「メ、メリット?」
「……あのね」
口を挟もうとしたジータだったが、ひとまずハジメの交渉を見守ることにする。
この世界の人間に必要以上に心を砕くような真似をする気もさせる気はなかったが。
かといって無関心であって欲しくはなかった、それは……とても"寂しい"生き方なのだから。
「だったら教えてやるよ、まず一つ目は帝国から追われている、
そいでもって二つ目は、樹海から追放されている身の上だってことな、、
そして三つ目はその原因であるお前さん自身の存在、つまり何が言いたいか、
こんな厄介事幾つも抱えていられないってことだよ」
「うっ、そ、それは……で、でも!」
口籠るシアへと、ハジメはさらに過酷なリアルを突き付けて行く。
「それに峡谷から脱出出来たとして、その後はどうするんだよ?
今度は、帝国兵から守りながら北の山脈地帯まで連れて行けってまた頼むのか?」
「そんな……でも、守ってくれるって見えましたのに!」
「どういう意味だ?……お前の固有魔法と関係あるのか?」
「え? あ、はい。"未来視"といいまして、仮定した未来が見えます。
もしこれを選択したら、その先どうなるか? みたいな……
あと、危険が迫っているときは勝手に見えたりします。
まぁ、見えた未来が絶対というわけではないですけど……
そ、そうです。私、役に立ちますよ! "未来視"があれば危険とかも分かりやすいですし!
少し前に見たんです! 貴方が私達を助けてくれている姿が!
実際、ちゃんと貴方に会えて助けられました!」
「そんなすごい固有魔法持ってて、何でバレたんだよ。
危険を察知できるならフェアベルゲンの連中にもバレなかったんじゃないか?」
ハジメの指摘に「うっ」と唸った後、シアは目を泳がせてポツリと零した。
「じ、自分で使った場合はしばらく使えなくて……」
「バレた時、既に使った後だったと……何に使ったんだよ?」
「ちょ~とですね、友人の恋路が気になりまして……」
「ただの出歯亀じゃねぇか! 貴重な魔法何に使ってんだよ」
「うぅ~猛省しておりますぅ~」
「やっぱ、ダメだな、何がダメって、お前がダメだわ。この残念ウサギが」
「私のような美少女の頼みをどうしてそう易々と断れるんですかっ!
……もしや殿方同士の恋愛にご興味が……だから先も私の誘惑をあっさりと拒否したんですね!
そうでッあふんッ!?」
傍で聞いていたジータがシアの頭をまた叩いた。
「誘いに乗らないのは、お前より遥かにレベルの高い美少女がすぐ隣にいるからだ。
ジータとユエを見て堂々と誘惑できるお前の神経がわからん」
うんうんと頷くジータ、ユエに至ってはハジメの言葉に赤く染まった頬を両手で挟み、
ゆるふわの金髪を輝かせ、体をくねらせてイヤンイヤンしている。
そんな二人の服装についてだが、まずユエは清楚さを押し出した、
フリルのあしらわれた純白のドレスシャツに、これまたフリル付きの黒色ミニスカート、
その上から純白に青のラインが入ったロングコートを羽織っており、
一方のジータはといえば、白を基調としたロングドレスにワンポイントの青をあしらい
袖や髪には大きなレースのリボンがあしらわれた、
スタンダードなエリュシオンのコスチュームを纏っている。
もっともシアが鼻血やら涙やらを擦り付けてくれたおかげで若干汚れてはいるが。
ただし、シアもまた彼女らに負けず劣らずの美少女であることは間違いない。
少し青みがかったロングストレートの白髪に青い瞳、白い肌、スラリと長い手足
さらにはふりふりと揺れるウサミミやウサ尻尾。
そして何より、ぶるんぶるんと揺れる豊かな胸。
かつてのハジメならばル〇ンダイブを決めていても不思議ではなかった
いや、今でもうずうずしているのだ、しかし
(今のハジメちゃんにケモミミ攻勢は通じないよ、だって……)
何やら意味深なことを思い浮かべるジータ、興味があれば各自で調べるように。
そして二人の美貌に一瞬怯んだシアは焦りのあまり、
言ってはならない言葉を口にしてしまう……。
「で、でも! 胸なら私が勝ってます! そっちの女の子はペッタンコじゃないですか!」
"ペッタンコじゃないですか"
"ペッタンコじゃないですか"
"ペッタンコじゃないですか"
峡谷に命知らずなシアの叫びが木霊し、その瞬間、表情こそ前髪で隠れてはいたが、
ユラリとシアへと向き直ったユエの身体から、おびただしいまでの鬼気が発せられる。
「……お祈りは済ませた?」
「……謝ったら許してくれたり……」
