ありふれた錬成師と空の少女で世界最強【完結】   作:傘ンドラ

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二話に分けようかなと思いましたが、結局一話に纏めることに
少し長めかもしれませんが……。

ところで奥サマ、アニメのジータちゃんご覧になりました?
たゆんたゆんでしたね。


ブルックの愉快な人々

 

「皆さん、そう言えば聞いていませんでしたが目的地は何処ですか?」

「次の目的地なぁ、実はライセン大峡谷に戻ろうと思ってるんだ」

「ライセン大峡谷ですか…って、ええっ!」

 

頬を引きつらせるシア、ライセン大峡谷は地獄にして処刑場というのが一般的な認識であり、

しかもつい最近、一族が全滅しかけた場所でもあるのだ。

 

そんなシアの動揺を見て取ったジータが、震えるその膝にそっと掌を落とす。

 

「大丈夫、今のシアちゃんなら谷底の魔物だって怖くないはず、それにライセンは

放出された魔力を分解しちゃうから、それにシアちゃん身体強化得意でしょ?むしろ」

 

チラとバックミラーに写るハジメの眼を見て、それからそっとシアに耳打ちするジータ。

 

「チャンスなんじゃないの?」

 

チャンス……、その言葉を聞いたシアは一瞬強張った身体をピクリと動かすと

次第にその表情が緩んでいく。

 

きっと今、彼女の脳内では魔力切れで動けなくなったハジメをその背に守り、

迫りくる敵を大槌で薙ぎ払う自分の姿を描いてでもいるのだろう。

勿論、キメポーズはガ〇ダムパースだ。

 

「でへでへでへ」

 

だらしないニヤケ顔を晒しながら車の天井を見つめるシア、その横顔を眺めながら。

ユエがジータへと溜息交じりに囁く。

 

「ジータ……塩送りすぎ、それともハンデ?」

「どうかな♪」

 

さらに数時間ほど走り、日暮れ近くになってようやく、前方に町が見えてきた。

周囲を堀と柵で囲まれた小規模な町だったが、

"生活"の匂いに頬を綻ばせるハジメたち、四輪を宝物庫に収納し、徒歩に切り替え町へ向かう、

退屈気な門番の姿が見えて来たあたりで、ジータが懐の何かを探り始める。

 

「ハジメちゃん、ステータスプレート」

「あ、そうだった悪りぃ」

 

ジータに促され、プレートの数値や技能を隠蔽するハジメ。

何せ二人ともステータスは五桁を超えている。

 

「こんなの見せたらあの門番さん倒れちゃうよ」

「ねぇ、それよりそろそろこの首輪取ってくれませんか?」」

 

憮然とした口調でシアが己の首にピッタリ嵌った黒い首輪を指さす。

車内であまりにも騒ぐのでハジメが罰として取り付けたものだ。

そうこうしてる間に、一行は町の門までたどり着く、

と、詰所から、武装した男が出てきた

 

「止まってくれ、ステータスプレートを見せて貰おうか、あと、町に来た目的は?」

「装備と食料の補給がメインだ、旅の途中で魔物に襲われてな、ホラ」

 

身振りで手ぶらっぷりをアピールするハジメ。

 

「そいつは大変だったな……ええと南雲ハジメと、ほい確かに」

 

流れ作業のようにハジメにプレートを返す門番、その滑らかな手つきは熟練さよりも

むしろ手抜き感が漂っており、門番としての職務意識に少し不安を覚えるジータ。

 

「そっちの四人は?」

 

門番がジータたちにもステータスプレートの提出を求めようとして、

四人に視線を向け……頬を染めて硬直した。

無理もない、精巧なビスクドールと見紛う程の美少女であるユエ。

そして、シアも喋らなければ神秘性溢れる美少女で、

さらにシルヴァも、優雅さと鋭利さを併せ持つ美女である。

 

「あの~」

 

彼女ら見惚れて正気を失っている門番に問いかけるジータ。

もちろん、彼女も妖精のごとき美少女である。

 

「さっき言った魔物の襲撃のせいで、こっちの二人のは失くしちゃったんです、

私のはこれです」

 

ジータの声にハッとなって、手渡されたプレートに視線を移す門番。

 

「こっちの兎人族は……わかるだろ?」

 

プレートをジータに返しながら、なるほどとハジメへと頷く門番。

 

「それにしても随分な綺麗どころを手に入れたな、白髪の兎人族なんて相当レアだろ?

