのか。……君に私の力を授ける。

どのように使うも君の自由だ。だが、願わくば悪しき心を満たすためには振るわないで欲しい。

話は以上だ。聞いてくれてありがとう。君のこれからが自由な意志の下にあらんことを」

 

 そう話を締めくくり、オスカーの記録映像はスっと消えた。

同時に、ハジメの脳裏に何かが侵入してくる。ズキズキと痛むが、

それがとある魔法を刷り込んでいたためと理解できたので大人しく耐えた。

 

やがて、痛みも収まり魔法陣の光も収まる。ハジメはゆっくり息を吐いた。

 

「とんでもないことを聞いちまったな」

「うん…それでね」

 

ハジメはジータが何を聞かんとしているかを察し、皆まで言うなと

先に口を開く。

 

「許せない気持ちはある……けど正直、関わりたくはない、関わるべきじゃないな…」

「うん、所詮は自分たちはよそ者だもんね」

 

過酷な戦いを経てなお優しさが残っている証か、二人の言葉には揺らぎがある。

それでも、この世界のあり方に、不必要な干渉は望ましくはない、

あくまでもこの世界の行く末はこの世界の住人に任せるべきだ。

この世界の住人…そういえば一人いたな。

 

「ユエちゃんはどうしたい?」

 

狡いようだが、彼らはユエに決断を託した、

もしもユエが神と戦うことを望むのならば……考えてもいい、と。

解放者たちの無念を晴らしてやりたい、神に一泡吹かせてやりたい気分は勿論あるのだから。

 

「私の居場所はここ……他は知らない」

 

即答し、ギュッと二人の手を握るユエ。

 

「決まりだな」

「だね、オスカーさんも強要しないって言ってるし……だからせめて」

 

彼らはオスカーの亡骸にチラと目をやり、黙祷を捧げる。

偉大なる先駆者への敬意を込めて。

 

「あとでオスカーさんのお墓作ってあげようよ」

「そうだな」

「うん」

 




ジータの苦労の甲斐あって、ハジメの思考はかなりマイルドになってます。
とはいえど、あまりゆるくなり過ぎないようにはしたいですが。

そしてジータもユエに意識が引き摺られてきてますね、
これはもしかして次回……
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