「…………」(ニコ)
「死にたっ…」
「"嵐帝"」
「―――― アッーーーー!!」
突如発生した竜巻に巻き上げられ、錐揉みしながら吹き飛ばされるシアだった。
で、地面に叩きつけられボロボロになりながらも、まだ何か言いたげなシアだったが、
最終兵器と称してユエが連れて来た、シルヴァの完璧極まりない美貌を目の当たりにして、
シアはうううと敗北の唸りを上げ地面に突っ伏すのであった。
「で、話は終わったのか?」
背後の警戒に当たっていたシルヴァに、ここまでの事情を説明するジータ。
「こういう場合は互いに納得できる範囲での善意と責任に従って動いてもいいとは思うが」
「ですが、それでは」
「君は天之河光輝なる男と何やら確執があるようだが、私にしてみれば
君もまたその彼に縛られているように思えるぞ、殊更に彼と違う道や、
やり方を選ばなくてもいいのではないか?時に素直に己の心情や正義感に従うことは
決して悪ではないぞ」
「そんなことは……」
あるかもしれない、社会制度だの何だのと理屈をつけていても
やっぱりハウリア族は哀れだし、帝国兵がムカツクことには変わりはない。
確かに光輝に拘るあまりに考えすぎていたのかもしれない。
("家族"を守りたい気持ちはおんなじだもんね)
「必要以上に深入りしろとは言うつもりはない、しかし君たちは仲間と共に
故郷に帰るのだろう?ベストな道が目の前にあるのにこの程度の厄介事を避けてどうする」
あまり考えたくはない事だが、もしも神と本当に一戦交えることになるなら
その際、厭が負うにも先頭に立たねばならないのは自分たちになるだろう。
いかにクラスメイトたちもチート揃いだとはいえ、
今の自分たちに比べれば、一部を除き、神相手ではほぼ烏合の衆に等しいに違いない。
(こういう状況もありえるかもしれないしね)
「受けようよ、この話」
「……ジータ」
「これから先、樹海には何度も訪れることになるかもしれないし、それに…」
「樹海は君たち亜人族以外は基本足を踏み入れられないと聞いたが」
助け舟を出すかのようにシルヴァがシアへと問いかける。
「そ、そうなんです!私たちがいないと皆さん樹海で迷子になっちゃいますよ!」
「じゃあ、樹海の案内をしてもらえる?報酬はあなたの一族の命ってことで」
ハジメが色々と対策をしていた筈だが、やはり案内人を雇うのが確実だ。
場合によっては手荒な手段もやむを得ないと考えていただけに。
一方のハジメはまだ思案気な表情だったが、
そんな彼に、ユエは真っ直ぐな瞳を向けて逡巡を断ち切るように告げる。
「……大丈夫、私達は最強、それにあの時誓った、全部なぎ倒して世界を超えようって」
「そうだな」
頷くハジメ、これで決まった。
「言っとくがあくまでも樹海を抜けるまでだ、北の山脈とやらへは自分らで行けよ」
「多分短い付き合いになるだろうけど、よろしくねシアちゃん」
「あ、ありがとうございます! うぅ~、よがっだよぉ~ほんどによがったよぉ~」
で、人数も増えたこともあって、彼ら五人は四輪に乗り換えて峡谷を走る。
車内では当然の事ながら自己紹介諸々で話の華が咲く。
「え、それじゃあ、皆さんも魔力を直接操れたり、固有魔法が使えると……」
「ああ、そうなるな」
「……ん」
シアの方からグスグスと鼻をすするような音が聞こえる。
心配げに顔を覗き込むジータにシアは答える。
「すいません…一人じゃなかったんだなって思ったら……何だか嬉しくなってしまって……」
そんな彼女の目には光る物があった。
ともかくそうこうしてるうちに、目的地が近くなってきたが、シアの視線が険しくなる。
「…あれは父様達がいるあたり、急いで頂けませんか!」
シアの指が差し示す先には数匹の鳥か竜か、ともかくそういう魔物が旋回しているように見えた。
ハジメたちにはまだ点のようにしか見えなかったが。
「案ずるな、大事ない」
シルヴァがサンルーフから頭を出し、ライフルのトリガーを引くたびに
その上空を舞う点の数が少なくなっていく。
こうして彼らは突然撃ち落とされたハイベリアなる飛竜の死体に囲まれ
呆然としているハウリア族の元に到着する。
余談だが、シルヴァの撃った弾は全て計ったようにハイベリアの眉間に命中していた。
その後、カムと名乗るシアの父親、すなわち族長から正式に挨拶と契約を交わし
彼らは大峡谷の出口へと足を進ませる。
「帝国兵はまだいるかな?」
「どうだろうな、流石に全滅したと思って帰ったんじゃないか」
