ありふれた錬成師と空の少女で世界最強【完結】   作:傘ンドラ

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ほぼ原作通りですが、ハジメの変化を描くという目的上、略せないかなと
まだまだ些細なものではありますが。


アンカジ公国

 

 

「まず、助けてくれた事に礼を言う。本当にありがとう。あのまま死んでいたらと思うと……

アンカジまで終わってしまうところだった、私の名は、ビィズ・フォウワード・ゼンゲン、

アンカジ公国の領主ランズィ・フォウワード・ゼンゲン公の息子だ」

 

青年は車内の快適さと何より未知のテクノロジーに彩られた内部の様子に、

暫し驚嘆の表情を浮かべていたが、驚いている場合ではないと気を取り直し、

自身の紹介と、そして何故あんな砂漠のど真ん中で倒れていたのかを、ハジメらへと説明していく。

 

「アンカジって」

「先生たちと合流……いてて」

 

青年を前にしながら、ひそひそと隣に座るシアと言葉を交わし始めたハジメの尻を、

ジータは捻って黙らせる。

 

「ええと……」

「ビィズと呼んで頂いて結構」

 

領主の一族と聞いて、襟を正そうとするジータをひとまず制し、ビィズは続ける。

 

 

四日前、アンカジにおいて原因不明の高熱を発し倒れる人が続出した。

それは本当に突然のことで、初日だけで人口二十七万人のうち三千人近くが意識不明に陥り、

症状を訴える人が二万人に上ったのだという。

当然、医療機関はパンク状態となり、医療関係者も不眠不休で治療と原因究明に当たったのだが、

 

「……対症療法のみで、完治させることは叶わず、挙句には医療関係者の中にまで患者が……」

 

恐怖と混乱の中、ついに処置を受けられなかった人々の中から死者が出始めた。

 

「何の処置も取らなければ発症してから僅か二日で、全身から血を溢れさせて……

最後は風船のように……ううっ」

 

蹲り両手で顔を覆うビィズの背中をジータはさすってやる。

 

「お辛いのなら……もう」

「いいえ、お気遣いは無用に願います」

 

悲痛な表情のまま、ビィズはさらに話を続ける。

 

そんな中一人の薬師が、ひょんなことから飲み水に"液体鑑定"をかけた。

これにより事態が動く、その結果、その水には魔力の暴走を促す毒素が、

含まれていることがわかったのだ。

直ちに調査チームが組まれ、最悪の事態を想定しながら,

アンカジのオアシスが調べられたのだが、案の定、オアシスそのものが汚染されていた。

 

「ご存知かとは思いますが、我がアンカジは砂漠の国、オアシスは生命線です」

 

ゆえにオアシス、ひいては水源の警備・管理は厳重に厳重を重ねてある。

普通に考えれば、オアシスに毒素を流し込むなど不可能に近いと言っても過言ではないほどに

あらゆる対策が施されていたのだ、しかし……。

 

「しかしあらゆる角度から調査を進めても、これといった結論は出ず、そうこうしてる間に

ついに水の備蓄が底を尽き……」

「……」

 

ビィズの悲痛な声に、車内はいたたまれない空気に包まれる。

 

「じゃあ……もう打つ手は」

「あるんです、ですが……」

 

魔法の研究に従事する者が、魔力調整や暴走の予防に服用することが多い、

"静因石"という魔力の活性を鎮める効果を持っている特殊な鉱石を用いれば、

おそらく体内の魔力を鎮めることが出来るだろうという目星は付けることは出来た。

 

しかし静因石自体が希少な鉱石な上、その主だった産地である、北方の岩石地帯は遠すぎて、

往復に少なくとも一ヶ月以上はかかってしまう。

もう一つの産地である、【グリューエン大火山】についても、

大火山の周囲は常に砂嵐が吹き荒れ、生半可な冒険者では麓に辿り着くことさえ不可能であり、

迷宮に入って"静因石"を採取し戻ってこられる程の者は、

既に病に倒れてしまっているという状況だった。

 

