区切りが二つも重なりましたので、そのまま掲載させていただきます。
救護院の一室で清水は眼を覚ます。
ここが何処なのか?を自分はどうなったのか?を、確かめる前に、
彼は指で自分の唇をさすり、その感触を確かめる。
蛍光色の時計の文字盤が夜の十時を示していた。
確かあれは……夕方四時くらいからだったんじゃなかったか?
だとすればこれまでの一生分の六時間だった気がする。
「起きたのね」
声の方向に目を向けると、そこにはピンク髪の美女がいた、ナース服姿の。
「アンタが俺を助けてくれたのか?」
「私はほんの少し最後を手伝っただけよ、カリオストロや先生たち、そして何より
あなたの生きたいという意思があなたを救ったのよ」
清水の額に手を当てるガブリエル、その感触に夢見心地の彼の耳に、
もう身体は大丈夫みたいねと声が届く。
「男の子はムチャだと思われるくらいが、女の子にはちょうどいいの、
だけど、ちょっとムチャし過ぎね」
ガブリエルは少しバツの悪そうな顔で、清水へとステータスプレートを手渡す。
そこに記されていた数字は、スキルは……。
「ひでぇ数字だ」
数値はこの世界の一般人よりは上だが、スキルの殆どは失われており、
そして何より自分の根幹である筈の闇の力をもう己の中から殆ど感じることが、
出来なかった。
「ごめんなさいね、私とカリオストロの力でも、あなたの粉々になりかけた心を
修復するのが精一杯だったの」
「……弱く、なっちまった」
しかし不思議とそれでいいと思えている自分がいる、失ったんじゃない、
きっともう自分には必要なくなったからだと……こんな気分はいつ以来だろうか?
(ちゃんと乗り越えられたみたいね、試練を……いえ、自分を)
そんな清水の顔を見て、微笑むガブリエル、と、
そこに複数の足音が近づいてくるのが聞こえる。
「清水君」
「清水」
病室に入るなり、口々に自分の名を呼ぶ愛子たちに、清水はただ無言で
伏し目がちな仕草を一旦見せ……、それからポツリと
「みんな、ありがとう」
感謝の言葉を口にしてから驚く、これもいつ以来だろうか?
こんなに素直にありがとうを言えたのは。
「あのねっ……」
何かを矢継ぎ早に口にしようとする優花を、彼は無言で制する。
やらねばならないことがある……多分、話を聞いてしまうと決心が鈍る。
「なぁ……魔人族についた人間は死刑になるんだってな……」
震える声で、しかし覚悟の籠った響きでデビッドや市長たち、
このトータスの地に住まう人々へと、清水は静かに問いかける。
「そういえば、街を救った報酬についてまだお話させて頂いておりませんでしたね」
「女神様の仰せならば如何様にも」
ポンと手を叩き(少しわざとらしく思えたが)何かを思いついたかのような
愛子の言葉に、恭しく頭を下げる町長。
「ならば、豊穣の女神の名において、清水幸利君の恩赦をよっきっ」
(あ……噛んだ)
「要求します!」
多少噛んでしまったとはいえ、凛とした愛子の声が病室に響く、
しばしの間を置いて。
「魔人族に与せし者は理由如何を問わず死刑!しかし!豊穣の女神の慈悲ならば、
その罪免ずること致し方あるまい」
愛子へと剣を捧げるような仕草をしてから宣言するデビット。
「元より女神に仕えし我ら、この事実曲げることは出来ぬ、このようなケースは珍しいが」
「騎士級三名以上の了承があれば、行政・司法上の手続きは簡略、ないしは
後日の提出が認められることであるし、宜しいか?市長殿」
チェイス、クリスらもデビット同様、快く愛子に従う意思を示す。
「は、女神様に加え騎士様からも仰せられたとなると、何ら異存はございませぬ」
愛子らへと再び恭しく頭を下げる市長。
「良かったね!皆清水のこと許してくれるって!」
しかし、優花の言葉を聞いてなお、清水は眼に涙を浮かべながらも首を横に振る。
「いいんだ……俺が裏切りに心を引かれたのも事実、無謀な夢に突き進んで、
皆を危険な目に合わせたのも事実、どんな形であれ、そのケジメはちゃんとつけたい……
