ありふれた錬成師と空の少女で世界最強【完結】   作:傘ンドラ

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ようやくオルクス脱出……長かった。




旅立つ者と目覚めるモノ

迷宮の一角。

 

ハジメを取り囲むように各々の武器を構える、ジータ、ユエ、そしてシルヴァの三人。

ハジメの緊張を示すかのように彼が近頃開発し、失った左腕の代わりに装着している

義手が小刻みに震えている。

 

まず動いたのはユエだ

 

『凍雨』

 

針のような氷の雨がハジメの頭上へと降り注ぐ、

 

『砲皇』

 

回避したハジメを追尾するかのように風の刃も迫る、さらに、

烈風を背に、地を這うようなジータの刃もまたハジメに襲い掛かる。

 

だが、ハジメはくるりとジータにあえて背を向けるような形でその場で回転し、

追撃の刃をいなす、逆に今度はジータの背中がハジメにとってはガラ空きとなる。

すかさず彼は両腕に握られた二丁拳銃のトリガーを引く。

 

訓練用の模擬弾がジータとユエの身体に装着した的に命中する。

しかしここで弾が尽きる、そのままハジメはシルヴァの狙撃の的にならぬよう、

全力で走る、右前方から閃光が走り、足元に着弾。

 

どこからかともなく空中に弾丸が現れる、ハジメはそれが分かっていたかのように

ドンナーの弾倉を解放する、と、なんと自動的としか言えないような正確さで

弾丸は弾倉へと吸い込まれ、装着される。

そしてそのまま閃光の方向へ斉射、命中を知らせるブザー音が迷宮に響いた。

 

「で……出来た…できたああぁぁぁぁ」

 

安堵と歓喜の叫びを上げるハジメ、そこに喜色満面のジータとユエが抱き着いてくる。

 

「ここまで一ヶ月、見事だ」

 

シルヴァも拍手でハジメを祝福する。

ついにハジメは空中リロードを会得したのだった。

 

 

「……ハジメ、気持ちいい?」

「ん~、気持ちいいぞ~」

「……ふふ。じゃあ、こっちは?」

「あ~、それもいいな~」

「……ん、もっと気持ちよくしてあげる……」

 

訓練終了後、ハジメはユエに義手の接合部分が馴染むように、

マッサージをしてもらっている。

 

彼らのすぐ隣には竪琴を手に癒しの曲を奏でるジータの姿がある。

胸元が若干開いてはいるものの、清楚な印象を与える歌姫の如き、

白いロングドレスを纏ったその姿は念願のクラスⅣ エリュシオンだ。

 

そしてシルヴァも濡れ縁でズズズとお茶を啜っている。

 

「……平和だなあ」

「……平和ねぇ」

 

ポツリと呟くハジメとジータ、ユエはジータの奏でる音色のせいか

マッサージの手を止め、ハジメの背中で船を漕ぎ出し始めている。

 

カチャリとユエの手から離れた義手が音を立てる。

無論、この義手はアーティファクトであり、本物の腕と変わらぬ動作が可能な上

数々のギミックが仕込まれている。

所々に魔法陣や文様が刻まれているのがその証拠だ。

 

(義手の他にも、いろいろ装備つくったんだよね、ハジメちゃん)

 

まずはこれが無くては始まらないと着手したのが、

長距離移動用の魔力駆動二輪と四輪だ。

 

「最初は居住性がどうとか言っちゃってさ、ミニバンなんか作ろうとして…たく」

「いやそれはさ、はっちゃけられない気恥しさというか…」

 

白髪に加えて義手、しかも黒のベストにダークスーツという、

まるで黒執〇かはたまた賭郎立〇人かと、変わり果てた我が身を顧みながら言い返すハジメ。

 

「もう、見た目"なろう系"なんだから気取っちゃだめだよ、

そもそもミニバンで異世界冒険なんて様にならないし」

 

そういう恥じらいもハジメの中にまだ帰るべき日常が根付いている証だと

ジータは思っているのだが……それでもミニバンはありえないと、

彼女は却下を宣言したのであった。

 

