ありふれた錬成師と空の少女で世界最強【完結】   作:傘ンドラ

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これにてフェアベルゲン~ライセン編は完となります



フューレンⅡ

 

「実は君達の腕を見込んで、一つ依頼を受けて欲しいと思っている」

「お断わりする、もう身分証明の件は終わってる筈だ」

 

ハジメたちの目の前にいるのは、金髪にオールバックの整った容貌の男性、

冒険者ギルド、フューレン支部支部長イルワ・チャングだ。

 

「キャサリンさんって、すごい人だったんだね」

「んっ」

 

ブーム・ミンとかいう貴族のボンボン豚とレガニドを散々に叩きのめした後

彼らは事情聴取の為にギルド内に留め置かれていた。

その際、身分証明云々で実は少々揉めてしまい、何か困ったことがあったらと

キャサリンから貰った手紙を秘書長のドットに渡した所、とんとん拍子で話が進み、

現在こうして応接室にてギルド長と差し向いで、会談をしている次第だ。

 

イルワの説明によると、彼女は王都のギルド本部でギルドマスターの秘書長をしていたそうだ。

その後、ギルド運営に関する教育係に就任し、今、各地に派遣されている、

支部長の約半数は彼女の教え子なのだそうだ。

 

「ふむ、取り敢えず話を聞いて貰えないかな? 聞いてくれるなら、

今回の件は不問とするのだが……」

「……」

 

それは話を聞かなければ色々面倒なことになるぞ、ということだ。

もちろん、先に手を出したのはブームたちであることは明白なので

ハジメたちが罪に問われることはないにせよ、その裁定については、

正規の手続きに則り、ギルドが行うこととなる、

ということは結果が分かりきったことであるにも関わらず、自分たちは

このフューレンで足止めを食うことになる、もちろん力づくで逃走を図ろう物なら…。

 

頭を抱えるハジメに耳打ちするジータ。

 

「話、聞こうよ、ハジメちゃん」

「でもよ」

「ユエちゃんたちのステータスプレートとかどうするの?

それにブラックリストの話とか聞いたでしょ」

 

自分たちの戦いはただでさえ敵だらけなのに、さらに敵を増やすのは得策ではない。

ハジメは話を聞くことで抱え込む厄介と、話を聞かないことで抱える厄介を天秤にかける

そして、観念したかのようにより深くソファへと座りなおす。

これ見よがしに足を組んだのはせめてもの抵抗か?

もっともそれもジータに叩かれて、すぐに姿勢を正したが。

 

「聞いてくれるようだね。ありがとう」

「……流石、大都市のギルド支部長、いい性格してるよ」

「君たちも大概と思うけどね、さて~」

 

イルワの話を掻い摘んで説明すると、つまりこういうことだ。

 

冒険者に憧れるあまり、家出同然でパーティに参加した

クデタ伯爵家の三男ウィル・クデタなる人物が、北の山脈地帯で

パーティごと消息を絶ち、捜索願が出ている。

北の山脈地帯は、一つ山を超えるとほとんど未開の地域となっており

高ランクの冒険者でなければ、到底依頼を任せることなどできないという。

 

「つまりお願いしたいのは彼らの消息の調査と、もし可能ならば救出をお願いしたい

ということさ、レガニドを倒し、あのライセン大峡谷での探索が可能な君たちにね」

 

「! 何故知って……手紙か? だが、彼女にそんな話は……」

 

そこでハジメはギギギとジータたちへと目を向ける。

 

「キャサリンさんって話上手で…ゴメン!ハジメちゃん」

「ついお話が弾んじゃったんですよねー」

「ごめんね、ハジメ」

「そもそも話してはいけなかったのか?」

 

やれやれだぜとばかりに頭を掻きむしるハジメ、

思えば素材交換の時から、目を付けられていたのかもしれない。

 

「先にも言った通り、生存はほぼ絶望的と見られている、しかし伯爵は個人的にも友人でね、

できる限り早く捜索したいと考えている、どうかな、今は君達しかいないんだ

引き受けてはもらえないだろうか?」

 

ハジメはポンとジータの背中を軽く叩く、ここから先は任せたということだ。

それはオマエが撒いた種だろう的な意味も含まれている。

 

(口は災いの元だね、参ったな)

 

「報酬は弾ませてもらうよ? 依頼書の金額はもちろんだが、私からも色をつけよう。

ギルドランクの昇格も約束する、君達の実力なら一気に"黒"にしてもいい」

「そう言われても……」

 

ジータはここであえて勿体ぶってみせる。

 

「私たちにも旅の目的があるんです、ここはあくまでも通り道だったから

寄ってみただけです、北の山脈地帯になんて……」

 

一泊置いて、イルワの出方を見るジータ。

 

「なら、今後、ギルド関連で揉め事が起きたときは私が直接、

君たちの後ろ盾になるというのはどうかな?フューレンのギルド支部長の後ろ盾だ、

ギルド内でも相当の影響力はあると自負しているよ? 