ハジメとジータ、そしてシアが先行し、中衛に残りのハウリア族
そして後衛にユエとシルヴァ。
この陣形で岩壁を削って作ったであろう階段を上っていく。
「そ、その、もし、まだ帝国兵がいたら……ハジメさんたちは……どうするのですか?」
「どうするって何が?」
「シアちゃんが聞きたいのは……私たちが同族を…人を殺せるかってことだよね」
それについて何かを言おうとしたハジメを制するジータ。
「ダメだよ、ハジメちゃん」
「武器の威力がどうとかそういうの言ってたけど、試し撃ちで人を殺すなんて許さない」
避けられないであろうことは分かっていても、
命を奪う重さは忘れて欲しくないし、忘れるわけにはいかない。
それにハジメだけに十字架を背負わせるつもりはない、罪を犯すなら共にだ。
「敵は明確に害意を以って道を阻むもの、だったな」
そもそも対人に関しての威力の調整は銃の専門家であるシルヴァの指導を受けている。
わざわざ試す必要はないのだ。
ジータは抱えた竪琴、"ダンテ・アリギエーリ"にそっと手をやる。
(『ひつじのうた』……を使って帝国兵を眠らせることができれば…でも)
あれは効果時間が短い上、成功率もそれほど高くない。
ジータの逡巡も知らず、彼らは遂に階段を上りきりライセン大峡谷からの脱出を果たす。
登りきった崖の上、そこには……。
「おいおい、マジかよ。生き残ってやがったのか。隊長の命令だから、
仕方なく残ってただけなんだがなぁ~こりゃあ、いい土産ができそうだ」
三十人の帝国兵がたむろしていた。
帝国兵は、兎人族達を完全に獲物としてしか見ていないのか、戦闘態勢をとる事もなく、
下卑た笑みを浮かべ舐めるような視線を兎人族の女性達に向けている。
兎人族は、その視線にただ怯えて震えるばかりだ。
ちょっとくらい味見してもいいっすよねぇ?だの、二、三人なら好きにしろだのと
声が聞こえる。
「あぁ? お前誰だ? 兎人族……じゃあねぇよな?」
小隊長とか呼ばれていた男がようやくハジメの存在に気がついたようだ。
ハジメは、帝国兵の態度から素通りは無理だろうなと思いながら、一応会話に応じる。
「ハ…ハイ!人間です」
「て、こたぁ、奴隷商か?まだ若けぇのにまたずいぶん商魂がたくましいねぇ
まぁ、いいや、そいつら皆、国で引き取るから置いていけ」
小隊長の言葉に、兎人族たちの怯えが、震えが一層強くなり、ジータの背中へと伝わってくる。
試し撃ちで人を殺すなんて許さないと自分で言っておきながら、
早くこいつら敵対してくれないかなあ、と思っている自分がいることに、
嫌悪感を覚えるジータ。
「こ……断わります、こいつらは先に僕が貰ったんです、帝国の慣例上、
奴隷の占有権はこちらにあるんじゃないんですか!」
ハジメの擬態にふと昔を思い出すジータ、昔と言えるほどの時間が経過してるわけでもないが。
小隊長の唇が侮りに歪む。
「……小僧、口の利き方は分かってるようだな、だが俺達が誰かはわからないみたいだが?」
「僕はこちらの権利を主張しただけです、それにあなたたちが軍属だってのも理解してます
帝国軍人ならどうか帝国の法に従ってください!」
「……ぷぷ」
顔を伏せ、笑いをこらえるのに必死のジータ、ユエもなんだか新鮮な気分でハジメを眺めている。
(ハジメちゃん、楽しんでない?)
「勿論タダで……とはいいませんっ!」
ハジメは小隊長の掌にグランツ鉱石の欠片を握らせる、
欠片といってもここにいる全員で一晩豪遊できる程度の価値はあるだろう。
「これで皆さんでお酒でも飲んでください」
「なかなかいい心がけじゃねぇか、唯の世間知らずの坊やだって思ってたがな
けど最近はよう~帝国の御法が及ばない辺境の地もあるって話だぜ、なぁ皆!」
「「ハイ!小隊長殿の仰せの通りでありますッ!」」
小隊長の呼びかけに残りの兵士共がゲラゲラと笑い囃し、
その視線がジータとユエに集中する。
「ちょいと世の中の厳しさってヤツを教えてやる、くっくっく、
そっちの嬢ちゃんたち、えらい別嬪じゃねぇか、てめぇの四肢を切り落とした後、
目の前で犯して、奴隷商に売っぱらってやるよ」
その言葉にハジメは眉をピクリと動かし、ジータは怒りに歯を軋ませ。
ユエも無表情でありながら誰でも分かるほど嫌悪感を丸出しにしている
「そっか」
「つまり敵ってことでいいよな?」
「あぁ~~渡る世間は敵ばかりってな、世の中は親切なおじさんばかりじゃないんだよぉ~~
まずは震えながら許しをこッ!?」
ドパンッ!!