と、まぁデザインについては、このように一悶着あったが。

結局、二輪の方は無骨なアメリカンタイプと、近未来的なトライクタイプの二台

四輪は軍用車両のハマータイプに落ち着いた。

無論、様々な武装が内蔵されていることは言うまでもない。

 

その他、各種新兵器。

 

ドンナーと対を成す、リボルバー式電磁加速銃:シュラーク

電磁加速式機関砲:メツェライ

ロケット&ミサイルランチャー:オルカン

 

もちろんドンナーとシュラーゲンも、シルヴァのアドバイスによる、

改良・強化が加えられている。

特にシュラーゲンはアザンチウム鉱石を使い、強度を増し

バレルに関しては全長三メートルにも至り、

ライフルというよりバスターランチャーに近い代物になっている。

 

だが、やはり最大の装備、いや発見と言えば"宝物庫"だろう。

 

これはオスカーが保管していた指輪型アーティファクトで、

指輪に取り付けられている一センチ程の紅い宝石の中に創られた空間に、

物を保管して置けるというものだ。

空間の大きさは相当なもの、恐らく指輪の中というより、

別の何処かへと転移させているのだろうとハジメは考えてはいたが、

ともかく、何せあらゆる装備や道具、素材を、片っ端から収納出来るのだから、

便利なことこの上ない。

 

そして、この指輪にはもう一つ大きな、それこそ収納力以上の利点がある。

それは刻まれた魔法陣に魔力を流し込むだけで、半径一メートル以内なら任意の場所に

収納した物体を出すことができるのだ。

 

そう、先ほどの空中リロードはこれと、使用者の知覚を大幅に引き上げる"瞬光"を組み合わせ、

応用した合わせ技だ。

 

他にも様々な装備・道具を開発してはいたが。しかし、その反面残念なこともあった、

神結晶に蓄えられた魔力が潰えてしまい、

神水だけは遂に試験管型保管容器二四本を残して、ついに枯渇してしまったのだ。

 

試しに神結晶に再び魔力を込めてみたのだが、ハジメたちの魔力を以ってしても、

神水は抽出できず、やはり長い年月があっての奇跡の産物であったことを、

再認識する結果となってしまった。

 

だが、神結晶を捨てるには勿体無い、素材は最後まで使い切るのがモットーである。

何より幸運に幸運が重なって、この結晶にたどり着かなければ確実に死んでいたのだから。

自分たちの命の恩人ならぬ恩石であることは間違いない。

そこでハジメは、神結晶の膨大な魔力を内包するという特性を利用し、

何か有用な装備を作れないかと模索を始め、

そして魔力ストック用のアクササリーを造ることを思いついた。

 

特に大技を扱うユエの場合、魔力を外部にストック出来れば

サソリ戦やヒュドラ戦のように魔力枯渇に追い込まれることなく

最上級魔法でも連発出来る筈。

 

そう思ってハジメは二人に神結晶を加工した

ネックレスやイヤリング、指輪などを贈ったのだが……。

因みに形については特に含むことはない、携帯に便利で

贈る相手が女の子だから、こういうのがいいんじゃないかな程度の考えだった。

 

……しかし。

 

二人は明らかに別の意図を感じ取っていた、勝手に。

 

「「……プロポーズ?」」

「なんでやねん」

 

二人の第一声に思わず関西弁でハジメは突っ込む。

 

「……やっぱりプロポーズ」

「いや、違ぇから。唯の新装備だから」

「ハジメちゃん照れてる」

「……最近、お前ら人の話聞かないよな?」

「……ベッドの上でも照れ屋」

「止めてくれます!? そういうのマジで!」

 

そこでお茶を吹き出す音が聞こえ、間髪入れずに叱責の声が飛ぶ。

 

「大人のいる前で調子にのるなっ!三人ともいいからそこに座れ!」

 

リア充爆発しろ!と言わんばかりの空気が醸し出されたせいで

シルヴァに少し説教されてしまう三人だった。

 

