ありふれた錬成師と空の少女で世界最強【完結】   作:傘ンドラ

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フューレン後半戦です。さくっと


街はきれいに

 

淀んだ雰囲気を漂わせる商業区の外れの一角にある七階建ての大きな建物、

表向きは人材派遣を商いとしているが、裏では人身売買の総元締をしている、

そうここが裏組織"フリートホーフ"の本拠地である。

 

で、いつもは堅気の商売を擬態し、ただ静かに不気味に佇むだけの建物に過ぎないのだが、

今は普段と打って変わった騒然とした雰囲気を醸し出している。

 

その最上階、今や荒れ果てた、かつてはそれなりに豪華であったろう室内にて

構成員総崩れの恥を晒し、床に這いつくばり許しを乞いているのは、

フリートホーフの頭、ハンセンである。

 

「オークション会場の場所は、うん、言った通り……早く助けてあげて」

 

ジータは念話でハジメたちに連絡を取ると、自らの足元で

車に轢かれたカエルのような姿のハンセンに改めて目を向ける。

 

「たのむ、助けてくれぇ! 金なら好きに持っていっていい! 

もう、お前らに関わったりもしない! だからッゲフ!?」

「ああ、それから……さっき言ってましたよね?連れてきたヤツには報酬に

ええと、五百万ルタを即金で出してやる!一人につきって」

 

ハンセンの首を踏みつけるジータ、ギシギシと頸骨が軋む音がする。

 

「こうして自分でやってきてあげたんだから、当然報酬は私たちのものですよね?

……私と、いま外にいるシアちゃんとティオさんで三人いるので、合計で千五百万ルタ、

お支払いお願いします」

「だからっ、も……もってけ、その代わり助けてくれぇっ!」

「それじゃ私たち強盗じゃないですか?あくまでも自発的にお支払いお願いしたいんです、

領収書もちゃんと切りますから」

「わ……わかった、金庫を開けるから待っててくれ」

 

その言葉を聞いて足をどけてやるジータ、すかさずピョンピョンと跳ねる様に

壁に据え付けられた金庫の向かうハンセンの姿は、まさにカエルそのものだった。

ともかく彼はほうほうの体で金庫に辿り着き、震える腕でダイヤルを回し始める。

番号なにかなーとジータが後ろからその様子を伺おうとした時だった。

 

油断したな喰らえっ!と、ばかりにハンセンの右腕が閃き、スーツの下に隠し持っていた

グルカナイフを思わせる、独特の形状のナイフがぶおんとジータの顔面へと投げ放たれる。

 

狙いも威力も申し分なし、それなりの腕はあるのだろう、が……。

唸りを上げて向かってきたナイフの一撃はジータの人差し指と中指、

僅か二本の指によって挟み込むように軽々とキャッチされ、

そのまま投げ主、すなわちハンセンへと寸分たがわぬ軌道で投げ返される。

 

え、どしてそんなことできんの?凄い、と、何故か感心してるような表情を浮かべたまま

己のナイフに顔面を断ち割られ、絶命するハンセン。

どうせなら金庫開けてから攻撃して欲しかったなと、溜息をつくジータだった。

 

 

「ここか」

 

ユエとメドゥーサを従え、オークション会場である美術館へと到着したハジメ。

会場の入り口には見るからに屈強な黒服を身に着けた二人の男が

招待客らしき見るからに身なりの良さそうな老人のボディチェックを行っている。

 

その様子を見てふとハジメは思う、

どうしてこういうトコにいる奴はお決まりで黒服なんだろうなと。

 

「……ハジメ、変なこと考えてる」

 

ユエのジト目に気が付いたか、ハジメはまた様子を、気配を感知することに集中する

地下に子供の気配が複数……。

 

「騒ぎ起こしたらまた逃げられちゃうかもよ」

「分かってるよ」

 

メドゥーサに言われるまでもないと、ハジメは二人を連れて一旦裏通りに入ると

錬成で道に穴を開け、地下へと潜る。

 

「メド子、お前はさっきの場所で待ってろ、で、合図をしたらだ……」

「打ち合わせ通りにね、オッケー……って、勘違いしないでよね!

