ありふれた錬成師と空の少女で世界最強【完結】   作:傘ンドラ

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鉄の棺の蓋が開いたか、ハジメたちは再び戦いの地へ
ということで再開です、懐かしやこの匂い。



クリューエン~メルジーネ
大砂漠でトラブル!


 

 

「まだだ!まだ終らな……ん?」

 

ジータは自らの寝言の大きさに思わずシートから跳ね起きてしまう。

眼前に広がるはどこまでも続く赤錆色の世界、その代り映えのない光景は、

眠気を誘って仕方がない。

事実、ジータだけではなく、ユエやシアたちもシートですうすうと寝息を立てている。

 

「どうした、宇宙にでも旅立ってたか?」

「ごめんね、もう少ししたら運転変わるよ、ハジメちゃん」

「せめてサボテンの花くらい咲いてりゃ、少しは違うんだろうけどな、砂漠なんだし」

 

そう、ここはグリューエン大砂漠。

 

彼らがこうして快適な旅を続けて居られるのも、空調完備の魔力駆動四輪ゆえのこと。

外に一歩でも出ようものなら、照りつける太陽と、その太陽からの熱を余さず溜め込む

砂の大地からの強烈な熱気の洗礼をたちまち受けてしまうだろう。

冗談で気温を計ってみたのだが、四十度を軽く超えていた、まさに灼熱の地だ。

 

「……サボテンもこれじゃ逃げ出すよね」

ジータがピーカンの空と赤い大地から目を離すと、

やはり香織の膝の上で気持ちよさそうに目を閉じているミュウの姿が目に入る。

 

「こんな熱い中を……」

 

海人族であるミュウにとって砂漠の横断は、どれほど過酷なものだったか。

四歳という幼さを考えれば、むしろ衰弱死しなかったことが不思議なくらいだ

ジータがミュウの頬に手をやろうとした刹那、パチリとミュウの目が開く。

どうやら眠ってはいなかったようだ。

 

「前に来たときとぜんぜん違うの!とっても涼しいし、目も痛くないの!パパはすごいの!」

「そうだね~ハジメパパはすごいね~ミュウちゃん、冷たいお水飲む?」

「ぶっ!」

 

香織の口から発せられたハジメパパの一言に思わず急ブレーキをかけてしまうハジメ。

 

「飲むぅ~香織お姉ちゃん、ありがとうなの~」

 

もっともミュウはどこ吹く風で香織から手渡された冷水を喉を鳴らして飲んでいる。

 

「ね?意識してる?もしかして」

「ああ、同級生からパパって言われるのはな」

 

耳打ちするジータに、同じく小声で応じるハジメ。

旅の仲間に加わって以来、香織はミュウが傍にいる時は、

まるで殊更強調するかのように、ハジメをハジメパパと呼ぶことが多い。

 

その割にこうして車での移動や食事の際は、彼女はややハジメとは離れた席に就くことが多く、

もしかして自分たちに遠慮しているのか?と、ユエが聞いてみた所、

まずは自然体のハジメくんの姿を観察したいとの答が返ってきたらしい。

 

(つくづくストーカー気質だよね)

 

だったら教室でもそれくらい大人しくしといてくれたらよかったのに、と

今度は香織たちからユエの方へとジータは視線を移す。

こちらはハジメの肩にもたれ掛かり、すっかり安心しきった表情で熟睡している。

 

(こうして眠っててくれるのは少し有難いかな)

 

何しろユエと香織の二人は暇さえあればハジメを巡ってマウント合戦を、

日夜繰り広げているのだ。

 

 

「わ、私は、ユエの知らないハジメくんを沢山知ってるよ!

例えば、ハジメくんの将来の夢とか趣味とか、その中でも特に好きなジャンルとか!

ユエは、ハジメくんが好きなアニメとか漫画とか知ってる?」

「むっ……それは……でも、今は、関係ない。ここには、そういうのはない。

日本に行ってから教えてもらえば……」

「甘いよ。今のハジメくんを見て。どう見てもアニメキャラでしょ?」

「グフッ!?」

 

 

何気に失礼な香織の言葉にダメージを受けたハジメの姿を思い出し、口元を綻ばせるジータ。

まぁ、そういう他愛ない話の間はまだ笑って聞いていられるのだが、

事が"夜"の方へと至ると流石にそうも言っていられない。

 

何しろ"ジータだってベッドの上のハジメを知っている"となどとユエは平然と口にし、

赤裸々トークへとこちらを巻き込もうとするのだから。

そしてそういう時、香織は縋るように、ユエは勝ち誇ったように必ずこちらを見つめるのだ。

まるで……。

 

『どっち?』

 

と、問いかける様に。

 

(なんでこっちに振ってくるのよぉ~)

 

そりゃ香織は幼馴染で親友だし、ユエも今や妹同然にして戦友である。

だからといってこれは安易にこっちと決めてしまっていい問題ではないのだ。

まして自分だってどっち?と直接ハジメに問いただしたい気分なのだから、

もっとも、そのどっち?の中には自分も含まれてしまうのが、不純に思えて仕方ないのだが。

 

