アフターでの活躍を見てると、
最終的にはレディパーフェクトリーな勇者っぽく
成長しそうではありますが。
ガナビーオーケー
「さて、改めて挨拶させて頂こう」
「ようこそトータスへ、勇者様、そしてご同胞の皆様、歓迎致しますぞ。」
聖教教会にて教皇の地位に就いているとかいうイシュタル・ランゴバルドなるお爺さんが、
「以後、宜しくお願い致しますぞ」
恭しく頭をこれ見よがしに下げる。
。
現在彼らは十メートル以上ありそうなテーブルが幾つも並んだ大広間に通されていた。
光輝や雫らいつもの四人組と愛子先生は最前列、ジータはハジメと共に最後尾に座っていた。
「…違う、あれは」
最初に召喚された大聖堂────その大理石の神殿に飾られた壁画の人物を思い出し、
ジータはその身を不快気に震わせる。
縦横十メートルはありそうなその壁画には後光を背負い長い金髪を靡かせ
うっすらと微笑む中性的な顔立ちの人物が描かれていた。
背景には草原や湖、山々が描かれそれらを包み込むかのように、
その人物は両手を広げている。
芸術的、文化的に考えるなら素晴らしい壁画だと言えただろう。
しかしこの世界の主神らしいが、その姿を思い起こすたびに、
ぞわっとした何かがジータの背中を走る、
一応本物の女神に会ったことがある身として感じる決定的な違和感が壁画から漂っていた。
全員が着席したタイミングでアニメやゲームでしかお目にかかれないような
正真正銘の美少女メイドたちが飲み物を配っていく。
クラスの男子ほぼ全員がメイドを凝視している、ハジメも例外ではない。
「何見てんのよ」
「あ…でもジータちゃんの方がずっときれいだよ」
きれいだよの言葉に頬を染めるジータ。
(たく、こういうことをサラリと言うから…)
「どうせなら香織ちゃんに言ってあげなさいよ」
「え?何?」
「…もういい」
メイドたちが飲み物を配り終わるのを確認してから、
好々爺とした笑顔でイシュタルは説明を開始する。
もっともジータには好々爺を演じる胡散臭い爺さんにしか思えなかった、
宗教家なんてみんなそんなものかもしれないが。
で、イシュタルのくどくどとした説明を要約するとこういうことらしい。
この世界はトータスという異世界で、そして今この世界の人類は魔人族と戦争をしており
最近魔人族の戦力が増大し、人類は窮地に立たされている。と。
「あなた方を召喚したのは"エヒト様"です。我々人間族が崇める守護神、そして聖教教会の唯一神にして、この世界を創られた至上の神」
イシュタルは目を細め陶然と語る。
「おそらく、エヒト様は悟られたのでしょう、このままでは人間族は滅ぶと
…それを回避するためにあなた方を喚ばれた。
あなた方の世界はこの世界より上位にあり例外なく強力な力を持っています、
召喚が実行される少し前にエヒト様から神託があったのですよ、
あなた方という"救い"を送るとあなた方には是非その力を発揮し
"エヒト様"の御意志の下、魔人族を打倒し我ら人間族を救って頂きたい」
互いに困惑の表情でハジメと顔を見合わせるジータ。
どこの世界でも神様は実に勝手だとジータは思わずにはいられなかった。
何を考えてるのか知らないが、自分の世界の始末も着けられず、
他所の世界から子供たちを誘拐しておいて、
世界の為に戦えなどとは言語道断に過ぎる。
ましてや他所の世界に誘拐されてハイそーですか困ってるなら代わりに戦ってあげますよ。
なんてホザくバカがいたら屋上に連れ出してやりたい。
「ふざ…」
「ふざけないで下さい!」
ジータの叫びを掻き消すようにさらに大きな叫び声。
「結局、この子達に戦争させようってことでしょ! そんなの許しません!
ええ、先生は絶対に許しませんよ! 私達を早く帰して下さい!
