ありふれた錬成師と空の少女で世界最強【完結】   作:傘ンドラ

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今回はほぼ原作通りです。



ライセン大迷宮その1

 

 

「一撃必殺ですぅ!」

 

ゴキゲンなシアの声が、この世の地獄、処刑場と人々に恐れられるライセン大峡谷に響き渡る。

シアの手に握られた大槌が絶大な膂力をもって振るわれる度に、魔物たちは吹き飛ばされ、

あるいはペシャンコにされていく。

確かにここは地獄なのかもしれない、魔物たちにとっての。

 

もちろんハジメたちも負けてはいない。

魔力駆動二輪を走らせながらドンナーで魔物の頭部を狙い撃つハジメ

莫大な魔力にものを言わせ、強引に魔物たちを焼き尽くすユエ

空中の魔物はすべてシルヴァが撃ち落としていく。

そしてジータは手にした琴から魔曲を奏で、彼らを援護する。

 

『ソングオブグランデ』

 

パーティ全体の攻撃回数・速度を増加させるアビリティだ。

これによりさらに効率よく、谷底の魔物たちは駆逐されていく。

 

「でも、魔物退治に来たわけじゃないんだけどね」

 

死屍累々の周囲を見渡し、溜息をつくジータ。

 

「ライセンの何処かにあるってだけじゃあ、やっぱ大雑把過ぎるよなぁ」

 

注意深く観察はしているのだが、それらしき場所は一向に見つからない。

ついつい愚痴をこぼしてしまうハジメ。

 

「もう三日か……」

 

食料等はまだまだ余裕があるが、

とりあえず一週間ほど探索して手がかりが無いなら……。

 

「ま、今日はこれくらいにして野営するか」

 

すでに日は沈み、薄暮が谷を包もうとしていた。

ハジメ謹製の野営テント―――冷暖房完備にして、調理器具も勢ぞろい

しかも気配遮断機能まであるという優れモノ、にてシアの料理に舌鼓を打ち、

また明日頑張ろうと床につこうとした時だった。

 

 

「ハ、ハジメさ~ん! 皆さぁ~ん、大変ですぅ! こっちに来てくださぁ~い!」

 

シアの大声に一同は訝し気にテントを飛び出し、声の方へと向かうと、

そこには月明かりに照らされ、ブンブンと腕を振るシアの姿があった。

 

「こっち、こっちですぅ! 見つけたんですよぉ!」

 

シアの背後には巨大な一枚岩があり、壁面との間に隙間が出来ている。

手招きしつつも指で隙間の空間を示すシア、導かれるままに岩の隙間に入ると

そこには。

 

"おいでませ! ミレディ・ライセンのドキワク大迷宮へ♪"

 

などと丸っこい字で記された看板があった、

 

「ジータ……信じられると思うか?」

「ミレディって書いてるよね」

「それくらい……しかないよな、判断材料は」

 

ちなみに看板に見事な装飾が施されていたのだが、

ダンジョンと言うよりなんか夜の店のような印象を与えてしまう。

 

「……確かに地獄の底にしては少しフザけ過ぎではあるな」

「………ん」

 

ハジメたちが微妙な感情を抱いている最中でも、シアは上機嫌だ。

 

「いや~、ホントにあったんですねぇ、ライセン大峡谷に大迷宮って

でも、入口らしい場所は見当たりませんね? 奥も行き止まりですし……」

 

シアは入口を探して辺りをキョロキョロ見渡したり、

壁を手当たり次第に触わったりしている。

 

「シアちゃんあんまり……」

 

あちこち不用意に触らない方が……と言おうとしたジータの眼前で

シアの触っていた窪みの奥の壁が突如グルンッと回転し、

巻き込まれたシアはそのまま壁の向こう側へ姿を消した。

 

(忍者屋敷!?)