悪党どもをやっつけるためであって別にアンタに……」

「わかった、協力感謝してるぜ」

 

その言葉を置き土産に、そのまま二人は穴から地下へとその身を躍らせる。

 

「……ふぅん素直じゃない」

 

一人残されたメドゥーサ、少しばかりの物足りなさを彼女は感じていた。

 

「ちっ、ずいぶん深いな」

 

気配を遮断しながらハジメたちは地下深くへと階段伝いに降りていく。

と、その耳に誰かのいびきが届く……。

ハジメはユエと頷きあうと、一層細心の注意を払いながら先へと進む……。

 

仄かな明りが見えてくる、と、そこには無数の牢獄がずらりと並んでおり

入り口には監視らしき一人の男が寝息を立てていた。

起こさないようにそっと中に入ると、そこには人間の子供達が十人ほどいて、

冷たい石畳の上で身を寄せ合って蹲っていた。

ミュウの姿がそこにはないのを確認し、少し落胆しつつも

ハジメは鉄格子越しに子供たちに尋ねる。

 

「ここに、海人族の女の子はこなかったか?」

 

七、八歳くらいの少年がおずおずとハジメの質問に答えた。

 

「えっと、海人族の子なら少し前に連れて行かれたよ……お兄さん達は誰なの?」

 

遅かったかと舌打ちしつつも、不安そうな少年へと元気づける様にハジメは囁く。

 

「助けに来たんだよ」

「えっ!? 助けてくれるの!」

 

ハジメの言葉に大声を出してしまう少年、その声を聞きつけたか見張りが起きてくる、

見張りはハジメたちの姿に一瞬戸惑うが、

ユエの姿を見つけるやすぐに好色そうな笑顔を浮かべ、両の手にナイフを持ち。

片方の切っ先をユエに向けつつ、もう片方をハジメの喉へと投げ放った。

子供達は、首筋を貫かれるハジメの姿を思い浮かべ悲鳴を上げる。

 

が……。

 

電光のように鋭いナイフの一撃はハジメの人差し指と中指、

僅か二本の指によって挟み込むように軽々とキャッチされ、

そのまま投げた見張りの眉間へと投げ返された。

 

それどうやってやんの?おせーて、そんな表情を浮かべたまま

見張りは眉間を自らのナイフに貫かれ絶命する。

 

「……出て来なければやられなかったのに」

 

ハジメは鉄格子を易々と分解し、そんな呟きを漏らすユエへと子供たちを託す。

 

「ユエ、悪いが、こいつ等を頼めるか?俺はどうやらもうひと暴れしなきゃならないみたいだ」

「ん……任せて」

「もうすぐ保安署の連中も駆けつけるだろうしな。そいつらに預ければいいだろう

……細かい事は、あの人に丸投げってことで」

 

執務室で真っ白になっているであろう、イルワの顔を想像し

少し申し訳なさそうな顔を見せるユエ、実際その通りイルワは執務室で真っ白な顔で

頭を抱えていたりする。

 

ともかくオークション会場へと急ぐハジメ、その背中に先程の少年の声が届く。

 

「兄ちゃん!助けてくれてありがとう!あの子も絶対助けてやってくれよ!

