ありふれた錬成師と空の少女で世界最強【完結】   作:傘ンドラ

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手放しで無事と言えるかは少し疑問
とはいえど、祝ってくれるのを拒絶する必要もないと思います。


無事と再会を祝して

 

 

「橋から落ちた後、どうしたの?」

 

人数が増えたこともあり、改めて席を準備するとのことで現在ハジメたちは

ロビーで愛子や優花たちから質問攻めにあっている。

 

「下に温泉が湧いてて……そこを拠点に何とか生き延びました」

「お…おんせ……いてて」

 

ツッコミをいれようとしたハジメの尻をつねるジータ。

 

「なんで白髪になっちまったんだよ、南雲」

 

「……それは」

「魔物の毒液を浴びてそれで慌てて温泉に浸かりに戻ったんだけど、

髪の色だけは戻らなかったの!」

 

ハジメの声を遮るようにジータが代わりに答える。

俺、南雲に聞いたんだけど……と、いった体で首を傾げる明人。

 

「南雲君、そんなに背高かったっけ?」

「互いに頭を打って記憶の無い時期があって……気が付いたらこんな風になってたの!

ね、そうでしょ?」

「記憶失ってるせって……いてて」

 

固まった笑顔のままで、余計な口を利きたがるハジメの脚を踏みつけるジータ。

 

(設定とか、余計な口利いちゃダメ)

(ハイ)

 

「この無礼なガキはどこで拾った?温泉で釣り上げでもしたか」

 

スカスカとカリオストロの頭上で掌を動かし、勝ち誇った表情のユエ。

ユエはあろうことか、カリオストロにまで身長比べを仕掛けていた。

 

「いや、ガキじゃねぇな……オレ様に比べりゃ充分ガキだが」

 

さらに胸のサイズまで比べようとするユエを追い払いながらも、

ユエの何かを一瞥しただけで悟ったのか、例のククク笑いを浮かべるカリオストロ。

 

そんな中で、優花はやや訝し気にハジメたちを先程から観察するように見つめている。

彼女の家は洋食店で、客の多い日は彼女もホールを手伝うことがあり、

したがって自然と観察眼が養われる。

 

「ねぇ…ジータ?……その」

 

それ故に、彼女はハジメとジータの間に流れるカップルが一線を越えた際の、

独特の空気を感じ取っていた。

 

「?」

「南雲と……?」

 

微かな吐息のような、不意に口に出てしまった微かな呟きではあったが、

その瞬間、ロビーが静まり返り、そして生暖かい微妙な空気が漂いだす。

言ってしまってからしまったという表情を見せる優花、

幾ら突然の再会でテンションが妙な方向に向いてしまっているとしても、

我ながら今のはデリカシーが無さ過ぎた。

 

「南雲君……蒼野さん、連絡一つよこさずにいたのはそういうこと、だったのですね」

 

愛子の顔が困惑と、そして憤りに満ちていく。

 

「私たちの苦労や心配をよそに……新婚感覚でこの世界をエンジョイしてたんですね」

 

「い、いやあ……そこまで、いてて」

 

ハジメの脇腹にジータの肘が突き刺さる。

 

『あの~』

 

「あ…あのあのあの地獄の闇の中では……互いの身体を重ね合い、温もりを確かめ合う以外に、

恐怖から逃れる術はなかったんです!」

 

……実際は地獄の闇を抜けた先の解放感に任せて、なのだが、そこは誤差のようなものだ。

 

地獄の闇、という言葉にあの橋の底の奈落を思い出す優花たち、

温泉だの記憶喪失だのと、色々と誤魔化してはいるが、

それは自分たちに余計な心配を掛けさせたくないからという、

思いやりの言い訳であることくらいは、彼らでも気が付く。

 

そりゃ温泉もあったのかもしれないが、自分たちの想像を超えた困難を乗り越えて

二人はここに今辿り着いたのだろう、互いの存在を支えにして、ならそれでいいじゃないか。

むしろこれは咎めるべきことではなく、祝福すべきことだ。

 

「白崎さんには……」

「悪いけどね」

 

ただハジメを求め、今も迷宮に挑み続けているであろう香織のことを思い出すと、

少し気の毒な気もするが。

と、まぁちょっと怪しいけどそういうこともあるよなと、わかるよと

半ば二人を祝福するかのような雰囲気が出来上がりつつあったわけだが。

 

「んっ、私もハジメの温もり確かめた」

「ちょ……おま」

 

一切空気を読まないユエのやらなくてもいいアピールで、

そんなロビーの雰囲気が一気に凍り付く。

 