 

「やっぱりここみたいだね、不本意だけど」

なんか虚を突かれてしまった気分が、一行に広がる、ダンジョンというよりも

遊園地のお化け屋敷に挑むような、そんな雰囲気で彼らはシアに続いて

回転扉に手をかけ、ダンジョンへと侵入する。

 

と、その瞬間

風切り音と共に無数の漆黒の矢が飛来する、もちろんこの程度今の彼らには

全く問題はない……ただしシアについては、少し気の毒なことになってしまったが。

 

「パンツあるから……ホラ着替えよ」

「は……はい、ぐすっ、ひっく」

 

ギリギリでなんとか弓矢を回避したシアの足元には、湯気がたつ水溜りがあった。

ジータに矢を抜いて貰いながら頷くシア、

そんな中、周囲の壁がぼんやりと光りだし辺りを照らし出す、

彼らの目の前には石版があり、看板と同じ丸っこい女の子文字でとある言葉が掘られていた。

 

"ビビった? ねぇ、ビビっちゃった? チビってたりして、ニヤニヤ"

"それとも怪我した? もしかして誰か死んじゃった? ……ぶふっ"

 

「なかなか素敵な感性の持ち主だな、幸い全員無事だったからよかったものの」

 

憤懣やるかたないといった風に吐き捨てるシルヴァ、

誰かが死んでいたら怒りは怒髪天といった所だろう。

 

「無事じゃありませんよお」

 

奥の暗がりでパンツを履き替え、戻ってきたシアが石板に気が付く。

シアの顔から表情が消え、おもむろにドリュッケンを取り出すと一瞬で展開し、

渾身の一撃を石板に叩き込んだ、何度も何度も。

 

石板が完全に粉々になったことを確認し、ぜぇぜぇと肩で息をするシア。

下に目線をやると、地面の部分に何やら文字が彫ってあるのに気が付く。

 

"ざんね~ん♪ この石板は一定時間経つと自動修復するよぉ~プークスクス!!"

 

「ムキィーー!!」

 

シアが遂にマジギレして更に激しくドリュッケンを振い始める。

部屋全体がグラグラと揺れる中、ハジメとジータは目を見合わせ、溜息をつく。

 

「先が思いやられるな」

「オルクスとは別の意味で一筋縄ではいかない場所みたいだね」

 

 

先に進めば進むほど、このライセン大迷宮が想像以上に厄介な場所だということを

思い知る一行。

 

まず、魔法がまともに使えない。谷底より遥かに強力な分解作用が働いているためだ。

魔法特化のユエにとっては相当負担のかかる場所である

 

それはハジメに取っても同じである、固有魔法の類はほぼ使用不可で

従って"纏雷"を使用することにより絶大な威力を発揮するドンナーやシュラークも

その威力は従来の半分程度であり、シュラーゲンも普段のドンナー・シュラークの、

最大威力レベル程度の威力しか出せないだろう。

 

よってこの大迷宮では純粋なフィジカルが何より重要、

つまりはシアの独壇場となる筈なのだが……

 

「殺ルですよぉ……絶対、住処を見つけてめちゃくちゃに荒らして殺ルですよぉ」

 

がるると唸るシア、明らかに平静さを欠いている。

 

「大丈夫かな?ところでお前らの方はどうなんだ」

 

シアの背中にステイステイとペットをあやすような仕草をしつつ、

ジータとシルヴァに尋ねるハジメ。

 

「アビリティは問題なく使えてるよ、でも召喚は使えて二回、いや一回だね」

「奥義もおそらく問題ない筈だ」

 

現在一行はレゴブロックを無造作に組み合わせてできたような、

無秩序な空間を一歩一歩先へと進んでいる。

 

『トレジャーハンティングⅣ』

 

軍服姿のジータの眼が光り周囲をスキャニングしていく。

現在のジョブはクラスⅣの"義賊"なのだが、義賊のコスチュームは

なんと花魁を思わせる振袖姿であちこち引き摺り引っ掻ける恐れがあったので

同系統のジョブであるホークアイの姿に変更している。

 

「トラップの一つはあの床にあるよ」

 

若干ダレ気味にハジメたちに伝えるジータ。

ここまで来るにも様々な嫌がらせめいたトラップに、その都度その都度足止めを食らっている。

ジータの解析によりある程度は避けられるのだが……。

回転ノコギリの罠を看破したと思ったら、自分の立っていた場所にギロチンがストーンと

落ちてくる、一事が万事そんな調子で全く油断が出来ないのだ。

 