つけさせて欲しいんだ」
それが自分らしく生きるための禊……、もう一度生きなおす為の。
「世の中にはこういうめんどくさいコトをこなさなきゃ前へ進めない奴もいるってことだ
汲んでやれよ、オマエら」
カリオストロの言葉に苦笑するデビット。
「ならば、然るべき機関に出頭の上、尋問・処分を待つ形になるが……
それから身元引受人も必要となるだろうな」
「身元引受人ならば私が、我がクデタ家は少々知られた家柄です、不足はない筈」
ウィルが間髪入れずに申し入れる。
「おお、伯爵家のご令息が身元引受人となられるのならば心強い」
「フューレンの冒険者ギルド長、イルワ・チャング氏とも懇意にさせて頂いております
彼の処遇、悪いようにはしないと約束します」
「そういえば、南雲君たちはフューレンへ明朝出立するって話でしたね、清水君のこと
お願いしても構いませんね」
ここで愛子がハジメに話を振る。
「ま……まぁ、ウィルの奴を送り届けるついでだし、ここよりフューレンの方が
取り調べとか色々融通効くだろうしな」
少し驚きつつもハジメは承諾する……ここまでとんとん拍子だ、
おそらく最初からそうすることで話はついていたのだろう。
大人は大人でちゃんと考えて、動いていたのだ。
「愛とかぁ正義とかぁ友情とかぁ信頼とかぁ、そーゆー形の無いモノも、
いいもんでしょ?これからはそーゆーモノも、大事にしないとねっ、ゆっきー」
カリオストロの言葉に無言で……ただ頷く清水、その頬に涙が伝う。
今ならわかる、それは形の無いモノなんかじゃないということを。
「バツが悪ぃか?けどそれくらいは飲み込んで生きろ、皆大変だったんだ
……生きたいと願ったなら、なおの事な」
「……ああ」
自分のためにそこまでしてくれるのだ、ここまでされて片意地を張るような、
みっともない真似は出来ない。
そういえば……あの暖かい唇の感触は……清水は尋ねようとして思いとどまる
きっと聞いたって教えてはくれないだろう。
そして、目を逸らさずに正面からカリオストロの笑顔を受け止められている自分に気が付く
もう、これで……これだけでいいと彼は思った……あとは。
「なぁ、愛ちゃん……あの時、言ってたよな、話聞いてくれるって」
その言葉を待っていた、とばかりに静かに頷く愛子。
「長く……なるけど、いいかな?」
月とランプの光だけが灯る、二人きりの病室で清水は己の胸の内を愛子へと語っていく。
それを愛子はただ黙って話を聞いていた、それはいままで誰も、
家族ですら彼にしてやらなかったことだった。
……ちなみに、
魔人族に与せし者は理由如何を問わず死刑というのは、大昔の話だということを
ここに追記しておく。
こうして清水の処遇についてはひと段落したが、今度は自分たちの今後を定めねばならない。
朝もや煙るウルの正門前にて。
「すでに王都は……神山は我らにとっては敵地、いわば伏魔殿だ、
出来れば帰還はギリギリまで引き伸ばしたいが……」
渋面のデビットにチェイスが提案する。
「では、一先ずは予定通り辺境の開拓地を巡察しつつ、アンカジを目指しましょう
あの国は近年砂漠化と水不足に悩んでおります、ゆえに我々が訪問する名目は立ちます」
「そういえば確か領主一族は聖光教会の敬虔な信者と聞く、悪い扱いは……
少なくとも門前払いはせぬ筈……今となっては利用する様で心苦しいが」
(アンカジならクリューエン大迷宮が近くにあったな……
その先のメルジーネも回ることが出来れば)
「じゃあ、俺たちもそこで合流しよう」
合流後、いよいよ王都に、神山に乗り込むことになるのだろう、
大迷宮の一つが神山にあるということもすでに掴んでいる。
「やっぱり……一緒には行ってくれないのか?」
昇が心細げに呟く、明人も同じような顔でハジメたちを見つめている。
二人は目玉との戦いで、殆ど何も出来なかったことを気に病むと同時に
実力不足を痛感しているのだろう。