「私も?……よく聞こえませんでしたが」

 

困惑を超えて明らかに怒気を孕んだ愛子の声には、

いかにハジメといえども目を逸らさずにはいられない。

 

「んっ、ハジメの特別はジータ、だから私はハジメの一番になるって決めた」

 

そのままユエは愛子の目の前でギュとハジメの腕に自らの腕を絡め、

その様子にジータはあちゃーと天を仰いで顔を掌で覆う。

 

『お取込み中とは思いますが~』 

 

「つまり側室、お妾さんってコトか、やるじゃねぇか…ハジメ」

「そくし…おめ…かけ」

 

実に楽しそうな笑顔のカリオストロに対して愛子は理解が追いつかないのか、

今にも崩れ落ちそうな身体をふらあと揺らしている。

 

「…南雲君が……あの南雲君が……二股……っ、南雲君!蒼野さん!……それから」

「ユエ」

「あ……ユ、ユエさん!三人ともそこに座りなさいっ!ここが日本の法律が及ばない

異世界だからといって、それをいいことにアバンチュールだなんてっ!

先生は許しませんよ!」

 

「先生、先生」

「何ですか、菅原さん、今から先生は大事な話を……」

「オーナーさん、困ってます」

「……あ」

 

いつからいたのだろうか?自分たちの傍らには

この水妖精の宿のオーナーである、フォス・セルオの姿があった。

 

「席の準備がもうすぐ整いますので、そろそろ宜しければお召替えを」

「あ…そ、そうですね、では、皆さんまずはお食事としましょうか

お風呂や着替えを先に済ませる人は急いで下さいね」

 

ポンと手を叩き、場の空気を切り替える愛子。

やはり彼女とて教え子の不貞の怒りよりも再会の喜びの方が大きいのだろう。

今夜はいつも以上にご馳走をと、フォスにその場で頼み込むことも忘れない。

 

「ま、連絡出来ない理由があったんだろうよ、新婚気分もあったかもしれねぇが」

「そうですよね……あの二人に限って」

 

柔和でいてその実、芯の強さを垣間見せていたハジメと、

窮地においても流されることなく自分を保っていたジータ、そんな二人である。

きっと相応の理由があるに相違ない。

 

(後でちゃんと説明しろよな)

 

ハジメに耳打ちするカリオストロに強く頷くと、

ハジメたちも着替えの為に、自室に向かうのであった。

三十分後にロビーに集合ですよという愛子の声を聞きながら。

 

 

そして三十分後、入浴や着替えを済ませた一同は、

フォスが用意してくれたVIP席へと向かうのだが、案の定そこで一悶着起きてしまう。

 

「おい!亜人、お前はここまでだ!」

「へっ?」

 

護衛隊隊長のデビットがテーブルに付こうとしたシアの行く手を阻み、

一喝したのだ。

 

「薄汚い獣風情が愛子と食事を共にしようなどとは勘違いも甚だしいぞ」

 

その侮蔑に満ちた言葉と視線を浴びたシアの身体がふるふると震え出す。

無理もない、覚悟こそしていたとはいえ、

初めて直接的な亜人族への差別を実感させる、言葉の暴力を受けたのである

 

ましてブルックやヒューレンでは、土地柄やハジメたちの立ち回りもあって

こういう侮蔑の言葉を浴びせかけられる事はなかっただけに

その衝撃は大きい。

 

「これが……外の……世界」

 

項垂れるシア、しかしこれを乗り越えなければ、ハジメたちと共に

歩む資格はない、俯きつつもその眼は死んではいない。

 

見るとデビッドのみならず、チェイス達他の騎士達も同じような目でシアを見ている。

そう、デビッドらの懐柔は順調ではあったが、この骨の髄まで染み込んだ、

彼らの信仰に根差した亜人への差別意識だけは、カリオストロであっても、

どうにも解決させることが出来なかったのだ。

 

シアへの侮辱に、肩を怒らせ始めるハジメだったが、しかしそれをいち早く制するジータ。

 

(なんでだよ?)

(ダメだよ、相手は神殿騎士……下手に動くと厄介なことになるから)

(先に手を出させるってことか)

(そ、目撃者もここにはたくさんいるしね)

 

「どうしても、というのならばその醜い耳を切り落としたらどうだ? 

