ありふれた錬成師と空の少女で世界最強【完結】   作:傘ンドラ

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この作品に登場するグランなる存在は、いわゆる理想的な主人公として
考えて頂ければと思います。
天之河光輝ですら認めざるを得ない程の。


怒りの光輝くんだけど

 

 

力なき正義は無力、正義なき力は暴力。

天之河光輝は常に正しくあらんと、清くあらんと強くあらんとして努力を重ねて来た。

そしてそれによって得た力は、正しく人々に還元せねばならない。

だからこそ、自分は多くの栄光と、そして多くの友に……宝物に恵まれたのだと信じている。

即ち、正しい者が報われるのは当然のことなのだ、だからこそ常に自分は……。

 

いや……いた、今まで一人だけどうしても超えられなかった男が、かつての親友にして、

裏切者が。

 

(……グラン)

 

勉学、剣術、人望、全てにおいて彼は自分の上を行った、だから光輝は彼を憎んだ、嫉妬した、

その才に憧れたからこそ。

稽古に敗れては邪道と憤り、邪剣と蔑みつつ、その剣筋に魅せられた。

そんな彼を意識することが、負けたくないと思うことが、いつか蟠りを抱えることなく、

その隣に立ちたいと思うことが、光輝の向上心の、そして努力の源の一つだった。

 

だからこそ……あの冬の日、雫の涙と、そしてその涙の中にある笑顔を見た瞬間、

自身の敗北とそして受け入れ難き屈辱が全身を走った。

 

(なぜ雫はお前をっ!お前と俺の差が何処にある!)

 

だから光輝は決闘を挑んだ、自身の正義を示すために、そして何より自身の大切な存在である

雫を拒否したことが許せなかった、それは自身の価値をも否定されたに等しい

……そんな憤りのままに。

 

(しかしアイツは俺を無視した、俺など眼中にないとばかりに海外へと飛び立ち

そして未だに帰って来ることはない……どうやらアイツにとって俺は、

その程度の存在だったらしい)

 

その日以来、蒼野グランは天之河光輝に取って許しがたき裏切者、卑怯者となり、

単なるライバルではなく、絶対に越えねばならぬ存在となった。

それが彼を今まで以上に頑なまでに正しさに、そして力に拘らせることとなる。

無論、表面的には彼は誰にでも優しく、親切な好青年のままだ、

しかし、彼をよく知る者はその内面の変化を悉に感じ取っていた。

誰かの為になりその正しさを認められる、その正しさによって選ばれたい……という渇望に。

 

そして幸か不幸か、そのジャッジに最もふさわしき存在が彼のすぐ傍にいた。

そう、蒼野グランの双子の妹にして、アイツのような卑怯な裏切りをするような

人間になって欲しくないと再三忠告を行っているにも関わらず、何故か悉く自分に逆らい、

敵意を燃やしてくる少女、蒼野ジータである。

 

ともかく、そんな満たされない思いを常に燻らせて来た天之河光輝に、

転機が訪れる、異世界、トータスへの召喚である、そこで自分たちには大いなる力があると、

知らされたことよりも、"選ばれた"ことに何より彼は狂喜した。

自分のこれまでを生かす絶好のチャンスだと、自分の正しさを証明するチャンスだと。

 

そんな自身の努力の、己を支える根源がたったの数ヶ月で覆るようなことが、

あっていい筈がない。

だってそうだろう?テストでいつも零点の奴が、いきなり百点を取れば

誰だってカンニングを疑うものだ。

 

光輝のハジメを見る目が、場違いな闖入者を見る目が、鋭さを増していく、その耳に……。

 

「ハジメくん、私もハジメくんに付いて行かせてくれないかな?

……ううん、絶対、付いて行くから、よろしくね!」

「だって、あなたのことが……ハジメくんが好きだから」

 

今までもそしてこれからもずっと共にあるべき筈の大切な幼馴染の、"俺の香織"の

信じ難い、信じられない言葉が届いた……そして。

 

ありえない、あっていいはずのない事態に、ついに彼は決壊した。

 

「南雲!ジータやカリオストロちゃんだけでは飽き足らず、今度は香織にまで、

その魔手を伸ばすのか!」

 

「ま……マシュ?」

「キリエライト?」

 

この目の前の勇者は何を言っているのか?さっぱり全然分からないので、

とりあえずボケてみたハジメとジータ。

 

「そもそも意味がわからない!香織が南雲を好き?付いていく?どういう事なんだ?

