いよいよご対面。
(何だよ、これは……何なんだよ、これは!!)
ウルを囲むべく進撃している魔物の大群の遙か後方、
清水は即席の塹壕を堀り、出来る限りの結界を張って必死に身を縮めていた。
(消えていく……俺の軍隊が、俺の力が……)
その耳にマシンガンのような銃声が届く。
(エヒトは新しく、別の世界の勇者でも呼んだのか!ス〇クでも呼んできたのか!
戦略が戦術に圧倒されるだなんて)
戦端を切ったのは、ウルから見て右翼、魔物軍最先端からだった。
地響きを立てながら所定の位置へと向かうべく行進を行っている魔物たち
その先頭にいたイノシシのような魔物が、自分たちの行く手を阻むかのような
一人の少女の姿を視界に捉える。
「さぁ、蹂躙してやるよ」
少女は八重歯を覗かせ、三日月のような笑みを浮かべて挑発する。
魔物の知能でもそれは十分に伝わる……戦闘を避けろとは命じられてはいない、
ゆえに彼らは本能の赴くままに少女へ、カリオストロへと襲い掛かった。
が。
「ちょっとだけ、遊んであげるっ」
カリオストロが軽く足を踏み出し、爪先で半円を描いた刹那。
彼らの足元が一瞬で消滅した、即席で造られたとは思えない
全長数百メートルにも達する、巨大な溝の中に次々と魔物たちが転落していく。
そして溝の底にも壁面にも魔物の肉体を貫くには充分な鋭さを誇る棘が
無数に生えていた。
「ギャアアアアアッ!」
千体近くの魔物が串刺しにされ、その凄惨な悲鳴は風に乗ってウルの街へをも届く。
しかし魔物たちはその数と勢いに任せ、溝に埋まった同胞の屍を踏みつぶしながら
さらなる前進を止めようとはしない。
だが、不敵なる天才は一切動じない、むしろそうでなければ面白くないとばかりに
ニィと笑みを漏らす。
「これが錬金術ってやつだ!」
カリオストロが指を軽く振るだけで、今度はやはり棘を生やした柵が地面から生え
魔物たちを刺し貫きその行く手を阻む。
何匹かの魔物が跳躍し、直接柵の向こうのカリオストロを狙うが……。
彼女が手にした杖を翻すだけで、悉くが両断されていく。
「けっ…雑魚じゃ相手にならねぇな!」
そこで、カタカタと杖が光を放ち鳴動しているのに気が付くカリオストロ。
「お前も暴れたいよな……いいぜ、存分に暴れな!」
カリオストロの足元に巨大な魔法陣が現れ、カリオストロの手から離れた杖が宙に浮き
巨大な機械仕掛けの大蛇、ウロボロスへと変形する。
しかし、今回はそれだけではない、生体金属のボディがパージされ、そこから
双頭の龍が姿を現す。
「これが真理の一撃だ!アルス・マグナ!」
互いの身体を絡ませ合う双頭の龍は雄々しき叫びを上げ、次々と魔物たちを
その牙で爪で切り裂き、ブレスでもって焼き尽くしていく。
満足したのか、双頭の龍が姿を消した後に残っていたのは、
幾千の魔物たちの骸のみだった。
肉の焦げる匂いに辟易しつつも、魔物の第二波に備え戦線を押し上げるべく
前進を開始しようとするカリオストロの耳に、救いを求めるような
か細い魔物の鳴き声が届く。
「ダメだな……オマエら素材にもなりゃしねぇ、そのまま死ね」
容赦なく魔物の頭蓋を踏み潰すと、目障りな屍を全て地中深くに埋葬し
一帯を更地に戻すと、とてとてと轟音鳴り響く方向へと駆けていくカリオストロ。
僅か数分の出来事だった。
それを外壁の上から呆然と見下ろす愛子たち。