すっげー怯えてたんだ。俺、なんも出来なくて……」

「ミュウを励ましてくれてたんだな、根性あるぞお前」

 

自分の無力に悔しそうに俯く少年の頭を、ハジメはわしゃわしゃと撫で回してやる。

 

「わっ、な、なに?」

「ま、悔しいなら強くなればいい、つか、それしかないしな、今回は俺がやっとくさ、

次、何かあればお前がやればいい」

 

それだけ言うと、ハジメはさっさと踵を返して地下牢を出て行く、

少年はその後ろ姿を見つめながら決意に満ちた表情でグッ!と拳を握りしめる。

そんな少年の姿に微笑まし気な視線を送るユエだった。

 

 

オークション会場は、一種異様な雰囲気に包まれていた。

 

 

静寂に包まれた中、仮面をつけた百人ほどの客が目当ての標品が出るたびに、

ただ無言で値札を静かに上げるのだ。

しかしただ札の上げ下げだけが延々と続いているだけなのに、

妙に気品に満ちた雰囲気が会場には漂っている、恐らく仮面の下は

相応の身分ある人々なのだろう。

 

ともかく素性バレには細心の注意を払っているはずの彼らだったが、

その商品が出てきた瞬間、思わず驚愕の声を漏らした。

 

出てきたのは二メートル四方の水槽に入れられた海人族の幼女ミュウだ。

衣服は哀れにも剥ぎ取られ裸で入れられており、水槽の隅で膝を抱えて縮こまっている。

海人族は水中でも呼吸出来るので、本物の海人族であると証明するために

水槽に入れられているのだろう、しかも手足には逃走防止用の枷が嵌められていた。

 

ざわめきの中、物凄い勢いで値段が上がっていく、仮面越しの欲望に満ちた

視線を避ける様に客席に背を向け蹲るミュウ、その手にはカフスボタンがあった。

別れ際にハジメの袖口を握って離さず、その時に図らずも毟り取ってしまったものだ。

 

目を閉じ、ボタンを握りしめるミュウ、その脳裏に甦るは汚水の中から

救い上げてくれた白髪の少年、温かいお風呂、身体を洗ってくれたウサギのお姉ちゃん

抱っこして貰いながら食べた串焼きの味、買ってもらった可愛い服。

髪を梳いてもらうこそばゆい感覚、母親から引き離され、

ずっと孤独と恐怖に耐えてきたミュウにとってそれはどれほど心強かったろうか?

 

だから……お別れはいやだった。また一人になるのはいやだった。

だから保安署でミュウは全力で抵抗した、ハジメの髪を引っ張り、頬を叩き

袖口にしがみ付きボタンを毟り取った、けれど……。

 

ボタンをちぎってしまったから、怒って置いていってしまったのだろうか?

自分は、お兄ちゃんとお姉ちゃんに嫌われてしまったのだろうか?

 

「お兄ちゃん……お姉ちゃん……」

 

ちゃんといい子にするから……と、そこまでミュウが考えた時、水槽に衝撃が走った。

 

「全く、辛気臭いガキですね、人間様の手を煩わせているんじゃありませんよ、

半端者の能無しのごときが!」

 

あまりに動かないミュウに業を煮やしたのだろう、その手には棒がある。

それで直接突いて動かそうというのか?

サディスティックな笑顔を浮かべながら司会の男は脚立に登り、

上から棒をミュウ目掛けて突き降ろそうとする、ミュウが観念したかのように

目を瞑った時だった。

 

「そのセリフ、そっくりそのまま返すぞ? クソ野郎」

 

その声は何故かとても懐かしく……そして頼もしく思えた

だって一番聞きたかった人の声だから。

 

へ?と司会の男は思う間もなく天井から舞い降りた人影に蹴り飛ばされ水槽に叩きつけられる。

客席から僅かなざわめきが聞こえるが、それには構わず砕かれた水槽から流れ出た、

ミュウを、またあの時と同じように優しく抱きかかえる。

 

「よぉ、ミュウ。お前、会うたびにびしょ濡れだな?」

「……お兄ちゃん?」

「お兄ちゃんかどうかは別として、お前に髪を引っ張られ、頬を引っ掻かれた挙句、

ボタンを取られたハジメさんなら確かに俺だな」

「お兄ちゃん!!」

 

