ありふれた錬成師と空の少女で世界最強【完結】   作:傘ンドラ

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今回はかなりショートカットしてます。


ジーク・ハウリア

 

「十日ねぇ……」

 

未だ深く垂れこめる樹海の霧を溜息交じりに見つめるハジメ。

カムのうっかりによって樹海内にて予期せぬ足止めを食らった一行は、

族長アルフレリックの厚意により、フェアベルゲン本国や集落への立ち入りこそ

許されなかったが、樹海への滞在を特別に許可されていた。

もっとも虎族や熊族の連中と一悶着はあり、トントン拍子とまではいかなかったが。

 

ジータはハウリア族に稽古を付けてやっている。

十日後には彼らは自分たちの手を離れるのだ、それまでに何とか自分たちだけで

戦える力をということだ。

 

最初はハジメも稽古に参加するつもりだったが、ジータに止められた。

 

(大丈夫、こー見えて雫ちゃんの道場に通ってたころは、小さい子の稽古相手とか

やってたんだから)

 

あの、凡そ戦いに向いてないということが明白なハウリア族は、

八重樫道場の"小さな子"よりも、遙かに厄介な生徒のようにハジメには思えた。

 

(向いてない……といえば)

 

ハジメはシアのことを思い出す。

樹海に向かう途中で、これまでの経緯をシアに話したのだが

それ以来彼女は、自分も旅について行くと言って聞かない。

 

「ハジメさん! ジータさん!ユエさん!私、決めました!皆さんの旅に着いていきます!

これからは、このシア・ハウリアが陰に日向に皆さんを助けて差し上げます!

遠慮なんて必要ありませんよ。私達はこれから仲間!共に苦難を乗り越え、

望みを果たしましょう!」

 

その芝居がかった態度の裏にある決意と悲しみをハジメは察している。

同じ"はぐれ者"として……。

だからこそシアはハジメたちに同行を申し入れたのだろう。

忌み子の自分がいる限り、一族は常に危険にさらされる、

事実今回、多くの同胞を失っているのだ。

 

……まぁ、気持ちは分かっても、その図々しい態度と言動にはイラっと来るが。

 

「例え忌み子であったとしても、家族や故郷で暮らすのが一番だろうに…」

 

 

現在、ハジメとシルヴァは熊人族のコロニーの近くに密かに陣取り、

彼らの動向を観察している。

アルフレリックの詭弁めいた温情により、ハウリア族の処遇は宙には浮いているが。

遺恨はどうあっても残る。

特に、熊人族は族長がハジメの手により再起不能にされている。

自分たちが立ち去った後、意趣返しとばかりにハウリア族を殲滅されようものなら、

それは流石に目覚めが悪い。

 

と、そこにユエとシアが帰りを促すべくやって来る。

ユエはいつも通りだったが、シアの姿がやけに汚れているのがハジメには少し気になった。

 

「一度戻るか、この分だと襲撃があるとしても数日先だろう」

 

ジータのハウリア族への稽古が終了する前に、熊人族が襲撃を仕掛けて来た場合は

ここで迎え撃つつもりだったが……。

 

ともかくシルヴァの言に頷くと、ハジメはジータらの所へと引き上げる。

仮住まいの拠点の手前で、ハジメたちの戻りを待っていたのか、

ジータがポツンと立っている。

 

今の彼女は、頭に額帯鏡を付け、緑のノースリープのシャツとタイトスカートに白衣を纏った

EXⅡジョブの一つであるドクターの姿をしている。

名前と見た目通り、回復と耐久に優れたジョブである……一応は。

 

「誰かケガでもしたか?」

「ま、まあ…ね」

 

妙に空々しい態度のジータ。

ケガ人や病人ならクラスⅣのセージにジョブチェンジして治療する方が確実なのだが……。

セージ姿のジータを思いだし、ついでにその姿のジータと何をしていたのかも思いだし

やや伏目がちになるハジメ。

 

「まずはあそこの小川で身体洗おうよ、シアちゃんとかこんなに汚れてるし」

「……なんかお前俺に隠してるだろ?」

 

ギクッ!

