ありふれた錬成師と空の少女で世界最強【完結】   作:傘ンドラ

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ウルに辿り着くまでは、状況説明が暫く続きます。



ブルック、また来る日まで

 

 

「はぁ~屋根から降りてくるわ、シュノーケルでバスタブの底に貼り込むわ

あの子は忍者か何かかよ」

「ふふふ、きっと私達の関係がソーナちゃんの女の子な部分に火を付けちゃったんだよ」

 

ライセン攻略後、彼らは再びブルックに戻り、骨休みも兼ねつつ

次なる目的地グリューエン大火山攻略のための準備を行っていた。

そんな彼らの目下の悩み事は、ここブルックでの定宿であるマサカの宿の看板娘

ソーナちゃんのピーピング行為の数々だった。

 

「ふふ」

 

ハジメの腕に絡みつき身体を預けるジータ、さらに小声で囁く。

 

「ねぇ……仲間にいれてあげよっか」

「冗談だろ」

 

上目遣いのジータのトロンとした瞳に言葉を詰まらせるハジメ。

 

「ジータがいやらしいウサギさんだってこと知ったら、ソーナきっと驚く」

 

横からのユエの反撃に頬を染めるジータ。

 

「ユエちゃんだって…」

「もうそのへんにしとけ……あそこはメシが旨いからな、お手付きにして出禁になるのヤだし」

 

往来でのピロートークノリに耐えられなくなり、強引に会話を打ち切ろうとするハジメ、

少し離れたその背後では。

 

「もぐもぐ…何話ひてるんでほょうかね?」

「私に聞かれても協力できんぞ」

 

屋台の串焼きを頬張りながらシルヴァへと尋ねるシア。

色気よりも食い気なのをどうにかしないと、"仲間"に入るのはまだまだ先になりそうだ。

 

「ですよねぇ」

「オイ、ですよねぇとはどういう意味だ!シア」

「あ、ギルドに着きましたよ」

 

冒険者ギルドの扉を開くと、顔見知りとなった冒険者たちが片手を上げて挨拶してくる。

一行も軽く手を上げ挨拶を返すと、そのままカウンターのキャサリンおばさんの元へ向かう。

 

「おや、今日は皆お揃いで」

「ああ、明日にでも町を出るんで、あんたには色々世話になったし、一応挨拶をとな

ついでに、目的地関連で依頼があれば受けておこうと思ってな」

 

重力魔法の修業と研究用に広い部屋が欲しいとハジメが頼み込んだところ、

キャサリンの厚意でギルドの一室を提供してくれたのだ。

 

「そうかい行っちまうのかい、そりゃあ、寂しくなるねぇ、

あんた達が戻ってから賑やかで良かったんだけどねぇ~」

「勘弁してくれよ、そりゃ賑やかなのは認めるけどよ」

 

ソーナといいクリスタベルといい、妙な連中がこの街にはやけに多い、

しかも町中に妙な派閥が幾つか出来ていて、日々下らない優劣を競いあっている。

ちなみに最大派閥は"シルヴァさんとお茶し隊"だそうだ。

 

「まぁまぁ、何だかんで活気があったのは事実さね、で、何処に行くんだい」

「フューレンだ」

 

中立商業都市フューレン。

文字通りどの国にも依らない中立の商業都市。

 

本来はここで準備を整え、すぐさまグリューエンにアタックを掛ける予定だったのだが、

神殺しを為すにせよ、トンズラこくにせよ、長い戦いになる筈

そのためにはこの世界のことを、人々をもっとよく知る必要がある、

というジータの言に従い、大陸の西側に向かう行程の途上にあるフューレン、

大陸一の商業都市に立ち寄ろうということになったのだ。

 

依頼を受けるのも、一つはお世話になったキャサリンへのお礼と、

冒険者としてのノウハウを今後に備えて会得するのも悪くはないという考えあってのものだ。

本来わざわざ依頼など受けずとも、魔力駆動車があればヒューレンまではすぐなのだから。

 

「う~ん、おや。ちょうどいいのがあるよ。商隊の護衛依頼、

ちょうど空きが後二人分あるよ……どうだい? 受けるかい?」

「連れを同伴するのはOKなのか?」

「ああ、問題ないよ、荷物持ちや奴隷を連れてる冒険者もいるからね」

 

