ありふれた錬成師と空の少女で世界最強【完結】   作:傘ンドラ

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さぁ、頑張れ


遠藤君の奮闘

 

 

 

全く歯が立たなかった……。

 

傷ついた身体を引きずりながら現実に歯噛みする雫、

現在彼らは八十九層に向けて撤退の真っ最中である。

 

「何とか……撒いたか」

 

彼女の傍らの光輝も疲労の色が濃い、退路を切り開くため使った"限界突破"の代償だ。

光輝だけではない、龍太郎も永山も憔悴しきった表情を浮かべ、肩で息をしている。

そこに殿を務めていた野村と遠藤が戻って来る。

 

「これで全員か」

 

壁にもたれ掛かり、僅かに安堵するような呟きを漏らすと、そのまま光輝は

その身を崩してしまう。

 

「良かった……野村君」

「ああ、あいつらやっぱり石化魔法の威力は知ってたみたいだ

ビビッて逃げ出しやがったぜ」

 

綾子の言葉に、彼自身もかなりのダメージを負っているにも関わらず

彼女を心配させたくないがゆえに、空元気で野村は応じる。

 

そう、現在彼らは手放しで逃げ切ったと喜べる状況ではない。

相手の戦力は未だ健在、それに引き換えこちらは満身創痍といってもいい。

今までの……迷宮内の魔物とは段違いのレベルの魔物たちに加え、

女魔人族が放った石化魔法という想定外の攻撃を受け、斎藤と中野が全身を

鈴が重傷を負った上で下半身を石化され、未だ身動きが取れない状態だ。

 

「どこかで回復に専念しないと、このままじゃ鈴ちゃんがもたないよ」

 

悲鳴のような香織の声を聞きながら、雫は必死で思案を巡らせる。

 

(こんなとき……)

 

雫は今はこの場にいない、もう一人の幼馴染の……親友の姿を思い浮かべずにはいられなかった。

彼女なら……ジータならどうするだろうかと?

ホラ言わないこっちゃない、と、今の状況を笑うだろうか?

 

(笑うでしょうね……それでも)

 

転んでもただでは起きない、彼女のしぶとさを、笑顔の裏の強靭な意思を、

雫はよく知っている、こんな時でも、いやこんな時だからこそ

やれるであろう何かをきっと彼女なら考えつく筈だ。

 

「ここで諦めたら……きっと笑ってもくれないわね」

 

パン!と気合を入れなおす為に自らの頬を叩く、存外に大きな音が響き、

何事かとクラスメイトたちの視線が雫に集まる。

 

「ねぇ……遠藤」

「なぁ、八重樫」

 

遠藤と雫の言葉が重なり、一瞬言葉を両者ともに詰まらせる。

 

「……あ」

「いいよ、遠藤君から言って」

 

「今回の状況なんだけどよ、明らかに俺たちがメルドさんやイシュタルさんから

聞いていたのと違う気がするんだ」

 

どうやら遠藤も自分と同じことを考えていたらしい、

そこから先は雫が引き継いで説明する。

 

「確かに魔人族が率いる魔物は個体の強さではなく、数が脅威だって話だったしね

このことはちゃんと伝えておかないと、だから……」

 

「遠藤君、お願い、このことをメルドさんたちに伝えてきて、

これはあなたにしか頼めないことなの」

 

自分から言い出そうとした遠藤に代わり、雫が先に彼へと頼む形を取った。

一応、勇者パーティの中核を担っている自分の言葉なら異存も出ないだろうと踏んだのだ。

 

「ああ?テメェ一人だけ逃げようってんじゃねぇだろうな!」

「例えそうだとしても誰も責められないだろう、状況をよく考えろ」

「そうよ、それにこれは私が遠藤君に頼んだこと、文句があるなら、

私に言ってくれる?近藤君」

 

永山と雫に窘められ、近藤はスゴスゴと引き下がる。

 

「光輝、いいわよね?」

「ああ……頼む、遠藤……このことを……」

 

悲痛な表情で遠藤を見上げる光輝、その眼には悔しさと至らなさが籠っている。

いかに遠藤が、彼が自動ドアすら開かないほどの影の薄さを誇っており、

隠密系のスキルを遺憾なく使いこなせているにしても、彼一人で、

未だ魔物たちが徘徊する八十層台を単独で突破せねばならないのだ。

 

それに、この地に降りて以来、南雲やジータらと行動を共にしていた彼について、

光輝はあまりいい感情を持ってはいなかった。

そんな彼に自分たちの命運を託さねばならないバツの悪さも、

その顔にはありありと浮かんでいた。

 