そんな音がジータの後頭部から発したのをハジメは確かに聞いた。

 

「……」

 

無言で、拠点代わりの結界の中に足早に入るハジメたち、制止するジータの声が

背後から聞こえるが、それに関しては無視する。

 

と、そこには。

 

「オレサマオマエマルカジリ」

「かゆうま」

 

ガジガジと歯を剥き出しにし、ギロリと血走った眼を見開き

野原を走り回る、ハウリア族たちの姿があった。

 

ハジメの危惧した通り、ハウリア族への戦闘訓練は困難を極めた。

 

武器を持たせて魔物を討たせてみれば。

罪深い私を許してくれだの、私はやるしかないのだの、くだらない小芝居を連発し、

それについてジータが窘めようものなら、だっていくら魔物でも可哀想で…とか

ブツブツ小声で口答えをされる。

 

挙句、やけにぴょんぴょんぴょんぴょん何かを避けるように皆動いてるので

何かその動きに意味があるのと聞いてみたら、

このお花さんを踏みそうになって……潰しちゃうところだったよ

などと口にされた時には―――。

 

「それで……まずはその精神性から改造しなきゃと思って……その」

「ど、どういうことですか!? ジータさん! 父様達に一体何をっ!?」

「平たくいえばドーピングというか…洗脳かな」

「なにーっ!」

 

その瞬間、どうしてジータがドクターの姿になっていたのかを、

立ちどころに理解するハジメ。

 

「まさか……マッドバイタリティを投与したとか」

「……そ、そのお、それだけじゃ足りないって思って…」

「アドレナリンラッシュもか!」

 

マッドバイタリティ、アドレナリンラッシュ、どちらもドクターのアビリティで精製する薬品で

投与された者の精神と肉体の限界を大幅に引き上げる効果がある。

そう、ドクターの本質は治療ではなく、強化と継戦能力を重視したガチ戦闘系のジョブなのである。

 

しかし異世界人でもなければ、魔力も持たない兎人族にはあまりにも刺激が強すぎたらしい、

薬の効果により精神と肉体の枷が外れてしまった彼らは、

もはや無秩序な暴徒と化しつつあった、いや、化している。

 

「もももっ、元に戻るんですか!戻りますよね!、どーなんですかっ!」

 

必死の形相でジータの襟首を掴んで揺さぶるシア。

 

「まぁ……元には戻るよ、常習性もないし…大丈夫」

 

揺り返しはあるだろうけど、と心の中でだけ呟くジータ。

ガジガジとユエの腕に噛みつこうとして、蹴り飛ばされてるのはパルとか言ったか?

少なくとも花や虫を気にすることはもう無いだろうと、その足元を見て思うジータ。

 

「要はこれを秩序ある暴徒に仕立てあげればいいんだな」

 

溜息交じりのハジメに、心から申し訳ない表情を見せるジータ。

自分でこの事態を巻き起こしてしまって何だが、

もはやこれは猛獣使いの範疇のように彼女には思えた。

 

「むしろ獣なら簡単だ、死にたくないと本能に刻めばいい」

 

そんな彼女の心情をあらかじめ理解してたかのような言葉を放つシルヴァ。

 

ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!

 

まずは空中に向かって威嚇射撃。

轟音に反応したのかピタリとハウリア族の動きが止まる。

 

ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!

 

今度は立ち尽くす彼らの足元へとドンナーを斉射するハジメ。

人事不省の混乱状態でも、やはり本能に根差した恐怖は感じるのか、

蜘蛛の子を散らすように逃げ惑うハウリア族一同。

 

「貴様らは薄汚い"ピー"共だ。この先、"ピー"されたくなかったら死に物狂いで(以下略)」

 

とてもここでは記せないようなピー音だらけの叫びを口にしながら

空に向かってドンナーを乱射しながらハウリア族を追い掛け回すハジメ。

その動きは某ギャグアニメに出て来る目ん玉繋がりのお巡りさんのようだった。

 

「フフ……イルザがいればハジメは"組織"にスカウトされるだろうな、

尤も私は、彼らのことはあまり好きではないのだが」

 

妙に訳知り顔のシルヴァ、自分が何かしたわけでもないのにそのドヤ顔チックな横顔が、

なんかイヤだなとジータが思った刹那。

 

「元はと言えばお前のせいだろーが!お前も動け!俺に続いて叫べ!」

 

ハジメに首根っこを掴まれ、追いかけっこに強制参加させられるジータ。

それをドヤ顔で頷きながら見つめるシルヴァ、

その傍らでは寂しげに地面にのの字を刻むユエの姿。

 

「……つまんない」

 

本当に彼らに付いていっていいものか、少し心配になるシアだった。

 