あんたって意外に金持ち?」

 

羨望と嫉妬の入り交じった表情で門番がハジメに尋ねる、ハジメは肩を竦めるだけで何も答えない。

 

「まぁいい、通っていいぞ、町についての詳しいことは冒険者ギルドで聞け」

 

門番から情報を得て、ハジメたちは町へと入る。

この町の名前はブルックと言うらしい、町の規模はそれほどでもないが、

露店の呼び込みや、生活の喧騒がハジメたちの心を高揚させる。

 

ハジメだけではなく、ジータもユエもシルヴァも楽し気に、

風景や道行く人々を眺めているのだが、しかしシアだけはやはり首輪が気に入らないらしく、

不満げな表情を見せている。

 

「この首輪のせいで奴隷と勘違いされたじゃないですかぁ~」 

「あのね、奴隷でもない亜人族、それも愛玩用として人気の高い兎人族が

普通に町を歩いてたらどうなると思う?」

「あ…」

「つまりハジメは君を守るために、その首輪を与えたということでもあるな」

 

ジータとシルヴァの説明に少し合点がいったような顔をするシア。

 

「まして、シアちゃんは白髪の兎人族で物珍しい上、かわいくってもスタイルも抜群

誰かの奴隷だと示してなかったら、町に入って十分も経たず目をつけられて、

絶え間無く人攫いに狙われて……って」

 

シアはいつの間にか頬を染めて、クネクネとしなを作っている。

 

「もーそれならそうだって早く言ってくださいよぉ~

ハジメさんってばホント照れ屋さんなんだから、そんな、容姿もスタイルも性格も抜群で、

世界一可愛くて魅力的だなんてぇ、もうっ! 恥かしいでっぶげら!?」

 

調子に乗って話を盛るシアの頭頂部にジータのチョップが、

さらに頬にユエのパンチが突き刺さる。

 

「「……調子に乗っちゃだめ」」

「……ずびばぜん、お二人とも」

 

「あれだな、ギルドは」

 

大通りの突き当りにある、ひときわ大きな建物を見やるハジメ。

なんとなく銀行のような雰囲気を醸し出している。

 

「思ったよりもきれいだね、外観は」

 

などと話しながら入り口をくぐると、中も清潔な事務所然とした―――

まさに自分たちの世界での銀行に近い空間だった。

正面には受付カウンター、左手にはフードコートっぽい飲食コーナーがある。

 

荒くれもの達が肩組んで真っ昼間からエールを煽ってるような、

猥雑なイメージを抱いていたのだが……オルクスといい、ここといい、

どうも中途半端だ。

 

とりあえずカウンターに目をやると恰幅のいいおばちゃんがいた。

 

「残念だったね、美人の受付じゃなくて」

「いや、そんなこと考えてないから」

「ま、こんな綺麗な花を四輪も持ってりゃ、足りないってことはないよねえ、さて、じゃあ改めて冒険者ギルド、ブルック支部にようこそ、ご用件は何かしら?」

 

ハジメたちはキャサリンと名乗るおばちゃんから冒険者ランクの説明を受けたり、

趣味で作ってるとかいう町のマップを貰い、そのままギルドを……いやいや。

 

「ちょっとアンタ!買取やんなくっていいの!?」

「おっと……」

 

肝心なことを忘れてた、バツの悪い思いでハジメはカウンターに戻る。

 

「持ち合わせが全くないとか言っておいてそれかい……たく」

 

今度はキャサリンはジータたちの方を見る。

 

「アンタたちホントにこんな宿六でいいの?苦労するよ」

「いいんですよ、苦労なんて」

 

