ありふれた錬成師と空の少女で世界最強【完結】   作:傘ンドラ

3 / 173
プロローグその3、異世界へ

昼休憩――

なんとなしにジータが教室を見渡すと購買組は既に飛び出していったのか人数が減っている。

それでも彼女らの所属するクラスは弁当組が多いので三分の二くらいの生徒が残っており、

それに加えて四時間目の社会科教師である畑山愛子先生(二十五歳)が教壇で数人の生徒と談笑していた。

そして現在ジータの目にはハジメが十秒でチャージできる定番のお昼をゴソゴソと取り出す姿が映っている。

 

(あれ?まだ残ってるなんて珍しい)

 

普段のハジメは足早に校内のいずこかへと姿を消して昼寝としゃれこむのだ。

じゅるるる、きゅぽん! 

早速、午後のエネルギーを十秒でチャージしたハジメは

よほど疲れているのかそのまま机に突っ伏そうとした。

だが、そうはさせまいと女神が、ハジメにとってはある意味悪魔が、ニコニコとハジメの席に寄ってくる。

 

「南雲くん。珍しいね、教室にいるの。お弁当? よかったら一緒にどうかな?」

 

再び不穏な空気が教室を満たし始める中、ハジメは心の中で悲鳴を上げる。

 

それはハジメの隣の席のジータにとっても同じだった。

(ハリキリ過ぎだよ、濃い目のコーヒーを淹れてくるだけでいいって教えたでしょ!)

 

どうも過剰というか、香織はいつもやりすぎてしまうのだ。

 

(友達という麓から登らなきゃいけないのに…ヘリで彼女って頂上を狙っても墜落するだけだよ)

 

大体にして入学してから結構経つのにそもそも麓にすら辿り着けてないようにジータには思えて仕方なかった。

 

(こんな優秀なガイドがいるんだからさ…)

 

こうなるとハジメを教室の外に逃がすわけにもいかない

香織の気持ちも痛いほどわかるだけにジータに取ってはまさに板挟みの心境だ。

 

「あ~、誘ってくれてありがとう白崎さん。でももう食べ終わったから天之河君達と食べたらどうかな?」

「えっ! お昼それだけなの? ダメだよちゃんと食べないと! 私のお弁当分けてあげるね!」

 

(アカン)

 

ヘルプミージータちゃんと助けを求めるハジメの視線とこれでいいよねジータちゃんと、

押せ押せの香織の視線がジータの眼前で交叉する。

 

「香織。こっちで一緒に食べよう。南雲はまだ寝足りないみたいだしさ。

せっかくの香織の美味しい手料理を寝ぼけたまま食べるなんて俺が許さないよ?」

 

意外なところから救世主現るかとハジメは安堵する、だがジータはさらなる厄介が増えたと、

内心頭を抱える。

爽やかに笑いながら気障なセリフを吐く光輝にキョトンとする香織。

少々鈍感というか天然が入っている彼女には光輝のイケメンスマイルやセリフも効果がないことをジータは良く知っていた。

 

「え? なんで光輝くんの許しがいるの?」

 

素で聞き返す香織に思わず雫とジータが「ブッ」と吹き出した。

 

(ある意味似た者同士なのよね…)

 

光輝は困ったように笑いながらあれこれ話しているが

結局、ハジメの席に学校一有名な五人組が集まっている事実に変わりはなく、

視線の圧力は弱まらない。

 

(こいつら異世界召喚とかされないかな?…もちろんジータちゃんは別ね)

 

現実逃避を始めるハジメ。

そしてハジメのみらずこの場から逃げ出したいのはジータも同じだった。

 

(アイツから逃げたい…けどハジメちゃんを残して逃げられないよ) 

 

ひたすら眼前の光景から目を背けるジータだったが、ついに件のアイツこと、

天之川光輝の顔がジータをロックオンする。

 

「さ、ジータもこっちに来るんだ、人の厚意を無にするような奴と一緒にいると、

キミの兄さんのような卑怯者になってしまうぞ」

 

さも当然とばかりにサラリととんでもない暴言を口にする光輝。

卑怯者…この学校で再会して以来何度も何度も突き付けられた言葉。

今すぐぶっ叩いてやりたい衝動を抑えながら必死で言葉を紡ぐジータ。

 

「何度も何度も…いい加減止めて欲しいな天之河くん、あと下の名前で呼ばないでよね」

「天之河か…寂しいな、中学の頃みたいに光輝って呼んでくれていいんだよ」

「誰が!」

 