「……すまない、俺は」

「もうしゃべるな、天之河」

 

それだけを口にし、遠藤は外していたフードを再び被りなおすと、

細かな打ち合わせを交えつつ、仲間たちに血の付いた布や壊れた武具の欠片etcを、

自分に渡してくれるように頼み込む、一部の者はどうしてそんな物を?と、

怪訝な顔をしていたが改めて説明を受けると、納得いったとばかりに、

次々と遠藤にそういったガラクタ類を手渡していく。

 

こうして準備を整えると、彼はスカーフを口元に挙げ振り返ることなく

メルドが待つ七十層へと走り去っていった。

 

その姿を見送る間もなく、雫はさらに矢継ぎ早に指示を飛ばす。

 

「野村君、悪いんだけどもうひと働きしてくれるかな?、さっき言ったとおりの~」

 

 

魔物たちを確実にやり過ごしながら、一歩一歩目的地へと進んでいく遠藤。

迷宮の胡乱な魔物どもより、余程目鼻が利く王宮や神殿の警備員たちを、

再三欺いてきたのである、今の自分にとって魔物の眼を欺くことなど、

さして問題ではなかった。

 

天井に貼りつきのしのしと歩くワニのような魔物をやり過ごすと

そのまま彼は床に降り、分岐路へとわざと足跡を残しながら歩き、

そこに血の付いた包帯を投げ込むと、そのまま今度は先程の魔物の足跡を、

慎重に踏みながらある程度進み、そしてまた天井伝いに移動を開始する。

 

(相手の立場に……相手の狙いを考えろ、だったな)

 

本来ならばいち早くメルドらの元へと向かおうとすべきなのだろうが……。

もしも光輝たちが見つからなければ自分ならどうするか?を考えた場合、

あの魔人族たちは間違いなく転移陣がある七十階層を目指してやってくると、

遠藤は踏んでいた。

 

ゆえに彼は時間を稼ぐ意味合いと、七十層への最短コースを悟られないために、

彼はあえて遠回りをしたり、その都度要所で皆から預かったガラクタ―――

壊れた武具、あるいはサイズの違う複数の足跡などの痕跡を、

半端に残すといった徹底的な欺瞞行動を取り続けていた。

もちろん血の付いた包帯で、足止め用の魔物を誘いだすことも忘れない。

 

これもカリオストロに散々ドヤされたお陰だ、半ばパワハラめいた課題をこなす中で、

彼は困難な状況にあっても、平常心と余裕を失わずに行動することが可能となっていた、

これは密偵、斥候としてはどんな隠密スキルよりも得難い力のように彼は思えている。

 

ともかくそんな薄氷の上を踏むような慎重な行程を重ねて、彼はようやく

目的の七十層へと到達する。メルドたちの気配も感じられる、

唯一の懸念だったすでに追い抜かれているという事態は避けられたようだ。

 

安堵の息を吐く遠藤、あとは……と、

そこで自分が危険な思考に陥りつつあることに気が付く。

 

(勝ったと思った間は、勝ったわけじゃない……だったな)

 

逸る気持ちを抑えつつ、転移部屋への分岐箇所に最後の罠を仕掛けると

そこでようやく隠形を解き、通路を足早に駆け抜け転移部屋へと飛び込んで行った。

 

 

「浩介、お前はお前にしか出来ないことをやり遂げたんだ、他の誰がそんな短時間で、

一度も戦わずに二十層も走破できる?お前はよくやった、よく伝えてくれた」

 

項垂れる遠藤の口から全てを聞き終えたメルドは、労いの言葉を掛けると同時に、

彼を元気づけるかのように頭をグシャグシャと撫で回した。

 

「団長……俺、俺はこのまま戻ります、あいつらは自力で戻るっていってたけど……

今度は負けないっていってたけど……」

 

皆の状況から考えてそれが望み薄だとはわかってる、それでも戻らねばならない……。

例えこのまま地上に逃れて生き延びたとしても生涯己を責めながら生きることになるだろう。

 

「だからメルドさんたちは先に地上に戻って、このことを伝えて下さい」

 

それにメルドらが全員地上に戻ったのを確認してから、

この転移陣を破壊する役目も残っている。

 

メルドたちは自分たちの持つ最高級の回復薬全てを、

それの入った道具袋ごと遠藤に手渡していく。彼らのどの顔も

無力感に打ちひしがれ悔しそうに唇を噛みしめている。

 

「すまないな浩介、一緒に助けに行きたいのは山々だが……私達じゃあ、

足手纏いにしかならない……」

「あ、いや、気にしないで下さいよ、大分、薬系も少なくなってるだろうし、

これだけでも助かります」

 