ありえない、さっぱりわからない!」

 

まるで推理ドラマの物理学者か何かのように、オーバーアクションで叫ぶ光輝。

 

ただでさえ疑念を抱いている最中に、受け入れ難い、認められない現実を、

矢継ぎ早に突きつけられてしまったのだ、光輝の未熟な精神は逃げ場所を、

持ち前のご都合主義による、自分にとって都合のいい"正しさ"を"真実"を、

求めて迷走を始める。

 

「光輝、南雲君が何かするわけないでしょ?冷静に考えなさい、

あんたは気がついてなかったみたいだけど、香織は、もうずっと前から彼を想っているのよ

それこそ、日本にいるときからね。どうして香織があんなに頻繁に話しかけていたと思うのよ」

 

「雫……何を言っているんだ……あれは香織が、そしてジータが優しいから、

南雲が一人でいるのを可哀想に思ってしてたことだろ?

協調性もやる気もない、オタクな南雲を二人が好きになるわけないじゃないか」

 

さも当然とまるで諭すような口調で、雫に言い返す光輝、

ハジメの頬がピクピクと引き攣り始める。

 

「嘘だろ?だって、おかしいじゃないか、香織は、ずっと俺の傍にいたし……

これからも同じだろ?香織は、俺の幼馴染で……だから……俺と一緒にいるのが当然だ

ジータだってせっかく帰って来たんだ、何もかも元通りじゃないか?そうだろ、香織」

 

「えっと……光輝くん。確かに私達は幼馴染だけど……だからって、

ずっと一緒にいるわけじゃないよ?それこそ、当然だと思うのだけど……」

「そうよ、光輝、香織は、別にあんたのものじゃないんだから、

何をどうしようと決めるのは香織自身よ、それにね……」

 

不意にグランの顔が頭を過り、雫の表情に憂いの色が入る。

 

「変わらない物なんて……何処の世界にも存在しないわ、いい加減にしなさい」

 

幼馴染の二人にそう言われ、呆然とする光輝。

 

その視線が、スッとハジメへと向く、そのハジメの周りには美女、美少女が侍っている

その中に自分の香織と、そしてジータが入るのかと思うと、

多少しくじったとはいえ、皆の為に世界の為に、日夜努力し戦っている自分より、

何故、本来取るに足らないこいつなのだという、ドロドロとした黒い感情が湧き上がってくる。

その思考は、かの檜山大介のそれと良く似ていた。

 

「香織、行ってはダメだ、これは香織のために言っているんだ、見てくれあの南雲を、

女の子を何人も侍らして、あんな小さな子まで……しかも兎人族の女の子は、

奴隷の首輪まで付けさせられている、黒髪の女性もさっき南雲のことを、

『ご主人様』って呼んでいた、きっとそう呼ぶように強制されたんだ」

 

「むしろ止める側だったわ!」

 

パパといい、ご主人様といい、こういう誤解が生まれるから、

何が何でも止めさせるべきだったとハジメは思うが、ヒートアップした光輝の耳に、

その抗議は届かない。

 

「南雲は女性をコレクションか何かと勘違いしている、まさに最低の男だ、

無抵抗な人を傷つけ、しかも銃なんて強力な武器を持っている!危険すぎる!

香織、あいつに付いて行っても不幸になるだけだ、だからここに残った方がいい」

 

「ジータ、君もだ、せっかく俺たちの元に帰ってきてくれたんだ、

そんな危険な男といつまでも一緒にいてはいけない、そして」

 

「君達もだ!これ以上、その男の元にいるべきじゃない、俺と一緒に行こう!

君達ほどの実力なら歓迎するよ、共に人々を救うんだ、シアだったかな? 

安心してくれ、俺と共に来てくれるなら直ぐに奴隷から解放する、

ティオも、もうご主人様なんて呼ばなくていいんだ」

 

そんな事を言って爽やかな笑顔を浮かべながら、ユエ達に手を差し伸べる光輝。

雫は顔を手で覆いながら天を仰ぎ、香織は開いた口が塞がらない。

 

そして、光輝に笑顔と共に誘いを受けたユエ達はというと……

 

 「「「……」」」

 

迷宮の中でも思ったが、これは触ってはいけない生き物だという認識の元

沈黙を貫いていた……、一人を除いて。

 

「バカじゃないの?」

「バ……失礼だな、まぁいい君も南雲の元を離れれば……」

 

メドゥーサに面罵され、鼻白む光輝。

 

「だってアンタ、ハジメは女性をコレクションか何かと勘違いしているとか言っといてさ

自分だってそうでしょ?」

「お……俺は君たちをそんな風には扱ったりしない、ちゃんと君たちの意思を尊重するさ

必ず、そう、誓う、誓うさ!約束したっていい」

 

心の奥底の願望を、図星を突かれやや言葉を濁す光輝に、へーとメドゥーサが意地悪く笑う。

 

「ねー香織って言ったっけ、こいつ、アンタの意思を尊重してくれるって」

「光輝くん、みんな、ごめんね、自分勝手だってわかってるけど……

私、どうしてもハジメくんと行きたいの、だからパーティーは抜ける、本当にごめんなさい」

「「「「プッ」」」」

 