 

 

 

そして、途中揺り返し期間を経てついにハウリア族は覚醒した。

―――秩序ある暴徒へと。

 

「落ちろカトンボ」

「絶好調である!」

「怖かろう」

 

温和で平和的といわれる兎人族の面影はもはや彼らには微塵もなかった。

ちなみに揺り返し期間に置いて。

 

「ああ…刻が見えるよ…」

「何か光ったよ、彗星かな?」

「開けてくださいよー」

 

などと、ハウリア族たちは譫言を口にしていたことを追記しておく。

そんな感じで今の彼らはワイルドさに加えて、

キュピーンと何かを感知できそうな雰囲気に満ちている。

 

「素晴らしい…まるでハウリアの精神が形になったようだ!」

 

挙句はナイフに頬ずりする者までいる始末。

 

「どどど、どういうことですか!? ハジメさん!ジータさん! 父様達に一体何がっ!?」

「「……訓練の賜物……」」

「どうしてこっちの目を見て言ってくれないんですか!二人とも!」

 

自分もユエやシルヴァと共に樹海の奥で修業を重ね、ついにハジメへと

一大告白をしようとしていた矢先だったのに……、

ふらあとその場に力なくへたり込もうとするシアを支える小さな影。

 

「あっ、ありがとうございます」

「いや、気にしないでくれ、シアの姐御、男として当然のことをしたまでさ」

「あ、姐御?、パル君…一体」

「フフフ……パルとは違うのだよ、パルとは」

 

ニヒルな笑みを浮かべるパル少年、御年十一歳である。

 

「俺は過去と一緒に前の軟弱な名前も捨てました、今はバルトフェルドです。

"必滅のバルトフェルド"これからはそう呼んでくだせぇ」

 

頭脳が事態に追いつかず呆然とするシア、そんな彼女を尻目に、

パルはスタスタとハジメの前まで歩み寄ると、ビシッと見事な敬礼を披露する。

 

「御大将ォ!完全武装した熊人族の集団を発見しました。

大樹へのルートにて、おそらく我々に対する待ち伏せかと愚考します!

この件!我らハウリアの初陣とさせて頂きたく進言申し上げます!」

「カムはどうだ? こいつはこう言ってるけど?」

 

話を振られたカムは、ニヤリと不敵な笑みを浮かべると願ってもないと言わんばかりに頷く、

先日までのうっかり族長の面影は無かった。

 

「怨恨のみで戦いを支える者に我らは倒せん!我らは義によって立っているからな!!」

「我らハウリア族は十日待ったのだッ!十日……生き恥をさらし、この時を待ったッ!」

 

南〇条約を思いっきり違反しそうな雰囲気で拳を振り上げるカム。

 

「族長(オサ)!族長(オサ)!族長(オサ)!族長(オサ)!族長(オサ)!」

 

その号令に凄まじい気迫を以て返すハウリア族たち。

あまりにも変わり果てた一族の姿にシクシクと涙を流すシア。

それを見ながら責任を押し付け合うハジメとジータ。

 

 

こうして新生ハウリア族と熊人族は激突する、勝敗は火を見るより明らかなので

ここでは書かない。

 

 

完膚無きまでに叩き潰された熊人族に恫喝めいた約定を結ばせた後、

ハジメたちはついに大樹の前に辿り着く。

周りの木々が青々とした葉を盛大に広げているのにもかかわらず、

大樹だけが枯れ木となっていたのですぐにわかった。

 

いわゆる世界樹のような錚々たる大樹を想像していたのだが……。

少々拍子抜けしつつも、彼らはアルフレリックの言葉にあった七つの紋章が刻まれた石碑を探す。

簡単に見つかる、七角形の石碑の頂点の位置に七つの文様が刻まれていた。

 

「これは……オルクスの扉の……」

「同じ文様だね」

「ハジメ……これ見て」

 

石碑の裏側からユエの声がする。

そこには、表の七つの文様に対応する様に小さな窪みが開いていた。

オルクスの指輪を表のオルクスの文様に対応している窪みに嵌めてみる。

 

すると……石板が淡く輝きだし、何やら文字が浮き出始める。

 

"四つの証"

"再生の力"

"紡がれた絆の道標"

"全てを有する者に新たな試練の道は開かれるだろう"

 

「四つの証っていうのはつまり七大迷宮のうち四つをクリアしないと入れないってことかな?」

 