とりあえずジータは罠の位置に、ハジメは通過箇所にそれぞれ固有魔法である"追跡"を

応用したマーキングを行うとまた慎重に先に進む。

毒矢、釣り天井、溶解液、砂地獄……潜り抜けた先にはウザイ煽り文句、

見えない敵の存在にハジメたちのストレスはマッハである。

ストレスをぶつけようにも魔物一匹現れない、静寂の世界というのが、

また彼らの精神をキリキリと締めあげていく。

 

そして彼らはこの迷宮に入って以来、一番大きな通路に出た。

幅は六、七メートルの螺旋状に下るスロープ状の通路だ。

 

「ゴメン……分からない」

 

悩まし気に頭を振るジータ、トレハンを何度か繰り返したが、この通路の仕掛けは分からなかった。

しかしこんな思わせぶりな通路で何のトラップも無いとは思えない。

と、そこでここまで嫌というほど聞いてきたトラップの作動音が彼らの耳に届く。

そして程なくしてゴロゴロゴロゴロと明らかに何か重たいものが転がってくる音。

 

「大玉かな?」

「まぁ……定番だね」

 

自分でも声がゲンナリとしているのが分かる、

さて逃げなきゃと階下へと走ろうとするジータだが

 

「ハジメちゃん逃げないの!」

「いつもいつも、やられっぱなしじゃあなぁ! 性に合わねぇんだよぉ!」

 

ハジメはその場で迎撃の構えを取る、義手からは「キィイイイイ!!」という

獰猛な機械音が発せられている。

そして……凄まじい破壊音を響かせながら大玉とハジメの義手による一撃が激突し

気合一閃、ハジメの拳は見事に大玉を粉みじんに砕く。

義手の負担が大きいため、本来切り札として使うべき技なのだが

どうにも我慢ができなかった。

 

「やったね!ハジメちゃん!」

「流石ですぅ! カッコイイですぅ!」

「……ん、すっきり」

 

三人の歓喜の声に手を振り応えるハジメ、さてこれでゆっくりと…と思った矢先だった。

 

ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ

 

「うそん」

 

いやいやながら振り向いたハジメの眼に映ったのは明らかに先程のより硬そうな輝きを放つ大玉だ、

その上何か液体のようなものをまき散らしている。シュワーという実にヤバイ音を響かせながら。

 

「逃げ…」

 

その時ハジメの頬を何かが掠め、そして背後で爆発音。

 

「我慢比べなら負ける気はしないな…行くぞ、どうせ次もあるだろうしな」

 

二つ目の大玉をシルヴァが一撃で粉砕していた、そしてそれを誇るまでもなく、

当然の結果とばかりに、彼女はスロープを駆け下りていく、

……少し劣等感を感じながら義手の掌を握っては開くハジメの背中に、

ユエがポンと手をやるのであった。

 

そしてスロープの先の大仰な扉を開いたハジメたちが見たもの、それは

 

「……何か見覚えないか? この部屋。」

「……物凄くある、特にあの石板」

「最初の部屋……みたいですね?」

 

シアが、思っていても口に出したくなかった事を言ってしまう。

その言葉と同時に床に文字が浮かび上がる。

 

"ねぇ、今、どんな気持ち?"

"苦労して進んだのに、行き着いた先がスタート地点と知った時って、どんな気持ち?"

"ねぇ、ねぇ、どんな気持ち? どんな気持ちなの? ねぇ、ねぇ"

 

自分の顔から表情というものが消えていくのを感じるジータ。

ハジメたちもきっと同じ気分に違いない。

 

"あっ、言い忘れてたけど、この迷宮は一定時間ごとに変化します"

"いつでも、新鮮な気持ちで迷宮を楽しんでもらおうというミレディちゃんの心遣いです"

"嬉しい? 嬉しいよね? お礼なんていいよぉ! 好きでやってるだけだからぁ!"

"ちなみに、常に変化するのでマッピングは無駄です"

"ひょっとして作ちゃった? 苦労しちゃった? 残念! プギャァー"

 

「は、ははは」

「フフフフ」

「フヒ、フヒヒヒ」

「アハハハ」

 

ハジメたちの壊れた笑い声が辺りに響く中、シルヴァがパンパンと手を叩き

気分を切り替えるように彼らに促す。

 

「さて、なら今夜はもう休んで明日から本格的なアタックだな」

 

 

 





るっ!アニメ化だとぅ!
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