それなら少しは人間らしくな……」

「やめてください!」

 

さらなる侮蔑の言葉を吐こうとしたデビッドだったが、意外な人物の叫びにその先を遮られる。

 

「あ…愛子」

 

ただ名前を言い返すことしか出来ないデビッド、悪いことをしているという感覚が

本当に無いのだろう、つまり彼のシアへの言動や行動は、

この世界では本当に当たり前のことなのだと、愛子たちは再認識する。

しかし……それでも。

 

「確かに亜人族はこの世界においては奴隷とみなされるのでしょう

この世界の原理原則やそれに基づく主義主張に私は口を出すつもりはありません……

ですが、今この場において、彼女は……私の友人です!」

 

上ずった口調だが、それでも確固たる意志を持って愛子はデビッドへとさらに続ける。

 

「私たちの友人を公然と侮辱するような方に、女神などと呼んでほしくはありませんっ!」

「そうだよ!デビッドさんひどいよ!こんなに可愛いのに!」

 

さらに優花が愛子の援護にまわり、シアの耳を優しく撫でる。

 

「うん!シアちゃんのウサミミはとっても可愛いよ!」

「ジータさん……そうでしょうか?」

「何度も言ってるでしょ、ホントにモフモフしてて可愛い耳じゃないの」

 

ジータもシアのウサミミをモフモフと撫でる。

 

「……シアのウサミミは可愛い」

「ユエさん」

「そう……でしょうか……あ、あの、ちなみにハジメさんは……

その……どう思いますか……私のウサミミ」

 

頬を染め、上目遣いでハジメに尋ねるシア、ペタリと垂れたウサミミが

その複雑な心境を物語っているように見える。

 

「別に……」

「……ハジメのお気に入り。シアが寝てる時にモフモフしてる」

「オイ!それをここで言うか!」

 

シアのウサミミが喜びを表現するかのようにピョコンと跳ね上がる。

 

「おい!オーナー!」

 

形勢不利を悟ったか、デビッドはこの宿のオーナーであるフォスに、

シアの退席を申し付けようとしたのだが。

 

「騎士様、我が宿は料金さえ支払って頂ければどなたにでもサービスを提供致します」

 

と、やんわりと拒否され、その眦が吊り上がっていく。

 

チェイスやクリスたちもそろそろ止めないと、と、口々に囁くが、

何故かその腰は重い。

彼らは決して視野の狭い男たちではない。それ故に、

愛子やカリオストロたちと過ごす日々の中で、自身のエヒトへの信仰が揺らいでゆき、

むしろ疑問ばかりが増えていくことを敏感に感じ取っていた。

 

そしてそれはすなわちこの世界と、そしてこれまでの自分自身への

否定に繋がるであろうことも。

だから縋る、自身のこれまで形成していた価値観に―――それ故に。

 

「……小さい男」

 

ユエの嘲りはクリティカルとなって、彼らのプライドを粉砕せしめた。

 

「な!……聞き捨てならんぞ!小娘がっ!

神の使徒でもないのに神殿騎士に逆らうのか!」

 

自分らの煩悶を知らずに好き勝手言ってくれる……。

どうやら完全にキレてしまったようだ、デビッドは場所も忘れて抜剣し

さらに彼のみならず、クリスとジェイドもずいと進みでる。

チェイスはどうしていいのか分からないのかオロオロとしている。

 

「おいおい、憩いの場で抜剣か?この世界の騎士って行儀作法は習わないのか」

 

さらにハジメの挑発が彼らの怒りに火を注ぐ。

教室でのハジメしか知らない愛子たちは、その猛々しい口調に驚きを隠せない。

シルヴァが他の客に迷惑をかけるなよと、ハジメとジータに耳打ちする。

二人が笑顔で頷くのと。

 

「抜かせっ!まずは貴様だっ!もう一度オルクスの闇の中に我が剣で送り帰してくれるわ!」

 

デビッドがハジメの頭上へと大上段から剣を振り下ろそうとして、

逆にハジメの袖口から突如現れた拳銃から放たれた、

鎮圧用ゴム弾によって後方の壁に吹き飛ばされるのは、ほぼ同時だった。

ゴム弾とはいえ直撃を受けたデビッドの額には青あざが出来ている、

どうやら眼を回してしまってるようだ。

 

「ほう、自力で完成させやがったか……ククク」

 

愉快そうに笑うカリオストロ、

奈落から自力で戻って来た二人のその実力を試すには、

連中はちょうどいい相手だとあえて放っておいたのだが、これは予想以上だ。

 

「くっ!隊長」

 

泡を喰った叫びを漏らす、クリスとジェイド、

何が起こったのか、まるで理解出来ないにも関わらず

なんとか抜剣しようとしたのは流石だが、

しかしその手は空しく空を切る、無い!騎士の証たる剣があるべき所に。

 