「……生きるか死ぬかの戦いなんだ、こちらが先に脱出の方法を見つけるか
それとも先に神が魔手を伸ばすかの、だからすまない」
言葉こそ選んではいるが、ハジメは、はっきりと拒絶する。
檜山が魔人族側にすんなりと寝返ったことを考えると、すでに神は動き出している。
焦りは禁物だが、猶予は少ないと考えるべきだろう。
「けど……また、あんなのがよ」
淳史も不安さを隠せないように、二人に同意する。
一方そんな男子トリオとは対照的に、優花たち女子は皆、肝が据わったような表情だ。
そういう意味でも彼らは居心地が悪いのかもしれない。
「ならば、私がそちらに加わろう」
「え?」
シルヴァの意外?な申し出に目を丸くしてジータは聞き返す。
「君たちは私が居なくても十分に強い、さらに加えてティオも加わった
戦力の薄い方をカバーするのは当然のことだ」
ジータに説明しつつも、シルヴァは愛子の手を取り自ら同行を申し出る。
「先生、私で良ければ皆の力になりたい」
「は……はい」
銀髪の美女の申し出に頬を染め、ただ首を縦に振る愛子、
涼やかなるこの美貌に、誰が抗しえるというのか。
これには男子トリオのみならず優花たちも歓声を上げ、歓迎の意思を示す。
「これは心強い」
デビッドたちも諸手を上げて賛成する。
彼女が一介の戦士のみならず、指揮官としても頼れる女傑であることは、
昨日の戦闘で確認済みだ。
「というわけでシルヴァがこっちに来るってことは、だ」
キュッと三日月の如き笑顔を浮かべるカリオストロ、こういう笑顔の時の
彼女はまったくもって油断できない、思わず身構える愛子たち。
「愛子の護衛は一人でお釣りが来る!だからこれからはオレ様直々に
ビシビシお前らを鍛えてやるからな!」
「ふむ、悪くないな、聞けば犬如きに君たちは金縛りにあったそうではないか
この際徹底的にカリオストロに鍛えなおして貰え」
ビシビシ鍛えるの一言に凍り付く優花たち、普段の言動からしてムチャクチャなのだ、
どんな非人道な特訓を課せられるかは想像に難くない。
「お前ら良かったな、強くして貰えるぞ」
「うるせー、てめぇこそ早くお勤め済ますんだぞ」
清水の軽口に少々際どい言葉で言い返す淳史。
その言葉を聞いた清水は、"そろそろ"とハジメを促すようにポンとその腕を軽く叩く。
「じゃあ、先生……行ってくるよ」
「待ってます、清水君が私たちの元に戻れる日を」
「ありがとう、先生、みんな」
「南雲君たちも身体に気を付けて、無理はしないでくださいね」
彼らが無理を重ね、無法を貫かねば辿り着けぬ領域に
向かわねばならぬと知っていても、それでも人として言わねばならない。
「ま、善処するよ、じゃアンカジで会おう」
それだけを口にし、ハジメは運転席に乗り込もうとした時だった、
「待って!」
妙子がハジメたちを呼び止める、少し意外そうな顔のジータ。
彼女とは仲が悪いわけではないが、教室では接点は殆ど無かった。
「ホルアドに行って皆に会うっていったでしょ、だったら……
もし白崎さんが付いていくことを望んだら、一緒に連れていってあげて欲しいの」
彼女の話を聞くに、鬼気迫る……まさにそんな言葉でしか表現できない程の修練を、
香織は己に課し、ひたすらにハジメの姿を求め続けており、
そしてその回復魔法の冴えたるや、彼女の指導にあたっていた治癒術師らいわく、
もはや言外の域へと到達しているのだそうだ。
「それに、そんな白崎さんを見てる天之河君……とても怖い顔をしている時があるの
二人とも……とても見て居られなくって……」
(雫ちゃん……ごめんね)
妙子の話を聞きながら、そんな二人の板挟みになっているであろう、親友の身を案じるジータ。
ともかく、そういう事態になっているのならば、少し考えなければならないだろう。
このままでは雫のストレスがマッハである。
「分かった、出来る限りのことはするから、菅原さんは心配しないで」
悲し気に呟く妙子の肩に元気づける様に手をやると、改めてハジメの後に続き、
