ありふれた錬成師と空の少女で世界最強【完結】   作:傘ンドラ

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今回は短めです。


サムライガールと刀神

 

「真剣を枕元に置いて寝るなんてね」

 

いつの時代のお姫様なんだろうかと雫は思う。

だが、八命切なる太刀から放たれる光を見た時から、その輝きに雫は魅せられてしまっていた、

そう……まるで。

 

(サンタさんを待ち望む子供みたいね、今の私)

 

そう思うと、また胸が躍るのを抑えられない。

雫は姿見へと向かい、また八命切を構え、その輝く刀身を抜き放つ、

普段の彼女を知る者にとっては信じがたい姿である。

八重樫雫という少女は、徒に力を奮うことを何よりも厭っているのであるのだから。

 

そう、刃を、武器をただ徒に弄ぶなど以ての外、固く父親や祖父から、

言い渡されていることである、しかし、その言いつけを半ば無視せざるを得ない、

抗えない妖しい魅力が、その太刀には秘められていた。

 

(……この刀があれば)

 

雫は夢想する、あのオルクス大迷宮での出来事を、

……この太刀を自在に振るい、魔物たちを斬り裂き、活路を開く己の姿を。

いや、斬るのは魔物だけではない、そうだ……あの魔人族も斬ろう。

そうすればメルド団長の手を煩わせる事も、光輝がゴネることもなかった。

南雲君とジータと光輝が仲違いすることだってきっとなかった。

 

そもそも、みんな家に帰りたいのは同じなのに、どうしてケンカばかりするんだろうか?

どうして普通に出来ないんだろうか?

 

そうだ、言うことを聞かない奴は、皆斬ってしまえばいい。

いや、皆は良くない、斬るならもっと強い奴だ、そうだ、いるじゃないか。

 

雫の頭に過るは、漆黒の、そして片や純白の衣を纏い、舞うように魔物を仕留めていく、

少年と少女の姿。

そう、八重樫の武を試したい相手は、本当に私が斬りたい……。

 

"いかん!"

「駄目ッ!」

 

咄嗟に八命切を手放す雫、その瞬間、彼女の意識は、一旦闇に包まれた。

 

 

「ほう……女子の身で、試しとはいえど、天星器の誘惑に耐えるか、

これはまた愉快な物を見せてもろうた」

 

どれくらいの時間が経過したのか……。

堂々たる、まるで一国の総帥を思わせる声に雫は意識を覚醒させる。

そこはまるで道場、いや茶室を思わせる、静謐なる千畳敷の空間だった。

だが、これが夢の中であることは雫にも理解出来た。

 

(明晰夢……ってやつかしら)

 

頬でも捻ったら目が覚めるだろうか?と、ベタな事を思いつつも、

声のした方向へと歩を進ませる雫、前方に何か小山のような影が見える。

いや……違う、人だ、しかし。

その風貌が明らかになるにつれて、雫の歩みは戦慄の表情と共に遅くなる。

 

何故ならば、彼女の前に姿を現したは、

頭には角、顔は白塗りに隈取、そして纏うは陣羽織と、

まるで歌舞伎の獅子を思わせる白髪の巨漢だったのだから。

 

「あなたがこの太刀の、八命切の持ち主……なのでしょうか?」

 

左様、と小山の如き巨漢は頷く、白塗りの顔に無数の皴が刻まれていることに

気が付く雫。

 

「まずは詫びねばならぬ、強すぎる武器は時として悪さをしでかすゆえに」

 

しかし、逆を言えばそれは八命切が、天星器がこの目の前の少女に、

何らかの興味を認めたという証でもある。

 

「うぬのような小娘にのう、してうぬの名は?」

 

人は見かけによらぬことなど、百も承知だが、それでも巨躯を傾げ

興味深げに雫をまじまじと巨漢の老人は見つめる。

 

「私の名は八重樫雫!うぬではありません、それよりも先に名乗るのは

貴方の方ではありませんか」

 

その視線が勘に触ったか、まさに赫奕という言葉が相応しいこの老獅子に、言い返す雫。

 

「ほう、我を前にして、尚、己を誇るか……がはははは!面白い!