 

魔眼石というものも開発した。

 

これはシルヴァにも何かお礼の品を造れないかと、

神結晶で狙撃用のスコープを作ってる際の副産物だ。

 

"魔力感知"と"先読"を付与したレンズを作り、

なるほど、こうすると魔力の流れや強弱、属性を色で認識できるようになるのかと、

ハジメが何気なくユエとジータの訓練風景を眺めていると、なにやらユエの放つ魔法に、

ラインのような物が見えたのだ。

どうやら魔法の発動を維持・操作するためのもののようだ。

 

発動した後の魔法の操作は魔法陣の式によるということは知っていたが、

では、その式は遠隔の魔法とどうやってリンクしているのかは考えたこともなかった。

魔法のエキスパートたるユエに聞いても、知らないという解答が返って来たので、

おそらく新発見なのだろう、とりあえずの所は"魔法の核"と名付ることとした。

 

要するにこのレンズを使えば、相手がどんな魔法を、どれくらいの威力で放つかを、

ラインの太さや色で事前に察知できるということになる。

漠然とどれくらいの位置に何体いるかという事しかわからず、

気配を隠せる魔物に有効といった程度だった、従来の魔力感知や気配感知に比べ、

これがどれほどのアドバンテージになるのかは、すぐに理解出来た。

 

その上、発動されても核を撃ち抜くことで、魔法を打ち消すことが出来ることも判明した。

もっとも、核を狙い撃つのは針の穴を通すような精密射撃が必要ではあるが。

そこは師匠が優秀なこともあり、いずれは解決できる筈だ。

 

「相当な死線を掻い潜ってきたであろう君たちに、教えることなど殆どなかったが

…多少なりとも役に立てたのなら嬉しい限りだ」

 

寝息を立てるユエを横にしてやりながらシルヴァが微笑む。

 

「そんなこと!……ないです」

 

過ぎる謙遜につい大声で言い返してしまいそうになり、

ユエを起こしちゃいけないと、慌てて音量を下げるジータ。

 

「そうだよ、俺たちの自己流の射撃や体術をちゃんと矯正してくれたし」

 

シルヴァの狙撃術はまさに神業と呼ぶに相応しいものだった。

まずはどこまで出来るのか見せて欲しいと、ユエが止めるのも聞かずに、

実際に魔物を相手にして貰ったのだが。

その数分後にハジメとジータは、これほどの力の持ち主を試そうとしたことに、

バツの悪さをひどく感じることとなった。

 

「ゴ〇ゴや……ゴル〇がおる」

 

乾いた口調で虚ろに呟くハジメの姿を思い出すジータ。

 

「……シルヴァに失礼」

 

ハジメを咎めつつも胸を張っていたユエ、さすが王族、人を見る目は確かなようだった。

 

ともかく三人はこの一ヶ月シルヴァによってみっちりと、

射撃と体術を中心とした、体系だった戦闘術を教え込まれた。

もともと戦闘経験が豊富なユエや、八重樫流の心得があるジータと違い、

奈落に落ちるまで、武術のぶの字も知らなかったハジメにとっては、

ステータスの高さを生かしてのゴリ押し戦法から脱却し、

ガン=カタスタイルを確立するのに、かなり苦心したようだが。

 

と、話は逸れたが、とりあえず魔眼石は戦闘用ゴーグルとして加工することにした。

もちろん魔力のONOFFで、瞬時に通常の視界と戦闘用の視界を切り替えることも可能だ。

 

ちなみにこのレンズ、神結晶を使用しているだけあって常にぼんやりとではあるが

青白い光を放っている、眩しい上に目立って仕方なく、どうしようか?アイデア倒れかと

ハジメが頭を悩ませていた際、ジータのアイデアにより保護色を使う魔物の体組織

(調べたら金属扱いだった)を応用し、光を消すことに成功した。

 

ジータとユエ、それからシルヴァにも同じものを作るつもりだったが、

彼女らはスコープなど要所で使うにはいいが、常用すると眩暈や耳鳴りがし、

装着して戦闘など考えられないと一様に訴えてきた。

どうやら飛び抜けた数値を誇るハジメの魔力と魔耐がなければ扱えない代物のようだ。

 

 

「平和だけど……そろそろな」

 

彼らは、各々のステータスプレートを取り出し眺める

 

 

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:???