「カリオストロさん……こんなに強かったんだ」
そう呟いたのは誰の声であろうか?しかしそれに応じる者はいなかった。
そして中央では二門のメツェライから、毎分一万二千発の弾丸を
いや死をバラ撒くハジメ。
左ではわーわーと騒がしく叫びながらロケットランチャーをぶっぱなすシアと
それとは対照的に淡々と超特大魔法でもって魔物たちを叩き潰すユエの姿がある。
圧倒的な破壊から逃れようと隊列から離れた魔物たちは、
ことごとくティオの炎の竜巻によって灰にされていき、
空の魔物はシルヴァによって一匹一匹と撃ち落とされていった。
「くうっ……動けん」
ペース配分を間違えたか、まだ半数近くの魔物が健在だというのに、
膝を折るティオ、そこへ。
「ほらっ!貸したげるよ」
魔晶石の指輪をティオへと投げ渡すジータ。
何故に?と、疑問顔のティオだったが、それが神結晶を加工した魔力タンクと理解すると
我が意を得たりと頷く。
「ティオさん、随分飛ばしてるね」
「ああ、ウィル坊に言われての、妾がこの街を守りきれたならば、冒険者たちの件
許してくれると申しての、それにこの件をお主らに持ち込んだのは元々妾、
先頭に立たぬわけにはいかぬわい」
指輪に口づけし、魔力を回復させたティオは両手に光を灯すと、
それをそのまま大群へと薙ぎ払うような仕草で叩きつける、
両手から放たれた漆黒の光が、みるみる魔物たちを消滅させていく。
「頑張りすぎてまたバテないようにしてね!」
それだけを口にし、再びバイクを操り戦場を駆けるジータ、彼女は遊軍であると当時に
清水の探索も受け持っていた。
魔物たちの気配と咆哮がみるみる小さくなっていく、
そして銃声がそれに反比例してどんどん大きく近づいていく……。
(き……近代兵器なんて反則だろう、どっかに門でも開いたのか?)
塹壕の底でさらに縮こまる清水……だが、彼は心のどこかで
これでよかったとも思っていた、もちろん喪失感と敗北感と屈辱の方が
遙かに大きいが……。
そんな彼の耳に、銃声に混じって自らを呼ぶ声も届き始める。
『清水さーん、どちらにいらっしゃるんですかー』
『清水とやら!いたら返事せい!』
『ねーゆっきぃーどこぉ』
『清水君!出てきてよ!』
その中に、聞き覚えのある声が混じっていたのに気が付いた瞬間、
清水はバネ仕掛けのオモチャのように塹壕から飛び出し、そのまま移動用として
レイスに与えられていた、白いイタチのような騎乗用の魔物へと飛び乗って
逃走を始める。
(俺はまだ何も成しちゃいねぇ、何者にもなれちゃいねぇんだ!)
彼は逃げた、今ここで戻ってしまえば、またあの頃の……何も出来ない
ただ怯え、呪うだけの無為な自分に戻ってしまう。
俺はこんなところで終われない、こんな終わり方は認められない
俺の終わり方は……。
そこで自分が生きる事よりも終わる事を望んでいることに気が付く清水。
その脳裏には、つい数ヶ月前のある出来事、清水のみならず多くのクラスメイトに
癒えぬ衝撃を与えたあのオルクスでの惨事が蘇る。
『南雲、ありがとう』
『ゴメンな、今まで』
『凄かったよ、ホントに』
(本当に俺が望んでいたのは……)
その時、自分の首根っこがぐいと背後から掴まれ、視界がぐらりと揺れ
自分を置いて、とててと走り去る白イタチの姿が入る。
(え……今、俺?)
