ありふれた錬成師と空の少女で世界最強【完結】   作:傘ンドラ

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ギスブル、はっじまるよ~~


救出開始

遠藤を送り出した後、光輝たちは八十九層の最奥付近に隠し部屋を造り

彼らはそこで休息を取っていた。

その表情は一様に暗い、深く沈んだ表情で顔を俯かせる者ばかりだ。

 

クラスのリーダーたる光輝は、未だ"限界突破"の代償が癒えず、壁に背を預けたままであり、

クラス一のムードメイカーたる谷口鈴も石化に加えて出血多量のダメージが癒えず

香織の治療を受けながら苦痛に眉根を寄せながら、荒い息を吐いて眠ったままだ。

 

そんな中、闇に眼を凝らしながら雫は考え事をしていた。

実は女魔人族から逃げる際、野村の土魔法に加え、恵里の降霊術が大いに役立ったのだが、

その時彼女は聞いたのだ、女魔人族が小声で……。

 

"使えないって聞いていたのに"と。

 

本来ならばこれも遠藤を介してメルドに伝えなくてはならないことの一つだ。

しかし、確証もなしに言っていいことではない。

それに今ここで裏切者の可能性を口にすれば皆戦えなくなる、

自分も含め、ギリギリのところで崩れそうな心を支えているのだ。

 

「ふぅ、何とか上手くカモフラージュ出来たと思う、流石に、

あんな繊細な魔法行使なんてしたことないから疲れたよ……もう限界」

 

龍太郎のいびきに眉を潜めつつも、自分も少し眠ろうと雫が膝に頭を埋めようとした時、

通路の奥から野村健太郎、辻綾子が話をしながら現れた。

 

「壁を違和感なく変形させるなんて領分違いだものね……

一から魔法陣を構築してやったんだから無理もないよ、お疲れ様」

「っと、そっちこそ俺の石化を完全に解くのは骨が折れたろ? お疲れ」

 

なんとなくいい雰囲気を醸し出す二人を見て、少しだけ癒された気分になる雫。

 

「お疲れ様、野村君、辻さん、これで少しは時間が稼げそうね」

「ああ、でもこれもあの人に……カリオストロさんに教わったお陰さ」

 

あの日、彼女が鮮やかな手並みで土や石を操り、檜山たちを叩きのめす姿を、

野村は見ていた、それ以来遠藤を介し、彼は何度か密かに、

彼女に教えを乞うことが出来ていたのだ。

もちろん、先のベヒモス戦でのハジメの奮闘も大いに参考となっている。

 

「南雲なら……もっと上手くやれたんだろうけどな」

 

寂しげに呟きつつ、肘の裂傷に例のハジメ謹製薬を野村は塗り付ける。

この薬、効果こそ治癒魔法に譲るが、それでも材料・器具さえ揃えば、

作り方そのものは単純で、かつコスパも高いこともあり、

王国の兵士らにも十分な数が行き渡るようになっていた。

何といってもこういった魔法を行使するまでもない傷に対して、

遠慮なく使える所が大きい。

 

「こんな時、カリオストロさんがいてくれたら……」

「ダメだ、お前はあんな小さな子を戦いに巻き込もうっていうのか?南雲のように」

 

野村の言葉にはっきりと拒絶の意を示す光輝、彼に取ってカリオストロは、

守るべき存在であって、共に戦う存在ではなかった。

 

実際、彼にとどまらず、何度かカリオストロを戦列に加えようという意見はあったのだが、

そのことごとくを光輝は却下していた。

その内、例の監視の目によってカリオストロ自身が積極的な動きを取れなくなり、

自然とその話は下火になったが……。

 

「大丈夫だ、俺たちは正しい、世の中はな、正しい者が必ず勝つんだ……例えそれが」

 

光輝は苦しい息の下で、それでも己を鼓舞するかのようにはっきりと声を出す。

 

「異世界であっても」

 

じゃあ何で今こんなことになってるんだよと、何人かは思ったが、

今のところ誰もそれを口にする元気はなかった、ただ。

 

