サッちゃん、プレイアブル化だとう
「ハジメ君、ジータ君、今回は本当にありがとう、まさか、本当にウィルを生きて
連れ戻してくれるとは、思わなかった、感謝してもしきれないよ」
ウィルと清水が部屋から去った後、イルワは深々とハジメたちに頭を下げる
「まぁ、生き残っていたのはウィルの運が良かったからだろ」
あくまでも素っ気ないハジメだったが……。
「ふふ、そうかな? 確かに、それもあるだろうが……
何万もの魔物の群れから守りきってくれたのは事実だろう? 女神の剣様?」
イルワの言葉には眼を剥かずにはいられない―――女神の剣。
愛子のフォローで急遽行った、ウルでのアジ演説で使った言葉だ……しかし何故?
「舐めてもらっちゃ困るよ、ギルドの幹部たる者、情報収集に手抜かりがあってはならないからね」
詳しく聞くと、諜報員を付けた上で、長距離連絡用のアーティファクトで、
定期連絡を受けていたらしい。
「君たちの力なら何とかしてくれるとは思っていたが、まさか……
数万の大群を壊滅させてしまうとはね、道理でキャサリン先生の目に留まるわけだ
ということで」
イルワは姿勢を正すと、改まった口調でハジメらに言葉をかける。
「こちらから約束させてほしい、可能な限り君たちの後ろ盾になることを
あれだけの力を見せて、ウルの街を救ってくれたこと、そして何より君たちは
私の恩人なのだから、とりあえず君たちの冒険者ランクを全員"金"にさせて貰うよ
それから~」
こうして現在、彼らはギルド直営の宿のVIPルームでくつろいでいた。
フューレンに滞在する際は自由に使っていいらしい。
「大盤振る舞いじゃないか」
ポンポンとフカフカのベッドの上で飛び跳ね、その感触を楽しむハジメ。
「それだけ私たちの力を買ってくれたんだよ」
ベッドに腰かけ、パタパタと足を動かしながらハジメに応じるジータ。
もちろん、力だけで、この待遇を得たわけではないことを彼らは承知している。
……単に力だけで得たものは、それ以上の力によって容易く覆されることを、
彼らは清水の一件で痛感していた。
「こんだけ厚遇されると、もうちょっと何かしたくなるよな」
「懐柔は徹底的に……かな、けどイルワさんに一番効いたのは、多分ね」
シルヴァが別行動を取っているということを聞かされた、イルワの落胆した顔を思い出し、
惜しいことをしたかなと、ジータは口元を綻ばせる。
ちなみにイルワ・チャング、独身であった。
それにしてもこのVIPルーム、実に広い。
お風呂は備え付けだし、何といってもフカフカのベッドが六つもある。
そう、六つも……つまり。
「しかし……どうして六人部屋なんだっ!」
叫ぶハジメの後頭部にメドゥーサの投げた枕が命中し、
「修学旅行じゃないんだぞ」
と、振り向いたハジメの顔面にさらにティオの投げた枕がめり込む。
「オラぁ!いい度胸だ!」
ハジメは傍らの枕を鷲掴むと、勢いのままにティオめがけて枕を投げつけるのだが、
しかしその手元が狂い、我関せずとジュースを飲んでいたユエの顔面に命中する。
「……宣戦布告と判断、当方に迎撃の用意あり」
飛び散ったジュースで顔を白く汚したまま(あくまでもジュースです)覚悟完了したユエは、
電光石化の早業でハジメへと狙いを定め枕を投げ放つが。
「も~皆子供じゃないんだからさ、っ!」
当たってなるかと首を竦めたハジメの頭上を通過した枕は、そのまま背後にいたジータの
やはり顔面へとスマッシュヒットする。
「やったねユエちゃん」
不意討ちに憤るジータへと、ユエはカモンと挑発するような仕草を見せる。
「油断禁物よ!」
さらにそこへメドゥーサの投げた枕が横っ面にヒットする。
ジータは無言でベッドの掛け布団をくるくると束ねて小脇に抱えると、
ぶおんとそのままユエとメドゥーサ、いや、特に誰とは狙いは定めずに
無差別に振り回していく。
「ちょ……それ反則」
「これが新しいスポーツ!マット・フェンシングっていうのよ!」
逃げ回る二人をブンブンと布団を振り回しながら追いかけるジータ。
「お前ら俺を無視すんじゃねぇ!」
空中から速射砲のように枕やクッションをやはり無差別に投げまくるハジメ。
「狙うなら妾じゃろ、はよ枕を」
ルールを理解しているのかいないのか、自ら枕やマットの一撃を求めるティオ。
