原作とは若干シチュエーションが変わってます。
"ぬ、抜いてたもぉ~、お尻のそれ抜いてたもぉ~"
不可抗力とはいえ、ハジメのパイルバンカーをあろうことか
尻穴に挿入してしまうという壮絶な自爆を遂げた黒竜。
自ら抜こうとしているのか、それともさらなる奥へと杭を導こうとしているのか、
身体を揺すらせる度に、何とも情けなくも哀願するような女の声が響き渡る、
しかも直接脳内に。
(確か……人語を話せる……意思疎通が可能な魔物は一種類しかいなかった筈、
それも確か……)
考え込むジータ、いかに北の山脈地帯が未踏・未開の地が未だ多くとも
ここまで強大かつ目立つ魔物がこんな所に存在しているのであろうか?
可能性としては二つ、文字通りの未開の地から現れ出でた未知の魔物
しかし……だとすればこんなに流暢に人語を扱えるだろうか……。
そして、もう一つの可能性。
ジータは、義手からパイルバンカーを一先ず取り外そうとしてるハジメを眺めつつ
黒竜へと問いかける。
「ねぇ?あなたって竜人族?」
"む? いかにも。妾は誇り高き竜人族の一人じゃ、偉いんじゃぞ? 凄いんじゃぞ?"
「自分で自分を偉いって言うかなあ」
溜息をつくジータ。
"だからの、いい加減お尻のそれ抜いて欲しいんじゃが……"
「だったらそんなに身体を揺するなよ!」
呆れ声で叫ぶハジメ、言葉では抜いて欲しいと願いつつも、
身体はそれとは逆の路線へと導かれているようだ。
"か……悲しいのぉ……性(サガ)というものは"
ジータや愛子を始めとする女性陣が一様に嫌な顔をする。
「竜人族……滅んだって聞いてる、どうしてこんなところに?」
「ユエが聞いてるんだぞ、悶えてないでキリキリ答えろ!」
ハジメは容赦なくグリグリツンツンと黒竜の尻に突き立った杭に刺激を与える。
その旅に巨体をくねらせ悶え声を発する黒竜。
「もうやめてあげなよ~ハジメちゃん、このまま悶えられても不愉快なだけだしさ」
たまらずジータが止めに入る、その顔色は妙に上気しているように見える、
たしかにこのままでは埒が明かないので、グリグリは止めてやるハジメ。
もちろん片手は杭に添えたままではあったが。
"妾は、操られておったのじゃ。お主等を襲ったのも本意ではない。
仮初の主、あの男どもにそこの青年を捕らえろと命じられたのじゃ"
「どういうことだ?」
"うむ、順番に話す、妾は……"
黒竜はやや急ぎ足で事情を語ってゆく。
竜人族は山脈の奥地でひっそりと暮らしていたのだが。
そんなある日、大魔力の放出と同時に、何かがこの世界にやって来たことを感知した
者がいたらしい。
"数ヶ月ほど……前のことじゃ "
「私たちが呼ばれた時だね、で、それから?」
"妾たちはあまり表舞台には関わらぬ掟があるのじゃが、事が事じゃ
それで調査することになった、それで……"
「あなたが選ばれたと、で?」
黒竜はジータに促されるままにさらに言葉を続ける。
"ひ……人里に紛れる前に休息をと思ってのぉ~~ひと眠りしとったんじゃ
そうしたら黒いローブと黒い鎧の二人組が現れて、妾の心を蝕んでいきおったのじゃ"
「何が"いきおった"だ!分かってるなら反撃くらいしろや!」
憤りのままにまた杭を揺すり始めるハジメ、あああとまた悶え声を上げ始める黒竜。
「だから止めたげてよ、ほら、モットーさんが言ってたでしょ、あの諺」
"そ、そうじゃ、我々竜人族はひとたび竜化し眠りにつけば……このような目にでも
逢わぬ限り、満足するまで目覚めることは無いのじゃ……"
「そもそも大事な調査の前に、居眠りするのが間違いだと思うんですけど」
愛子のツッコミに頷く一同……流石に気まずいのかここで言葉を切る黒竜。
「……竜人族は肉体のみならず精神や魔法に対しても高い防御力を誇ってるって
聞いたことがある……そんなあなたがどうして?」
ユエの疑問はジータにとっても思うところである。