「こんな時…蒼野がいたら」

 

ポツリと近藤が呟く、その言葉はここにいる誰もが心の片隅で思っていたことを

代弁しているかのようだった。

 

「止せ……ここにいない奴を頼りにするのは」

「永山ぁ、お前はいいよなぁ……御付きのメイドとよろしくやってんだろ

死ぬのは怖いから戦いませんってか」

 

確かに、ある時期から永山が戦いに積極性を欠くようになったのも事実だが、

だからといってこの場でそういうことを暴露して何の得があるのか?

 

「おい」

「まぁ、いいってこったな、死にたくねぇのは皆同……」

 

近藤はそれ以上口を利くことが出来なかった、激昂した永山の送り襟絞めを受けて、

失神してしまったからだ。

 

「すまん」

 

言葉だけは平静を取り繕う永山だったが、今度はそんな彼に、いつの間にか起きていたのか、

龍太郎が肩を震わせ噛みついてくる。

 

「永山、おまえもだ、アイツを……ジータをいないだなんて言わないでくれ」

 

それは憤りではなく願いだった。

 

「だからといって……」

「だからなんなんだよ」

 

珍しく引き下がらない永山に、こちらも珍しく声を荒げ食い下がる龍太郎。

 

「大声出さないで、気付かれるわよ」

 

雫の言葉にハッ!と我を取り戻し鉾を収める龍太郎たち、ひとまず彼女は胸を撫でおろす、

この状況で、この二人が暴れ出したら誰も止められないのだから。

 

しかし、あらかじめハジメとジータの生存を聞かされている自分にとっても、

どこまで潜ろうとも闇と砂と岩の殺風景な風景の繰り返しに、

心が揺らぎそうになるのも事実だ。

それでも―――雫は思う。

もしかして、と思わせる何かが、ジータには彼女には備わっているのだ、

だからきっと……と。

 

 

一方、ひとまず泣きじゃくる遠藤を連れて冒険者ギルドの門を叩くハジメたち。

なんだまた来たのかと、首を傾げる冒険者たちを尻目に彼らは二階へと上がっていく。

そう、彼らはつい小一時間ほど前に、ここホルアドに到着していたのだった、

イルワからの手紙と、そしてめでたく人間族の裏切者として、

全国指名手配となった檜山の手配書を携えて。

 

ギルド幹部との面通しが終った後、光輝たちの予定を聞いた所、幸いにも

ダンジョンアタック中で、おそらく数日中には戻るだろうという。

とはいえど、わざわざ迷宮まで訪ねていくのも憚られたし、

かといって、何もせずに宿屋でゴロゴロしてるのも何だということで、

彼らは大量に刷られた手配書を道行く人々に配っていたのだった。

 

支部長室の扉をノックすると、開いているぞ入れと中からしわがれた声がする。

言われるまま部屋に入ると、そこには六十歳過ぎくらいのガタイのいい、

左目に大きな傷が入った迫力のある男が椅子にふん取り返っていた、

この男が冒険者ギルドホルアド支部長ロア・バワビスその人だった。

 

「何だ、もうチラシは配り終わったのか?」

「いや、チラシの件は置いといて、ちょいとばかり厄介なことが起きてるみたいなんだ

……ホラ」

 

ハジメに促され、遠藤は堰を切ったように迷宮で起こったことをロアやハジメたちへと、

語り始めた。

 

「……魔人族、ね」

 

遠藤から事の次第を聞き終え、ポツリと呟くハジメ。

 

「あったかいものどうぞ」

「はぁ、あったかいものどうも」

 

泣きじゃくっていた遠藤も話している間に一息つくことが出来たようだ。

今は秘書の女の人から貰ったお茶をふーふーと冷ましている。

重苦しい雰囲気で満たされた室内では、ハジメの膝の上でミュウが

モシャモシャとお菓子を頬張る、どうにもミズマッチな音だけが響いていた。

 