ジータたちも愛子に一礼し、続々と車に乗り込んでいく。
やや名残を惜しむような響きのエンジン音と共に、こうして彼らはウルの街から旅立つ。
その車体が見えなくなるまで、愛子たちは手を振り続けた。
車に揺られながらジータは香織のことを考える、成り行き上こうなったとはいえど、
元々自分は彼女とハジメの恋を応援する立場だったのだ。
だから、香織を仲間に加えることに関しては何ら異存はない、
しかしそれでも、一応は断る口実は考えて置くべきかもしれない……なにより。
ジータの目に映るは、ずらりと車のシートに並んだ、美女・美少女の姿、
……この件についても釈明する必要がありそうだと、今後を思い、
ジータは溜息をつくのであった。
車内の中でも清水はポツリポツリながらも、途切れるなく
色々な事をハジメたちに語って聞かせた。
「俺……お前が嫌いだった……俺の欲しかった物をお前は全部持っていたから……」
「きっと皆も……檜山とかも、同じような気持ちだったんだと……思う」
「……」
誰も何も答えない、清水も答えを求めない。
ただ話し、だた聞く、それで充分だった。
ウルからフューレンまではそれなりの距離がある、いかに車で荒野を爆走しても
車中泊は避けられない。
ひとまず夕食にしようと、車から降り夕日を浴びながら伸びをするハジメ一行、
そこでジータが何かに気が付いたようなそぶりを見せる。
「なんか……車のトランクから、寝息みたいな音するんだけど?」
「猫バンバンしとくか?一応」
特に考えることなく無造作にバンバンとトランクを叩くハジメ、すると。
「ふぎゃっ!」
猫のような叫び声と共にトランクが開け放たれ、ハジメは勢いよく跳ね上がったトランクの扉に、
もろに顔面を強打してしまう。
「うぷ……」
「ちょ……何?ここ!……てか、なんてことすんのよ!」
「テメェいい度胸してんな、聞きてぇのはこっちだ」
涙目で鼻頭を抑えながらも即座にドンナーを構えるハジメ。
「ちょ……止めなさい、こんな女の子に」
女の子?ジータにそう言われて、改めて視線をトランクに移すと、
そこには鎧を着けた、紫がかった銀髪の少女がちょこんと座っていた。
「で、ここどこよ?」
「そっちこそ誰だ!」
「あ?アンタ質問を質問で返すの?朝は街の中だったのに、どーしてこんな草っぱらの
ど真ん中にいんのよ」
「え?朝からこの中で寝てたの?」
少女の言葉に驚くジータ、十時間以上ほぼノンストップで走り、
かつ、その間当然だがトランクは一切触っていない。
普通なら酸欠でえらいことになっている筈だ、ということは……
……魔物か、いや、ジータは檜山との一戦の最中、攻撃を加えて来た影を思い出す。
あるいは神の手の者か、しかし。
「いや、その子は魔物とかじゃない、なんていうか特定の波長が無いんだ……強いて言うなら
ガブリエルさんと良く似ているというか」
ジータは清水の声に一旦考えるのを止める、ここは専門家の言うことを信じよう。
ともかくガブリエルに似ているというのならば―――ハジメとジータは、
宙に手を翳し、ガブリエルを呼び出す。
すげぇ……本当に召喚とか出来るようになったんだ、という清水の嘆息が聞こえる。
「で、この子誰なんですか?ガブリエル様?」
ガブリエルは呆れ顔を浮かべながら、うねうねと髪を蛇のように動かす少女について説明する。
「この子はメドゥーサ、全天を荒らしまわったかの悪名高きゴルゴーン三姉妹の末妹よ」
「全天に勇名を馳せた!の間違いでしょ!天司だからってデカイ顔しないでよね!ガブリエル」
「うっそだーメドゥーサって」
「うん、違うよね」
ガブリエルの言葉に同時に抗議の言葉を口にする清水とジータ、
彼らの頭の中には鎖短剣を手に天馬に跨る眼帯姿の美女の姿があったに違いない。
まぁそれは置いといて……。
「でも、私たち最近ガチャ引いてないんですよ」
「勝手にやって来たのね」
「へ?」
ガブリエルの嘆息に一瞬固まるジータ、そんなことが許されていいのだろうか?