ミゼラブルミストを弾くほどの耐性をもって置きながらなぜむざむざと……と。
"あ、相手は恐ろしい男じゃった、そりゃあもう、闇系統の魔法に関しては
天才と言っていいレベルじゃろうな……そんな男に丸一日かけて間断なく
魔法を行使されたのじゃ、いくら妾と言えど、流石に耐えられんかった……"
口調こそ悲痛ではあったが、どこか言い訳じみた風に聞こえてならない、
しかしカリオストロと愛子は、闇系統という言葉を聞いて明らかに眉を顰めている。
その表情には明らかに焦燥の色があった。
(幸利……まさか)
「オイ、その黒いローブの男についてもう少し詳しく教えろ」
ずいと身を乗り出すカリオストロ。
"何やら脅されているような感じじゃったの、妾を洗脳しておる間も
もういいだろう?とか、相方の黒い鎧の男をしきりに気にしておったな"
ああ、丸一日もかかりやがってと怒られておったな……。
その後は黒い鎧の男に従わされ、男を背に乗せ、
山脈のあちこちをひたすら飛び回らされたそうだ。
そして、ウィルたちを殺せと命令を受け……。
「ここに差し向けられて、私たちに遭遇したと」
"ああ、ただ妙な事を言っておったな、一人だけは生け捕って連れて来いと"
生け捕りという言葉を聞いて、少し納得するジータ、何故なら黒竜の戦い方には
少し加減のようなものを感じていたからだ、全員殲滅するつもりで暴れられていれば
もっと手こずっていたに相違ない。
「……ふざけるな」
ウィルの怒声が飛ぶ、落ち着きを取り戻すと同時に、仲間たちを殺されたことへの
怒りが湧き上がったようだ。
「……操られていたから…ゲイルさんを、ナバルさんを、レントさんを、
ワスリーさんをクルトさんを! 殺したのは仕方ないとでも言うつもりかっ!」
黒竜はただ沈黙を守るのみだ、それがさらに気に障るらしい。
「大体、今の話だって、本当かどうかなんてわからないだろう!
大方、死にたくなくて適当にでっち上げたに決まってる!」
"……今話したのは真実じゃ。竜人族の誇りにかけて嘘偽りではない"
「そんなっ……」
「……きっと、嘘じゃない」
「っ、一体何の根拠があってそんな事を……」
なおも言い募ろうとするウィルだったが、ユエに口を挟まれる。
「……竜人族は高潔で清廉」
一瞬、ホントかよと目の前の黒竜へと腑に落ちない視線を落とす一同。
その疑いの視線に晒され、ぶるると身を震わせる黒竜。
「私は皆よりずっと昔を生きた……竜人族の伝説もより身近なもの、
彼女は"己の誇りにかけて"と言った、なら、きっと嘘じゃない…それに……」
ユエは遠くを見るような寂しげな表情で続ける。
「嘘つきの目がどういうものか私はよく知っている」
「……」
寂しげで、それでいて怯えるような表情のユエ、
ハジメとジータはそんな彼女を救い出したこと、そして今、
こうして彼女の信頼を得られていることを心から安堵していた。
"ふむ、この時代にも竜人族のあり方を知るものが未だいたとは……
いや、昔と言ったかの?"
「……ん。私は、吸血鬼族の生き残り、三百年前はよく王族のあり方の見本に、
竜人族の話を聞かされた」
"何と、吸血鬼族の……しかも三百年とは……なるほど死んだと聞いていたが、
主がかつての吸血姫か、確か名は……"
「ユエ……それが今の私の名前、新しい家族に貰った新しい名前、そう呼んで欲しい」
ユエが、薄らと頬を染めながらハジメとジータへと視線を移し、
二人もまたそんな彼女へと少し照れながらも微笑んで頷く。
道中、すでにユエの素性を聞いている愛子や優花ら女性陣らからも、
よかったねと祝福する声が漏れる、昇ら男性陣も頬を染め、妖艶な魅力に溢れる
ユエに見とれつつも、その温かい雰囲気にほっこりとした表情を見せる。
それはウィルも例外ではないのだが……。
「……それでも、殺した事に変わりないじゃないですか……
どうしようもなかったってわかってはいますけど……それでもっ!