一発の破裂音と共に、小隊長の頭部が砕け散る。
こうして殺戮のホイッスルは鳴った。
間髪入れずハジメはすかさず六斉射、六人の帝国兵の頭が弾け飛ぶ。
突然、小隊長を含め仲間の頭部が弾け吹き飛ぶという異常事態に、
兵士達が半ばパニックになりながらも武器を構え、帝国兵の前衛が飛び出したのだが
その前衛たちもハジメの銃撃によって頭部を粉砕される。
さらに魔法の詠唱を開始しようとした、後衛組の足元にハジメ謹製の破片手榴弾が炸裂する。
地球のものと比べても威力が段違いの自慢の逸品である、
この一撃で密集状態だった帝国軍の後衛は全滅し、
残ったのはちょうど前衛と後衛の真ん中にいたナンバー2っぽい兵士のみだった。
「うん、シルヴァの言う通り人間相手だったら"纏雷"はいらないな、通常弾と炸薬だけで十分だ。
燃焼石ってホント便利だわ」
(あああ……結局試し撃ちみたいになっちゃった)
飄々とした声と仕草で、ドンナーで肩をトントンと叩くハジメの姿を目にし、
頭を抱えて煩悶するジータ、敵であれば容赦しないという価値観は、
ハジメの心に完全に定着してしまっているようだ。
(こんなんで普通の高校生に戻れるのかなあ……私もだけど)
で、唯一の生き残り兵士くんは、命乞いをしながら這いずるように後退している。
その顔は恐怖に歪み、股間からは液体が漏れてしまっている。
ジータはその兵士が"ちょっとくらい味見してもいいっすよねぇ"と言っていたのを思い出す。
「ねぇ」
身を屈め、目線を兵士へと合わせ、あくまでもにこやかに
まるで幼子を相手にするように話しかけるジータ。
「た、頼む! 殺さないでくれ! な、何でもするから! 頼む!」
「じゃあ、他の兎人族がどうなったか教えてもらおうかな、
結構な数が居たはずなんだけど……全部、帝国に移送済み?」
百人以上居たはずの兎人族の移送にはそれなりに時間がかかるだろうから、
まだ近くにいて道中でかち合うようなら、ついでに助けてあげたい。
それくらいならハジメも賛成するだろう。
「……は、話せば殺さないか?」
「自分が条件を付けられる立場にあると思ってる?
別にどうしても欲しい情報じゃないしね」
「ま、待ってくれ! 話す! 話すから!……多分、全部移送済みだと思う」
なら、残念だが仕方ない、と、ジータが思った刹那、
信じられない、信じたくなかった言葉がその耳へと届く。
「人数は絞ったから……」
兵士の言葉に、悲痛な表情を浮かべる兎人族達。
「……間引きしたんだ……人を…命を…何だと」
ハジメですらゾッとするような声音で兵士を見下ろすジータ、その瞳に殺意が満ちていく。
先程までの自身の煩悶がバカバカしくなってくる、こいつらにとって、この世界にとって、
命とはかくも軽いものであったか……。
「待て! 待ってくれ! 他にも何でも話すから! 帝国のでも何でも! だから!」
兵士が再び必死に命乞いする、しかし、琴の音と共にその首は斬り飛ばされた。
「彼らは彼らの法や慣習に則った上で、奴隷狩りを行っている、そうじゃなかったのか?」
ハァハァと未だ収まらぬ怒りと、命を理由に命を奪った自身の矛盾に満ちた思考に、
息を荒げているジータに自分が加わるまでもないと静観していたシルヴァが声を掛ける。
「渡る世間は敵ばかり、ここは帝国の御法が及ばない辺境の地、でしょ」
ジータは小隊長らしき死体へと嘲り口調で一礼する。
「わざわざ教えてくれてありがとう」
色々思うところがあったのですが、結局ほぼ原作をなぞる形に、
最初は帝国兵全員眠らせてさっさと通過させる予定でしたが……。
こういう状況だとやっぱりニオがいて欲しいですよね。