「なんか、面白そうな感じがしたから……カリオストロたちの後をついていったのよ」
「で、どうしてこんな狭いトコにいたですかぁ?」
コンコンとトランクを指で叩くシア。
「そしたらカリオストロだけじゃなくってシルヴァまでいて……
お説教されるのイヤだったから、その……」
「それで車のトランクに隠れたら、いつの間にか出発してってことか」
頭を抱えるハジメ。
「たく……人間だったらヘタすりゃ死ぬトコだったんだぞ」
「どう、恐れ入った?」
エヘン!と薄い胸を張るメドゥーサ、話の流れをイマイチ理解していない。
「ごめんなさいね……暫くこの子のこと、お願い出来るかしら?」
「ガブリエル様が謝ることじゃないですよ」
納得したような口ぶりのジータだが、ガブリエルの顔色や口調からして、
相当扱いにくい子なのだろう……今後を思うと少し眩暈がして来た。
「ホントはいい子なのよ」
「……ああ」
そう人から言われる子が、実際いい子であった試しはあまり聞かない。
「で、メドゥーサってことはさ、見た物を石に変えるとかやっぱ出来るのか?」
おずおずと、それでいて興味を隠し切れない、そんな口ぶりで清水はメドゥーサに話しかける。
「もっちろん!よその世界でも私の名前が知られてるなんて光栄だわ、ご覧なさい」
『イービル・アイ』
メドゥーサの瞳が紫に輝くと、その瞬間頭上を飛んでいた鳥がカチンと固まり
そのまま地面へと落下する。
おお……と、ハジメたちが声を上げるのを尻目に、彼女は手にしたハンマーで、
軽く鳥の身体を叩いてやる、すると砕けた石の中から何事も無かったかのように
鳥は羽ばたき、一声啼いて飛び去って行くのであった。
「……表面だけ石に」
「なんと器用な」
驚くユエとティオへとまた自慢げにメドゥーサは薄い胸を張る。
「へっへーん、どうよ、ま、どうしてもって言うなら力を貸してあげる」
「……」
「か、勘違いしないでよね!……別にやって来たはいいけど、ホントは心細かったからとか
そうゆうんじゃないんだからね!
(ツンデレだ…)
(ツンデレだね)
メドゥーサのあまりにもスタンダードなツンデレっぷりに、
何か歴史的な発見をしたかのような目を向けるハジメとジータ、ともかく
彼女をどうするかについて、額を寄せて話し合う。
「で、どうする?」
「これ、野放しにすると絶対マズいタイプだよ」
「だよなぁ……けど」
「え、何々?誇り高き星晶獣たるこのアタシが仲間になるのがそんなに嬉しいの?」
フリフリと腰を、尻尾を振りながら、そのくせチラチラと様子を伺う仕草を見せるメドゥーサ。
二人としては、その媚びた姿が少しカチンと来るのだが……。
ここまで、そしてこれからも世話になるであろうガブリエルの、
心から申し訳なさそうな顔を見てしまうと、無下にも出来ない。
「勝手に悪さをしたら追い出すからな」
ハジメはそれだけを口にして、シートに座るようメドゥーサを促す。
「ま、まぁ当然の結果よね!別に置いて行かれるかもなんて考えてなかったんだからねっ!」
実際はかなり心細かったのだろう、もう降りないからねといわんばかりに、
彼女は車内に飛び込み、シートにしがみつく。
「ああ、あとメドゥーサって呼びにくいから、お前今からメド子な」
「はぁ!ゴルゴーン三姉妹の三女たるこの誇り高きアタシの名をそんな風に
省略するなんて!ちょっと言ってあげてよ、ガブリエル」
分かってない、そんな表情でメド子……もといメドゥーサはガブリエルに訴えるのだが。
「じゃあ、ハジメくんたちの言うことをちゃんと聞いていい子にしてるのよ、メド子ちゃん」
「ちょっと……」
なおも言い募ろうとするメドゥーサ、しかし。
「い・い・こ・に・し・て・る・の・よ・メ・ド・子・ちゃん」
「……わかったわよ」
これ以上世話を焼かせるなと言わんばかりのガブリエルの態度にしゅんと頭を下げる、
勝負ありのようだ、そしてガブリエルを見送ると、
ようやく遅めの夕食の準備を整え出すハジメたち。
「アンタ今日からアタシの妹にしてあげる!光栄に思うのね」
「……却下」
馴れ馴れしくもいきなりユエへと宣言するメドゥーサ、
しかし威勢のいい口調の割りに身体はおずおずと距離を取ろうとしている。