「その……すまん」

「ん?」

「その子はどっかにやってくれないか……なんか、八つ当たりしちまいそうなんだ」

 

遠藤の言葉に確かにという表情を浮かべるハジメ、リスのようにお菓子を頬張る姿を

見る限りあまり話の意味は理解していないようだが、それでもあまり子供に聞かせるべき

話ではないのも確かだ。

 

「メド子ちゃん、ミュウちゃんをお願い」

 

ジータはメドゥーサにミュウを預けて一先ず別室へ下がって貰うように頼む、

ハジメから離れることにやや抵抗を見せたミュウだが、部屋の扉を

開け放して、ミュウからハジメたちの姿をいつでも見えるようにすることで

一先ず納得させ、ようやく話の続きに入る。

 

「さて、ハジメにジータ、イルワからの手紙を読ませて貰ったが、随分と大暴れしたようだな?」

「まぁ、全部成り行きだけどな」

「手紙には、お前たちの"金"ランクへの昇格に対する賛同要請と、

できる限り便宜を図ってやって欲しいという内容が書かれていた。

一応、事の概要くらいは俺も掴んではいるんだがな……たった数人で五万近い魔物の殲滅、

半日でフューレンに巣食う裏組織の壊滅……にわかには信じられんことばかりだが、

イルワの奴が適当なことをわざわざ手紙まで寄越して伝えるとは思えん……

もう、お前らが実は魔王だと言われても俺は不思議に思わんぞ」

 

「バカ言わないでくれ……魔王だなんて、俺たちが目指しているのは、

託されているのは世界最強だぞ……そんなのはただの通過点だ」

「しかもありふれた職業でね」

 

不敵な姿勢を見せる二人、その大言が気に入ったのか、

ロアは目を細めてハジメを見つめる。

 

「ふっ、魔王を通過点扱いか? 随分な大言を吐くやつだ……だが、それが本当なら、

俺からの、冒険者ギルドホルアド支部長からの指名依頼を受けて欲しい」

「……勇者たちの救出だな?」

 

無論、ロアに言われるまでもなく二人は救出に向かう意思を固めてはいた……。

実際、あの場ですぐにでも迷宮に突入してもよかったのだ、

しかし、こういう少し回りくどい形に、あくまでもギルドの依頼という事に

しておかなければ、今後、無条件で頼られてしまう事態にもなりかねない。

 

それにしても……と、ハジメは思う。

もしも独りであの闇の中に放り出されていればどうだっただろうか?と。

こんな風に素直にクラスメイトたちを助けに向かおうと思えていただろうか?

 

(ただの"同郷"の人間程度の他人と切り捨てて先に進んでいたかもしれないな)

 

まぁ、そこまではしないだろうが……、そういう他者への関心の殆どを、

例えば……強くなった自分たちを披露したいという下心etcなどという

気持ちなんてきっと生きる為に捨て去ってしまっていたに違いない。

 

だから……ハジメはジータの顔を見る、その表情が心なしか強張っているのを見て、

ああ……と、ハジメは思う、彼にとっては、今救いを求めている存在の大半は、

只のクラスメイトなのかもしれない、しかし彼女にとって、

恐らく光輝と行動を共にしているであろう、香織や雫は親友なのだ。

そして……自分に取っても香織は、まだ何者でもなかった自分を、南雲ハジメを

守ると言ってくれた女の子なのだ。

 

「……」

 

ソファから立ち上がり、救出の段取りについて発言しようとした、

ハジメの耳に遠藤の呟きが届く。

 

「だよな……今更」

 

どうやら彼は、ハジメが立ち上がったのを正反対の……否定の意味と取ったようだ。

 

「生きてるの知ってて……ずっと助けにいけないまま、暗闇の中に放置してよ……」

 

面影はちゃんと残ってはいるが、"変わり果てた"と言ってよいハジメの姿。

想像を絶する何かの果てにそうなったことくらいは分かる、傍らに控える

ジータの助力があってなお。

 