少し拍子抜けした口調のジータ。

 

「再生の力ってのはユエの力のことじゃなさそうだしな、

つまり再生に関する神代魔法があるということか?」

「あとは……紡がれた絆の道標ってのは何だ?」

「口伝の事じゃないかな?ホラ、アルフレリックさんが言ってた

"その者を気に入ったのなら望む場所に連れて行くこと"つまりは……」

「亜人族の信頼を得られるかどうか……か」

 

神から魔法を授からなかった、それだけの理由で人間から差別・迫害を受ける亜人族。

 

(その協力、信頼を得ずして神殺しなどもっての外ってことだよね)

 

ジータはやや離れた位置にて控えるハウリア族の面々を眺める。

思ってたのとは随分と違う感じになってしまったが、"信頼"は得られたと思う。

なら、ここを訪れたことは無意味ではなかった。

 

信頼と言えばもう一つ。

ジータはユエと共にシアの背中をポンと押す。

ゴクリ……と喉を鳴らすような音を立てるシアだが、ユエとジータの頷きに

自分もコクリと頷きを返し、ハジメへと向き直る。

 

「ハジメさん。私をあなたの旅に連れて行って下さい。お願いします!」

「断る……俺はお前の一番の幸せは家族と共に、この故郷で暮らすことだと思ってる」

「カムたちだってそうだ、シアを…大切な家族を守りたいから、共にいたいからこそ変わったんだ」

 

やはりハウリアの境遇を自分の境遇と重ねていたのかとジータは思った。

だからこそ手を差し伸べたのだとも。

 

(少し変わりすぎだけどね、どっちも)

 

泣き出しそうなシアの頬にそっと自らの掌を重ねるハジメ。

その自然な仕草にムッとなるユエとジータ。

 

「あいつらは強くなった、それにお前もユエから一本取ったんだろ?……なら」

「ハジメさんの傍に居たいからですぅ! しゅきなのでぇ!」

「……は?」

 

(あ、噛んだ)

 

ジータがついクスリと笑ってしまったのを感づいたか、シアがふくれっ面を見せる。

 

「いやいやいや、おかしいだろ? 一体、どこでフラグなんて立ったんだよ?」

 

かなり雑な扱いをしていた意識はある、本気で首を傾げるハジメ。

これは決して鈍感力のせいではない。

そして様子を伺うようにジータとユエの顔を見て……。

 

 

外堀が完全に埋められているのを悟った。

 

 

ユエから一本というのはそういうことだったか……、

そしてその提案を持ち掛けたのはジータだ。

想いの強さと戦闘能力、その双方を確かめるために。

 

シアの戦闘能力はユエから聞いている、

身体能力に関してはジータに匹敵するレベルらしい。

 

「私……命懸けで頑張ったんです」

 

確かに生半可な気持ちであの二人を納得させることは出来ないだろう。

十日間死に物狂いでユエに挑み続けたに違いない。

 

「お前の想いには応じられないかもしれない……けれど仲間として、友としてでいいのなら」

 

仲間、友……という言葉が自然と出て来たことに、内心驚くハジメ。

 

「知らないんですか? 未来は絶対じゃあないんですよ?」

 

未来は覚悟と行動で変えられるとシアは信じている。

それは自分たちもそうではなかったのか?

 

(分かるよね、ハジメちゃん)

 

ジータはシアの中に、かつて自分たちが地の底で振り絞った勇気と覚悟を見た。

だからこそハジメへの挑戦権を与えたのだ。

 

「危険だらけの旅だ、そして俺の望みは故郷に帰ることだ……それは」

「もう家族とは会えないかもしれないということですよね、"それでも"です。

父様達もわかってくれました」

 

「俺の故郷は、お前には住み難いところだ」

「何度でも言いましょう。"それでも"です」

 

言葉では止まらない覚悟をハジメはシアの瞳に見た。

 

「……私も連れて行って下さい」

「はぁ~勝手にしろ、物好きめ」

 

クルリと踵を返すハジメ、ニヤニヤ笑顔のジータと目が合う。

 

「ふん!料理上手が多いと便利だなって思っただけだ!」

「ハイハイ」

 

その後、御大将!我らも共にィ!と口々に叫ぶハウリア族一同を振り切り

彼らは次なる目的地を目指すのであった。




ハウリア族の方向性が作者の趣味で少し変わりました。 
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