苦笑いを浮かべるハジメへとミュウは力いっぱいに抱きつき嗚咽を漏らし始める。

背後から響くドタドタという足音を無粋だなと思いながら、生まれたまんまの、

ミュウの身体を毛布でくるんでやる。

 

「クソガキ、フリートホーフに手を出すとは相当頭が悪いようだな、

その商品を置いていくなら、苦しまずに殺してやるぞ?」

 

二十人近くの屈強そうな黒服の男にハジメたちは取り囲まれてしまう、

客席をチラと見るハジメ、どうやら皆逃げる気配はない。

むしろこれから面白いショーが、身の程知らずがリンチに掛けられるという―――

が、見れるぞという、邪な期待に満ちた気配すら感じる。

 

「み……皆さまエキシビジョンでございます……我らフリートホーフに逆らいし

愚か者への公開処刑をこれより開催させて頂き……ますっ」

 

ずぶ濡れになりながらも咄嗟にアドリブを入れる司会、なかなか見上げたプロ根性である。

 

「もういいぞ、メド子」

 

震えるミュウの背中をポンポンと叩いてあやしながら、

ハジメはメドゥーサへと念話で指示を送る、と。

 

「ふふ、やっぱりアタシの力が必要なのね!」

 

天窓から夕焼けを背に待ってましたとばかりにポーズを決めるメドゥーサ。

フリフリヒラヒラの服装と相まって、確かにまるで魔法少女のようだとハジメは思った。

 

『ラスト・メドゥシアナ』

 

彼女の声に呼応するかのように、美術館の天井に巨大な魔法陣が展開され

そこから全長数十メートルにも達する大蛇が姿を現す。

魔蛇メドゥシアナ、その姿はかのヒュドラを髣髴とさせた。

強さはともかく、格はこっちの方が比べ物にならぬほど高いだろうが。

 

その威容を目の当たりにして、ようやく自分たちの置かれた状況を悟ったか

仮面の人々は悲鳴をあげて出口へと殺到する。

しかし扉は開かない、まるで石になってしまったかのようだ。

 

「謝ったってもう遅いわよ! やっちゃいなさい、メドゥシアナ!」

 

メドゥシアナの眼が輝き、そこから放たれた無数の光線が美術館内に乱舞する。

その乱舞が収まった時、そこにあったのはズボンや靴を石に変えられ床や壁に縫い付けられた

フリートホープ構成員及び、仮面の人々の姿だった。

 

討ち漏らした何人かの黒服が無謀にもハジメへと襲い掛かるが、

先頭の一人が発砲音と共に頭部を爆ぜさせ死体と化すと、

残りは全員大人しく武器を捨てた。

 

「えっと……あの司会は……」

 

なかなか面白いコトほざいてくれたからさてどうしてくれようか……。

 

 

石化光線からなんとか逃れた、司会の男はハァハァと息を荒げながら

隣の建物へと逃げ込む、この近辺はすべてフリートホーフの関連施設だ

今から人手を集めて……このことが頭に知られれば、自分はカラスのエサである。

その頭がすでに地獄に行っていることも知らず、男は事務所のドアを開ける

―――そこに展開されていたのは、幾人かの石像だった。

 

その石像は全て見知った顔、すなわち自分の仲間たちだということに

悲鳴を上げて飛び退く男、その衝撃で石像の幾つかは粉々に砕けて、只の石くれと化してしまう。

そういえば、あれだけの騒ぎがあったにも関わらずやけに静かだ……。

 

男は駆られるように次々と事務所のドアを開け、

そして建物から建物へと転がるように走る、そこにあったのはやはり全て石像だった、

仲間たちの。

 

「ハ……ハハハ……ハ」

 

全ての部屋を回り終え、生きている者が誰一人いないことを確認すると

男はフラつきながら屋上へと昇る……。

保安署の連中が美術館に突入しているのが見える、見知った幹部の何人かが

お縄を頂戴しているのが見える……あれは何だ?龍?