何を考えていたっけ?と思いながら、慌てて首を振ると
そこには、クラスでほのかな慕情を抱いていた……あの日死んだはずの
金髪美少女の顔があった。
「あ……蒼……野」
「久しぶり、清水君」
「生きて……たのか?」
そして、金髪美少女の、ジータの背後は全て魔物たちの亡骸で埋め尽くされていた。
こうして清水は己の完全敗北を悟る。
「あっ……ああああ、放せぇー放してくれぇー」
「放したら逃げるつもりでしょ?手間とらせないでね」
ジータはバイクの荷台にワイヤーで、悲鳴を上げる清水を括り付け、
(申し訳ないけどタンデムは……)
そのままハジメたちの元へと向かう……全速で。
「俺は裏切者じゃない、俺は裏切ったんじゃない!俺はっ俺はぁ~皆のためにぃ」
「わかった、わかったから、話は後ね」
「やはり容赦ないのう、流石は」
清水をバイクに括り付けハジメらの元へと戻るジータ、ティオが頬を染めて
こちら側を見ているのに半ば呆れつつも、清水の拘束を解き、
愛子たちの元へと連れていく。
十数日ぶりの知己たちの姿を見て、悲鳴を上げる清水、そんな彼へと
愛子とカリオストロは、まずは優しく問いかける。
「清水君、落ち着いて下さい、誰もあなたに危害を加えるつもりはありません……
先生は、清水君とお話がしたいのです、どうして、こんなことをしたのか……
どんな事でも構いません。先生に、清水君の気持ちを聞かせてくれませんか?」
「それともドラゴン……捕まえにいったの?でもでもみんなに内緒はよくないなぁ
カリオストロぉ、今ちょっとプンプンしちゃってるぞっ!」
カリオストロの言葉に少し落ち着きを取り戻したか、
泣きながらも首を横に振る清水。
「俺、嬉しかった……何にも出来ない、出来なかった俺に……」
馬車に乗り込むときの、あの笑顔は忘れようとしても忘れられない。
「頼りにしてるって言ってくれてさ」
「……だったら」
「でも、俺……怖かったアンタが、何にもない俺へと笑ってくれるアンタが……
だから、俺……逃げたんだ、誰もいない山奥へ、そしたら誰にも」
それは恐らく発作的な物だったのだろう、おそらく何事もなければ数日で
帰ってくる程度の……ありふれた家出のような。
「そこで、連中に出会ったと」
「俺、怖かった……けど、あいつらは俺を……認めてくれた、俺の"力"を」
「それはテメェの力を利用してただけだ」
「それでよかったんだッ!」
清水はカリオストロに嗚咽交じりの大声で反論する。
「俺の集めた魔物の大群をアイツは素直に凄いって言ってくれたんだ!」
「……そんな、理由で」
俯き、ぎゅっとスカートの裾を握りしめる愛子。
「それでも……俺は嬉しかった、初めて、自分の出来ることを形に出来た、
だからやれるって思ったんだ」
「だからって……一歩間違えれば大惨事だったんだぞ!」
「愛ちゃんがどんだけ心配したって思ってるのよ!」
「心配?ハ!ふざけんなよ!どうせ点数が、評価が下がるから俺を探していただけだろ!
俺が行方不明にでもなったら、あのイシュタルに何言われるかわからねぇもんな!」
淳史や優花たちの言葉をせせら笑いながら清水は言い返す。
「愛とか正義とか友情とか信頼とかそんな形の無いモノなんざ
クソ喰らえなんだよッ!」
だからこそ、欲しかった……クソ喰らえとと言いつつも、
愛を友情を信頼を……その為に、何者にも左右されない己だけの
確固たる何かを手に入れたかった、でないと……
本当に信じたいものを信じることが出来ないから。
「だから……この街を攻めようとしたんですね、けど、そんなことをしても」
「ああ、俺は本気で魔人族につくつもりはなかった、本気で街を襲って
それで沢山の人が死んじまったら価値を示すも何もないからな」
愛子の指摘に清水はややふてくされたかのように答えた。
「それで、蹂躙から包囲へと切り替えたんですね」
それは確かに真実なのだろうと愛子には思えた。
しかし、それは少なくとも彼がこの一連の騒動に自発的に関わったという証でもある。
もっとも清水にとっては己を称えるべき存在を殺してしまえば元も子もない。
という感情や計算の方が大きかった、
実際、このウルに知り合いが誰もいなければ果たしてどうだったか?