「どうするジータ?」

 

ジータに意見を求めるハジメ。

 

「いいよ、問題ない、折角冒険者登録してるんだし、こういうことも少しは体験しないとね」

 

自分たちの戦いは王宮や教会には一切頼れない、つまり冒険者ギルドとの関係が生命線になる。

だから出来るだけ良好な関係を築いておきたい。

 

「皆もいいよね?」

 

ユエもシアもシルヴァも一様に頷く、これで決まりだ。

 

「あいよ。先方には伝えとくから、明日の朝一で正門に行っとくれ」

「わかりました」

 

ペコリと頭を下げるジータ。

 

「あんた達も体に気をつけて元気でおやりよ、この子に」

 

ハジメに依頼書を渡しながら言葉を続けるキャサリン

 

「泣かされたら何時でも家においで。あたしがぶん殴ってやるからね」

「……ん、お世話になった。ありがとう」

「はい、キャサリンさん。良くしてくれて有難うございました!」

 

嬉しそうに笑うシア、この町は樹海の外とは思えぬほどに、

温かく居心地のいい街に思えた。

キャサリンにソーナやクリスタベル、それに少し引いてしまうがファンだという人達は、

シアを亜人族という点で差別的扱いをしなかった。

土地柄かそれともそう言う人達が、自然と流れ着く街なのかもしれない。

 

―――優しさゆえに、どこかはぐれてしまった人々の。

 

「あんたもこんないい子たち泣かせんじゃないよ? 精一杯大事にしないと罰が当たるからね?」

「……ったく、世話焼きな人だな、言われなくても承知してるよ」

「そんなこと私が許しませんから!ね、皆大事にしてくれるよね、ハジメちゃん」

 

キャサリンとジータの言葉に苦笑いで返すハジメ。

そんなハジメへと、キャサリンが一通の手紙を差し出す。

 

「これは?」

「あんた達、色々厄介なもの抱えてそうだからね、

町の連中が迷惑かけた詫びのようなものだよ。他の町でギルドと揉めた時は、

その手紙をお偉いさんに見せな。少しは役に立つかもしれないからね」

 

マンガやゲームの中の登場人物でも見るような目で、

キャサリンを見てしまうハジメとジータ。

たしかにここはマンガやゲームの中のような世界ではあるのだが……。

 

「おや、詮索はなしだよ? いい女に秘密はつきものさね」

「……はぁ、わーたよ。これは有り難く貰っとく」

「素直でよろしい! 色々あるだろうけど、死なないようにね」

 

ハジメたちは、キャサリンの愛嬌のある魅力的な笑みに見送られながら

ギルドから退出する。

 

「つくづく謎の人だよな」

「一体、何者なんだろう」

 

その後ハジメたちは、クリスタベルの店にも寄ったのだが、

だが、町を出ると聞いた瞬間、クリスタベルは最後のチャンスとばかりに、

巨漢の化物と化しハジメへと襲いかかった。

 

「クリスタベルに五十!」

「ハジメに八十!」

 

追いかけっこを続ける二人を野次馬が囲み、オッズが書かれた黒板に掛け金が記されていく。

 

「……」

 

ジータが神殺しを厭う本当の理由、それは―――。

 

(きっと神の鉄槌は私たちじゃなく、このただ平凡に生きる人々の頭上にこそ振われる)

 

ミレディたちもきっとそう思っていたのだろう、だからこそ彼らは人々の意思を統一させ

神々vs人間の図式に持っていこうとした、しかし……時間を掛け過ぎ、

足元を掬われた。

 

とあるマンガで勇者の事を刺客と称した魔王がいたが、あれはある意味理にかなっている。

居場所を掴めば、そのまま精鋭で四の五の言わずに殴り込めば良かったのだ。

そこでジータは全ての神代魔法を集めるべしというミレディの言葉を思い出す。

 

(それとも……神代魔法を全て扱える誰かが必要だった……つまり八人目が居なかったから)

(……だとすると)

 

いや、止そう、今はそんなことを考えるべき時ではない。

 