彼らの申し訳なさを僅かでも和らげたく、無理に笑おうとする遠藤。

そんな彼へとメルドはむしろ苦渋の表情を浮かべて行く。

 

「……浩介、私は今から最低なことを言う、軽蔑してくれて構わないし、

それが当然だ。だが、どうか聞いて欲しい」

「えっ?いきなり何を……」

「……何があっても、光輝だけは連れ帰ってくれ」

「え?」

 

「浩介、今のお前達ですら窮地に追い込まれるほど魔物が強力になっているというのなら…

光輝を失った人間族に未来はない、もちろん、お前達全員が切り抜けて再会できると、

信じているし、そうあって欲しい……だが、それでも私は、ハイリヒ王国騎士団団長として、

言わねばならない。万一の時は、光輝を生かしてくれ」

 

「俺たちは……天之河のおまけですか?」

 

わかっていたことだった、王宮や教会の重要な人物は全て光輝としか話さない、

イシュタル様に褒めて貰えただのと、誇らし気に語る光輝の姿を彼は思い起こす。

しかし、それでも良き兄貴分であったメルドから、こんな言葉を聞かされて

平静を保つことは流石に難しかった。

 

いや……メルドとて全員に生き残って欲しいと思っているはずなのだ。

その彼に……こんな過酷な選択を強いた今の状況を、そして己の力不足を

遠藤は心から憎み、恥じていた。

 

暫しの沈黙の後、またメルドが口を開こうとした時、けたたましいブザー音が鳴り響いた。

 

 

「チッ!味な真似をしてくれるね!」

 

また"外れ"を引かされ床に唾を吐き捨てる女魔人族、本来一目散に、

この転移陣のある階層を目指すはずが……。

そう彼女は幾度となく遠藤の仕掛けた欺瞞行動に引っかかっていたのだった。

しかし、それももう終わりだ、この七十階層に転移陣があることは承知している。

分かれ道に真新しい血痕を見つけるが、もう構いはしない。

そのまま転移陣のある部屋へと足を踏み出すと、その足元に何かが引っ掛かる感触、

そして同時にブザー音が鳴り響いた。

 

「くっ!」

 

女魔人族が足元を探ると、そこから鳴き声をあげるオモチャが現れる。

糸を引っ張れば音が鳴る、単にそれだけの子供のオモチャに過ぎないが、

闇と静寂に支配されたこの迷宮内では、警報音としては充分だった。

 

「連中はこの近くにいる!急ぐよ!」

 

 

「奴らが来ます!早く逃げて下さい!まだ間に合います!」

「いや、我々はここで奴らを食い止める、地上に逃げるのは浩介、お前……」

「アンタたちが何人いたって死体が増えるだけだっ!」

 

メルドたちに叫ぶ遠藤、先程の言葉への意趣返しが混ざってないといえば嘘になるだろう。

 

「イヤなんだよ!迷惑なんだよ!俺のために誰かが死ぬのはっ!」

「そうか……」

 

半泣きの遠藤の頭を撫でてやりながら、メルドは優しく彼へと諭す。

 

「でもな、これは誰かがやらないといけないことだ、そして我々はそのために

国から俸給を頂いている……それにな」

 

メルドは力強く、そしてはっきりと遠藤へと明言する。

 

「この戦争は俺たちの戦争だ、だから真っ先に命を捨てるのは俺たちの役目なんだ」

 

凡そ戦いを知ることなく育って来たであろう少年少女を、自分たちの都合で、

戦争に巻き込んでしまったことを、彼なりにずっと心を痛めていたのだろう、

そしてそんな子供たちを頼りにせねばならぬ、自分らの不甲斐なさにも。

そんな拭いきれぬ悔恨が籠ったメルドの言葉に、遠藤はもう何も言う事が出来なかった。

 

「いいか、皆円陣を~」

 

兄貴の顔から騎士の顔に戻ると、メルドはすかさず部下たちに指示を飛ばそうとする、が。

 

「「全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の守りを、

ここは聖域なりて、神敵を通さず――〝聖絶〟!!」

「カイル、イヴァン!」

 

その声を待つことなくカイルとイヴァンが通路に障壁を張る。

その障壁はベヒモス戦で使った、絶対の防御を誇るが、

使い捨てで破られれば後が無くなるという―――すなわちそれを今ここで使うということは

自ら死地に立つという意味を示していた。

 

「光輝と同様、団長!あなたもまた我が騎士団に、そして王国にとって無くてはならぬ人!」

ここは俺たちが食い止めます!行って下さい」

「短い間でしたが、お仕え出来たこと心から光栄でした、さぁ早く」

 

