ありふれた錬成師と空の少女で世界最強【完結】   作:傘ンドラ

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そこの奥サマ、石油武器の詳細聞きました?
このままじゃグラブルが札束ゲーになっちゃいましてよ。


開戦前夜

 

 

ウルの街へ到着と同時に愛子たちは転がるように町役場へと駆けていった。

その背中を見送りながら、ハジメたちは一先ず腹ごしらえを優先させることにする。

 

活気に満ちた市場の広場のベンチに腰掛け、頭から炙った魚の干物を齧るハジメ。

その表情だけでは何を考えているのかは読み取れない。

しかしジータだけは、ハジメがもう"決めて"いることを察知していた。

 

(どんな結論であっても……私はそれを受け入れる、けど)

 

願わくば……自分の望んだ結論であることを望まずにはいられなかった。

 

「信じられん」

「我がウルは最前線からも遠く離れている、何故」

「女神様!嘘だといってくれぇ~」

 

おっとり刀でようやく役場に顔を出すハジメたち

案の定、会議室では愛子らのもたらした凶報を巡って、

街の幹部たちが喧々諤々と、怒号交じりに討議を重ねている最中だった。

 

誰も彼もが信じられない、いや、信じたくないという顔をしている、

実際、この情報が"神の使徒"にして"豊穣の女神"たる愛子の口から出なければ

皆、一笑に付してたに相違ない。

また最近、魔人族が魔物を操り始めたというのは公然の事実であることからも、

無視などできようはずもなかった。

 

ただし、清水やティオについては流石に口にすることはなかったが。

 

そして埒が明かぬまま、一旦、会議は休憩となり、

幹部たちは会議室からひとまず去っていく。

残されたのはハジメや愛子たち地球組とウィルのみだ。

 

「さて……ウィル、話はすんだか?すんだなら巻き込まれない間にフューレンに帰るぞ」

 

ハジメはぐいとウィルの腕を掴み、強引に立ち上がらせようとする、

もちろんウィルは捲し立てる様に食ってかかる。

 

「な、何を言っているのですか?ハジメ殿、今は危急の時なのですよ? 

まさか、この町を見捨てて行くつもりでは……」

 

見捨てるという言葉に反応したかのように、愛子はハジメの顔をチラと眺め、

それからジータの方にも視線を移す……目が合う。

何かを試す、確認するかのような神妙な目に

 

「見捨てるもなにも、どの道、町は放棄して救援が来るまで避難するしかないだろ? 

こんな観光地の防備なんてたかが知れているんだから……」

「そんな!皆さんは私たちよりもずっと強いじゃないですか……だったら」

 

夢から醒めたかのような表情を見せるウィル、無理もない。

彼は黒竜を圧倒したハジメたちに憧れの感情を抱いていたのだから、

事実、その険しい表情には、もしも私ならという気持ちが含まれているのは明白だ。

 

「これは俺たちが請け負った仕事だ、お前を連れて帰れと、お前の意見なんぞ問題じゃない、

どうしても帰らないというなら、手足を砕いて引き摺ってでも連れて行く、それが嫌なら」

 

ハジメはわざと大きな音を立てて椅子から立ち上がり、彼もまた会議室を後にする。

 

「時間をやる、よく考えておくんだな」

 

街の中心に位置する役場の屋上から、喧騒溢れる市場の様子を見下ろすハジメ。

誰も彼も、明日には魔物の大群にこの街が蹂躙されることなど

夢にも思ってないだろう。

 

「ウィルさんへの厳しい態度はわざとですね」

「……ああ、一度頼られてしまうと、また次ってことになりかねない

それにアイツ自身の勘違いも拗れるだろうしな」

 

背後からの愛子の声に振り向くハジメ、そのまま皮肉気な声で続ける。

 

「天之河とちがって、ヒーローごっこやってるヒマはないんだ」

「それでも南雲君は最初から街を救うつもりだったのでしょう?」

 

お見通しと言わんばかりの愛子の言葉に、肩を竦めるハジメ。

 

「先生はどうなんだ?……あの召喚の日、これは誘拐だ、

今すぐ帰せと叫んだ、愛ちゃん先生としては」

「南雲君は意地悪なことを聞きますね」

「この世界は俺たちにとっては、ムリヤリブチ込まれた旨い飯が出るだけの

檻みたいなもんなんだぞ……先生もわかってる筈だ」

 

苦笑しつつ、愛子は答える。

 

「最初は私もそう思っていました、今でもその気持ちはあまり変わっていません

もしも、ここに日本行きのバスが止まったら皆で逃げ出さない……とは

言いきれません、それでも……私は、私たちはすでに触れ合い、そして知ってしまった

この世界の人々も私たちと同じく喜び、怒り、哀しみ、楽しみ、

懸命に今日を生きているということに……きっと、それは南雲君も同じではないのですか?」

 