通り幾つかを挟んだ所にあるアジトのビルに雷の龍が突っ込み、

瞬く間にビルが炎に包まれていく、その中でゴミのように人が燃えていくのが分かる。

 

……そして男は。

 

「フューレン市民の皆様、フリートホーフ最後の日でございます、ご覧あれ」

 

そう静かに宣言し、地上へとその身を躍らせる……根性はなく、

情けなくもそのまま出頭するのであった。

 

 

「倒壊した建物二十二棟、半壊した建物四十四棟、消滅した建物五棟、

死亡が確認されたフリートホーフの構成員四十三名、再起不能五十五名、

重傷百二十一名、行方不明者三十七名、投降者四十六名……で? 何か言い訳はあるかい?」

 

数字を羅列するイルワの声を聞きながら、

ジータは某中華料理チェーンのCMを思い出していた。

 

(餃子食べたい……)

 

「カッとなったので計画的にやった。反省も後悔もない」

 

ハジメの言葉にため息交じりで胃のあたりを押さえるイルワ。

 

「……ミュウ、これも美味いぞ? 食ってみろ」

「あ~ん」

 

ハジメは我関せずと膝の上に乗せたミュウにお菓子を食べさせてあげている。

 

「まぁ、やりすぎ感は否めないけど、私達も裏組織に関しては手を焼いていたからね

……今回の件は正直助かったといえば助かったとも言える、彼等は明確な証拠を残さず、

表向きはまっとうな商売をしているし、仮に違法な現場を検挙してもトカゲの尻尾切りでね

……はっきりいって彼等の根絶なんて夢物語というのが現状だった……

ただ、これで裏世界の均衡が大きく崩れたからね……はぁ、保安局と連携して、

冒険者も色々大変になりそうだよ」

 

「まぁ、元々、其の辺はフューレンの行政が何とかするところだろ

今回はたまたま身内にまで手を出されそうだったから、反撃したまでだし……」

「唯の反撃で、フューレンにおける裏世界三大組織の一つを半日で殲滅かい?

ホント、洒落にならないね」

「一応、そういう犯罪者集団が二度と俺達に手を出さないように、見せしめを兼ねて

盛大にやったんだ」

 

見せしめ……それは自分たちにもという意味もあるのだろう、

背中が凍る感覚をイルワは覚える、と、ここでジータが提案する。

 

「でもここは持ちつ持たれつというやつで、ですから支部長も抑止力という形で

私たちの名前使って下さい、いいよね?ハジメちゃん」

「ま、まぁ俺らのせいで街中でドンパチとか気分悪いしな」

「ならば、お言葉に甘えさせて貰うことにしようか、あ、そうそう」

 

イルワは自分も茶菓子を一摘みして、話を続ける。

 

「メドゥーサ君が生け捕ったオークションの客の中にはかなりの大物たちも、

混ざっていてね、お陰でこの街の政財界はちょっとした騒ぎになってるよ」

「で、その混乱を最小限に食い止めるためには冒険者ギルドの力がますます不可欠である、と」

「なかなか面白いところを突いて来るね、だが」

 

ジータを見るイルワの眼がすっと細くなる。

 

「一つ忠告しておこう、キミはいささか小賢しい感がある……賢者の振る舞いは、

まずは慎みからだよ、心して欲しい」

 

まぁ、そうならざるも得ないかと、続いてハジメらのいでたちを見回し、

イルワは苦笑する。

 

「ま、混乱を最小限にという観点では、相応の保釈金を支払って貰うということで

妥協せざるを得ないね、正義と経済、どちらも欠くべからぬ物だけにね」

 

中には保釈よりも自決用の毒が必要な者もいるかもだけど、と、

やや物騒なことを口にしつつ、話題は報酬の件へと移る。

 

「一人五百万ルタX六の三千万ルタでどうだい?」

「そんなに!いいんですか!」

 

思わずソファから立ち上がるジータ。

 

「ハンセンから取りはぐれたんだろ?聞いてるよ、それに君たちの名を

使わせて貰えるんだ、これくらいはね」

 