そんなことを思ってしまう自分を、清水は心底嫌悪していた。
「あいつら……多分ロクなもの食べてねぇんだ、だから、愛ちゃんを引き抜いて
それで作物とかちゃんと獲れるようにしたら、戦争とか終わるかなって…さ」
「清水君は清水君なりの考えで何とかしようとしていたんですね」
(ですが、社会科の教師として言わせてもらえるなら、清水君の考えは……)
流石に口にするわけにはいかなかったが、甘いとしか言いようがない。
実りだけではダメなのだ、その実りを分配・流通できるシステムが無ければ
飢えは解決しない。
まして利害のみで戦争は起こるわけでも、解決するわけではないのだ。
「南雲ォ、お前がお前らが全部叩き潰しやがった!もうすぐ……もうすぐ
手に入る筈だったのにぃ」
白髪の少年を睨みつけ、地面を拳で殴りつけ、また再び慟哭する清水。
「……」
もしも、清水が完全に闇に堕ちていたのならば、如何なる理由や命乞い如何に関わらず
後顧の憂いを絶つ目的も込めて、ハジメは清水を殺すつもりでいた。
愛子に言質を取ったのも、その可能性を考慮してのことだ。
しかし、この目の前で泣き叫ぶクラスメイトは、ハジメにとって"敵"だとは
どうしても思えなかった。
「お前だって俺と似たようなもんだろうが!……俺だって……俺だって」
ハジメを囲む、ジータやユエ、シア、ティオらの姿を、清水は涙に濡れた瞳で眺め
その羨望を隠すことなく叫ぶ。
「何だよぉ~~死んだと思ったらパワーアップしてハーレム作ってましたって
どこのなろうでハーメルンなんだよぉ~~俺はっ俺もっ……天之河や
お前みたいになりたかったんだよぉ~それで世界を皆を救って、
美少女にチヤホヤされるヒーローになりたかったんだよぉ~」
「人の苦労も知らずに好き放題言ってんじゃねぇよ……」
小声で吐き捨てるハジメ、だが……あのステータスプレートを、
初めて手にした時の高揚感とその後の惨めな気分はどうしたって忘れられない、
だから今の清水も、きっとそんな気持ちなのだろう。
「世界?」
しかし、ここで思わぬ言葉が出て来た、カリオストロは清水に聞き返す。
「ああ、この世界は神々のオモチャ箱なんだよ!その証拠に……」
(見つけたぞ、三時の方角……)
(殺れ)
念話石からのカリオストロの指示に無言でスコープの中の標的へと目を凝らすシルヴァ、
そこには幾重にも迷彩を施したオールバックの男、レイスがいた。
中々の擬態だったが、しかし惜しむらくはその指先に灯る光は
遠距離からの反撃を考慮していないのがありありと分る。
「気の毒だが、私が相手だったことを不運に思うがいい」
シルヴァはそれだけを口にすると、特に何の感情も抱かぬままにトリガーを引く。
自分に何が起こったのか分からぬままレイスは眉間を撃ち抜かれ死に、
彼の忘れ形見の……清水にとっては見覚えのある光が明後日の方向に放たれ煌めく、
その光景は彼らの眼にも届き、それを清水は愕然とした風に眺めている
光の規模からみて、自分を含む何人かを纏めて殺すつもりだったのは明白だった。
「ま、勝って戻れても、すぐにこういう運命だったろうよ……
世界どころかお前は用済みになりゃ殺され、オレ様と愛子はアルヴ様とやらへの生贄かな」
「で、世界を救うはいいとしてさ、それで……どうやって帰るつもりだったの?」
「……帰らねえよ」
「は?」
ジータの指摘に即答する清水、何をいまさらと言わんばかりの態度が
彼女にはどうにも気に障って仕方がない、清水にしても
ねぇ、ボクゥ?どーして?と言わんばかりに見下ろす、
ジータの視線が気にくわないので、おあいこである。
「人間と魔人、エヒトとアルヴ、両方の陣営の隙を突いて、
このトータスに俺たちの国を作って、それから戦争を終わらせるつもりだったんだ」
「「「「「!?」」」」」」