こうして枕投げは大乱戦と化していった。
ちょうど真ん中のベッドでカーカーと眠るシアを除いて……。
そしてその頃、執務室でイルワは書類の決済を淡々と続けていた、当然その中には
ウルの街からの物もある。
「子供たちにあまりハメを外させないように……特に異性交遊に関しては考慮致したく、か」
各種書類に混じった愛子とシルヴァからの書付を苦笑しながら眺めるイルワだった。
そして翌朝。
「甚だ不本意だけどお前だけだよ……今の俺に安らぎを与えてくれるのは」
軽やかにステップを踏みながら歩くシアの後姿を苦笑しながら眺めるハジメ。
今のシアの服装はシンプルな白いワンピースだ、やや胸元が開き気味ではあるが。
ともかく、今こそハジメにアピールせんと、弾けるような笑顔で
くるりと進んでは振り返りハジメが追いつくのを待つシア、そんな彼女の仕草に目を細めるハジメ
決して、ふるふると揺れる胸や、その谷間に心奪われただけではない。
「ホントにどこでも連れてってくれるんですかぁ~」
「ああ、どこにでも連れてってやるぞ」
ハジメの眼には隈が出来ている、いや、ハジメだけではなく、ジータもユエもティオもメドゥーサも
今朝は妙に疲れたような顔をしていた、若干荒れた室内と何か関係があったのだろうか?
と、少し考え込むシア、まさか一晩中互いの秘術を駆使した"枕投げ"をしていたなどとは、
露にも思わない。
で、そんなシアの目の前には分かれ道がある、左に行けば観光区、
右に進めば……ホテル街がある、ただし宿泊よりもいわゆる休憩メインの。
フラフラと右の方へと……誘われるように自然と足が向くシアだったが、
ハジメの咳払いに我を取り戻す。
(やっぱり抜け駆けはいけませんですねぇ)
「じゃ…じゃあハジメさん、ハジメさん! まずはメアシュタットに行きましょう!
私、一度も生きている海の生き物って見たことないんです!」
「メアシュタット……水族館か?いいぞ」
一方のジータたちは、買い出しという名目で商業区をブラブラと散策していた。
……やはりハジメ同様、重い足取りで。
あくびを堪えながらジータは先刻訪ねた冒険者ギルドでの件を思い起こしていた。
現在清水は、冒険者ギルド内に一室を与えられ、そこで様々な取り調べを受けているそうだ。
魔人族に与したことこそ事実であったが、ウルの街で起きていたであろう惨事を、
避けられたのは彼の一助もあったことも事実であり、また彼の証言によって、
魔人族陣営について、いくつかの貴重な情報を得たこともあり、
その罪はほぼ相殺されたと言ってよく、おそらく刑を課せられるとしても、
ごく短期かつ軽度の労務刑程度になるだろうというのが、専らの見方だ。
そして、檜山については人間族の裏切り者として全国指名手配となることが確実視されている。
もはやこのトータスにおける人間族の生存圏に彼の帰る場所はなく、
さらに非公式ではあるが、その首には高額な賞金が掛けられることになるらしい。
仲間殺しを画策し、王都から脱走した神の使徒が、さらによりにもよって魔人族に与した。
この事実は教会にとって拭い難き汚点となり、以後、教会は
冒険者ギルドに対して多大な譲歩を強いられることとなるだろう。
「彼のお陰で教会に大きな貸しを作ることが出来そうだよ」
そうホクホク顔で語るイルワの顔も思い出すジータ、恐らく世の常だが
相当な圧力を普段から掛けられていたのは想像に難くない。
「……あそこで休もう」
ユエに促され、日差しを避ける様にカフェに入ると、昨夜のことを思い出す一同。
「なんであんなコトしたんだろうーね」
「……分からぬわ」
「とりあえず、今夜からは……カードゲームか何かで決めよう」
「……んっ」
どの顔もどうしてあんなバカなことをという後悔に満ちていた。
そう、単なるノリで始まった枕投げ?は、いつの間にか暗黙の了解で誰がハジメの隣で寝るか、
という女と女の意地を賭けた退くに退けない勝負へと変化していた。
「それで結局あのウサギ女にいいトコ取られてちゃ世話ないわよね」
「まんまと漁夫の利を持ってかれたね」
メドゥーサの皮肉に苦笑するしかないジータ。
俺は今日は一日シアと過ごす!と、言い放った寝不足と苛立ちに満ちたハジメの顔と
何が何だかながら、勝ち誇った表情のシアの顔を思い出し、してやられたなと