カウンターの椅子にまた腰かけたハジメの肩を労わるように上から掴むジータ。

 

(もう一生分の苦労は済ませたような気がするしね)

 

「買取もここでいいのか?」

「構わないよ、あたしは査定資格も持ってるから見せてちょうだい」

 

樹海の魔物から取れた素材を査定している時のキャサリンの表情が少し気になったが、

ともかく買取も全て終わり、一行は宿を取る。

部屋が二人部屋と三人部屋しかなく、部屋割りでシアが少し騒いだのだが。

結局、ハジメとジータとユエが三人部屋、

そしてシアとシルヴァが二人部屋の方で落ち着く。

ハジメに従い三階にある客室への階段を上る、ユエの勝ち誇った表情、

ジータの濡れた瞳を見て、ぷーと頬を膨らませるシアだった。

 

食事が終ると、またそそくさと自分たちの部屋へと戻っていくハジメたち三人。

その後ろ姿にがるると牙を向けるシア。

 

 

「どうしたらいいと思います?シルヴァさん」

「?」

「ですから、ハジメさんに私の処女を貰って頂く方法ですよ」

「へ?」

まさかこういう話題をここで振られるとは思わなかったシルヴァ、

普段の彼女とは思えない、間の抜けた返事を返してしまう。

 

「こ、こういうところでそういう話はだな……ひとまず部屋に」

 

戻らないか?と促そうとして、

シアのテーブルの前にいつの間にか空のグラスが置いてあることに気が付く。

 

「ハジメさん、ぜぇ~~ったいウサミミが好きだとおもうんですよねえ」

 

白い肌を紅潮させてシルヴァに絡むシア、吐息からはアルコールの匂いが漂う。

 

「飲んだな、いつの間に」

「え、なんれすか、あっちのテーブルの人が飲んでるのを頼んだだけれすよ

色らきれーだったれすし」

 

「で、話のつづきーぃ、ハジメさんはウサミミを好きなんれすよ」

「それでは、君のことじゃなく君の耳が好きなように聞こえるんだが?」

 

こんな時にまで真面目に突っ込みを入れてしまう、自分の律儀さを恨めしく思うシルヴァ。

 

「ちがいますぅーおっぱいだって、こんなにあるんですよ!」

「こっこら、やめろっ!」

 

両手に余る大きさの乳を掴んでゆさゆさと揺らすシアの姿を、ジャケットで隠すシルヴァ。

どのテーブルも盛り上がっているらしく、

幸いにも彼女らの奇行に気が付くものはいなかったが

 

いっそぶん殴って部屋に持ち帰ろうかと思ったが、一撃で気絶させられる保証はなく、

しくじれば騒ぎが大きくなる、かといって放って帰るわけにいかない。

 

「やっぱりこれってあの二人にはない、おっきな武器だと思うんですよ~」

「あ…ああ、そうだな」

「それでですね、こうやって迫ってですね」

 

ぐいと谷間を造るようなポーズを見せるシア。

 

「い…いいんじゃないかな」

「シルヴァさんならどうします、そこを聞きたいんですよ」

「まぁ、頑張ってだな…そこは」

 

銃を手にした凛々しい姿とは打って変わったたどたどしい態度に終始するシルヴァ。

腑に落ちない表情のシアだったが、アルコールで若干鈍った頭でも容易に思いつく

一つの結論に達した、半ば信じられないことではあるが。

 

「あの……シルヴァさん?」

「ん」

「二十七歳でしたよね……まさか…その歳で」

 

シルヴァは立ち上がるとカウンターのグラスを一気に飲み干した……他の客の、

 

「あ、それ俺の」

「ああ、そうだ!シア……私はまだ処女なんだッ!」

 

その瞬間、喧騒に包まれていた食堂が一瞬にして静寂に包まれ。

シルヴァに注目の視線が集まる、皆一様に信じられないような顔をして。

 

「見世物じゃないッ!行くぞ!」

 

シルヴァはカウンターにお金を置くと、シアの手を引いて強引に食堂を出る。

 

「あ…あの、お釣り」

「取っとけ!」

 

二人の姿が食堂から消えたあと、また喧騒が戻るが。

 

あの美人が……二十七歳……きっとよほど性格に問題が……

 

そんな囁きが随所に聞かれるようになる。

 

性格じゃなくてよ、肉体に問題が……

実は生え……

 

ヒュバッ!

