やりたかったことの一つを滞りなく書けて、まずは一安心
ということで、今回初めてアンケートを設置してみました。
信じ難き、いや……むしろ遠慮すらしているような目で光輝は自らに向け、
剣を構えるメルドを見る。
「本気……ですか?」
その声音には僅かながらも、明確な侮りと困惑があった、事実、稽古場に置いては
すでに彼はメルドらを圧倒していたのだから……しかし、
今、目の前に立つ男から放たれる"気"は、いつものそれとは明らかに違っていた。
「待ってください、別にメルドさんとは……」
「今、ここで剣を収めれば、お前はお前自身が信奉して止まぬ"正しさ"を、
自分で否定することになるぞ!」
その言葉は強烈に光輝の自尊心を抉った。
「おおおおおおっ!」
雄叫びと共に光輝は聖剣をメルドへと振り下ろす。
「そうだ!来い、俺を止めてみせろ!」
メルドもまた白刃を振るい、容赦なく光輝へと打ち掛かる。
「そういえば、真剣でやりあうのはこれが初めて、か」
「止めて下さいメルドさん!あなたのステータスでは俺には勝てない」
「勝負は数値のみで決まるモノではないっ!その増長砕かせて貰う!」
確かにステータスの差ゆえか、光輝はメルドから繰り出される攻撃を
余裕を持って見切ってはいる、が。
「なるほど……美しい剣だ、だがっ!」
光輝の剣もまた悉く空を切る、いやどちらかといえば光輝の剛剣が、
メルドの柔剣に完全に翻弄されているようにすら見える。
「信念なき、覚悟なき、その場凌ぎの見てくれだけの剣でこの俺は止められんっ」
「俺に信念が無いと、覚悟が無いというのですかっ!メルドさん!」
信念、覚悟……それを口にしていい段階にすら彼は届いていない、
目の前で不都合な、見たくない物を見たくない、ただそれだけの都合のいい逃避に過ぎない。
と、メルドは思わざるを得ない。
事実、"神威"や"天翔閃"それから限界突破、一撃で自分を屠れるであろう技の数々を、
光輝は放つ素振りも見せていないのだから。
(討つべき相手に、勝手な期待を抱いているのか……)
純粋に力で、技量で圧倒することで、おそらく降参を促すつもりなのだろう。
それは傍から見れば、美しい行為だと思えなくもない。
まるで絵物語の英雄譚のような……。
(その英雄物語の作者も演者も観客もお前さん自身ということか)
メルドは己の鎧を掠める聖剣に少し肝を冷やしつつも心の中で呟く、
だとすれば天之河光輝は、現実ではなく、鏡の世界で生きる存在なのだろう。
そしてそんな未熟な少年に自分たちの未来を託さねばならぬことに、
メルドは忸怩たる思いを、天之河光輝が生来持つ輝きに惑わされ、
彼の本質を理解出来ていなかったという後悔の念を、抱かずにはいられなかった。
もっとも十七歳の、つい最近まで平和を謳歌していた少年にとって、
僅か数ヶ月で信念や覚悟を抱けと言われても、それもまた酷な話ではあるのだが。
互いを捉えることの出来ない、付かず離れずの攻防が暫く続いていたが、
ようやく光輝がメルドを捉え、鍔迫り合いに持ち込む、
こうなると膂力の差でメルドは著しく不利になる。
互いの吐息が顔に感じられるほどの距離の中、呼吸を荒げつつも光輝は、
汗だくのメルドへと勝ち誇ったかのように宣言する。
「降参して下さい、これで俺の勝ちです」
「そうか……」
分かってくれた、光輝の顔が綻びだす。
八重樫道場の門下に入って以来、光輝は様々な相手と剣を交えて来た。
中にはイヤな奴もいた、怖そうな奴もいた、それでも試合を通じ、
その全てと解りあい、友になれたと彼は思っている。
今は残念ながら道を踏み外しているが、アイツだってきっとそう。
だからメルドさんも分かってくれる。
あの魔人族の女の人もきっとそうだ、勇者として平和を望んでいることを伝えて
帰してあげよう、俺からもイシュタルさんに魔人族は人と変わりないと教えてあげれば、
必ず分ってくれる……そして、アイツも。
剣を握るメルドの腕から力が抜けていく、これで……と光輝が思った時だった。
メルドが勢いを付けて口から唾を吐き出した、光輝の眼をめがけて。
「うッ!」
予想外の、メルドにとっては計算通りの奇襲に怯む光輝、その隙を見逃すメルドではない。
右手を剣から一旦離すとそのまま拳で思いきり光輝の顎を殴りつける。
浮き上がった光輝の顔へとさらに肘を振るい頬を打つ。
「か……っ」