改めて思ってしまう。
「で、何?アンタたちハジメと交尾したいの?」
「こっ……」
露骨かつ核心を突いたメドゥーサの一言に、ジータは一瞬息を詰まらせてしまう。
「人間って子孫を増やす以外でなんでそんなに交尾やりたがるのかわかんないのよねー」
唐揚げを頬張りながら、何やら深いことを口にするメドゥーサ、今の彼女の服装は、
魔法少女を思わせる、フリフリヒラヒラのドレス姿だ。
これは本来クリスタベルがユエの為に仕立てた物だが、甘すぎるという理由で
お蔵入りにしていたものだ。
「別に遠慮せずにヤればいいのに」
「……あんな相互監視の環境で出来るわけないよ」
「妾も見られながら……という趣味はないのう」
「ふーん、人間って面倒くさいのね」
メドゥーサの幼い容姿でこういう深いことを言われてしまうと何やら変な気分がする、
幼い姿で、長き時を生きていることは同じでも、
幾多の修羅場をくぐって来てるカリオストロや、隠し切れない大人の妖艶さを
垣間見せるユエとは違い、彼女の言葉は良くも悪くも純粋だからなのだろう、
いや深く思えるのはきっと自分たちの心がやましいからなのかもしれない。
ちなみに彼女がうまうまと頬張るその唐揚げの材料は、
近くの沼地で取れる巨大カエルだということは、内緒にしておいた方がいいだろう。
「……やっぱり主食カエル」
「しっ!」
ジータがユエを笑いながらも窘めた時だった。
ドガシャン!!
「ぐへっ!!」
「ぷぎゃあ!!」
彼女らが現在軽食を摂っているカフェの向かいの建物から凄絶な破壊音が響いたかと思えば
その壁が砕け、そこから二人の男が顔面で地面を削りながら悲鳴を上げて転がり出てきた、
さらに窓から数人の男が悲鳴を上げながら外へとふっ飛ばされ、
盛大にその身体を地面にバウンドさせる。
そして十数人の男がズタボロの姿で路上に晒し物になった頃、ついに建物自体も
轟音と共に崩壊した。
野次馬が悲鳴を上げながら蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う中にあって、
ジータたちはその轟音の中に聞きなれた声と気配を確かに察知していた。
「ああ、やっぱり皆の気配だったか……」
「あれ、ジータさんにユエさんにティオさんにメド子さん、妙な所で会いますね」
「それはこっちのセリフだよ!」
「んっ……デートにしては過激すぎ」
「全くじゃのぉ~、で? ご主人様よ、今度はどんなトラブルに巻き込まれたのじゃ?」
「ま、成り行きってやつだな」
ハジメはそこまで言って一旦言葉を止めると、喉が乾いているのか、
ジータの飲みかけのジュースを一息でくびりと飲み干す。
「成り行きで破壊活動?なんでよ」
「あはは、私もこんなデートは想定していなかったんですが……成り行きで……
ちょっと人身売買している組織の関連施設を潰し回っていまして……」
「……成り行きで裏の組織と喧嘩?」
「まぁ、ちょうど人手が足りなかったところだ、説明すっから手伝ってくれないか?」
呆れ顔のジータとユエに、無理もないよなという視線を向け、
ハジメは事の次第を彼女らに向け、改めて説明を始めた。
「あれは、水族館を出て昼食を食べた後だったな……」
ハジメとシアの二人は腕を組んで、大道芸を横目に見ながら通りを散策していた。
「リーマンさん、どうします?」
「なんとか逃がしてやりたいけどな」
そんな二人の話題は水族館で出会った念話を使う不思議な魚……いや魚型の魔物のことだ
なんでもその魔物―――リーマンというらしいは、地下水脈を泳いでいたら、
いきなり地上に吹き飛ばされ。草むらで助けを求めたら水族館に連れて来られて、
現在に至るということらしい。
ちなみに捕まってからの日数も把握しており、
その日は自分たちがライセン大迷宮でひと暴れした日だったりする、そういえば
君たちのせいで地下水脈が云々とかミレディがボヤいてたような……。
「こればかりは強引に奪い取るわけにもいかないしな、引き取りに幾らかかんだろ?」
魔物とはいえど友好的、かつ明確な意思疎通に加え人語まで解する、そんな存在を、
いわば見世物にすることに対して、ハジメは多少なりとも抵抗を感じていた。
これもまた地球での倫理観がまだ自分の中で残っている証だろうか?