とんでもない誇大妄想に絶句する一同、だが、戦争を止めることはともかく
建国については、あながち不可能なわけでもないことに気が付いた者もいた。
北の山脈地帯奥地を根拠地に据え、国防は魔獣たち、場合によっては竜人族に任せ、
あとは食糧etcの問題を解決出来れば……そしてそれら諸問題を解決できる存在は
すぐ傍に何人もいるのだ……しかし。
「いや……テメェ、それ嘘だろ?」
「嘘ですね」
カリオストロと愛子は見抜いていた、夢物語と分かっていて、
それでもそれが可能だと信じ込むことで
この少年は後昏い何かから目を逸らしていると。
「俺……嘘なんかじゃ」
「確かに、嘘ではないでしょう、自分の価値を認めさせたいことも
自分の国を作って世界を救って、英雄になりたいのも真実でしょう、ですが……」
静かに、そして優し気に愛子は清水へと話しかける。
「清水君はそういう分かりやすい願いを表に出すことで自分を騙しています
誰にも言えない、本当の願いを清水君自身が認めて、それを乗り越えない限り、
きっと清水君の問題は解決しません」
口調こそ優しいが、言葉の内容は厳しかった、何よりそれは正鵠を得ていた。
後ずさる清水……そこへ。
まるで予測してない場所、距離から二つ目の極光が彼らへと迫っていた。
「!!」
硬直する一同、しかしいち早く外壁から警戒に当たっていたシルヴァが、
落ち着き払って極光の核を撃ち抜き、霧散させることに成功する。
一瞬の光が晴れた後、そこに立っていたのは……。
引き攣った表情で、愛子たちの盾になろうとしていた清水の姿だった。
その行為が、勇気に拠るものではないということは、
清水の表情からして明白だった。
「幸利……おまえ」
「清水君の……願いは……」
「あ…ひゃ…」
自分でも信じられない、いや、信じたくない……そんな掠れ声をあげてへたり込む清水。
「檜山……南雲の次は俺かよ……らしいな」
実際はどうだか知らないが、レイスが死んだ今、こんなことをしでかすのは奴しかいないと、
絶望感と放心状態の中でも清水は確信していた。
「ひ……やま?檜山がいるの?」
ティオをして"一流の素質"と言わしめた鬼気がジータから放たれる。
「あ、ああ……アイツ、魔人族に寝返って仮面被って南雲ハジメって名乗って……」
その言葉を聞くか聞かぬかの間にすでにジータはバイクを駆って、
光線が放たれた方角へと走り出していた、後を追うように、ハジメ、シア、ティオと続き、
身体能力の関係で一拍遅れてユエが……。
しかし、その足が踏み出そうとして止まった、彼女の並外れた魔法能力が
この地に起こりつつある異変を察知したのだ。
「アイツ、俺たちより遅く行方眩ましたのに、もう魔人族のお偉方に出会って
装備とか貰えてた……だからさ、俺さ、気が付いたんだ」
ハジメたちにはまるで気付かず、ブツブツと話を続ける清水。
ユエとほぼ同時にカリオストロも異変を察知する。
「オイ!皆……逃げ、いやオレ様の傍に集まれ!」
カリオストロの周囲に集まる愛子たち、しかし、清水だけは、
皮肉気な笑顔を浮かべたまま、その場から動こうとはしない、
そんな彼らの頬を死を纏った風が撫でる。
そう、彼らの周囲には見渡す限りの魔獣たちの屍が放置されたままだ。
魔獣とは基本的に人々に害を為し、忌まれ討たれる存在である、
しかし、そんな魔獣にも、彼らにも心が魂がある、
魔人族と彼らに躍らされた一人の少年の野心によって、
半ば強引に戦場へ駆り出され、挙句、野に屍を晒すことになった彼らの
怒り、恨み、憎しみはいかばかりであろうか?
ウルの平野には瘴気が満ちていた……そしてその有様に歓喜の声を上げる
存在が……幽世の蛇たちがいた。
「オオオ……死ガ憎シミガ満チテユク、我ガ故郷ヨ、パンデモニウムヨ」
そしていよいよ蛇たちが悪さを始めました。