 

そして翌朝。

最後の晩と聞き、堂々と風呂場に乱入した上、さらに部屋に突撃を敢行するという

宿泊業にあるまじき暴挙を犯し、母親に亀甲縛りをされて

一晩中、宿の正面に吊るされたままのソーナちゃんにお別れの挨拶をして、

一行は集合場所へと向かう。

明らかに何か新しい世界に開眼したかのように、ひくひくと身体をくねらせている。

ソーナの姿を思い起こすハジメ。

 

「なんか悪いこと……したような」

 

ハジメたちの姿を認めるや否や、ざわっと周囲の冒険者たちが色めき出す。

あれが噂のだの、嬉しいけど怖いだのとそういう声が耳に届く。

少々気分を害された感のあるハジメに、商隊のまとめ役らしき人物が声をかけた。

 

 

「君達が最後の護衛かね?」

「ああ、これが依頼書だ」

 

「私の名はモットー・ユンケル、この商隊のリーダーをしている、

君達のランクは未だ青だそうだが、キャサリンさんからは大変優秀な冒険者と聞いている

道中の護衛は期待させてもらうよ」

 

「なんか大変というか、元気の出そうな名前といいますか……よろしくお願いします」

「まぁ、仕事は元気でやらないとね」

ジータの言葉にどういう意味だろうと怪訝な顔をしつつも、無難な言葉で返すモットー。

 

(確か冒険者ランクって……)

 

いつぞやのキャサリンの説明を思い出すジータ、

青から始まり、上昇するに連れて赤、黄、紫、白、黒、銀、金と変化する、

それはそのまま通貨価値に当てはめることが出来る。

 

(つまり私たちの価値は1ルタ……一円ってことね)

 

「まぁ、期待は裏切らないと思うぞ、俺はハジメでこっちはジータ、

それからユエとシアにシルヴァだ」

「それは頼もしいな……ところでこの兎人族……売るつもりはないかね?

それなりの値段を付けさせてもらうが」

 

モットーの視線に怯えるようにシアはジータの背中に隠れる。

 

「ほぉ、随分と懐かれていますな…中々、大事にされているようだ。

ならば、私の方もそれなりに勉強させてもらいますが、いかがです?」

 

「例え神様が欲しても手放す気はありません、ご理解を」

 

にこやかに、そして怜悧な刃の如き笑顔で断固たる拒絶の意思を示すジータ。

冒険者たちの間からゴクリと固唾を飲み込むような音が聞こえる。

 

「…………えぇ、それはもう仕方ありませんな、ここは引き下がりましょう。

ですが、その気になったときは是非、我がユンケル商会をご贔屓に願いますよ。

それと、もう間も無く出発です。護衛の詳細は、そちらのリーダーとお願いします」

やや肩を落としながら去っていく、モットーの背中を見送るジータ。

 

(少し危なかった……かも)

 

この世界では軽々しく神の名を使ってはならないと肝に銘じていた筈なのだが、

ついつい勢い任せで言ってしまった。

彼女のそんな内心の動揺を感じ取ったのか、ジータのその背中を抱きしめるシア。

 

「大丈夫、ジータさんも言ってたじゃないですか、私たちは仲間で、家族って」

「シアちゃん……」

「まぁ、俺も同じこと言ってたと思うぞ」

 

ジータとシアの髪を撫でてやるハジメ、自分ならもっと喧嘩腰になって

最悪トラブルの種を蒔いていたかもしれないなと思いつつ。

 

「でも、カッコよかったジータ、シルヴァもきっとそう思ってる」

「ふ、ユエの言うとおりだ、見事だったぞジータ」

 

飛びきりの美少女と美女に囲まれるハジメへと、

商隊の女性陣からは生暖く、男性陣からは死んだ魚のような眼差しが突き刺さる。

 

「いやーしかし何だろこの視線、凄く居心地悪いんだが」

「教室でもこんなんだったよね」

 

少し意地悪いジータの言葉に、ハジメはぶるると背中を震わせるのであった。

 

「カンベンして」

 

 





一話くらいは……と思いつつも
ボーダーダダ上がりで結局貼りつく羽目になってしまってました。
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