と、大いに責任を感じつつも、頭を悩ませるハジメ……そんな刹那。
「?」
訝し気な表情を見せると、彼は何かを確認するかのように足元を見下ろす。
「どうかしましたか、ハジメさん?」
「んー? いやな、気配感知で人の気配を感知したんだが……」
「気配探知、いつも使ってたんですか?」
「いや、いつもじゃないんだが、メド子の件があったからな」
「……ああ、でも人なんて」
ここには一杯いるじゃないですかと言いかけたシア、
しかし足元をじっと見つめるハジメの様子に気配の主が何処にいるのかをすぐに察する。
「下水道ですか? えっと、なら管理施設の職員とか?」
「だったら、気にしないんだがな。何か、気配がやたらと小さい上に弱い……
多分、これ子供だぞ? しかも、弱っているな」
「ッ!? た、大変じゃないですか!!」
シアの言葉を聞くまでもなく、ハジメは気配を追うように地上から先回りすると
そのまま錬成で道路に穴を開けてそのまま下水道へと飛び込むと、
そのまま義手を伸ばして子供を掴み引き上げた。
「で、よくよく見ると海人族の子供だったんだよ」
「海人族?もっと西の方の海で暮らしてる種族じゃぞ」
ハジメの説明を聞きながら不審げな表情のティオへ、ハジメはさらに説明を続ける。
「ああ、その子の名前はミュウって言ってな、海で迷子になったところを人間に捕まって
牢の中に入れられていたそうだ、そこにはな……他の子どもたちも大勢いて」
「ちょ!人身売買じゃないの!」
ハジメの説明を遮るように大声を出すジータ。
「話の途中だ……で、自分が売りに出される番が来た日、隙を見て下水に飛び込んで、
力尽きそうになっていた所を」
「ハジメさんが助けたというわけです」
「で、肝心のそのミュウって子はどこにいんのよ?」
「……それなんだけどな」
苦渋の表情でさらに説明を続けるハジメ、シアと話し合った結果
海人族は王国で保護されていることもあり、また不用意に連れて歩けば自分たちに
誘拐の疑いかかかる危険もあったことからひとまず保安署に預けたのだが……。
『お兄ちゃんとお姉ちゃんがいいの! お兄ちゃん達といるの!』
涙を浮かべ、悲し気に自分たちを呼ぶミュウの声を思い出し、また表情を曇らせるハジメ。
「じゃあ、それで話はオシマイでしょ?」
「だから黙って聞けよメド子、いいかそしたらすぐに保安署が爆破されてな」
ハジメはジータたちに一枚の紙を見せる。
"海人族の子を死なせたくなければ、白髪の兎人族を連れて○○に来い"
「で、だ。指定された場所に行ってみれば、そこには武装したチンピラがうじゃうじゃいて、
ミュウ自身はいなかったんだよ、多分、最初から俺を殺してシアだけ頂く気だったんだろうな
取り敢えず全員ブチのめした後、ミュウがどこか聞いてみたんだが……
知らないらしくてな、拷問して他のアジトを聞き出して……それを繰り返しているところだ」
「どうも、私だけじゃなくて、ジータさんたちにも誘拐計画があったみたいですよ
それで、いっそのこと見せしめに今回関わった組織と、その関連組織の全てを、
潰してしまおうということになりまして……」
「普通にデートに行ってどうしてそうなるのよ」
頭を抱えるジータ、トラブル体質極まれりだ、
しかしそれもハジメがミュウを見捨てなかったからこその結果である、
その事を思えば、ここはやはり仕方ないなと飲み込むしかない。
「……それで、ミュウっていう子を探せばいいの?」
「ああ、聞き出したところによると、結構大きな組織みたいでな……関連施設の数も半端ないんだ
イルワの許可も取り付けている、手伝ってくれるか?」
ハジメの言葉にジータを始めとする彼女らが躊躇うことなく頷いたのは言うまでもない。
次回は街のドブさらい