そのやり取りを聞いたクラスの女子たちのジータへの目線が一層険しくなる。

言葉を交わすことさえ躊躇われる学園の貴公子を一顧するまでもなく袖にしたのだ。

まして嫉妬の対象たるジータ自身も自分たちなど到底及ばぬ妖精のごとき美少女なだけに、

余計に腹が立つ。

彼女が香織や雫と違って女子生徒からの人気が今一つなのはこういう理由があるのだった。

 

「俺が君に何をしたって言うんだい」

「兄さんを侮辱したわ」

「悪いのは君の兄さんじゃないか!」

 

何度となく繰り返された話だがそれでも言い返さずにはいられない自分の迂闊さをジータは恥じた。

それでも無視するにはあまりにも聞き捨てならない。

 

「ああ!言わせてもらう、君の兄さんは!蒼野グランは卑怯者だ!雫を悲しませただけでは飽き足らず俺たちからも逃げた!」

 

(悲しませた…ねぇ)

 

確かに彼女の双子の兄である蒼野グランが八重樫雫を悲しませたのは事実ではあるし、

その件に関して彼女の幼馴染二人が憤る理由もわからないわけではないので、

微妙に反論し辛いのが困り所だ。

だが彼らの憤りが半ば自爆に近い逆恨みが含まれていても、

毎度毎度言われ続ければいずれ真実になってしまう。

心から敬愛する兄が女たらしの恥知らずの嘘つき呼ばわりされることには、

妹として到底耐えられることではなかった。

 

「極寒の冬の夜!俺たちは待った!いくら君の兄さん、そして俺の好敵手でも雫を傷つけ泣かせる者には容赦はしない!決闘だと!」

 

他者の事情を考慮しないどこまでも自分本位な解釈で吠え猛る光輝。

その声音には悪意は一切無く、むしろ悲嘆と義憤に満ちている、それが厄介だ。

道を踏み外した好敵手、そしてその妹を自らの手で更生させようという余計なお世話、

いや失礼した、勝手な善意の志に酔っているのだから。

 

ジータの目には光輝と龍太郎の背後でゴメンネと両手を合わせる香織と、

悲痛な表情で光輝を止めようとする雫の姿が映っている。

 

(ねぇ?現在進行形でキミが雫ちゃん悲しませてるよ、なんでわからないかなあ)

 

「雫!そんな顔をする必要はない!」

 

(だからキミのせいだってば)

 

「恥ずかしいと思わないのか!君の頑な態度が雫をどれほど悲しませているのか!」

 

…ぷちり。

ジータの後頭部から何かが切れる音が響いたのをハジメは確かに聞いた。

 

「くだらない」

 

ゆらりと立ち上がるジータ、その目は怒りで爛々と光っている。

 

「ここじゃ物が壊れるから屋上に行こうよ…久々にキレちゃった…要は」

 

(ゴメン…雫ちゃん、ガマン出来ない)

 

「雫ママを兄さんに取られそうになって悔しかっただけでしょ!天之河坊やは

よかったでちゅねぇ~っ、ママンが兄さんに振られて」

 

結局ご自慢のオモチャを否定されてゴネてるだけなのだ、このジャリは。

 

「な!」

 

羞恥と屈辱で光輝の顔がみるみる紅潮していく。

 

「言い過ぎだぞ!ジータ!」

 

余りの暴言に思わず口を挟む龍太郎だが、

 

「で?何かな?坂上くん」

 

だが舐めるように自分を見上げるジータの瞳を見るとそれ以上何も言えなくなってしまう。

 

「南雲!彼女に何をしたんだ!」

 

ハジメの机を拳で叩いて問い詰める光輝。

 

「そこでどうしてハジメちゃんが出てくるの?」

 

半ば呆れ気味に言い返すジータ。

 

「この学校で南雲に出会う前のキミはそんなじゃなかった!南雲!優しかったジータを返せ!」

 

的外れにも程がある、ジータにとってハジメとの付き合いは光輝や雫らよりもずっと長いのだから

 

「あのね、ジータちゃんと南雲くんは」

 

割って入って説明に入ろうとする香織。

 

「口を挟まないでくれ香織、俺はただ俺たちの大切な幼馴染であるジータを誤った道に進ませたくないんだ!」

「だから下の名前で呼ぶのやめてよ!気持ち悪い!」

「やめなさい!」

 

ここで愛子先生が割り込んでくる。その時だった。

光輝の足元に純白に光り輝く円環と幾何学模様が現れる

その紋様はゲームに詳しい一部の生徒にはすぐに理解できた、魔法陣だ

 

「皆! 教室から出て!」と愛子先生の叫びを背に、

「ハジメちゃん!」

 

ジータはハジメの手を取ってとっさに窓から外に飛び出そうとする。

ここ何階だっけか?

これも不慮の事故になるのかな?もしなったらあの女神にまた会えるのだろうか?

そう思いながらジータの意識はホワイトアウトした。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。