ゲイルさんは、この仕事が終わったらプロポーズするんだって……
彼らの無念はどうすれば……」
それでも親切にしてくれた先輩冒険者達の無念は拭いされない様だ。
黒竜の言葉が嘘でないと分かっていても……。
「あああああああ!」
叫びながらやり場のない怒りに拳を地面に叩きつけるウィル、
そんな彼の背中越しにジータは話しかける。
「あの……これ、ゲイルって人の持ち物じゃないでしょうか?」
そう言ってロケットペンダントをウィルの目の前に垂らしてやる、と
次の瞬間にはウィルはペンダントをひったくる様に握りしめ、その胸に掻き抱く。
「ああ!ママン!」
「ママぁ!?」
「あ……すいません」
貴族にあるまじき振る舞いに、まずはジータへと一言謝ると、
何が何やらのハジメたちに、説明を始めるウィル
「これ僕のロケットです!無くしたと思っていたのに!
見つけてくれてありがとうございます!」
「これゲイルさんって人の恋人じゃないの?」
「ああ、あり得ませんよ、あの人男の方が好みですから」
「聞くんじゃなかった」
「お母様にしては随分若いように思えますけど?」
それでも首を傾げる愛子、確かに写真の女性は二十代前半と言ったところに見える。
「せっかくのママの写真なんですから、若い頃の一番写りのいいものがいいじゃないですか」
「ああ…」
ジータ同様、聞くんじゃなかったという顔の愛子、そして話は
いよいよ黒竜の措置へと本格的に移行する。
殺すべきだと主張するウィル、色々と理屈を並べてはいるが
その主だった理由が復讐なのは明白だ。
黒竜がゆっくりと言葉を紡ぐ。
"操られていたとはいえ、妾が罪なき人々の尊き命を摘み取ってしまったのは事実
償えというなら、大人しく裁きを受けよう……だが、それには今しばらく猶予をくれまいか
せめて、あの危険な男を止めるまで、あの連中は、魔物の大群を作ろうとしておる、
竜人族は大陸の運命に干渉せぬと掟を立てたが、今回は妾の責任もある
放置はできんのじゃ……勝手は重々承知しておる。だが、どうかこの場は見逃してくれんか"
「……大群ねぇ」
首をクキクキと鳴らすハジメ、お前の都合なんざ知ったことじゃないと
見捨てることが出来れば楽なのだろうが……。
(そんな生き方を俺は……)
チラとジータやユエ、シアらを見るハジメ。
(まいったな)
一方のジータもまた何やら考えている風だ。
"迷ってるようなら、取り敢えずお尻の杭だけでも抜いてくれんかの?
このままでは妾、どっちにしろ死んでしまうのじゃ"
「ん? どういうことだ?」
"あくまでも妾たちは"竜人族"じゃ、本来は人間の姿をしておる……
そして竜化状態で受けた外的要因は、元に戻ったとき、そのまま肉体に反映されるのじゃ
つまりこのままだと……妾は串刺しじゃ"
あまり考えたくない光景だが、それでも考えてしまい、顔を顰める一同。
"でじゃ、その竜化は魔力で維持しておるんじゃが、もう魔力が尽きる
あと一分ももたないのじゃ……新しい世界が開けたのは悪くないのじゃが
流石にそんな方法で……っ"
「あと一分!それをもっと早く言えよ!」
ハジメが慌てて黒竜の尻に突き刺さっている杭を掴み、力を込めて引き抜いてゆく。
"はぁあん! ゆ、ゆっくり頼むのじゃ。まだ慣れておらっあふぅうん
やっ、激しいのじゃ! こんな、ああんっ! きちゃうう、何かきちゃうのじゃ~"
聞くに堪えない喘ぎと悶えが直接脳内に響く、その気持ち悪さといったらない。
しかもシアのパワー+ハジメのスピード+黒竜の体重+重力でかなり奥の方まで
杭は埋まっており、急ぎつつも場所が場所だけに捻ったり上下にくねらせたりしながら
あくまでも慎重に杭を抜いていくハジメ……しかし。
「どいて!私も手伝うから」
業を煮やしたジータがハジメと共に杭を引き抜こうと駆け寄り、手を伸ばすのだが、
慌てていたのか足首を捻り、そのままつんのめり、結果、よりにもよって
さらに奥へと抉る様に杭を突き込んでしまう。
"あひぃいーーー!!"