 

天職:錬成師

筋力:10950

体力:13190

耐性:10670

敏捷:13450

魔力:14780

魔耐:14780

 

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成]

     [+圧縮錬成]魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・胃酸強化・纏雷

     天歩[+空力][+縮地][+豪脚][+瞬光] 風爪・夜目・遠見・気配感知[+特定感知]

     魔力感知[+特定感知]熱源感知[+特定感知]・気配遮断[+幻踏]・毒耐性・麻痺耐性

     石化耐性・恐慌耐性・全属性耐性・先読・金剛・豪腕・威圧・念話・追跡

     高速魔力回復・魔力変換[+体力][+治癒力]・限界突破・生成魔法・言語理解

 

 

蒼野ジータ 17歳 女 レベル:???

天職:星と空の御子

筋力:250+7665

体力:250+9737

耐性:250+7469

敏捷:250+9415

魔力:300+10346

魔耐:250+10346

 

技能:全属性適性・団員x2・召喚・星晶獣召喚(条件:同調者)

   同調(南雲ハジメ、同調率70%)・剣術・統率・ 防壁Lv10・挑発・恩寵[+確率上昇]

   背水・コスプレ・サバイバル[+料理]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]

   胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地][+豪脚][+瞬光]・風爪

   夜目・遠見・気配感知[+特定感知]魔力感知[+特定感知]・熱源感知[+特定感知]

   気配遮断[+幻踏]・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・恐慌耐性・全属性耐性

   先読・金剛・豪腕・威圧・念話・追跡・高速魔力回復・魔力変換[+体力][+治癒力]

   限界突破・生成魔法・言語理解

 

 

もはやヒュドラ戦の時の感慨を通り越して、溜息しか出ない。

ある時期からステータスは上がれどレベルは変動しなくなり、

遂には非表示になってしまったし、

数値については通常の人族の限界が100から200、天職持ちで300から400

魔人族や亜人族は種族特性から一部のステータスで300から600辺りが限度だそうだ。

 

 

「これで終われるって思ったんだけど、これが始まりだったなんてね」

 

この二ヶ月でハジメ同様、ジータの戦力もかなり上昇している。

"確率上昇"によりガチャの引きが若干良くなり、有用な召喚石も幾つか入手出来た。

ただし一度に自身に装備できるのは五つで、さらにハジメとユエに預けた一つを含め、

合計六つしか使用出来ないので、これもジョブ同様、状況に合わせて考慮する必要がある。

 

ジョブについてはレベルが文字化けしたあたりでついにクラスⅣとEXⅡが解放された。

これでより戦術の幅が広がる。

 

当面は支援と攻撃を高いレベルで両立できるエリュシオンで行くつもりではあるが。

ベルセルクやライジングフォース、ドクターやスパルタといったジョブも、

いずれ出番はある筈だ。

 

秋の空気を含みつつある風が彼らの頬を撫でる、

この拠点は季節すらも地上同様に再現するようだ……もう行かないと。

 

それから十日後、遂に彼らは地上へ出る。

 

"偉大なる先駆者にして解放者が一柱 オスカー・オルクスよ安らかに"

そう刻まれた、オスカーの墓碑に祈りを捧げると、彼らは三階の魔法陣を起動させる。

 

「俺の武器や俺たちの力は、地上では異端だ。聖教教会や各国が黙っているということはないだろう」

「ん……」

「オーバーテクノロジーだもんね」

 

「兵器類やアーティファクトを要求されたり、戦争参加を強制される可能性も極めて大きい」

「ん……」

「考えたくないけど、あり得るよね」

 