どこからともなく飛来した鎮圧用のゴム弾が不埒な酔客の額に命中した。

 

「人を"検閲削除"みたいに言うな!」

「何の話です?」

「何でもないッ!」

 

翌日、シルヴァは外に出たくないと外出を拒否し、ハジメは作業があるからと

ジータたち三人に食料や薬の買い出しを頼んだ。

 

二日酔いに悩ませられながら、よろよろと身体を引きずるように歩くシア。

 

「ううう…頭イタイですう」

「ホラ、しゃんとして、先にシアちゃんの服買うからね」

「宿はお昼までしか取ってない、急ごう」

 

キャサリンおばちゃんの地図には、きちんと普段着用の店、

高級な礼服等の専門店、冒険者や旅人用の店と分けてオススメの店が記載されている。

まずは冒険者向きの店に足を運ぶ、この店は普段着もまとめて購入できるらしい。

 

ただ、そこには……。

 

「あら~ん、いらっしゃい?可愛い子達ねぇん。

来てくれて、おねぇさん嬉しいぃわぁ~、た~ぷりサービスしちゃうわよぉ~ん?」

 

化け物がいた。身長二メートル強、全身に筋肉という天然の鎧を纏い、

劇画かと思うほど濃ゆい顔、禿頭の天辺にはチョコンと一房の長い髪が生えており

三つ編みに結われて先端をピンクのリボンで纏めている。

服もやけに露出度が高く、動く度に全身の筋肉がピクピクと動きギシミシと音を立てている、

 

「……シアちゃんの服は私が作ってあげるから」

 

化け物を一瞥するなり、ジータはユエとシアの手を引いて踵を返す。

 

「ちょ、ちょっと~~ぉ、待ちなさいよぉ~~」

「間に合っております」

「ウチは品揃えには自信あるのよ!キャサリンさんの地図にだって載せて貰ってるんだからッ!」

 

"物凄い"としか形容できない笑顔を浮かべ、両手を頬の隣で組み、

身体をくねらせながら迫る化け物、ついこらえきれずユエは呟いてしまった。

 

「……人間?」

 

その瞬間、化物が怒りの咆哮を上げた。

 

「だぁ~れが、伝説級の魔物すら裸足で逃げ出す、

見ただけで正気度がゼロを通り越してマイナスに突入するような化物だゴラァァアア!!」

 

「あ、意識あ……むぐぐ」

「ご、ごめんなさい……」

 

煽ろうとしたジータの口をユエが慌てて塞いで謝る。

化物は再び笑顔らしきものを取り戻し接客に勤しむ。

 

「いいのよ~ん。それでぇ? 今日は、どんな商品をお求めかしらぁ~ん?」

「彼女の服を見たてて頂きたくって」

 

化け物の一喝を浴び、腰を抜かしてしまったシアを手で示すジータ。

シアはもう帰りたいのか、ユエの服の裾を掴みふるふると首を振っているが

化物は「任せてぇ~ん」と言うやいなやシアを担いで店の奥へと入っていってしまった。

で、結論から言うと、化け物改め店長のクリスタベルさんの見立ては見事の一言であり、

店を出るころにはすっかり三人は店長と仲良くなっていた。

 

「意外にいい人でしたね、店長さん」

「ん……人は見た目によらない」

 

ベンチに座って荷物を整理するジータ、ユエは串焼き露店が肉を回す様子を面白気に見ている。

シアはくんかくんかと香ばしい匂いに鼻を動かすも、胃が受け付けてくれないらしく

拷問ですぅ~~と涙目になっている。

 

じゃあ、次は道具屋へ……と口にしようとしたところで、

周囲から複数の気配を感じる、それも数十人単位の……。

ジータが一瞬で戦士の表情になり、ベンチから立ち上がると、

物陰からわらわらと冒険者風の男たちが現れる。

 