肘を振り下ろすと同時に剣を右手に持ち替え、今度は左の手刀が光輝の首筋を打つ、
そして前屈みになった彼の背中へと、剣の平を、要するに峰打ちで
しかし渾身の力で、メルドは剣を振り下ろした。
「おっ……ごっ」
そのまま前のめりで地に倒れ伏す光輝、鮮やかなメルドの逆転、
いや最初から計算通りの勝利であった。
「ひ……卑怯……どうして……こんな」
光輝にとってメルドは年齢こそ離れてはいたが、兄にも等しい思いを抱く、
心から敬愛出来る存在だった、それが故にメルドの取った行動は、
彼にとって理解しえない行為だった。
「ああ、卑怯上等、これが戦の剣法だ……道場や試合ではなくな、これが、
お前たちが今後赴く戦場ならば、お前は今死んだ」
もはや光輝には構わず、歩を進めるメルド。
「ステータス、スキルに於いて今やお前と俺では雲泥の差がある、にもかかわらず
地に這ったのはお前の方、そのことをよく考えろ……甘さを……試合気分を、
捨てきれなかったお前にとって、このオルクス大迷宮、ただの時間の浪費だったようだな」
無論、本心ではない、しかしメルドは今この時だけは鬼となることに徹していた、
光輝の、そしてその背後のクラスメイトたちの恐れや憎しみ、憤りを己が一身に背負うために。
「随分と待たせたな」
「あのメルド・ロギンスが子守りとはね、しかも……心中察するよ」
メルドは女魔人族の首筋へと刃をあてる。
「やめて……頼む……ジータ、南雲……メルドさんを止めて……」
なおも光輝は食い下がるが、経穴か何かを突かれたのか、身体に力が入らない。
「その人に……約束……したんですっ、このままだと俺はっ……うそっ……つきに」
「元よりお前にそんな権利はない、誰に吹き込まれたか、勘違いしたかは知らんが」
一蹴するメルド、その顔は苦々しさに満ちている。
イシュタルめが……特権意識という毒までも吹き込んでいたか……。
「香織……雫……龍太郎……皆も……メルドさんに頼んで……」
「目を閉じるな!よく見て置け!これが戦いに勝つということ!」
「そして戦いに敗れるってことだよ!」
その叫びを最後に、女魔人族の頸動脈は断ち切られ血飛沫が周囲を染めた。
斬首という屈辱を与えなかったのはせめてもの敬意であった。
「なぜ、なぜ殺したんですか、殺す必要があったのか……」
呆然と、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながらメルドへと訴えかける光輝。
ここでメルドはようやく隠していた事実を伝える。
「この女はな、カイルとイヴァン、そしてベイルの三人を殺したんだ、
他にも二人死んでいる……それでも許せと言いたいか?」
「……」
「ならば仕方ないと思ったのか……もしかして」
虚ろな光輝の瞳の中に、メルドは答えを読み取った。
「だったらお前の命への拘りもまたその程度だったということだ」
光輝の迷い、苦しみを十二分に理解していながらも、あえて突き放すメルド。
その拳が僅かに震える、光輝が彼を兄と慕うのと同様、また彼も光輝を
弟のように思っていたのだから……だからこそ、その甘さ、浅さをあえて衝いた、
衝かざるを得なかった。
「違う……違う……こんなの……」
しかし、そんなメルドの想いとは裏腹に、光輝は未だ優しい理想郷の中にいた、
排除せねばならない、自分の理想郷を侵す者は……そしてその矛先は……
「……何故だ、何故……俺と一緒にメルドさんを止めてくれなかった!ジータっ!」
「勇者と騎士団長の決闘に水を差すような"卑怯"な真似出来るわけないでしょ、
あとそれから下の名前で呼ばないでよね」
光輝の叫び、いや駄々などジータは歯牙にも掛けない。
「それに私たちはこの世界の法に従って、その遂行に最もふさわしい人物に
その判断を委ねた、それだけなの」
実際、メルドが尋問の為に捕虜にしたいと頼んでいれば、彼らは―――
万が一香織たちが殺されでもしていない限りは、その通りにしていただろう、
そのことでこの女魔人族がどんな悲惨な運命を辿ろうが、
そんなことは知ったことではないし、興味もない。
何より好んで処刑人になるつもりもなかったし、ハジメに必要のない殺しを、
させたくもなかった、そんなことをしたところで自分たちの戻るべき日常が遠のくだけだ。
そのことをこの男は、天之河光輝は果たして気が付いているのだろうか?
