ありふれた錬成師と空の少女で世界最強【完結】   作:傘ンドラ

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ここで新キャラ登場。
この出会い、必然か偶然か。


ラ・ピュセル

「今のあいつには、命を背負う重さに耐えられない……若者に試練を与えるだけが、

大人じゃない、重荷を取り除いてやるのも大人の義務だ」

「今、彼から責任を奪えば……彼は暴発しますよ、間違いなく」

 

正義だの努力だのと言っていても、結局は誰かに認められること、

必要とされること、そしてその期待に応えること、

それが天之河光輝のアイデンティティだとジータは思う、

一日にしてそれを剥奪されれば、どうなるか。

 

「無論、あいつから全てを奪いはしない、しかし云わば張子の虎になって貰うことを

素直に受け入れるとは思えんのでな、そして」

 

あくまでも"象徴"として扱うということか、しかし。

 

「神の使徒そのものが張子の虎の集団であってはならない……そういうことですね」

 

確かにクラスメイトたちは、あまりにも天之河光輝という存在に依存しすぎている、

その旗をいきなり降ろされればどうなるかは想像がつく。

 

「もちろん、勝手な話だとは分かっている、しかしこのままあいつらが空中分解していく

様を見過ごすわけにはいかんのだ……お前と光輝が確執を抱えていることは承知している!

それでも」

 

また改めてメルドはジータへと頭を深々と下げる。

 

「あいつらの旗印になってくれ、せめて浩介のように……誰かに左右されることなく

一人で判断できるようになるまでは」

 

渋面のメルド、その表情は中間管理職のそれを髣髴とさせた。

わざわざ自らの指揮下から離れることを了承しておいて、それからあえて

対等の立場で頼みごとをするあたり、生来の人の好さが滲み出ている、

そんな男である、団長というのはやはり彼にとって枷のようなものなのだろう。

 

「いっそ、彼の言うとおりに……神の使徒の言に従って平和を模索してもいいのでは?」

「誰だって理屈では分かっているさ、これ以上戦争を続けても何の益にもならぬことくらい」

 

ジータの問いにメルドは溜息交じりに応じる。

 

「だが……この国には親を子を友を魔人族に殺された者がどれだけいると思っている?

かくいう俺もついさっき部下を殺された」

 

メルドの語気が強くなっていく、その胸中はいかばかりだろうか?

 

「そんな時に神の使徒が、勇者が現れた、皆が何を思ったかはわかる筈だ」

「これでやっと、魔人族に復讐が出来る……と」

 

メルドに応じつつも、自分の声が震えているのを自覚するジータ。

 

「恨みや憎しみは理屈では解決できない……お前たちも檜山を許すつもりはないのだろう?」

「……」

「理不尽に大切を失った者は、それ以上の大切を失った者の言葉にしか耳を貸さん

もしもアイツの願いが叶うとすれば……それは」

 

床に視線を落とすメルド。

 

「誰よりも多くの魔人族を殺し、誰よりも多くの友を失った時だけだ、俺はアイツに

……いや、アイツだけじゃない、雫にも、龍太郎にも、浩介にも、

誰にもそんな風になって欲しくはない、お前だってそうじゃないのか?」

 

返す言葉が出ない、自分とて、ハジメがそうならないように心を砕いてきたのだから。

いや、ハジメだけじゃなく、クラスメイトの皆がそうなっていい筈などない。

それに……きっと魔人族を滅ぼすことは、

この国の国是であり、聖光教会の教義でもあるのだろう。

自身の良心と国家への忠誠の間で揺れ動くメルドの心中は察するに余りあった。

 

「まして教会からも迫られているんだ、彼らの初陣はまだかと」

「あ、教会なら、問題ないと思いますよ」

 

ジータは檜山の手配書をメルドへと手渡す、その内容に複雑な表情を見せるメルド。

 

「騎士団としても厳罰を主張したんだがな、連中め、思わぬ形でツケを払うことになったか」

 

檜山を事実上不問に付したのは、体裁を重視した教会や王宮の意向によるものだ。

その結果が、脱走、ひいては裏切者を生み出すこととなった、

この不名誉は拭い難きものである。

瓢箪から駒、確かに今後、教会も王宮も騎士団について口出しは控えるだろう。

 

ジータもジータでまた考えを巡らせる、このままパーティを二手に分け、

こちらは神山にあるバーン大迷宮に臨むというのも手の一つだからだ。

 

……しかし、ウルで再会した際のカリオストロの言葉が頭を過る。

 

『テメェらの繋がりが元々の物なのか、それともこっちに来てからなのかは

判断がつかねぇが……まぁ離れないことが一番だろうぜ』

 

実際地球にいた頃、暫く彼女はハジメのいる日本を離れ、

海外で生活していたことがあったのだが、特に問題はなかったのも事実である。

ここトータスに於いても、一応フューレンにいた際、ソ〇ルジェムのように一定距離離れると

お互いにポックリというのは絶対に避けたいとのことで、何度か距離的な実験は行っており、

単純に離れることに関しては、おそらく問題はなさそうという実感はあるのだが。

 