「これかな?お探しの品は」

 

舐めるような上目遣いで二人を見上げるジータ、その両手には彼らの愛剣が握られていた。

"縮地"と"瞬歩"、さらに"瞬光"を使って、彼らより先に彼ら自身の剣を奪う。

大道芸に近い魅せ技だが、それ故に効果は絶大だった。

弁解し得ない敗北感に打ちひしがれる二人。

 

「……さて」

 

不幸にも独り取り残されてしまっている、チェイスへと迫るハジメ。

 

「あ…あの…あのですね」

 

救いを求めるように同僚たちに目を向けるが、デビッドは気絶中で、

クリスとジェイドはへたり込み、項垂れたままだ。

 

「わ、私たちは……別のテーブルにて食事を摂らせていただくことにしましょう

積る話もあるでしょうし……ッ」

 

吐き出すようにやっとの思いで声を絞り出すチェイス。

ハジメたちの沈黙を肯定と受け取ったか、クリスらを促しデビッドを抱えると

別のテーブルへとそそくさと移動していく、

そんな彼の、完成して……いたのか、という呟きがハジメの耳に入る。

 

ああそういや銃とか色々と、武器開発って名目で工房提供されてた関係で

一応お偉いさんらにコンセプトだけは説明したことあったなあと、

召喚されたての日々を思い出すハジメだった。

 

 

ともかく、カーテンで仕切られたVIP席に改めて着席する一同

やっとお米が、カレーが食べられるぞと期待に満ちた表情のハジメ、

その年相応の姿を見て、安堵の息を漏らす愛子。

 

「見事でした、聖職者たるものかくあらねば」

「……そうですか」

 

シルヴァの称賛を聞いて、改めてデビッドへの啖呵を思い出し、赤面する愛子。

自分でもどうしてあんなことが出来たのか、正直自分でも分からない。

だが……一つだけはっきりとしていることがある。

 

愛子はカンカンと食器を鳴らすカリオストロを見る、

もしもこの傲岸不遜な天才少女に出会わなければ自分はきっと

何も言い出せず、動くことも出来ずわたわたと手をこまねいていただけだっただろう。

 

もっとも赤面の主だった理由は、目の前の銀髪の美女にある、

常に威厳ある教師像を求めて止まぬ愛子にとって、シルヴァはまさに、

理想の存在のように思えてならないのだから。

 

そして数々の料理や飲み物が運ばれ、彼らの目の前のテーブルを埋め尽くしていく。

 

「では、南雲君とジータちゃんの無事と再会を祝して!」

「「「「カンパーイ!」」」」

 

優花の音頭と共に、グラスが触れ合う音がテーブルに響く。

 

「ああ、相変わらず美味しいぃ~異世界に来てカレーが食べれるとは思わなかったよ」

「まぁ、見た目はシチューなんだけどな……いや、ホワイトカレーってあったっけ?」

「いや、それよりも天丼だろ? このタレとか絶品だぞ? 日本負けてんじゃない?」

「それは、玉井君がちゃんとした天丼食べたことないからでしょ? 

ホカ弁の天丼と比べちゃだめだよ」

「いや、チャーハンモドキ一択で、これやめられないよ」

 

「ホラホラ、南雲君もジータも食べなよ」

 

ハジメとジータに水を向ける優花。

 

「食べてる食べてるよ」

「あーカレーがお腹に染みるねぇ」

 

懐かしの日本の、故郷の味を二人は存分に味わい噛みしめる。

見た目や微妙な味の違いこそあるものの、料理の発想自体は非常に酷似している。

急ぐ旅でなければ数日滞在して、もっとこの懐かしの味を楽しみたいところだ。

 

「でもさっきフォスさん言ってたけど、このニルシッシルもう食べられなくなるんだって」

「えっ」

 

奈々の言葉に思わず聞き返す優花、彼女はカレーが大好物なのだ。

カーテンから顔を出してフォスの姿を探す優花、彼女の視線に気が付いたか

やや急ぎ足でこちらへと向かってくる。

 

「はい、大変申し訳ないのですが……香辛料を使った料理は今日限りとなります」

 

表情を曇らせながら申し訳なさそうに一同に詫びるフォス。

彼の説明によると、香辛料の原産地である北部山脈地帯が不穏な状況となっており

採取どころの状況ではなく、先日調査に来た高ランク冒険者も消息を絶ったのだという。

 

(高ランク冒険者?)