その内の一人が前に進み出る。

 

(あ……この人)

 

ジータには見覚えがあった、ハジメたちがキャサリンと話しているとき冒険者ギルドにいた男だ

 

「ジータちゃんとユエちゃんとシアちゃんで名前あってるよな?」

 

「「「ジータちゃん!俺と付きあってくれええっ!」」」

「「「ユエちゃん!俺と付きあってくれええっ!」」」

「「「シアちゃん!俺の奴隷になれ!」」」

 

大の大人たちが奴隷という言葉を大声で口にしながら、

古の告白タイムよろしく右手を差し出す姿に、かなりの違和感を覚えてから

ああ、そういう世界だったかと再認識するジータ。

 

ともかく告白を受けた三人だが、

 

「……シア、道具屋はこっち」

「あ、はい。一軒で全部揃うといいですね」

 

ユエとシアは何事もなかったように、通りへと歩き出し。

 

「ごめんなさい」

 

告白には慣れっこのジータは、いつもの通りあっさりと受け流す、笑顔を添えて。

しかしその笑顔は、名刀の如き斬れ味で男たちの心を一刀両断した。

 

「「「ぐぅ……」」」

 

まさに眼中にないという態度に男たちは呻き、

何人かは膝を折って四つん這い状態に崩れ落ちた。

そう、禍根を残さず斬るのが刺客道ならば、彼女はまさに一流の刺客と言えた。

―――しかし。

 

彼女ら三人の美貌は、他から隔絶したレベルだ。

このまま行かせてなるものかと、一人の男が雄叫びを上げる。

 

「なら、なら力づくでも俺のものにしてやるぅ!」

 

その無謀かつ蛮勇な叫びに、膝を付いていた男たちの眼に光が宿り始める。

 

「二手に分かれるよ!用事が終ったらそのまま宿屋でね!」

 

完全に取り囲まれる前に脱兎の如く、その場から逃げ出すジータたち、

逃げながらジータがチラと後ろを見ると、なんと半分以上が自分の方へと付いてきている。

頑張れば何とかなりそうな近所の幼馴染オーラは、このトータスの地でも有効なようだ。

 

最初に声を掛けてきた男が、雄叫びを上げながらル〇ンダイブするが、

流石にそれはやり過ぎだろうと、何人かが止めに入り、結果男の服が大きくはだけ、

そして思わず身を屈めたジータの頭上を通り抜け、そのまま対面の店の玄関へと吸い込まれる、

……クリスタベルさんの店の。

 

「あらあん、いらっしゃい~~」

「たっ……助けッ」

 

ほぼ全裸の状態で飛び込んだ場所がどこで、自分がこれからどうなるのか察した男は、

慌てて逃げ出そうとするが。

 

「いいのかしら、ホイホイ入って来て」

 

―――遅い、逃げ出す背中にクリスタベルの丸太のような腕が伸び、

そのまま男は店の中へと引き戻され、そして扉には鍵がかけられ"準備中"の札が

ノブに取りつけられる。

 

「き……きっと服を仕立ててくれるんですよ、ね…そうでしょ、でしょ」

 

只ならぬ雰囲気に、たまらず周囲の人々に聞いて回るジータだが、

男たちはただ心から気の毒そうな、無事を祈るかのような目で沈黙を返すのみだ。

 

(ゴメンなさい……)

 

ペコリと頭を下げるジータ、時折小刻みに建物が揺れるのがなんだかとても嫌で、

一刻もこの場を離れたかったのだが、それでも気の毒な男の無事を……

正確には無事ではいられないであろうことを承知の上で、

祈らずにいられないジータだった。

 

「通していただけますか」

「あ……はい」

 

狂騒を脱した男たちの人混みがジータのためにさぁっと左右に分かれる、

上から見るとモーゼみたいだろうなと思いながらジータはまた買い物の続きに戻る、

道中でユエが行き過ぎた男の股間を破壊する場面に出くわしたが、

スルーしたのは言うまでもない。

 