「それで救援を要請しに砂漠を……」

 

ジータの言葉に首を縦に揺らすビィズ。

 

「父上や母上、妹も既に感染していて、アンカジにストックしてあった静因石を服用することで、

何とか持ち直したが、衰弱も激しく、とても王国や近隣の町まで救援に赴くことなど

出来そうもなかった。だから、私が一日前に護衛隊と共にアンカジを出発したのだ」

 

その時は症状は出ていなかったが……感染していたのだろうな、とビィズは悔し気に呟く。

おそらく、発症までには個人差があるのだろう。

 

「家族が倒れ、国が混乱し、救援は一刻を争うという状況に……動揺していたようだ、

万全を期して静因石を服用しておくべきだった、病に倒れた私のために迅速な移動が出来ず

護衛たちは皆サンドワームに一呑みに、いや、それだけじゃない、

今、こうしている間にも、アンカジの民は命を落としていっているというのに……情けない!」

 

力の入らない体に、それでもあらん限りの力を込めて拳を己の膝に叩きつけるビィズ。

その姿を見ただけで、いかに彼が責任感が強く、民を思う人物かは充分に理解出来た。

 

「しかしワームどもめ……病に侵されたこの身は口に合わぬと見えて、食べるのを躊躇いおった

お陰で命拾いし、君たちに出会うことが出来た、人生何が起こるかわからんな」

 

やや自嘲を含んだ言葉で説明を締めくくると、そのままビィズはハジメたちに深々と頭を下げる。

 

「……君たちに、いや、貴殿たちにアンカジ公国領主代理として正式に依頼したい、

どうか、私に力を貸して欲しい」

「香織殿のことは風の噂で聞いている、ハイリヒ王国に降り立った神の使徒の中に

治癒魔法の天才がいるということを、そしてハジメ殿とジータ殿は金ランク、

しかも、かの高名なメルド・ロギンス殿とも懇意にされている間柄とお見受けする」

 

今のハジメたちの表向きの立場としては、ハイリヒ王国騎士団長、

メルド・ロギンスからの内諾の元、各地の情勢を調査するために、

冒険者ギルドより派遣されているということになっている。

 

(軋轢を減らしたいなら建前や名分は必要だぞ、あるかないかで周囲の見る目はまるで変わる)

 

そう言いながら、紹介状をしたためてくれたメルドの姿を思いだすジータ、

その大人の配慮には、頭が下がる思いを抱かずにはいられない。

 

「パパー、たすけてあげないの?」

 

ミュウの無邪気な声が車内に響く、その眼差しはどこまでも純真だ、

ハジメなら、何だって出来ると無条件に信じているかのように。

 

ジータたちは何も言わない、何も言わずともハジメが下す断はすでに分かりきっているからだ。

 

「俺たちに取ってもこれは未知の病、必ず助けられるとは言い切れない」

 

言葉を選びつつも、ハジメはビィズへと了解の意を伝えていく。

 

「それでも出来ることは……やってみる、それで良ければ」

「勿論です!ありがとうございます!この恩は必ず!」

 

無論、善意や義侠心もあったが、天之河光輝と違い、ただそれのみで動く程、

南雲ハジメは純粋ではない。

例え病の原因を突き止めることは出来ずとも、当面の水源と静因石を確保するところまでは、

自分たちでも出来る筈という、計算、いや勝算がまずあってのことだ。

 

それに成り行き上とはいえど、関わったからにはせめてそれくらいはやっておかなければ、

いずれアンカジに到着するであろう、カリオストロや愛子らに合わせる顔がないという

思いもあった、何より……。

自分を慕い、信じて付いてきてくれた仲間たちに、自身の目的以外は全て埒外などという、

そんな"寂しい"生き方を見せたくはなかった。

 

「ではまずは水の確保のために王国へ~」

「いや、その必要はない、水の確保はどうにか出来るだろうから、

一先ずアンカジに向かわせて貰いたいんだが?」

 