(ウィルさんたちのことだね)

 

ヒソヒソと言葉を交わし合うハジメとジータ。

 

「何でもこの周辺では見かけない、奥地に生息している筈の魔物を目撃したとか

ですが、詳しい話はそちらの方々もご存知ではないでしょうか?」

 

「えっ!?」

 

フォスの視線の先にはハジメたちの姿がある、驚きの声を隠せない愛子たち。

 

「は、こちらの方々は先の冒険者方の捜索のため北山脈へ行かれるという、

フューレンの冒険者ギルド支部長様の指名依頼ということで

特別にお部屋の方を用意させて頂いた次第なのですが?

 

「南雲、お前ら冒険者になっていたのかよ」

「行きがかり上な」

 

明人にそれだけを答えるとまた異世界風カレー、ニルシッシルへと匙を伸ばすハジメ。

その頬の飯粒をジータが摘まんで自らの口に運ぶ。

その自然な仕草に昇や明人、淳史ら男子たちの眼は釘付けになる。

ついでに言えばユエとシア、シルヴァの姿にも。

 

「あー、ちくしょう異世界ライフ満喫してるなあ、南雲の奴」

「蒼野のことはもう仕方ないにせよ、異世界の女の子と仲良くなる術だけは……

なんとか聞き出したいよな」

 

昇と明人が顔を見合わせヒソヒソと何やら言葉を交わしている、

そんな二人の肩を抱える様にしてカリオストロが悪戯っぽく囁く。

 

「も~こんな近くの美少女をムザムザ見逃すつもりかなぁ~カリオストロぉ、

ちょっと悲しいな、ぷんぷんっ♪」

 

「カリオストロさんは……」

「その、そういうのじゃないというか……」

 

遠慮がちに応じる二人、本性を知る前ならきっと素直にラッキーと思えたに

相違ないのだが……。

 

「お前らいい反応だな、オイ、ウロボロス……餌の時間だぞ」

 

まさに"つまらない"そんな表情のカリオストロの言葉と同時に、

壁の傍らに立掛けていた杖がカタカタと震えだす。

 

「俺、トイレ行ってくる」

「淳、お前だけ逃げるんじゃねぇ!」

 

抜け目なくこの場からの逃走を図る淳史に、それは許さじと二人がすがりつく。

 

「カリオストロさんもいいかげんに止めてよ、狭いんだから」

 

慣れた口調でカリオストロを嗜める奈々、もうお馴染みの風景になっているのだろう。

そんな彼らの様子をジータは複雑な気分で眺める。

伝わる……ハジメもまた自分と同じことを考えている。

 

 

もしかしたら自分たちにもこういう未来があったのかもしれない、と

 

 

でも……オスカーの、ミレディの願いを、叫びを自分たちは知ってしまった、

知りすぎてしまった。

そして、ユエたち掛け替えのない同胞に出会ってしまった。

だから、この暖かな場所にはまだ戻れない、戻るわけにはいかない。

 

「まぁ、そういうことで悪いんだけど、また当分別行動ってことになるわ」

「そんな!」

 

パエリアモドキに視線を移しながら事も無げにサラリと、

重要なことを口にしたハジメへと思わず立ち上がり

不満げな叫びをぶつける優花。

 

「優花ちゃん、会えて嬉しかったけど、ゴメンね」

 

食べるのに夢中なハジメの代わりに、ジータがペコリと頭を下げる。

 

「大体なんだって冒険者なのよ!普通に帰ってくればいいじゃない!」

 

尚も不満を漏らす優花の声を聞きながら、愛子もまた困惑の表情を隠せない。

 

(……もしかして)

 

「王宮や教会には頼れない何か……」

「バカッ!ここで口にしていいことじゃない!」

 

あまりにフェイタルな事を口走ろうとした愛子の口を慌てて塞ぐカリオストロだが

―――遅い。

 

カーテンが開き、チェイスに肩を借りた状態のデビッドが姿を見せる。

 

「その話、詳しく聞かせて貰いたい、騎士としてではなくこの世界の住人として」

 

ジータはそんな騎士たちの姿を眺めながら、これまで、そしてこれからのことに想いを巡らす。

自分は今までハジメを孤独にさせないために心を砕いてきた

だが、それは逆を言えば余計なしがらみをも同時に引き寄せることになる。

そのしがらみは、もしかすると致命的な何かとなって、

自分たちの未来を阻むことになるのかもしれない。

 

「後悔しても……知らないから」

 

それは、果たして誰に対しての言葉だったのだろうか?

 





関わりが増えるってはメリットであると同時にデメリットを
連れてくる可能性もあるんですよね。
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