あまりに見え見えの落とし噺のような展開に、周囲から失笑が漏れる。

 

「ち……違うっ、今のはっ!……くっ!」

 

光輝は聖剣をハジメへと突きつける。

……どうやらメルドに言われたことはもう忘れてしまったようだ。

 

「南雲ハジメ!俺と決闘しろ!」 

「断る、それにお前、自分が何やってんのか、わかってるんだろうな?」

「メルドさんに言われたこと、もう忘れたの?」

 

そんな彼へと冷ややかな目を向けるハジメとジータ。

寄り添う二人の姿が、また抜群に収まりがいいのが、光輝のさらなる苛立ちを誘う。

 

「違うっ!お前はっ……」

 

そこまで言ったが、後が続かない……。

考えろ、考えるんだ……何かおかしなことは、きっと証拠が、

何かおかしなことがある筈だ。

必死で今日一日の事を思い起こす光輝、そういえばあの女魔人族……。

 

 

『大丈夫、カオリとシズクだっけ?アンタたちだけは殺すなってことらしいからさ』

 

 

そうだ、何故彼女は香織と雫の名前を知っていたんだ。

誰かが教えでもしない限り、分かる筈がないじゃないか。

あの銃だってそうだ、正しく努力を積み重ねてない者にそんな物が、作れるはずがない、

他にもおかしなことがたくさんある、そう……きっと。

 

思い込み以外の証拠を全て"おかしなこと"と"きっと"であっさりと片付け

光輝はハジメを裏切り者だと断定した。

死せる(死んでないけど)檜山、生ける光輝を走らす、

彼の策略は全く彼の予期せぬ方向で一応成功していた。

 

「お前はっ……裏切り者だ!誰かの優しさにまんまと付け込み、そうやってお前は

誰かの好意に縋っては利用して、挙句食いつぶして肥え太る!許せる所業じゃない!」

 

そんな奴いたら確かに酷い奴だなと、他人事のようにハジメは思う。

そしてハジメが黙っているのをいいことにさらに光輝は畳みかける。

 

「そこまで堕ちたか、まさか魔人族と手を組み、用済みとなれば

自らの手を汚すことなく、メルドさんまでをも利用し……この卑怯者……いや、

卑怯者を通り越した、呆れた寄生ちゅ……」

 

光輝が明らかに言ってはならない言葉を半ば口走ろうとした所で、

 

「見てられねぇよ、今のお前……」

 

そんな言葉と同時に意外な人物、坂上龍太郎が動き、背後から光輝を裸絞めに固める。

どうして?という間も無く強制的に意識を落とされ、地に倒れ伏す光輝。

 

そんな彼の姿を、悲し気に見つめる龍太郎、親友として、

これ以上光輝に無様を晒させたくはなかったのだ。

彼の中での天之河光輝はいつでも光り、そして輝いていて欲しかったのだから。

 

そんな龍太郎の目が今度はハジメを捉える。

 

「お前とやるのは俺だ、俺と戦ってくれ、南雲」

「断る、お前とも戦う理由はない」

「こっちにはある、このまま……」

 

気付かれないように龍太郎はチラとジータの顔を見る。

 

「黙ってお前たちを行かせるわけにはいかないんだ、というかさ」

 

屈託なくニコリと微笑む龍太郎。

 

「それによ、昔のゲームにあったじゃねぇか、俺より強い奴に会いに行くって」

 

蟠りが無いわけではない、しかしそれ以上に彼はただ純粋に戦ってみたくなったのだ、

南雲ハジメと、そしてまた確かめたいのだ、ハジメの得た強さが本物かどうかを、

それは冷静さを欠いた、今の光輝には任せられないことだった。

 

それなら仕方ない……と、苦笑するハジメ。

 

「俺はいつでも素手ゴロ一本勝負だ、そっちはどうなんだ?」

 

ハジメは彼らに見える位置にドンナーとシュラークを置き、義手も外す。

クラスメイトの中から息を呑むような声が漏れる。

そしてコートと上着も傍らのユエに預ける。

 

「応じてくれて嬉しいぜ、っと俺もだな」

 

龍太郎もアーティファクトのグローブと、そしてブーツを外す。

 

「じゃあどうやって始める?」

「あの時計台の秒針が十二時を差した時ってのはどうだ」

 

時計台を指さす龍太郎、ちなみに今、針は九時を指している、

 

「早えな、おい」

 

ボヤキながらハジメは頭の中でカウントを始める、三…二…一。

 

「「ゼロ」」

 





これも先のメルドさん同様、ありそうで無かったシチュエーションだと思います。
龍太郎って、本編でも少し光輝たちに食われてしまって、最後まで
温厚篤実な友人ポジのままで終わってしまった感じがするんですよね。
ですから、今作では少し見せ場を作ってあげたいかなと……。

必ずしもそれが幸せに繋がるとは限らないのがトータスの闇ですが。
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