「……ジータが夢を見たって言うんだ」

 

賑わう市場を眺めながらポツリと呟くハジメ。

 

「その夢の中の俺は自分の大切に固執するあまり、それを理由に破壊と殺戮を繰り返す

……獣のような存在になっていたそうだ」

 

今では理解できる、それはもしかすると己が本来歩む筈の未来だったのではないのかと。

 

「でも、それをジータが止めてくれた、あいつが俺の中の……決して無くしちゃいけない

大切な物を守ってくれた……だから俺はユエやシアにも巡り合えた」

 

夜風を頬に受けながらハジメは続ける。

 

「だから……そんな寂しい生き方を、誰かを思いやれない生き方を、

俺の大切な仲間たちに、家族に見せるわけにはいかないなって」

「……南雲君」

「俺は……俺たちは絶対に日本に帰る……そう、日本にだ

理不尽を理不尽で砕いてまかり通るような生き方を……

邪魔者は皆排除するなんてことは、当たり前だけど許されない世界に」

 

その言葉は自分に言い聞かせるような響きがあった。

戦うことに慣れ過ぎて、日本に戻ってからでも闘争本能、生存本能の赴くままに

自分の宝物を守るために、破壊を繰り返していくのか、

それは獣ですらない、獣以下のそう、虫、昆虫の生だとハジメは思った。

 

「神と戦う道、神から逃れる道、どちらを選ぼうともそれはきっと血塗られた道だ

力を振うことは避けられない、自分の、仲間の未来を掴むために誰かの未来を、

誰かの命を奪うことになったとしてもだ」

 

一瞬、かつての帝国兵の姿が脳裏に浮かぶ。

 

「だったらせめて、例え血塗れでも……それでも胸を張って

父さんや母さんにただいまって言えるようにしようってな」

 

ハジメにとってこの世界が牢獄であることには変わりはない、

ゆえに、この世界の人や物事に不必要に関わることは出来れば避けたい。

だがそれでも……。

 

「先生は、いや先生だけじゃない、園部や玉井たちもこんな姿の俺を迎えてくれた……

そしてシアのことを庇ってくれた、ユエのために泣いてくれた、

デビッドたちも俺たちの話を信じてくれた、この街は故郷を、日本を思い出させてくれた」

 

報いねばならない、自分のことを大切に思ってくれている人々へと、

それがきっと人と魔を隔てる境界なのだろうから。

 

「……これから俺たちは様々な選択、決断を強いられることになるだろう

その選択は他から見ると不可解で矛盾したものもあるかもしれない」

 

それでも自分たちはヒーローじゃない、だから味方したい、助けたい対象はちゃんと選ぶ。

強いから、力があるから全てを救い守る、なんてことは只の呪いだ。

 

「その結果、どんなに俺が、俺たちが血と罪に塗れようとも、

俺の、俺たちの先生でいてくれるか?」

「当然です!」

 

即答する愛子、その声には一切の迷いが無い。

 

「先生の役目は、生徒の未来を決めることではありません、

より良い決断ができるようお手伝いすることです

南雲君が先生の話を聞いて、なお決断したことなら否定したりしません」

 

ただ無言で安堵の息を漏らすハジメ、わざわざ聞くまでもなかったことだが

それでも一応の言質は取っておきたかった。

 

「話は終わったかな?」

 

そこで戻りを促すようなジータの声が耳に届き、振り返る二人。

彼らの目に映ったジータの顔は相変わらずの笑顔ではあったが、

その頬には涙の跡がある。

 

「……ジータ」

「よかった……ハジメちゃん、あんなケダモノに……魔王にならなくって」

 

耐えきれずに嗚咽を漏らし始めるジータ、その背中を愛子が優しく撫でてやる。

 

(ガブリエル様……私、やったよ)

 

「いいじゃねぇか、魔王になっちまえ、そしたらオレ様は大魔王だな」

 

こちらも相変わらず余裕綽綽に見えるカリオストロだ。

いや……何やら思うところはあるようだが。

 

「カリオストロさん!」

「いーじゃねぇか、後々講演で稼げるぞ、魔王は私が育てたってな」

 

一瞬、満員の講演会場を想像し、愛子はぶるんぶるんと頭を振って

煩悩を消し去りながら、再び会議場へと足を向かわせる。

そんな彼女の背中へとハジメの声がかかる。

 

「さて、相手は数万だ、色々準備があるから話し合いは任せるわ」

 

 

そしてその頃、北の山脈地帯では。

 

「オイ!あの俺の竜は何処に行った!てめぇ手ぇ抜きやがったな!」

 

清水の胸倉を掴んで凄む檜山。

 