「でもな……お前たちが生きてるってことを大々的に教えてしまったら

もう皆が戦いから逃げられずに、お前らを助けるって名目で巻き込まれてしまう

天之河と坂上が巻き込んじまう!だから……秘密にしとくしか無かったんだ!」

 

それは知ってるし、むしろそうしてくれて良かったとさえ思っている。

 

「お前が檜山たちに酷い目にあわされて止めなきゃと思いながら、心のどこかで

ザマァと思ってた!他にも蒼野や白崎に構って貰えてるのを悔しいと思ってたり、

家が金持ちなのを羨ましいと思ってたり、なんで俺じゃないんだと蒼野を見てて

思ってたのも事実だ!」

 

ずっとずっと言えずにいた、心の中の蟠りを遠藤は吐き出して行く。

 

「それでも頼む!俺と一緒に来てくれ!一生のお願いだ!アイツらを助けてやってくれ

このままじゃ死んじまったカイルさんやイヴァンさんたちに申し訳が立たない!

大怪我をしてるメルド団長も待ってる!……俺じゃ俺じゃ無理なんだよぉ」

 

額を床に擦り付けんばかりに土下座し、泣き叫ぶ遠藤、

仲間とは言え、何処まで行っても他人……その他人の為に、

ここまで叫べるこの少年を羨ましいとハジメは思った。

 

「白崎さんも八重樫さんも中村さんもお前らが無事帰ってくるって信じて頑張ってたんだ!

俺だってそうだ!……だからっ…けほっけほ」

 

言葉を詰まらせむせる遠藤の背中を、ティオが撫でてやる。

 

「……あまり焦らすでないぞ、もし、ご主人様たちに思うところがあるのなら

妾一人で赴いてもよいのじゃが」

 

どうやら遠藤の叫びは彼女の胸に届いたようだ。

だが、ひとまずそれは置いといてハジメは遠藤に問い正す。

 

「白崎は……彼女はまだ、無事だったか?」

「あ、ああ。白崎さんは無事だ、っていうか、彼女がいなきゃ俺達が無事じゃなかった

最初の襲撃で重吾も八重樫さんも死んでたと思うし……白崎さん、マジですげぇんだ、

回復魔法がとんでもないっていうか……お前たちが生きてるって教えて貰ったその日から、

何ていうか鬼気迫るっていうのかな?こっちが止めたくなるくらい訓練に打ち込んでいて、

……雰囲気も少し変わったかな?ちょっと大人っぽくなったっていうか、

いつも何か考えてるみたいで、ぽわぽわした雰囲気がなくなったっていうか……」

 

優花や妙子から聞かされていた通りだと、横から聞いててジータは思う。

 

「まぁ、お前らを安心させてやれって愛子先生や師匠にも言われてることだしな」

「そこでどうして勿体ぶるの!」

 

パン!とジータはハジメの背中を叩く、本当は真っ先に飛び出したかったで

あろうにも関わらず、きっと自分を待っていてくれていたであろう彼女へと

ハジメは笑顔で応じる。

 

「だよな、天之河は気に入らねぇが、白崎や八重樫まで見捨てるわけにはいかないもんな」

「うん!香織ちゃんや雫ちゃん、恵里ちゃんや鈴ちゃんもきっと待ってる!」

「ユエたちもそれでいいか?」

 

「……ハジメのしたいように、私はどこでも付いて行く」

 

ハジメの手を取りながら、静かにしかしはっきりと宣言するユエ。

 

「わ、私も!どこまでも付いて行きますよ!ハジメさん!」

「ふむ、妾ももちろんついて行くぞ、ご主人様」

「ふぇ、えっと、えっと、ミュウもなの!」

 

ジータとユエに遅れてなるものかと、シアたちもアピールを開始する。

もっともミュウは、よくわかっていないようだったが……。

 

ともかく救出に向けて、いくつか打ち合わせをするハジメたち。

魔物の危険度に関しては、遠藤の話を聞く限り特に問題はないだろう。

ウルでも見かけた四つ目狼がいるようだが。

 