そして何よりその眼差し、心地良し!」

 

ピシリ!と手にした扇子を老獅子は勢いよく閉じる。

 

「我が名聞きたくば、刃にて聞き出すがよかろう!」

 

分かっていたといった素振りの雫、父といい祖父といい、

どうしてこうなってしまうのか、いや違う、乗せられてしまったのだと

すぐに気が付く雫。

 

(まぁ、こっちの方が分かりやすいよね)

 

何処からともなく投げ渡された刀を構える雫、老獅子から善き哉と呟きが漏れ、

その両の手にそれぞれ刀が抜き放たれる。

 

「だが、雉も鳴かずば撃たれまいという賢人の言葉もあるが故に、心せよ」

 

 

「なかなかの才よの、その才に免じ、我が名教えよう、我の名はオクトー

もっともこれは浮世を生きんが為の通名に過ぎぬ、真名はすでに忘却の彼方よ」

 

「……オクトー」

 

膝を衝き、荒い息の中でその名を唱える雫、完膚無きまでに叩きのめされた、

その身体を引きずりながら彼女はオクトーの前に跪く。

 

「オクトーさんお願いします!先程の無礼はどうかご容赦を!

私にあなたの剣をどうか授けてください!」

「我とて刀の道、未だ至らず……の、未熟者よ」

 

やや勿体ぶった口調のオクトー。

 

「何より八命の太刀、うぬに御せるかの……先刻のアレは戯れに、試しに過ぎぬ、

うぬが刀の真奥に近づけば近づく程に、彼奴めは確実にうぬの心を蝕んで来ようぞ」

 

そして主を惑わし、意志を乗っ取った天星器のその目的は、ほぼ例外なく殺戮である。

 

しかしそれは当然のことだ、天星器は―――いや、この世に産み出された武器は、

すべからく命を奪うために存在しているのだから、長き年月を経て意思を宿らせた武器は、

その本来の目的に沿って動いているに過ぎない。

 

「案ずるな、それはうぬが刀に全てを捧げ、なお髪の色が全て白く染まる程の時が

過ぎての頃よ……しかしながら、あの童をどうか責めずにやってくれぬか」

「童……南雲君のことですか」

 

童という言葉と、今のハジメの外見を思い浮かべ、そのミスマッチぷりに

少し口元を綻ばす雫。

 

「いかに神の手を持ちたる名工たれど、相手は幾百幾千の時を経た古狸よ、

そう易々と調伏はの」

 

いや、本来目覚める筈がないのだ、もしも僅かでも兆しがあれば気づかぬ筈がない。

 

(察した瞬間、あの童は即座に躊躇うことなく叩き折ったであろうな)

 

あるいは己が匠の技に奢ったか……。

 

(しかしそれでも恐るべしよ、武器のみならずその宿りし意思すらをも再現するとは)

 

ともかくこの目の前の少女に剣士としての抗えぬ業を察知したがゆえに、

八命切は試しを行ったに相違ない。

 

扇子を弄びながらも続けるオクトー。

 

「力を求めんとするも良し、力を危険と退けるも良し、うぬの心に従うが良かろう

……それとも」

 

己を見つめて離さない雫の眼差しに、オクトーは答えを読み取った。

 

「ほう……廻り廻った八命の際に見果てぬ境地を求めるか!良かろうて!」

 

理由は聞かない、胡坐を解き、オクトーは雫を促すように立ち上がる。

 

「但し我が身はこの地より遙か遠き、空の果てに在る、今、うぬと話しているのは

太刀に宿りし残留思念、残り香に過ぎぬ、故にこの出会い、再度はなき一期一会と心得よ!」

 

 

「最後までオクトーさん、名前呼んでくれなかったな」

 

ベッドから半身を起こし、窓から差し込む朝日に目を細める雫、

だが心地よい目覚めの感触に身を任せてはいられない。

 

姿見へと向かい、太刀を、八命切を構える雫。

 

うぬにはうぬの培った技がある、さらに加えるならば我が刀術、

うぬの体躯では扱うに余りあるよの、と、

オクトーが見せてくれた空の世界の剣士たちの様々な技の数々。

 

"世には数多の道があれども、己が足で歩める道は一つよ、

惑うも迷うもそれはそれで一興、我を持ち自ら選ぶのであれば、な。"

 

別れ際のオクトーの言葉が胸に蘇る、しかし惑う時間も迷う時間はない、

感触が残っている間に技を身体に焼きつけねばならない。

一期一会の刀神の貴重な教えの数々、一片たりとも無駄には出来ない。

 

「私の、私の選ぶべき剣は」

 

そしてそんな雫の姿を見守るかのように、金色の鞘が朝日を受けて輝くのであった。

 

"この世は万華よ、さて…うぬが何を見出すか、見守らせて貰うとしよう"

と、語るかのように。





光輝だけではなく、雫もまた原作とは少しばかり別の道に向かい始めました。
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