「教会や国だけならまだしも、バックの神を自称する狂人共も敵対するかもしれねぇ」

「ん……」

「もしそうなれば……命がいくつあっても足りないぐらいの戦いになるね」

「神だの世界だのは良く分からない、だが案ずるな、私が付いている」

 

力強く決意を固める三人の姿を目を細めて見つめるシルヴァ。

 

ハジメの力は歴戦のスナイパーであるシルヴァに取っても、驚愕すべきものだった。

もちろんジータやユエも凄まじい力と素質の持ち主であったが。

今はまだ粗削りそのものの彼が、このまま経験を積んでいけば、

恐らく後世に置いて彼は"魔王"と称されることになるだろう。

 

かつてあまりに強すぎる力と才能を持って生まれたが故に、

孤独に追いやられ、道を踏み外しかけた友の姿が浮かぶ。

そして自分はそんな友を支え切ることが出来なかったことも…。

 

(分かっているよ……ソーン、けれど)

 

そこでシルヴァはハジメを囲む、ジータとユエの姿を見る。

自分の心配などきっと取り越し苦労に終わることは、

この一月で充分実感出来た、ならば、自分は己の役目を果たすまでだ。

 

(彼なら、彼らならきっと大丈夫だ)

 

「一人が皆を、皆が一人を守る、そうすれば何も恐れる物はない」

「……全部なぎ倒して」

「世界を超えよう!」

「明日へと進む、君たちの背中は私が守ろう」

 

四人は円陣を組み、片手を重ねあう。

 

そして魔法陣の光が部屋を包んだ。

 

 

 

やがて光が収まり目を開けた彼らの視界に写ったものは……

洞窟だった。

 

「なんでやねん」

 

思わずツッコミを入れるハジメ。

ジータもユエも固まった表情をしているのを見て、溜息をつくシルヴァ。

 

「いやよく考えるんだ、隠れ家の入り口ならば偽装されていて然るべきだ」

「た、確かに」

 

期待のあまり三人とも頭が回っていなかった。

ともかく三人は前に進む、いくつかトラップもあったようだが、

その度、オルクスの指輪がその発動をキャンセルしていく。

 

「【ライセン大峡谷】に出るんだったか?確かあそこは」

「魔法が使えなかった筈だよね」

「……分解される、でも力づくでいく」

 

地上への道をてくてくと歩きながら会話を続ける一行。

 

ライセン大峡谷で魔法が使えない理由は、発動した魔法に込められた魔力が分解され、

発散してしまうと書物には記されていた。もちろん、ユエの魔法も例外ではない筈。

しかし、お構いなしとばかりに、ユエは自信気な表情だ。

もともと莫大な魔力を誇っている上、今は……。

ハジメに贈られた外付け魔力タンクである魔晶石の指輪に頬を寄せるユエ。

つまり分解される前に大威力を持って相手を殲滅するということだろう。

 

「力づくって……効率は?」

「……十倍くらい」

「初級魔法を放つのに上級レベルの魔力が必要ってことね」

 

しかも射程もかなり短くなるようだ。

 

「だったら私たちがやるからユエちゃんは身を守ってて」

「うっ……でも」

「いずれ君の力が必要な時が来る、適材適所だ、魔法使いにとって鬼門ならば任せて欲しい」

「ん……わかった」

 

ユエが渋々といった感じで引き下がる、拗ねた表情のユエにジータが素早くフォローを入れる。

 

「もしもの時はお願いするから、ムチャ出来る余裕は残して置いて」

「うんっ!」

「それに二人で技開発したもんね」

 

そんな事を話している間に……遂に光を見つけた。外の光だ。

ハジメとジータはこの数ヶ月、ユエに至っては三百年間、求めてやまなかった光。

三人は光に向かい一斉に走り出す。

途中で転んだジータがシルヴァに起こしてもらったりもしながら、

三人は光の手前で一旦立ち止まり、外の清涼な空気を吸い込むと互いの手を繋ぎ

同時に光の中へと飛び込み……待望の地上に出た。

 

 

ここは【ライセン大峡谷】

 