 

「……出てこなければやられなかったのに」

 

 

買い物を終え、三人が宿に戻ると、ハジメもちょうど作業を終えたところのようだった。

 

「お疲れさん、必要なものは全部揃ったか?」

「大丈夫、食料も沢山揃えたから」

 

ジータは預かっていた宝物庫をハジメへと投げ渡す。

 

「そういや、町中が何か騒がしく思えたんだが」

「……問題ない」

「あ~、うん、そうですね。問題ないですよ」

 

ハジメはユエとシアの態度に、少し訝し気な表情をするが

 

「まぁいいや、さて…シア、こいつはお前にだ」

 

ハジメはシアに直径四十センチ長さ五十センチ程の円柱状の物体を渡す。

 

「こいつの名はドリュッケン、シア、俺がお前の力を最大限生かせるように考えて作った

お前だけの牙だ……とりあえず魔力流してみろ」

 

「えっと、こうですか? ッ!?」

 

言われた通り、槌モドキに魔力を流すと、カシュン! カシュン! と

機械音を響かせながら取っ手が伸長し、槌として振るうのに丁度いい長さになった。

 

「いいだろ、魔力を特定の場所に流すことで変形したり内蔵の武器が作動したりするんだぞ

使いこなしてくれよ?」

 

シアは嬉しそうにドリュッケンを胸に抱く。

あまりに嬉しそうなその姿を見て、

 

(大槌のプレゼントなんて……香織ちゃんが聞いたらどんな顔するかな)

 

ジータは少し変な感想を抱いてしまう、ハジメも同じ気分なのか

ジータと顔を見合わせ苦笑いだ。

ちょっと不機嫌だったユエもジータに肩を叩かれると、仕方ないなと肩を竦め微笑む。

 

「じゃ、シルヴァさん呼んでくるね」

 

一方のシルヴァだが…。

 

「……私にはそんなに魅力がないのだろうか」

 

一人鏡を見つめ悩まし気にため息をつく……確かに"帝国"に故郷を封鎖されて以来、

戦いに明け暮れていた感はあったが、相応に身嗜みは整えてきた意識はある。

しかしそれでも、自分が女としての何か大切な物を失いつつあるのではと、

つい思ってしまう。

 

「ふ……イルザじゃあるまいし…何を私は考えている」

 

やたらと婚期を気にする"組織"の女教官の姿を思い浮かべるシルヴァ。

しかしジータやユエ、そしてシアの輝かんばかりの若さを目の当たりにすると

彼女の焦りも少しは理解できるのである。

 

(私だってまだまだ負けてないぞ)

 

髪型をツインテールにし、頬に手を当て鏡の前でポーズを取るシルヴァ、

そのポーズは奇しくもクリスタベル店長のそれと酷似していた。

 

「そろそろ出」

「しんしんし~~ん!シルヴァで~~っす♪」

「発……」

 

鏡越しにジータと目が合う。

 

「……」

「……見たな」

「ま…待って、話せばわか……」

 

自分に飛び掛かるシルヴァの姿を確認したかせぬ間に、ジータの意識は途切れた。

 

「あれ?」

 

確かさっきまで……きょろきょろと訝し気に周囲を見回すジータ。

ロビーではすでにシルヴァがお茶を啜りながら待っていた。

 

「ジータ、そろそろ出発の時刻ではないのかな?」

 

何かとても凄いものを見てしまったような気がするが思い出せない。

 

「あ~、ハジメちゃんたち呼んできます」

 

まぁいいかと階段を駆け上がる彼女の後姿を見送りながら、

オーバー☆ホール成功と、胸を撫でおろすシルヴァ。

ともかくはしゃぐシアを連れながら、宿のチェックアウトを済ませ、

彼らは扉を勢いよく開く、そこには太陽が燦々とこれからの彼らの旅路を照らしていた。

 

「旅の再開だね」

「ああ、目指すはライセン大迷宮だ」

 

 




『るっ!』ネタをここで捻じ込んでみました。
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