ともかくそんな不純な気持ちを抱えたまま、交代の時間までもう少し眠ろうかと。

ドアにもたれ掛かったジータの耳に。

 

「ねーねーねー、あれ何?」

 

物珍し気な叫び声が届き、また窓の外へと視線を移す。

 

そこにはこの灼熱の環境を物ともせず、大蛇メドゥシアナを操るメドゥーサの姿があった。

熱いには熱いらしいが、それ以上に大地の力が満ちたこの砂漠の環境は、

土属性の彼女には心地良いらしく、いつも以上に元気な姿を見せている。

 

そんなメドゥーサが指し示す方向を見ると、右手にある大きな砂丘の向こう側に、

いわゆる巨大なミミズ型の魔物が相当数集まっているようだった。

砂丘の頂上から無数の頭が見えている。

 

「ティオが言ってたやつかな?」

「サンドワームだっけ?」

 

ハジメとジータは、この砂漠に本格的に足を踏み入れる前のティオとのやりとりを思い出す。

 

 

「このグリューエン大砂漠にはサンドワームって魔物が住んでおっての、普段は地中に

潜んでおるのじゃが、獲物が真下を通るとじゃ、こうガブリとの」

 

口に見立てた両手を広げて、閉じる仕草を見せるティオ。

色々あった末に、ドMの変態となったティオだが、ユエ以上に長生きな上、

ユエと異なり幽閉されていたわけでもないので知識は結構深い。

なので、こういった土地や魔物に関する情報などでは頼りになる。

 

「何せ平均二十メートル、大きいものでは百メートルはあるそうじゃ、狙われれば

普通命はあるまいて」

「ひぃぃ……怖いですぅ」

 

ブルブルと震えながら、ひしとハジメにしがみつくシア。

その抜け目なさに一同がやれやれといった視線を向ける中、

ティオはシアを安心させるかのように、ウサ耳を撫でてやりながら続ける。

 

「まぁ、奴らは鈍いでの、たまたま真下を通らぬ限りそうそう恐れることもあるまい」

 

 

「じゃあ。あそこにいるのはたまたま真下を通った奴かな?」

「んー」

 

メドゥシアナが唸り声のように喉を鳴らし、何かを主の少女へと伝える。

 

「メドゥシアナが教えてくれたわ、人がいるって」

「じゃあ……」

 

ジータの言葉を待つことなく無言でハンドルを切り、砂丘へと四輪を急旋回させるハジメ。

それがまるで当たり前のことのように。

 

「しかしあのミミズ共、まるで、食うべきか食わざるべきか迷っているようじゃのう?」

「まぁ、そう見えるな、そんな事あんのか?」

「妾の知識にはないのじゃ、奴等は悪食じゃからの、獲物を前にして躊躇うということは、

ないはずじゃが……」

 

「っ!?掴まれ!」

 

ハジメの叫びと同時に、砂色の巨体が後方より飛び出してきた。

加速があと僅かでも遅れていれば、厄介なことになっていたに相違ない。

どうやらここは奴らの巣だったらしい、高速で砂地を駆ける四輪の真下から、

影を追うように二体目、三体目と、サンドワームが飛び出して来る。

 

「きゃぁあ!」

「ひぅ!」

「わわわ!」

 

急激な加速と回避運動により、車内の香織、ミュウ、シアの順に悲鳴が上がる。

 

「メド子っ!」

「任せなさいっ!」

 

ハジメの叫びに呼応するかのように、大蛇を駆り並走するメドゥーサの紫の瞳が光を放つと、

その視界に捉えられたサンドワームたちは次々と物言わぬ石像へと変わり果てていく。

 

不格好なオブジェと化したサンドワームを後ろに砂丘の麓へと四輪を走らせるハジメ。

 

「当てちゃだめだよ!」

「誰に言ってるんだ誰に!」

 

魔眼石ゴーグルを装着し、慎重に狙いを定めるハジメ、その視界には

サンドワームたちに取り囲まれた人影がはっきりと映っていた。

 

「なら、まずはコイツだな、連中は音を探知するんだったよな!ティオ」

「そうじゃが……一体何を」

 

ハジメはティオの問いに答える代わりに、音響手榴弾を取り出し、

石切りのようなフォームでサンドワームの群れへと投擲する。

長い滞空時間を置いて、地表すれすれの位置で手榴弾は炸裂し、

それを呼び水にサンドワームは新たな獲物へと踵を返していく。

 

それを待ち受けるハジメは四輪の特定部位に魔力を流し込み、内蔵された機能を稼働させる。

ボンネットの中央が縦に割れて、そこから長方形型の機械がせり出てくる。

そして、長方形型の箱は、カシュン! と音を立てながら銃身を伸ばしていき、

最終的にシュラーゲンに酷似したライフル銃となった。

 

「見え見え……だぜ」

 

ここまでくればもう慎重に狙いを定める必要はない、

モコモコと盛り上がりこちらへと進んでいく、サンドワームたちの痕跡へと、

ハジメは無造作にトリガーを引いていく。

 