「フリードさんの白竜とおそろで飛ぼうって思ってたんだぞ」

「し……知らねぇよ」

 

気道を締め上げられる苦しさと、仮面越しでもわかる息の臭さに、

顔をしかめつつ、何とか言い返す清水。

しかし実際、彼にも腑に落ちないところがあった。

 

(……洗脳は完璧だった筈なのに)

 

代わりを用意しとけと吐き捨て、テントから外に出ていく檜山、

その後をゾロゾロと何人かの魔人族が続く、

彼らは名目上は檜山の配下ということにはなってはいたが、実際はお目付け役だった。

残ったのは清水と、一人の魔人族のみだった。

 

その一人……レイスとか言ったか?が、清水に嘯く。

 

「ご安心ください、彼よりも貴方の方を我々は買っているのですよ」

「俺を?」

 

意外な言葉に目を丸くする清水、レイスは続ける。

 

「ええ、此度の件、上手くことが運べば魔人族、ガーランド軍の正式な一員として

迎え入れることを推挙いたしましょう」

 

思いもよらぬ提案だった、もちろん断るべきだと清水は思う、しかし、

 

(どうして俺……黙って話を聞いてるんだ?)

 

「ああ、彼のことを気にしてらっしゃる、いかにアルヴ様の使徒たれど、

彼はフリード様の客将に過ぎませんよ……それも、そう長い話ではない」

 

別のテントからは虚勢をはるような檜山の声が聞こえてくる。

その背中へと、レイスは狙い撃つような仕草を見せる、

叛意と取られかねないその行為に驚く清水の手を彼は引いてテントの外へと連れ出す、そこには。

 

「ご覧なさい!貴方の造り出したるこの堂々たる軍勢を!あのような仮面も外せぬ小物一人

何を恐れる必要があるのか!」

 

まさに黒山の如き魔物たちの大群がいた。

どくり……と、自らの鼓動が高鳴っていくのを清水は感じていた。

無理もない、負けっぱなしの人生で、初めて掴んだ自分の成果なのだ。

それは……愛や友情や正義や信頼よりも、信じるに足らないそんな形なき物よりも

ずっと確かなもののように思えた。

 

「貴方が我らの陣営に加われば、私は貴方の直属の配下になりたいと思ってます

そうすれば……分かりますか」

 

へり下りつつも会話の主導権を握って離さないレイス、さらに続ける。

 

「ま、どの道、貴方に選択の余地はない、このまま生きて戻れても……

魔人族に与した人間は理由の如何を問わず死刑と決まっているのですから」

「ッ!」

 

清水は死刑という言葉に思わず息を飲んでしまう、それを見て、

内心"かかった"と呟くレイス、もちろん手は緩めない。

 

「ああ、脅されていたからということなら無駄ですよ、何故自ら死を選ばなかったと

言い返されるだけですから」

「……」

「ま、賢明な判断を期待しておりますよ」

 

勝ち誇ったような声でレイスもまたその場を後にする、残されたのは

俯いたままの清水ただ一人、しかし、彼とてただ手玉に取られているだけではなかった。

彼もまた薄々ではあるが、この世界の、この戦争のカラクリに気が付いていたのだから。

 

(エヒトとアルヴがいて……)

 

よくある話じゃないか、神々が人々をゲームの駒として弄ぶなんてことは、

それに気が付いたことは大きなアドバンテージのように清水には思えていた。

ル〇ーシュやマフ〇ート、イ〇タやマ〇ロに御〇神司……憧れのキャラたちと

自分の姿が重なり始める。

 

(人間族と魔人族、この両陣営を上手く泳ぎきり、自在に舵を取ることが出来れば……)

 

一度は砕かれた野心が再びむくむくと頭をもたげていく、

危険で、そして何より身の程知らずの考えが清水の脳内を支配していく。

 

しかし、それは決して邪なだけではない、彼もまた皆を救いたい、

神々の思惑に翻弄されるであろう、クラスメイトを救えるのではないかという

思いは確かにあったのだから……。

それに英雄には賛辞を贈るべき聴衆がいなければ話にならない。

 

香織が雫が鈴が恵里が優花が愛子が口々に自分を称え祝福する姿を

夢想する清水、そしてその奥には、あの人の……カリオストロの笑顔があった。

 

(そしたらきっと俺は……)

 

あの人の言葉を、笑顔を、心から受け止められる自分になれるのかもしれない、と。

だから彼は動く、それが例え蛮勇であっても……しかし、

彼をその蛮勇に駆り立てる、心の奥底の昏い何かにはまだ彼は気が付いていなかった。

 

「あのさ……聞いて欲しいことがあるんだ」

 





というわけでハジメちゃんは原作に比べるとかなりマイルドな感じに
仕上がりつつあります。
で、清水もちょいとばかり変な方向に進みつつあります。
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