過酷な選択の連続にメルドの握りしめた拳が震える、しかし、

すでに魔物たちの先陣が到達し、障壁から激しい音が響き出している。

 

「俺たちの死を無駄にする気ですかっ!」

 

その言葉にメルドは悲痛な表情を浮かべつつ頷くと、手早く陣を起動させ、

まずは傍らのアランとニートに脱出を促し、そして次はベイルを送り出そうとした時だった。

彼は渾身の力を込めてメルドと遠藤をそのまま転移陣の中へと押しやった。

 

「!!」

 

ベイルの笑顔とそして今まさに破られようとしている障壁を必死で支える

カイルとイヴァンの後ろ姿は、生涯忘れることは出来ないだろうと遠藤は思った。

 

 

かくして悲鳴とも雄叫びとも付かない叫び声を上げながら、メルドと遠藤は

【オルクス大迷宮】三十層の転移陣から姿を現す。

 

先に転移していたアランとニートが二人を出迎える。

 

「ベイルは?」

「……すまん」

 

メルドの言葉に全てを察したのだろう、アランたちはすかさず剣を振りかぶり、

転移陣の破壊を始める。

 

しかし状況を今一つ理解出来てない騎士たちが彼らを止めに入って来る。

 

「な、何をするんですか!団長止めて下さい!」

「非常時だ!静まれ!」

 

しかしここはメルドの一喝で場は収まる、流石は団長といった所か。

ともかく彼らは転移陣に次々と剣の一撃を加えていく、そしてあと一発で破壊が完了するかと

思われた矢先だった。

 

魔法陣が輝きを帯びたかと思うと、次の瞬間には遠藤やメルドたちへと揺らめく空間が襲いかかった。

騎士の一人が回避する間もなく首を刎ねられてしまう、さらに揺らぎは魔法陣の周囲に固まる

騎士たちへと容赦なく爪を振るう、また一人の騎士が鎧ごと胴を切り裂かれる、

そしてまた一人……が、そこでニートが割り込みに入りキメラの爪を何とか受け止める。

 

「俺に構うな!早く魔法陣を破壊しろっ!」

 

力勝負で爪を受け止めきれないと見るや、あえて剣を手放し、

自ら吹き飛ばされ距離を置こうとするニート、

しかし獲物が逃げることをキメラは許さず、さらに彼へと追撃の爪を振るおうとする、

……だが。

 

ニートが作ってくれた僅かな時間を利用して、遠藤はキメラの頭上へと跳躍していた。

その目にはただのゆらぎにしか見えずとも、キメラが己に向かい牙を剥き、

大口を上げている姿が、彼にはまざまざと分かるようだった。

 

「残念だな!」

 

遠藤は右腕に仕込んでいた、カリオストロに貰ったナイフを僅かにブレた空間の

中心へと射出した。

魔法仕掛けで撃ち出されたそれは恐るべき速度でキメラの口内を貫き、

そのまま後頭部をも貫通し、さらに床の魔法陣まで達して深々と突き立つ。

魔法陣が破壊された音と、キメラの悲鳴が重なって彼の耳に届く。

 

「しかも魔力コントロール出来る!」

 

射出されたナイフに繋がったワイヤーには微細な魔法陣が組み込まれており

遠藤の詠唱によって自由自在に動かすことが可能となる。

 

彼はワイヤーを操作することでキメラを岩に巻きつけ固定する、

こうしてしまえばいかに擬態や保護色があろうと関係ない。

 

「皆さんお願いします!このワイヤーに魔力を込めて思いっきり引っ張って下さい!」

 

遠藤の呼びかけに騎士たちがワイヤーを掴んで綱引きの要領で魔力と力を込めていく。

後頭部を撃ち抜かれてなお、拘束を解こうとするキメラと、

そうはさせじとあらん限りの魔力と力を籠める、遠藤たちとのせめぎ合いが続く、

ワイヤーが彼らの魔力を受け、キシキシと輝きながら鳴り響く、そして。

 

ぶちゅりという音と共にキメラの身体はワイヤーで寸断され、

コマ切れとなり、同時に擬態が切れてその禍々しい姿を騎士たちに曝け出す。

 

「……よくも」

 

一人の、まだ見るからに新米であろう騎士がそのキメラの骸を足蹴にしようとした時だった。

 

「危ない!」

 

まだ命の灯が残っていたのかキメラの背中に生えた蛇の尾が、

突如として牙を剥き、新米へと毒液を浴びせかける。

それを身を呈して庇うメルド……断末魔の魔物の毒液を浴びた彼の鎧が溶け、

肌が焼けただれていく。

 