自分がメルドに"守られた"ということに。
「それでもっ、クラスメイトである限りは、リーダーであるこの俺の言葉に、
従うべきだっ!少なくとも戦闘中は」
「残念だが光輝、もう彼らはお前の手の中にはない」
メルドの言葉に驚愕の表情を浮かべる光輝。
「お前たちの担任教師、愛子先生からの頼みでな、南雲ハジメ、蒼野ジータおよび
その仲間たちの独立行動、および最大限の裁量権を認めて欲しいとのことだ」
メルドは懐の書面をペラリと光輝へと広げて見せる。
「それに神殿騎士団所属、デビット・ザーラー以下四名による署名、
および推薦状も添えられている」
「まさか……メルドさん、認めたわけじゃ」
「もちろん認可した、口頭ではあるがな、もし必要ならば後で文書として正式に渡すが」
「お願いします」
ペコリと頭を下げるジータ、ここはいわば中世、どこまで法が有効なのかは未知数だが、
それでも行動の自由に関しての担保は欲しかった。
「しかしあの若い割には石頭のデビットに、ここまでの文を書かせるとはやはり流石だな」
「それは~そこに書かれてある以上のことは~そのぉ~」
そのまま談笑を始めるメルドとジータを横目に、口惜しさに唇を噛みしめる光輝。
もしもハジメが女魔人族を殺していれば、彼はそれを理由にハジメを責め、
逆にそのことにより精神の安定、ひいては逃げ道を作り、
自身の抱える根本の問題に、いつまでも向き合うことはなかっただろう。
しかし、ハジメたちは女魔人族を、意趣返しこそしたが、殺すことは無く
その生殺与奪を、この世界の住人であり、この戦争の当事者である
メルドに委ね、そしてメルドは己の権限に基づき、彼女を斬った。
そこに何の問題があるのか?そこに自分が口を挟む余地があるのか?
つまり彼は、天之河光輝は、自身が信奉する"正しさ"によって敗れたのであった。
ジータとの話が一区切りしたところで、次いでメルドは遠藤を捜すのだが。
「ところでお前なんで服が焦げてるんだ」
「あのユエって子が……俺に気が付かずにどでかい魔法かまして……怖かった」
思いだすのも怖いのだろう、ぶるると身を震わせる。
「それでずっと穴の中に隠れてて、終わったかなって思ったら団長と天之河が
俺の目の前で斬り合い始めてて……」
「つくづく難儀な体質だな……その難儀な体質を見込んで、請けて欲しいことがある」
メルドは遠藤へとそっと耳打ちする。
「……それは」
「俺はどうしてもアイツらの本音を知る必要が出て来た、事此処に至ってようやくな
嫌な仕事だろうが、お前も含め皆の命が掛かっている、今回限りだ、請けてくれるな」
否応なしに頷くしかなかった。
「光輝……皆地上に戻るってよ」
龍太郎に促されようやく立ち上がる光輝、その目に女魔人族の亡骸に
祈りを捧げているような恵里の姿が目に入る。
「優しいな、恵里は」
いつもの調子で、あまりにもいつも通りに恵里の肩を叩き、労いの言葉を掛ける光輝、
しかしその恵里の表情までは彼は見ることはなかった、これもいつも通りに。
だから、その背中へと発せられた、歯軋りのような音にも気が付くことはなかった。
こうして彼らは地上へ向かう、その道中、邪魔くさそうに魔物の尽くを軽く瞬殺していくハジメに
改めてその呆れるほどの強さを実感して、これがかつて"無能"と呼ばれていた奴なのかと
様々な表情をするクラスメイト達。
「所で、色々あったんだろうとは思うんが、どうしてそんなに強くなったんだ」
「精神と時の部屋……みたいなものかな」
メルドの言葉にさして考えなしに、そう、考えなしの戯言のようにハジメは答える。
……しかしそれを戯言だと思わなかった者がいた、かくして、
図らずも悲劇の種はまたもや蒔かれてしまう、当事者の与り知らぬ処で。