その言葉は五百万じゃむしろ安いくらい、という響きがあることに気が付く

ジータだったが、いや、止そう……お金の件では揉めたくはない。

 

「ねね、五百万ルタだって、何に使う?ハジメちゃん」

「ああ……それなら」

 

 

街を流れる水路の畔に立つハジメたち、彼らの視線の先には嬉し気に飛び跳ねる

リーマンの姿がある、そう、先の報酬を使いメアシュタット水族館から、

正式に買い取ったのだった。

 

「もう捕まるなよ~」

 

手を振るハジメにまたもう一度飛び跳ねるともうリーマンは姿を現すことはなかった。

 

「この恩は必ずだってさ」

「うん、リーマンは嘘は言わないってママ言ってた」

「ま、期待しないで待ってるさ」

 

ハジメの手を固く握りしめるミュウ。

 

「結局、この子も連れてくことになっちゃったね」

「依頼……だしな」

「嘘でしょ?」

 

この幼馴染はなんでもお見通しのようだ、ハジメはポリポリと照れ隠しで

頬を指で掻く。

 

「まぁ、最初からそうするつもりで助けたからな……ここまでやっといて

放り出すなんて真似はできねぇよ」

「お兄ちゃん!」

 

笑顔でハジメにギュと抱き着くミュウ、彼女の故郷であるエリセンに向かう前に

大火山を攻略せねばならないのだが、連れて行くと覚悟を決めたのならば

何とかしてやるとハジメは密かに決意を固める。

 

「ただな、ミュウ。そのお兄ちゃんってのは止めてくれないか?普通にハジメでいい、

何というかむず痒いんだよ、その呼び方」

 

嬉し恥ずかしという顔のハジメ、嬉しいけど受け入れ難い戸惑いがそこにはあった。

 

「じゃあパパ」

「……」

 

即答するミュウ、固まる一同。

 

「………………な、何だって?悪い、ミュウ、よく聞こえなかったんだ、もう一度頼む」

「パパ」

「……そ、それはあれか?海人族の言葉で"お兄ちゃん"とか"ハジメ"という意味か?」

「ううん。パパはパパなの、あのね」

 

ミュウは語る。

 

「ミュウね、パパいないの……ミュウが生まれる前に神様のところにいっちゃったの……

キーちゃんにもルーちゃんにもミーちゃんにもいるのにミュウにはいないの……

だからお兄ちゃんがパパなの」

 

ポン!と、ジータがハジメの肩に手をやる、わかってんでしょうねという意味である。

 

「けどなぁ……俺まだ十七なんだぞ」

 

煩悶するハジメだが、まぁエリセンまでの付き合いだと思えばと

すんなりと引き下がる。

ちなみにママは本物のママしかダメらしく、女性陣は全員お姉ちゃんで落ち着いた。

 

「メドゥーサお姉ちゃん」

「うん!うんうん!も一回!」

「メドゥーサお姉ちゃん」

「でも勘違いしないでよね、これはあくまでも幼い内から上下関係を~」

 

疑似的にとはいえ、ついに末妹の座から抜け出すことが出来、ご満悦のメドゥーサ、

さぁこの勢いでアンタもお姉ちゃんって呼んでもいいのよとユエにチラチラと視線を送るが

 

「メド子……鬱陶しい」

 

やはりというかユエはつれない、しかし自分をも凌ぐ巨大な魔力の持ち主である

彼女への尊敬の念は欠かさない。

 

「……このおかず……あげる」

「え!ホントホント!?もう返してあげないもんねー」

 

尊敬……してるのである。

 

 





本作のハジメは片目を失っていないので、眼帯の代わりに
袖口のカフスボタンということにさせて頂きました。

死亡者が減っていたり、リーマンを強奪ではなく買い取ったりしているのも、ハジメの変化の表れと思って頂ければ

次回からいよいよ勇者編です。 
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