断崖の下はほとんど魔法が使えず、にもかかわらず多数の強力にして凶悪な魔物が生息する。

深さの平均は一・二キロメートル、幅は九百メートルから最大八キロメートル、

地上の人間にしてみればまさに地獄だろう、

事実、かつて処刑場として使われていたという歴史もあるらしい。

 

彼らが立っているのはそんな地獄の谷底だった。

それでもそこは確かに地上だった。

青い空と白い雲と燦々と作り物ではない太陽の光が、それを確かに証明していた。

 

「戻ってきたんだね……ハジメちゃん」

「ああ」

 

ジータが青空を眺めながらハジメへと呟く。

 

「……戻って来たんだな……」

「……んっ」

 

ハジメも空を見上げて呟く、ユエが感慨と呆然が混じったような返事を返す。

そして三人の表情が少しずつ笑顔へと変わっていく。

 

「よっしゃぁああーー!!」

「戻ってきた!帰ってこれたよー!!」

「んっーー!!」

 

三人は抱き合ってクルクルと満面の笑顔で回転する、

まるで幻の空中都市を発見した少年少女のごとくだった。

そんな三人の姿を微笑ましく見つめるシルヴァ。

 

「シルヴァさん、シルヴァさんもっ!」

 

ぐいとシルヴァを引き寄せるジータ。

彼女も何だかんだで一か月も地下に籠っていたことには変わりない。

 

「そ……そうか、な、なら」

 

戸惑いながらもクルクルと回転に加わるシルヴァだった。

 

 

ここで話は変わる。

 

それはちょうどハジメたち一行が久方ぶりに本物の太陽の光を浴びた頃だった。

 

「星ト空ノ力を持ちし者ヨ」

 

このトータスの地において蠢く蛇のような存在が呟いた。

 

赤き地平……地の底にありて全ての次元と繋がっているとされる混沌の地。

 

例え地の底にあろうとも、その混沌の影響は空の世界にまで及び。

ガチャ〇ンやカード〇ャプターやスクール〇イドル、3〇6プロ、帝国〇撃団、プリ〇ュア、

果ては神聖ブ〇タニア帝国第三皇子とその一行までもが、空の世界へと導かれて行った。

 

導くことが出来るならば、導かれることもある。

その赤き地の底に蠢く存在たちもまた……その者たちは、幽世の者と総称される。

そう、彼らはこのトータスの地に召され降り立っていたのだ。

それがいつの時かは分からないが、遙かな過去であったことは確かだろう。

 

それ故に、もはや彼らは残滓と成り果て早晩消滅する運命であった、しかし。

幸か不幸かまた再び、空の世界とこのトータスの地が繋がった、

ガチャ―――もとい召喚というささいな繋がりではあったが。

 

その僅かな繋がりでも彼らには十分だった。

さらにその残滓たちがジータの―――御子としての力に呼応し目覚めつつあった。

 

残滓たちは集合し、幾つかの群体となりつつある。

その斑色の蛇を思わせる肉体は、一目で邪悪な存在と理解出来る。

彼らが欲するものは憎しみ、恨み、妬みといった負の感情だ。

 

「ぱンデもニウむ」

 

しかしあまりに長き時を、この彼らにとっての異界で過ごした代償か、

彼らにもはや正常な記憶は残ってはいなかった。

ただあるのは空の世界への渇望と帰還、そしてその為の手段。

 

すなわち星の民たちに反逆せし者たちの監獄にして、地と空を繋ぐ塔、パンデモニウムの顕現。

そのためにはこのトータスの地を、争いと憎しみで染めなければならない。

そう、この地は彼らにとっては苗床だった。

そして蛇たちは動き出す、人々の邪な願いに吸い寄せられるように。




グラブルサイドからもやっぱ敵を出さないとね!
というわけで幽世の住人たちにお越しいただきました。
連中、そんなに強くないけど、どこにでも湧いて来て
色々悪さをするんですよね。
もっとも幽世自体、本編でも設定が不明瞭な点がまだ多いわけではありますが

次回はクラスメイト編です。
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