絶叫する黒竜、そして根元まで一度埋まった杭が、その反動でメリメリと音を立てながら
一息に吐き出された。
" す、すごいのじゃ……優しくってお願いしたのに、
容赦のかけらもなかったのじゃ……こんなの初めて……"
息を荒げる黒竜は、その身と同じ黒い魔力に身体を包み、
その大きさをするすると縮めていく、そして黒い魔力が晴れた跡には……。
はぁはぁと息を荒げ、うっとりと頬を染めながら、お尻をさする黒髪金眼の美女がいた。
長く豊かな黒髪は乱れて、頬と白い肌に貼りつき、
大きくはだけた着物からはまるでスイカのような双丘がこぼれんばかりに
呼吸にあわせて波打っていた。
おお……と前のめりにならざるを得ない男子トリオ。
ハジメも例外ではないらしく、一瞬谷間に目を奪われ……
ジト目のユエに気が付き、咳払いしつつ視線を宙に泳がせる。
「ハァハァ、うむぅ、助かったのじゃ……まだお尻に違和感があるが……
それより全身あちこち痛いのじゃ……ハァハァ……
痛みというものがここまで甘美なものとは……」
未だ身体をくねらせ、なにやら危ない言葉を口走っていた黒竜ではあったが、
なんとか姿勢を正すと改めて名乗りをあげる。
「面倒をかけた、本当に申し訳ない妾の名はティオ・クラルス
最後の竜人族クラルス族の一人じゃ」
かしこまって正座し頭を深々と下げると、そのまま先程の続き―――。
魔物の大群がウルの街へと迫りつつあることをハジメたちに改めて語る。
その数はおおよそ数千、
「鎧の男が指示を出し、ローブの男がそれに従うという風だったのぉ
見た感じは、それで群れの主を洗脳させて効率よく群れを配下に収めておったぞ」
「魔人族か?……魔物を傘下に収めることに成功したと聞いてはいるが」
「うむ……確かに魔人族も何人かはおったな、しかし黒ローブは人間族のようじゃったぞ
黒髪で黒目の小柄な……ちょうどお主らと同じ年頃の……鎧の男は鎧に加えて
仮面を被っていたのでよく分からぬが……ただ、誰かを激しく憎んでおるようじゃったな、
今度こそ殺してやるとか、我が背で喚いておったわ」
黒髪黒目の人間族の少年で、闇系統魔法に天賦の才がある者
彼らの知る限り、それに該当する人物は一人だけだ。
「清水君……どうして」
愛子の声音には何故そんな危険な場所に一人で向かったのか?という疑問の響きがある。
ティオの言葉が確かなら、自発的に協力しているわけではなく、
魔人族に捕らえられ悪事に加担させられているということなのだろうから……。
その時、話を聞きながらも無人探査機を回していたハジメが叫びを上げる、
ついに魔物の大群を発見したようだった。
「おい、数千なんてもんじゃねぇ!数万はいるぞ……こいつぁ」
その声に全員の注目が集まる。
「一直線にウルに向かってる、多分……一日あれば街に到着するぞ」
「南雲君、黒いローブの男というのは見つかりませんか?」
「いや……それらしいのは今のところ見えないな」
思いつめたような表情の愛子の顔を見つめるジータ。
「先生、まさか残るだなんていうんじゃないでしょうね」
「……」
愛子の縋るような眼が刺さる。
「忘れたわけではありませんよね、私たちは仕事でここに来ているんです
その目的はウィルさんの保護です」
「あの~」
ここで自分の名前が出て来たことに乗じて何かを言おうとしたウィルだが
ジータに睨まれ口をつぐんでしまう。
ここで私のことはいいからとか、何とかしてくださいとか言われると
また話が拗れる。
「とにかく一度街に帰ってピンチを知らせましょう、それからでも間に合います」
「ああ、こんな山中じゃどの道、戦いにくくて仕方ないしな、急ぐぞ」
ハジメに急かされるように一行は山を下っていく。
魔力切れで動けないとかホザくティオは、ハジメに首根っこを掴まれ
引き摺られながらの下山だ、ぞんざいな扱いにも関わらずなぜか恍惚の表情を浮かべている。
そして、すでに薄暮が包む山中でジータは足は止めずとも考えずにはいられなかった。
ハジメがここでどんな選択をするかで、自分が心砕いたここまでが
あの悲惨な未来を回避できるか、ハジメが人の道に踏みとどまることが
出来るか出来ないかが決まる……そんなことを。
次回、ハジメの決断はいかに