(少し勿体ないかもだけど、仕方ないよね)

 

一つだけ手はあった、ここで切るのはやや惜しいが、ある意味天の配剤だったのかもしれない。

ジータはステータスプレートに視線を落とす、その先には、"団員LV3"と記されていた。

ハジメたちにはまだ知らせていない、街を出て落ち着いた所で改めて伝えるつもりだった。

とりあえずメルドの頼みの件も含めて、了承を得なければならない、

一旦部屋を出、ハジメらの元へと向かうジータだった。

 

 

ハジメらの承諾を得、改めて召喚、もといガチャに臨むジータ。

その承諾の中には、万が一の時はパーティーを二手に分ける、ということも含まれている。

その万が一とはメドゥーサのようなワガママ娘や、あのいけ好かないエウロペのようなのが、

来てしまったら、ということだ。

とはいえど、多分そんなことにはならないだろうという、確信めいたものを

ジータは感じていたのではあるが。

 

メルドのみならず、ハジメらも見守る中でジータはガチャを回していく。

 

(カリオストロさん、シルヴァさん、今まで私たちが望んだ通りの人が来てる

だから今度も……お願いっ!)

 

何度かのトライの後、部屋が虹色の光で満たされた。

 

 

「ぐはっ!ぜーぜー」

 

クラスメイトたちがハンマー片手に、雫と龍太郎の発掘ならぬ救出を行ってる中、

また面倒を起こすだろうと、後回しにされていた光輝が自力で石像の中から脱出する。

その壮絶な様に愕然とする一同、やはりこの男の能力はズバ抜けている。

 

「ジ、ジータ?ジータたちは?」

「騎士団の詰所に向かったけど……待って……」

 

自分が今回勇者として有り得べからざる失態を演じたことは流石に理解できる。

もしも先程の件がメルドの耳に入れば……。

弁解のために光輝は綾子の言葉を最後まで聞くことなく、詰所へと足を走らせる。

 

今度こそ上手くやれる、だから俺から勇者を取り上げないで欲しいと、

心の中で叫びながら駆ける光輝、やはりこの少年、問題の本質を未だ理解していなかった。

勝手知ったる何とやら、光輝は詰所に駆け込むと、そのまま真っすぐ奥の執務室へと向かう。

 

「メルドさ……」

「開いているぞ、入れ」

 

まるで来るのが分かっていたかのような、そんな声がドアの向こうから聞こえてくる。

光輝が恐る恐るドアを開けると、そこには机の上に両手を組み、黙然と座る、

メルドの姿があった。

 

「光輝……わかっているな」

「お……」

 

その言葉には何者をも沈黙させるに足る迫力があった、何よりその鋭き眼光に、

弁解の言葉など吹き飛んでしまう。

 

「お前の此度の一件、勇者、ひいては人間族の旗手として到底弁解しえぬ物だということを」

「しかっ……」

 

反射的に反駁しようとする光輝であったが、

再びメルドの眼光に射すくめられると何も言えなくなる。

 

(ほう、怖れを知るようになったか)

 

昨日までの光輝ならば、仔細構わずに思ったままのことを叫んでいたに違いない。

そういう意味では、やはり敗けを知ることは無駄ではなかったのだなと思いつつも

メルドは続ける。

 

「俺は正直、今のお前には友の命を、王国の、人間族の運命を背負う資格が無いと思っている

ゆえに、勇者としての責務から、解放してやりたいとも」

「それはっ……俺がもう用済みということですかっ!」

 

メルドへの怖れよりも、自身が見捨てられるという未知の恐怖の方が勝ったか、

結局、いつものように食ってかかる光輝。

これも予想していたか、やれやれといった風に光輝を見やるメルド。

 

「口を慎め光輝、言葉が過ぎるぞ!」

 

メルドの一喝に、縋るような目を向けてくる光輝、

そんな彼の仕草に、メルドは明らかな違和感を覚えていた。

 

(なんだこの反応は?これではまるで……玩具を取り上げられた幼子ではないか)

 

これは怖れを知ったとか、単にそういう話ではないように思えた。

しかし、だからこそ、この未熟者をもう一度鍛えなおす絶好の機会のように、

メルドには思えてならないのも事実だった。

だが、それは自分の役目ではない、自分よりそれに相応しい存在が、すでにこの地に

降り立っているのだから。

 

「だが……彼女がお前にもう一度チャンスを与えて欲しいと言ってきたのでな、

今回だけだ、もう期待を裏切るなよ」

 

メルドは自ら執務室の隣の応接室のドアを開ける、そこから姿を現したのは……。

 

 

百合の髪飾りをあしらった豊かな黄金の髪に豪奢な白いドレス、

そして左手に剣、右手に旗を掲げた、まさに姫騎士……いや、聖乙女、

そんな言葉が相応しい麗しき美少女だった。

 

 