それから流石に迷宮の深層まで子連れで行くわけにも行かないので、

ミュウはギルドに預けていく事にし、いざと立ち上がるハジメたちであったが……。

 

「ちょっと!どうしてこのアタシを無視すんのよ!」

 

ここで蛇娘が吠える。

 

「すぐ終わるからな、ミュウと大人しくしとくんだぞ」

「ふ、素直じゃないわね、まぁでも分かるわ、このゴルゴーン三姉妹が三女

メドゥーサ様の助力を人間風情が願おうだなんておこがましいにも程があるわ」

 

相変わらず回りくどい口上をのたまうメドゥーサ。

 

「でもね、特別に今日は気分がいいから、力を貸してあげるわ!でも勘違いしないでよね!

あくまでも、今日は気分がいいからなんだからね!」

「ミュウ……一人でお留守番出来るから、メド子お姉ちゃん連れてってあげて」

「お前恥ずかしくないのか……こんな小さな子に気を遣わせて」

 

五百年生きてると標榜してるくせに、メンタリティが幼女のそれと大差ない……。

ともかく、ハジメは溜息交じりで子守役兼護衛役をメドゥーサからティオに変更すると、

ようやく彼らは救出に向けて出発する。

 

「おら、さっさと案内しやがれ、遠藤」

「うわっ、ケツを蹴るなよ!っていうかお前いろいろ変わりすぎだろ!」

「ごめんね遠藤君、でも出来るだけ早く……半日くらいで終わらせたいの、

ミュウちゃんを置いていくんだし」

 

二人に追い立てられつつも、ハジメとジータ、そしてユエたちの様子を見ていると

どことなく微笑ましい気分になってくるのに気が付く遠藤、そうまるで……。

 

(なんか……お前ら、家族みたいだな)

 

「ん?なんか言った?」

「いや何も」

 

口に出してたか?必死に走りながら思わず彼は口を塞ぐ。

敏捷値の高さには自信があったのだが、自身は全力で走っているにも関わらず

背後のハジメたちは余裕綽綽で後を付いてくる。

 

「敏捷は俺一番高いんだけどな……」

 

溜息をつく遠藤へと、白いマントとウサ耳を揺らしながらジータが声を掛ける。

 

「まずは三十層だったっけ?で、メルドさんたちのケガを治すよ!」

 

 

「ジータ!?それに……ハジメ!ハジメかっ!生きていたか!」

 

光輝の救出に向かう前に、彼らはまずメルドたちの怪我を治療しに三十層へと立ち寄る。

彼らの姿を見るなり、メルドは重傷であるにも関わらず立ち上がると、二人の肩を抱き寄せる。

 

「すまなかった……自ら殿を引き受けてくれたお前を!

絶対助けてやると言っておいてあんなことに……けどな!

決して囮にしようだなんて思っていなかったんだ!許してくれ……」

 

声を詰まらせながらハジメへと頭を下げるメルドの眼には光るものがあった。

 

「いえ、あの時はただ自分の出来ることを全うしようとしてただけだから……

その、気にしないで貰えるとありがたいというか」

 

少し照れつつも、バツの悪い表情のハジメ……。

 

これほどまでに目の前の男が、自分たちの死について心を痛めて……、

責任を感じていたのかと思うと、仕方ない事だったとはいえど、

やはりここまで無事を知らせることが出来なかった事に、

ハジメとしても少し責任を感じてしまう。

 

「それに随分と可愛らしいお供も沢山増えたじゃないか、いいのかい?嬢ちゃん」

「旅は賑やかな方がいいというか……でも、その、まぁ……良くはないのかもですけど」

 

ユエやシアたちを見てニヤニヤとメルドはジータへと水を向ける。

デビッドたちのことが先にあったので、少し離れた場所で待っていて貰うべきかも、と、

考えてもいたのだが、どうやら彼は亜人への偏見が無いというわけではないだろうが、

極めて薄いタイプなのだろう。

 