一条の閃光が赤銅色の世界を切り裂くたびに、砂柱と肉片が噴火のように舞い上がる。

サンドワームの尽くが、不毛の大地の肥やしとなるまで数分とかからなかった。

生き残りがいないことを確認すると、ハジメたちは改めて砂丘の頂上へと、

四輪を進めていく。

 

そこには砂漠の民が着用する、フードのついた外套を羽織った人物が倒れていた。

 

「もう降りて大丈夫?」

 

四輪から降りた香織が、小走りで倒れる人物に駆け寄って行き、

その背中を見ながらメドゥーサがポツリと、妙な呟きを漏らす。

 

「なーんか、あの子の……香織の声聞いてると不遇な感じがしてたまらないのよねー」

「メドゥーサお姉ちゃんも……」

「ん?」

「……」

 

メドゥーサの声に、ミュウは口を噤む。

何故かその視線はメドゥーサの首の辺りに留まっていたが。

 

「!……これって……」

 

フードを取りあらわになった男の顔は、まだ若い二十歳半ばくらいの青年だった。

苦しそうに歪められた顔には大量の汗が浮かび、呼吸は荒く、脈も早い。

服越しでもわかるほど全身から高熱を発している。

しかも、その皮膚には血管が浮き出ており、目や鼻といった粘膜から血が滲みだしていた。

 

香織は険しい表情のまま、"浸透看破"を行使する。

これは魔力を相手に浸透させることで対象の状態を診察し、

その結果を自らのステータスプレートに表示する技能である。

 

「……魔力暴走? 摂取した毒物で体内の魔力が暴走しているの?」

「香織? 何がわかったんだ?」

「う、うん、これなんだけど……」

 

そう言って香織が見せたステータスプレートにはこう表示されていた。

 

 

状態:魔力の過剰活性 体外への排出不可

症状:発熱 意識混濁 全身の疼痛 毛細血管の破裂とそれに伴う出血

原因:体内の水分に異常あり 

 

 

「おそらくだけど、何かよくない飲み物を摂取して、それが原因で魔力暴走状態になっているみたい……

しかも外に排出することもできないっぽい、このままじゃ」

「内側から充満した魔力で……ボン!か」

 

香織は、"万天"や"廻聖"といった上級回復魔法を青年へと行使したのだが

今一つ効果が薄いようだ。

ただしこれは、彼女の技量が低いわけでは決してない、むしろ本来十小節は必要な詠唱を、

僅か三小節まで省略し、乱戦の中でも使用できるまでに仕上げているのだから。

これにはユエやティオら、魔法に精通する者にとっては感嘆の声を漏らさずにはいられなかった。

 

「じゃあ、今度は私がやってみるよ」

 

"ドクター"にジョブチェンジしたジータが白衣をはためかせながら、

青年の腕から手早く採血すると、それを試薬を満たした何本かの試験管の中へと、

数滴ずつ落としていく。

 

「これかな?」

 

その中から最も色鮮やかに変化した試薬を、先に生成しておいたポーションと

混ぜ合わせ、再び青年の腕へと注入していく。

 

"ポーションリファイン"

 

回復薬と同時にワクチンを製造、投与し、体力と同時に対象の状態異常をも、

全て回復させるアビリティである。

どうやら効果はあったようだ、青年の肌に浮き出た血管が少しずつ消えていき、

息遣いも穏やかになっていく。

 

「この人、治ったの?」

 

無邪気なミュウの問いにジータと香織は申し訳なさげに首を横に振る。

 

「どうなんだ?」

 

雰囲気を察知したハジメがすかさず間に割って入る。

 

「ダメ……症状は緩和できても、根本の原因はこれじゃ除去できないみたい」

 

ワクチンの効果はあくまで一定期間のみ有効であり、原因を除去できぬまま効果が切れると、

その都度新しいワクチンをまた一から作り直さねばならない。

 

「うん、今は落ち着いているけど、日にちが立つとまた再発するね」

「じゃあこの人死んじゃうの?」

 

悲し気な声を漏らすミュウをすかさずハジメが元気づける。

 

「大丈夫、ジータの作ったワクチンがあれば暫くは症状は出ない筈だ、

その間に原因を突き止めれば、この人は助かる」

 

ハジメはそれがさも当然のことのように判断を下す。

この、たまたま出会っただけの不幸な旅人を助けるということを。

いや、それは判断とかそういう大袈裟なものではない。

ごくありふれた、普通の感性を持つ人間としての行動に過ぎない。

 

「……いいの?」

「いいって何がだ?」

 

ユエの問いにハジメは特に考える風でもなく言い返す。

 

「んっ、ならいい」

 

そのままもうすぐ目を覚ますであろう青年のために、冷水を取りに車へと戻るユエ、

その足取りはまるでステップを踏むかのように軽やかだった。

 






殊更に無頼を気取る必要はないと思うんですよね。
普通に助けることが出来る人は普通に助ければいいだけなんじゃないかなと
女の子たちだってその方がきっと嬉しいと思います。


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