そして帰路も半ばを超え……残すは地上まであと十数階、クラスメイト達に
ようやく安堵の息が漏れ始めた頃だった。
「騎士団の慣例に従い、この地において先にカイルたち騎士団員五名の弔いの儀式を
行わねばならん、ここからはお前たちだけで先に向かってくれるか?」
やや唐突にメルドが一行へと申し入れる、カイルさんたちのことなら
俺たちも祈りを~と光輝がメルドへと頼み込むが。
「これは我々騎士団員のみで行うこととなっている、気持ちだけ受け取ろう
きっとあいつらも喜んでくれる筈だ」
それでも彼らの死に責任を感じているのか、それとも単にそうしなければならないと
思っているだけなのか、やや気にするような表情の光輝だったが、
祈りは本葬の時に頼むと言われ、ようやく引き下がった。
そして暫しの休憩の後、メルドらを迷宮に残し、ハジメたちはまた地上を目指し進み始める。
大人を欠いた、少年少女だけの状態で。
最後尾の光輝の目には、相変わらずの表情で先頭に立ち、
少し懐かしさを覚えつつ、ラットマンやロックマウントといった魔物たちを、
次々と瞬殺していくハジメと……そして、その傍らに寄り添う美少女たちの姿。
今まで感じたことのない、ドス黒い何かが光輝の心の中に染みだし始めていた。
排除せねばならない……自分の正義を理想を汚し、宝物を奪おうとする者は、
かくして光輝の憤りの矛先は、漆黒の衣を身に纏った少年、
南雲ハジメへと向けられつつあった。
そして彼らは久方ぶりの太陽の光に目を細めながら【オルクス大迷宮】の入場ゲートを出た、
その瞬間だった。
「ハジメパパぁー!! おかえりなのー!!」
広場に、そんな幼女の元気な声が響き渡る。
「ハジメ……」
「パパぁ~~~っ!」
ざわとクラスメイトの間にどよめきが走る。
ハジメはミュウに手を振ることも、返事をすることも忘れ、その場に立ち尽くす。
そしてそれはジータも同じだった……もっともそれは背後から、突如湧き立った、
異様な気配によるものだが。
しかしそんなことはお構いなしの、天真爛漫の幼女パワーでミュウは
ハジメとジータへとしがみつく。
「ミュウいい子でお留守番してたよー、パパぁ~ジータぁ~」
それは実に仲睦まじい親子のあるべき姿だった、両親がやや若すぎる感じもしたが。
「そ……そそそそ…そう?」
ギギギと身体を震わせながら振り向くジータ。
そこには案の定香織がいた、背後に般若のスタンドを纏わせて、
そして彼女は某魔法少女アニメのキャラのように、首を奇妙な角度で傾けて。
目を剥き出しながら、ジータへと呻くような言葉を宣うのであった。
「裏切り……ものぉ~」
ハジメとジータが、いわゆるそういう仲になってしまっていたとしても、
もうそれは仕方がないことだと香織は思っていた。
悲しいけどコレ恋愛なのよね、むしろそれは極めて自然で当たり前のことだとも。
しかしまさか子供まで作っていたなんて……これは断固受け入れ難い。
そして当のジータはというと。
「本当に申し訳ございませんでしたぁ!」
と、香織から放たれる禍々しいまでの鬼気の前に、これまでの後ろめたさも手伝い、
一切の弁解もなく、反射的に土下座をするのであった。
香織のサポアビは、ハジメくんハジメくんハジメくんで決まり
メルドの光輝への措置について
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いくら何でも厳しすぎ
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こんなもんじゃないかと思う
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甘い!もっとシメてよし!