君達はトラブル体質だとキャサリン先生の手紙にもあったからね、悪くない報酬ではないかな?」

 

「あの、お言葉はありがたいのですが、少し入れ込み過ぎな気がして……

差し障らない範囲でいいので、もう少し事情を教えて頂けませんか?」

 

ジータの言葉に、イルワは後悔を隠さずに応じる。

 

「彼に……ウィルにあの依頼を薦めたのは私なんだ」

 

ポーカーフェイスがやや崩れ、視線を床に落としながらイルワは続ける。

 

「調査依頼を引き受けたパーティーにも私が話を通した。

異変の調査といっても、確かな実力のあるパーティーが一緒なら問題ないと思ったんだ、

実害もまだ出ていなかったしね。ウィルは、貴族は肌に合わないと、

昔から冒険者に憧れていてね……だが、その資質はなかった。だから、

強力な冒険者の傍で、そこそこ危険な場所へ行って、悟って欲しかった

冒険者は無理だと。昔から私には懐いてくれていて……

だからこそ、今回の依頼で諦めさせたかったのに……」

 

「……イルワさん」

 

自分たちが思っていた以上に、イルワとウィルの繋がりは濃いらしい。

すまし顔で話してこそいたが、イルワの内心はまさに藁にもすがる思いなのだろう。

生存の可能性は時間が経てば経つほどゼロに近づいていく。

法外ともいえる報酬を提案したのも、イルワが相当焦っている証拠なのだろう。

 

……その気持ちは分かるだけに、少々良心が痛むが。

 

「分かりました、ではこちらの条件をお伝えします」

「条件?」

「はい、まず一つはユエちゃんとシアちゃん、それからシルヴァさんにステータスプレートを

作って頂きたいのと、そこに表記された内容について他言無用を確約することです」

 

今後も街に辿り着く度に、彼女らの身分証明について言い訳するのは

かなり面倒なことのように思える、それに秘密を確約して貰えるであろう、

このタイミングを逃すわけにはいかない。

 

「それは、その程度でいいのなら今からでも用意させよう、で、もう一つは?」

 

「更にギルド関連に関わらず、イルワさんの持つコネクションの全てを使って、

私たちの要望に応え便宜を図って頂くこと、この二つです」

 

何せ相手は神だ、いつ異端の誹りを受けるか分からない。

せめて食料と隠れ家くらいの保証は欲しい。

 

「その要望とは……具体的にはどのような?」

 

流石にイルワの顔に苦悩の色が浮かぶ。

 

「大丈夫です、無茶な要求はしません、ただ私たちは……」

 

ここでノックの音がする、秘書長のドットがユエたちのステータスプレートを、

用意してくれたようだ。

 

「ちょうどいいですね、ご覧になって頂ければ、理由が分かると思います」

 

「これはこれは……」

 

ユエたちのステータスを確認し絶句するイルワ。

 

「確かにシア君は怪力、ユエ君は見たこともない魔法を使ったと報告があったな……

確かにいずれは……そういえばハイリヒ王国の勇者一行の中に…」

 

その瞬間、凄まじい"圧"がイルワを撃った、詮索無用でしょう、という。

 

「わ…わかった、約束は守る」

 

にこやかに頷くジータ。

 

「ご覧の通り、少々特異な存在なので、教会あたりに目をつけられると……

いや、これから先、ほぼ確実に目をつけられると思うんです、

その時、伝手があった方が便利だなっと……面倒事が起きた時の味方がほしーなと。

ほら、指名手配とかされても施設の利用を拒まないとか……」

 

イルワはしばらく考え込んだあと、大きく息を吐き、

意を決したようにジータに視線を合わせた。

 

「犯罪に加担するような倫理にもとる行為・要望には絶対に応えられない。

君達が要望を伝える度に詳細を聞かせてもらい、私自身が判断する。

だが、できる限り君達の味方になることは約束しよう……

何よりキャサリン先生が認めた君たちだ、間違いは犯すまい、しかし

これ以上は譲歩できない、どうかな」

 

イルワのその言葉からは、高い職業意識とギルドの長という誇りが確かに伝わってくる。

この人ならば大丈夫だろうとジータは思えた。

 

「それでかまいません、それからステータスプレート以外の報酬は

依頼が達成されてからで構いません、達成条件はウィルさん自身か、

あるいは遺品の回収ということで大丈夫でしょうか?

もちろん僅かでも生存の可能性がある限りは全力を尽くさせて頂きます」

 

「本当に、君達の秘密が気になってきたが……いや、それは問うまい

どんな形であれ、ウィル達の痕跡を見つけてもらいたい……

ハジメ君、ジータ君、ユエ君、シア君、シルヴァ君……宜しく頼む」

 

イルワは最後に真剣な眼差しでハジメたちを見つめた後、ゆっくりと頭を下げた。

大都市のギルド支部長が一冒険者に頭を下げる。そうそう出来ることではない筈。

キャサリンの教え子というだけあって、人の良さがにじみ出ている。

 

その後、支度金や北の山脈地帯の麓にある湖畔の町ウルへの紹介状、

件の冒険者達が引き受けた調査依頼の資料を受け取り、彼らは一路北へと向かう。

 

そこに思わぬ出会いがあることを、まだ彼らは知る由もなかった。

 

 

 

 




舞台はいよいよウルに移ります。
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