(人見知りなんだ……)
「じゃあ、特別にアタシがアンタのお姉ちゃんになったげる」
「……それも却下、それよりメド子も手伝って」
お姉ちゃん呼びこそ拒否したが、一定の礼儀をもって接するユエ、
魔力の質から彼女の方が年上なのを察したようだ、
しかしユエは思わざるをえない、カリオストロといいこの子といい一体全体
空の世界とやらはどうなっているのだ?と。
「で、メド子、お前何食べるんだ?ヘビだからカエルが主食か?」
「メド子じゃないわっ!それ以前にヘビじゃないわよっ!アタシはねぇ~誇り高き……」
と、道中色々ありつつも彼らはフューレンへと辿り着く。
その頃には清水とハジメたちもすっかり打ち解けており、色々アニメやゲームの
雑談も楽しむ関係になっていた、入場検査の待ち時間も楽し、というところだ。
もっともイルワからの連絡が行き届いており、チャラ男のとのトラブルを除けば
今回はすんなりと街に入ることが出来た。
「ウィル! 無事かい!? 怪我はないかい!?」
「イルワさん……すみません、私が無理を言ったせいで、色々迷惑を……」
ギルドの応接室にて、ウィルの手を取るイルワ、余程心配だったのだろう、
冷静さをかなぐり捨てた、震える声がその証拠だ。
「……何を言うんだ……私の方こそ、危険な依頼を紹介してしまった……本当によく無事で
……ウィルに何かあったらグレイルやサリアに合わせる顔がなくなるところだよ……
二人も随分心配していた、早く顔を見せて安心させてあげるといい、
君の無事は既に連絡してある。数日前からフューレンに来ているんだ」
「父上とママが……わかりました、すぐに会いに行きます……ですが」
彼にはまだやらねばならないことがある、身元引受人として。
「君が件の……清水幸利くんだね」
「……はい」
イルワの問いに、やや言葉こそ震えてはいたがそれでもはっきりと目を見て答える清水。
「君の取り調べは、ここ冒険者ギルドの庇護の元で行うこととなっている、
まずはその間、君に滞在してもらう部屋に案内させて貰おう」
チリンと手元の鈴を鳴らすと、秘書長のドットが姿を現す。
ウィルは書類にサインをし、愛子やデビットらが事前に作成した供述書や、
ウルの人々らからの減刑嘆願書をドットへと手渡す。
これで、一応の引継ぎは終わり、
ひとまずこの場での身元引受人としての役目は終わったのだが、
それでも責任感の為せる業か、清水と共に部屋へと向かおうとする、しかし。
「……ここからは一人で行く」
清水の言葉に、ほう、とイルワが感心めいた息を漏らす。
「重い罪にはならないって皆言ってる、心配しないで」
震える清水の肩に手をやり、耳打ちするジータ。
してねぇよ心配なんて、と言い返して清水は微笑み、ドットの後に続く。
そして応接室から廊下へと一歩を踏み出そうとしたところで、彼は立ち止まり振り返ると
未練を断ち切るように、自分が叶えられなかった野望のバトンを託すかのように叫んだ。
「俺の代わりに見せてやれよ、天之河たちに強くなったとこを……そして!」
「なっちまえ!"ありふれた職業で世界最強"に!」
というわけで、ウル編はこれで終了です。
拙いながらも、何とか清水君を書ききれたとは思います。
闇術の力まで奪うのはどうかな、と思ったりもしましたが、
過去を清算するという意味合いでも、一度リセットするのがやっぱり妥当かなと考えた上で
そうさせて頂きました。
恩赦については、愛子を始めとする大人たちにも頑張って欲しかったということで、
それに原作でも報酬貰った形跡ないですしね
メドゥーサについては、原作ハーレムにいなかった正統派のツンデレキャラということで
今回メンバー入りと相成りました。
能力も、成功率はアレですが色々と出来る子なので、その分ジータにしてもらう
コスプレ、いやいやジョブの幅も増えるのではないかなと
ともかく清水君はこれで救われることが出来たでしょうか?
ご意見、ご感想お待ちしております。
PS この世界の天職というのは、その人間の生い立ちや望みに関連してるようなので、
だからもしも清水や恵里が幸せな環境で育っていれば、
恐らく闇術師や降霊術師にはならなかったのではないかなと、あくまでも私見ではありますが。