数十万人分の水を確保できるという言葉に、訝しむビィズを尻目に

アンカジへとハンドルを切るハジメだった。

 

 

「……これがアンカジ」

「フューレンより大きいかもですぅ」

 

赤銅色の砂漠の中にそびえ立つ、美しき乳白色の都の威容に感嘆の声を漏らす、ユエとシア。

 

「流石に繁栄ではフューレンには及びませんが、ですが美しさにかけては……

まずはあれをご覧に」

 

お国自慢を始めるビィズの指先には外壁の各所から天へと立ち登ぼる光の柱があった、

その光は上空で一つに交わり、アンカジ全体を覆う強大なドームへと形成される。

 

「この光のドームのお陰で、砂嵐に見舞われずに済むのですよ」

 

ハジメたちはビィズの案内でアンカジへと入国する。

入場門は高台にあった。ここに訪れた者が、アンカジの美しさを最初に一望出来るようにという、

心遣いらしい。

 

門を潜った先の眼前の光景に感嘆の声をあげるハジメたち。

まず彼らが目を奪われたのは街の東側だ、そこは緑豊かなオアシスが広がり、

その豊かな水は幾筋もの川となって町中に流れ込み、

砂漠のど真ん中だというのに小船があちこちに停泊している。

それはまるで美術館の名画のような風景だった。

 

そして北にはその豊かな水を十二分に利用しているのであろう農業地帯が、

西側には荘厳な宮殿と行政区域が広がっていた。

 

「砂漠なのに……凄い」

「これでも近年は水不足に悩まされてまして……それにも増して」

 

先程までの誇らしげな口調を沈ませるビィズ。

 

アンカジはエリセンより運送される海産物の鮮度を極力落とさないまま運ぶための要所で、

その海産物の産出量は北大陸の八割を占めている。

当然のことながら交易、そしてこの美しい街並みを見るに観光も盛んであって然るべきなのだろうが?

病禍に蝕まれた街は、人通りもまばらで、暗く陰気な雰囲気に覆われていた。

 

「……皆様にも活気に満ちた我が国をお見せしたかった、すまないが、今は時間がない。

都の案内は全てが解決した後にでも私自らさせていただこう。

一先ずは、父上のもとへ。あの宮殿だ」

 

 

ビィズの口添えとそしてメルドが預けてくれた紹介状のお陰で、

領主であるランズィへの話は実にスムーズに纏まった。

それにしても領主自らが病を押して執務を行っていたのには、ハジメら一同も、

驚きと、そして好感を隠せなかった、責任感が強いのはどうやら遺伝のようだ。

 

「じゃあ、ランズィさん、そろそろ始めさせていただきますね、

私と香織ちゃんとシアちゃんは医療院と患者が収容されている施設へ行くね、

魔晶石も持ってくから、あとポーションメイカーもお願い」

 

ポーションメイカー、これもカリオストロのアドバイスによって、

ハジメが制作したポーション自動生成装置だ。

 

「じゃあ俺たちは水の確保だな、領主さん、最低でも二百メートル四方の開けた場所を

用意して貰えるとありがたいんだが……」

「む?うむ、農業地帯に行けばいくらでもあるが……」

「なら、残りはこっちで、シアは魔晶石がたまったらユエに持って来てやってくれ」

 

ハジメとジータはテキパキと指示を飛ばしていく。とはいえやることは単純だ。

香織がビィズにやったのと同じように、"廻聖"と"万天"で

患者たちから魔力を少しずつ抜きつつ、病の進行を遅らせ、

ジータはそれと並行してワクチンを作っていく。

香織が患者から取り出した魔力は魔晶石にストックし、

貯まったらそれをユエに渡して水を作る魔力の足しにする。

 

ハジメは貯水池を作るユエに協力したあと、そのままオアシスに向かい、

一応、原因の調査をする、分かれば解決してもいいし。

 

「分からなければそのまま【グリューエン大火山】に向かう、そういうプランで行くぞ」

 





原作よりも穏やかで親切なハジメちゃん、
もちろん、それなりの計算はありますが。
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