「ジータが喚び出してくれた、新たな仲間だ、名は」

 

メルドの紹介を少女は手で制する。

 

「私の名はジャンヌダルク、かつて君と同じく世界を救えと啓示を受けた者だ」

「ジャンヌ……ダルク」

 

その名には聞き覚えがあった、祖国を、人々を救わんと戦い続けた果てに、

最期はその愛し守ろうとした人々らの手により、火刑台へと追いやられた、悲劇の聖女。

彼女の伝記を読んだ幼き日、憤りのあまり眠れなかったのを光輝は今でも覚えている。

自分がその時傍にいたらきっと、必ず助け出すのにと。

 

その聖女と、同じ名前を冠する少女が自分の目の前に存在している。

しかも、自分が思い描いた理想の姿をして、声は思ったよりも野太かったが……。

 

「勇者よ、君の話はジータから聞いている、共に世界の救い手となりましょう」

「あ……あ……」

「今後は許可なく王宮、そして神山への出入りは禁止とする!精々鍛え直して貰え」

 

伝説の聖乙女を前に、溜息しか漏らすことの出来ない光輝、

メルドの言葉も耳には入っていたが、自分の頬が熱くなっていく感触を覚えながら、

ただ上の空で頷くのみだ。

白崎香織にも八重樫雫にも蒼野ジータにも感じることの無かった何かが、熱い高鳴りが、

自分の胸の中から溢れ出ようとしていた。

 

(まだ俺の……俺の正義は終わっちゃいない、今度こそ必ず、ジャンヌさんと共に!)

 

「こちらこそ頼む!共にこの世界を救おう、そして願わくば君も俺に救わせて欲しい!」

 

高らかに叫ぶ光輝、自分の放った最後の言葉に、

ジャンヌが悲痛な表情を垣間見せたことにも気づかず。

 

(やはり……似ている、"闇"を知らなかったかつての私と)

 

 

すでに西に沈みつつある夕日を追いかける様に、ホルアドを抜け、砂漠地帯へと向かう

ハジメら一行。

 

「ヒャッハー!ですぅ!」

 

魔力駆動二輪を自在に操り、ご機嫌な声を上げるシア。

 

奇声を発しながら右に左にと走り回り、ドリフトしてみたりウイリーをしてみたり、

その他にもジャックナイフやバックライドなど、

プロのエクストリームバイクスタント顔負けの技を披露している。

 

「こっちも負けてらんないわよ!メドゥシアナ!」

 

シアの後を追うように、相棒の大蛇を操り地を駆けるメドゥーサ。

地響きを上げ、砂塵を巻き上げながら進む巨大な姿は、軽快さよりも、

重厚さで対抗といった所か。

 

「風が語り掛けてるみたいですぅ」

「うまいっ!うますぎるっ!」

 

四輪のハンドルを握りながらシアの言葉に、思わず合いの手を入れてしまうハジメ、

そんな彼の姿に、クスリと笑いながらもジータらに話しかける香織。

 

「きれいな人だったね、ジャンヌさん」

「うむ!あれぞまさしく勇者、英傑じゃ、かの天之河のよき模範となるであろう、それに」

 

少し気持ち悪い……いや、翳りのある笑顔を浮かべるティオ。

 

「全裸でひれ伏し、駄竜に堕ちたこの身を謝れば、その美しき裸足で踏んで貰えたかも

……いやいや妾が躰を許すはご主人様のみ」

「やっぱり、天之河くんのお守にはちょっと勿体なかったかもね」

 

しかしそれは他ならぬジャンヌ自身が望んだことだ、悩める勇者の導き手になりたい

そういう男ならば尚の事放ってはおけないと。

……そう語る彼女の少し寂しげな目が気にはなったが。

 

「俺たちの世界のジャンヌ・ダルクもきっとあんなんだったんだろうな」

「天之河くんだけじゃなくって、雫ちゃんの助けにもきっとなってくれるよ」

 

ハジメとジータも手放しでジャンヌを称賛する、

しかし、そんな中、シアは何やら思うところがあるようだ。

 

「そう……でしょうか?」

「そうよ!あの子はねぇ、人の身でありながら光の天司メタトロンの使徒に

選ばれる程なんだからねっ!」

「……心配いらない、んっ、彼女は本物」

 

メドゥーサのみならずユエまでもが、それこそ光輝などとは比べ物にならぬほどの、

ジャンヌの"カリスマ"にあてられたのか、彼女を称える言葉を口にする中、

やはりシアは少し腑に落ちない表情のままだ。

 

(あれは気のせい……だったでしょうか?)

 

未来視を持つシアだからこそ気が付いた、見えてしまった。

ほんの一瞬ではあるが、ジャンヌの背後に、悲しみに満ちた深い闇が広がっていたのを。

 

そして、その未来は遠からず的中することとなる。




光輝君に誰を付けるのかというのはかなり悩みました。
ですが、やっぱり似た者同士って印象もあるので、ジャンヌかなと

次回、聖女と勇者、刀神とサムライガール

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