そんなジータらのやりとりに目を細めていたメルドだが、ここで気のいい兄貴から、

騎士団長の顔へと戻る。

 

「しかし……二人とも悪いが、ここから先には……その」

 

彼らの……行方不明となる前のステータスを考慮すると、

せいぜいこの三十層の転移陣を守って貰うくらいしか、仕事を与えるわけにはいかない。

白髪にして精悍さを見るからに増したハジメの姿を見るに、この数ヶ月で、

想像以上の経験を積み、力を得ていることには相違ないだろうが、それでもたかが数ヶ月である。

それにやはり彼は生産職、錬成師なのだから。

 

「大丈夫ですメルドさん、二人の力は俺が保証しますよ、頼む」

 

遠藤の言葉に呼応するかのように、ハジメが瞬時にメルドらの傷ついた鎧や武器を修復し、

そしてジータが独特の形状の節くれだった光属性の槍、エデンを高々と宙に掲げる。

 

『ヒールオールⅢ』

 

槍の先端から放たれた癒しの光がメルドらの身体を包んでいき、

熱傷でボロボロの皮膚がみるみる再生し。

 

『クリアオール』

 

さらに彼の身体を蝕んでいた毒の効果も瞬時に消え去っていた。

 

「すげぇ……白崎さんより」

 

思わず呟く遠藤、いや治癒魔法そのものの技量は香織の方が上だろう、

これはあくまでもジータの持つ図抜けたステータスによる力業だ、

さらにジョブの効果により、いわばベホイミを、それこそベホマズン並みの効果へと、

引き上げているのだ。

 

不思議な面持ちで自分の身体の感触を確かめるメルド、先程までの激痛と倦怠感が

完全に消えている、これなら。

彼はハジメが修復した鎧と武器を装着し、麾下の団員たちに指示を飛ばしていく、

鎧はより堅く軽く、そして剣はより鋭くなっているように思えるのは気のせいではない。

 

「~以上だ!そしてアランは引き続きここで待機、俺はこれからハジメたちと下に向かう!」

 

 

遠藤と、そしてメルドを伴い迷宮内を疾駆するハジメたち。

説明が遅れたが、今のジータのジョブは"セージ"である、

回復系とは名ばかりの強化マシマシの戦闘系ジョブである"ドクター"とは違い、

こちらは正真正銘、回復と治療そして戦闘補助に長けたジョブである……のだが。

 

(ちょっとコスチュームがね)

 

ひょこと頭のウサ耳バンドが揺れる、そう、このセージのコスチュームは

ウサ耳にマントにお尻に尻尾が付いたレオタードにニーハイブーツと

何故かバニーガール仕様なのである。

 

この白地に金糸で豪奢な刺繍が施されたマントに加え、レオタードという姿は、

ビキニアーマーであるスパルタや法被に晒しに褌姿のドラムマスターなどと比べると、

露出そのものは少ないのだが……何故かそれらのコスチュームよりも、

遙かにいやらしく思えてならない……。

いや、事実この姿でハジメとユエと三人で真夜中色々楽しんでいたりもしたのだから、

尚更である。

 

「もう……!ハジメちゃんも遠藤君ももっと速く走れるよね!」

「い、いや……俺たちはその」

「メ!メルドさんに合わせてだな」

「コラコラ、俺のせいにするんじゃない」

 

しかしどうしても翻るマントからチラリと除くレオタードを半ば喰いこませたお尻に、

目が行ってしまうのは、仕方ないことなのだろう。

 

「そうですよぉ!そんなに尻尾と耳がお好きなら私が後で一杯触らせてあげますよぉ~」

 

ドサクサに紛れてアピールを開始するシア、そんな彼女の頭をユエが無言ではたき、

それから振り返るとジト目でハジメたちを睨む。

 

「ま、マジメにやらないとな」

 

氷の視線に冷や汗を隠せない男性陣であった。

 

 




次回、いよいよ再会予定。
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