きっとご家族も心配しているはずです!あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」
愛子先生がぷりぷりとした仕草で怒りの声を上げる。
なんでも威厳ある教師を目指しているそうなのだが、低身長と童顔のお陰で
威厳よりも微笑ましさを感じずにはいられない。
実際、明らかに怒っているにも関わらず、その仕草は、
先に微笑ましさを見る者に覚えさせてならなかった。
……ちなみに今年で御年二十五歳である、とてもそうは思えないのであるが。
それから愛称は"愛ちゃん"だが、本人はそう呼ばれるとやはりというかすぐに怒る。
「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です」
場に静寂が満ちる。重く冷たい空気が全身に押しかかっているようだ。
誰もが何を言われたのか分からないという表情でイシュタルを見やる。
「ふ、不可能って……ど、どういうことですか!? 喚べたのなら帰せるでしょう!?」
愛子先生が叫ぶ。
「先ほど言ったようにあなた方を召喚したのはエヒト様です、
我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな
あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意思次第ということですな」
「そ、そんな……」
硬直する愛子先生。
「うそだろ? 帰れないってなんだよ!」
「いやよ! なんでもいいから帰してよ!」
「戦争なんて冗談じゃねぇ! ふざけんなよ!」
「なんで、なんで、なんで……」
ざわざわと動揺が走る。
ハジメとジータとて例外ではない。
だが二度目の人生である分だけジータにはまだ多少の余裕がある。
一番の懸念であった奴隷の首輪でもつけられてムリヤリ戦場へという
パターンはどうやら避けられそうだ。
とりあえずここからは交渉の問題、結局戦場に赴くことになるとしても、
主導権がこちらにある間に出来る限りの好条件を引き出し、さらに自力での帰還の糸口を探る。
まずはその方向で行こうと愛子に伝えようとした時だった。
「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない!」
まさか…ジータの顔から血の気が引いていく。
「俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。
それを知って、放っておくなんて俺にはできない!
それに人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない
……イシュタルさん? どうですか?」
いたよバカが、ジータは光輝を屋上に連れ出したい衝動に駆られつつも、
で、屋上どこだろうと一瞬変な事を考えてしまう。
「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」
「俺達には大きな力があるんですよね? ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」
「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を
持っていると考えていいでしょうな」
「うん、なら大丈夫!俺は戦う!人々を救い、皆が家に帰れるように、
『俺』が世界も皆も救ってみせる!!」
「待って!相手の正体も分からないのに!約束を守って貰える確証もないのに!
どうして易々と戦いを挑もうとするの!」
テーブルの最後尾から最前列の光輝へと大声で叫ぶジータ。
神も所詮は人間と変わらない、いい加減でやらかす奴もいるってことを彼女は知っている。
「俺は目の前の困難を避けて通る卑怯者にはなりたくない」
卑怯者という言葉に当てつけめいた響きをジータは感じた。
「どれほど相手が邪悪であっても!いや…だからこそだ、まして困ってる人が実際いるんだ!」
じゃあ天之河くん一人でやれば?『俺』が世界も皆も救ってくれるんでしょ?
そう言い返そうとしたジータだが、最悪の形で機先を制されてしまう。
「皆だってそうだろ!そして俺たちには力があるんだ!誰かを救える力が!」
歯を光らせ、握り拳を振り上げ力強く宣言する光輝。
責任は一切考慮せず、顔も知らない誰かのために命を捨てる覚悟もなく尽くそうとする、
上辺だけの美しさに満ちていたとしても、それはまさしく勇者そのものの姿だと
ジータも認めざるを得なかった。
そしてその薄っぺらい美辞麗句は彼が本来備え持つ天性のカリスマによって遺憾なく発揮される。
クラスメイト達の表情がみるみる活気を取り戻していく。
「へっ、お前ならそう言うと思ったぜ。お前一人じゃ心配だからな。……俺もやるぜ?」
「龍太郎……」
「今のところ、それしかないわよね。……気に食わないけど……私もやるわ」
「雫……」
(ごめん…)
(いいよ、仕方ないよね)
ジータへと心から詫びるような視線を送ると雫も賛同する、立場上これは致し方ない。
「え、えっと、雫ちゃんがやるなら私も頑張るよ!」
「香織……」
いつものメンバーが賛同した時点で流れは決まった。
「Gonna be okay!なんとかなるさ!」
拳を振り上げ高らかに叫ぶ光輝。
おおおっ!愛子やハジメ、ジータ、雫ら一部を除く
ヒーロー願望を刺激されたクラスメイトが雄叫びを上げる。
その様は笛吹き男に躍らされる鼠の群れのようにジータには思えた。
ならばその行く末は…。
(……)
一個人の勝手な理想の巻き添えで溺死など断固としてゴメン被る。
いや、一度は死んだ身だ、だったらこの命…。
「大丈夫だよ、ハジメちゃん」
ジータは優しくハジメの手を握る、不安と恐怖を乗せた震えが掌を通じて伝わってくる。
(不思議…なんだかいつも以上にハジメちゃんの気持ち…伝わってくるよ)
それが不思議でも何でもなかったことを、そう遠くない日にジータは身をもって知ることになる。