「ぐおっ、ぐおおおっ!」

 

地面に転がりのたうつメルド、治癒術の心得のある何人かが集まり、

治療を開始していく。

 

「薬を」

「だ……大丈夫だ、浩介、オマエは早く行け!」

 

先程自分が渡した最高級の傷薬を返して貰い、それを服用すると

メルドは先を急ぐよう遠藤を叱咤する、しかしここに来て緊張が解けてしまったのだろう。

遠藤はうううと一声唸ると、そのまま呆然とその場に立ちすくんでしまう。

 

「浩介……頼む!」

 

声を出すのも辛い状態であるにも関わらず、メルドは遠藤へとあらん限りの声で叫ぶ。

 

「……こんな体たらくを晒してる俺が言っていいことなのかは分からん

だが、今お前が動かなければ皆死ぬんだ!……辛いだろう、苦しいだろう……

それでも自分の、自分の託された役目を果た……せっ!ぐっ!」

 

メルドの傍らのアランも無言で遠藤に動くよう促す……やはりメルド同様に

悲痛な表情を、本来自分たちの役目を子供たちに託さざるを得ない……、

そんな忸怩たる思いを抱えているに違いない。

 

(そんな顔されたら……行くしかないだろ)

 

遠藤の顔に生気がまた宿ったのを確認すると、メルドは生き残った騎士の一人に

彼と共に地上に上がり、王都へ状況を報告せよと苦しい息の中命じ、遠藤には。

 

「ホルアドに駐屯している騎士たちは動かせん、かといって王都からの救援を、

待っていたら間に合わん、冒険者ギルドの助力を仰げ……ただし"銀"ランク以上でないと、

おそらく役には立たんぞ……以上だ、さぁ行け!」

 

 

そしてホルアドの街の中心の広場に遠藤はいた。

冒険者ギルドはもう目と鼻の先だ、しかし……彼はここまで来て、どうしても

その門をくぐることが出来なかった。

 

"アンタたちが何人いたって死体が増えるだけだっ!"

 

勢いのままに放ってしまった言ってはならぬ言葉……その言葉を聞いたメルドらの心中や

如何ばかりだったろうか?そしてその言葉は彼自身をも深く傷つけ、

その行動を縛り付けてしまっていた。

 

王国の……おそらくこの世界の人類の最高戦力であろう彼らですら、

歯が立たない相手である、冒険者を何人雇ったところで無意味なのではないか?

徒に被害を大きくするだけではないのか?

かといって手ぶらで戻るわけにいかない、そんなことをすればメルドに合わせる顔が無い。

 

彼は力なく広場の噴水の縁石に座り込み、両の手で顔を覆う。

 

希望が無いわけではない……。

キメラやブルタール、黒猫モドキに囲まれる中、"限界突破"で血路を切り開いた光輝の一撃。

……せめて彼と同等の力の持ち主があと一人いれば……しかし……。

 

「そんなの、この世界の何処にいるってんだよ」

 

それは希望などとは到底呼べない、ただの無いものねだり……いや……いる。

だが……。

 

「何やってるんだよ、生きてるんなら早く帰って来てくれよ……

お前ら天之河より強くなってるんだろ?」

 

呟きはいつしか音量が上がり、嗚咽交じりの鼻声となる。

 

「南雲ぉ……蒼野ぉ……ううう」

「あれ?遠藤君」

「!!」

 

数ヶ月ぶりの、懐かしい声が耳元に届き、彼は雷に撃たれたかのように飛び上がり

キョロキョロと周囲を見渡す、いた……しかもすぐ隣に。

涙で歪んだその視界の中に、確かに彼女は、蒼野ジータは存在していた。

その手に何故か大量のチラシを抱えて。

 

「相変わらず影薄いね、すぐ隣にいたのに名前呼ばれるまで気が付かなかったよ

さすが影の薄さランキング生涯世界一位…て、いうか……皆の戻りはいつ~」

「う……うわあああん、うわわあああん~」

 

あまりにもいつも通りの彼女の姿に、ついにここまで堪えて来た遠藤の精神は決壊した。

恥も外聞もなく、彼はジータに縋りつきあらんばかりの大声で泣きじゃくる。

 

「皆をみんなを助けてくれぇ~ううう、お願いだあ~」

「よっぽど辛いことがあったんだね……」

 

騒ぎを聞きつけ、やはりチラシを抱えたハジメやユエたちもジータの元へと集まって来る。

遠藤の様子を見る限り、かなりの異常事態が起きているのは間違いないだろう。

どうもすんなり再会とは行かないようだ。

 





というわけで、原作と違い被害者をかなり少なく抑えることが出来ました。
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