ありふれた錬成師と空の少女で世界最強【完結】   作:傘ンドラ

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必要の無いところで、無闇に暴れたり、悪態をついたりとかする必要は
ないと思うのです。


人と魔を隔てるもの

 

 

まずは当面の飲料水の確保である。

ハジメ一行はランズィとその護衛らの案内でアンカジ北部にある農業地帯の一角に来ていた。

二百メートル四方どころかその三倍はありそうな平地が広がっている。

 

「今は休耕地だ、使って貰って構わぬが……」

 

やはり疑念は消せないのだろう、半信半疑といった態度を隠せないランズィ。

そもそもが常識的に考えて不可能な話だ、無理もない。

メルドの紹介状がなければ、もっと剣呑な態度になっていたに相違ない。

 

もっとも、その疑いと不安を孕んだ眼差しは、ユエが魔法を行使した瞬間、

驚愕一色に染まるのだが。

 

「"壊劫"」

 

まずはユエの重力魔法によって大地が沈み抉られ、休耕地はあっという間に、

二百メートル四方、深さ五メートルの巨大な貯水池となる。

 

"どんなもんだい"と言わんばかりに、ユエは先程までハジメへと疑念の目を向けていた

ランズィたちが、大口を開け目も飛び出さんばかりに見開いているのを、

優越感が籠った眼で一瞥すると、さらに自分たちの仲を徹底的に見せつけんとばかりに、

自分からハジメに抱きつき。

 

「お……おい、こんなとこで」

「いただきます」

 

そのまま、その首筋に噛みつくのだった。

 

 

「……妙なとこ見せちゃって」

「そういうことではないというか……と、とにかくだな、その」

 

妖艶極まりなき吸血の儀が終り、互いにややバツの悪さを感じつつ、

ランズィと一言交わすと、ハジメは四輪で貯水池を整地し、同時に舗装していく。

舗装を終えたハジメが地上に上がると、今度はユエが水系魔法を行使する。

 

「"虚波"」

 

ユエの桁外れの魔力によって虚空に産み出された、膨大な量の水塊が、

一気に貯水池へと流れ込む、途中ハジメから吸血し、

シアから魔晶石の補給を受けながらも、ユエは魔法を連発し、

そして二百メートル四方の貯水池は、汚染されていない新鮮な水でなみなみと満たされた。

 

「……こんなことが……」

「取り敢えず、これで当分は保つだろう……」

 

ユエに血を抜かれすぎ、はぁはぁと息を荒げつつもランズィに応じるハジメ。

 

「あとは、オアシスを調べてみて……何も分からなければ、稼いだ時間で水については

救援要請すればいいんじゃないか……」

「あ、ああ、いや、聞きたい事は色々あるが……ありがとう、心から感謝する、

これで我が国民を干上がらせずに済む、オアシスの方も私が案内しよう」

 

 

ハジメたちはランズィに従い、今度はオアシスの方へと移動する。

 

一見するととても毒など含んで無さそうな、美しき水面が一面に広がってはいるが、

ハジメは魔眼石ゴーグルを装着し、オアシスをスキャンしていく。

 

「……ん?」

「……ハジメ?」

「中央の底……何かある……領主さん、調査チームだけどオアシスの底について

何か言ってなかったか?」

 

ハジメの疑問にランズィが答えていく。

 

「いや、オアシスの底まではまだ手が回っていない……地下水脈については

異常は見つからなかったそうだが」

「じゃあオアシスの底に、何かアーティファクトでも沈めてあるとか?

警備とか管理のためとかで」

「いや、この光のドーム、正式名は"真意の裁断"と呼ぶのだが……には警備機能も

備わっている、これまではそれで事足りていたのだ」

 

「……だとすれば」

 

ハジメは、オアシスのすぐ近くまで来ると"宝物庫"から、

五百ミリリットルのペットボトルのような形の金属塊を取り出し直接魔力を注ぎ込むと、

それを無造作にオアシスへと投げ込み、暫く待って踵を返した刹那。

 

ハジメの背後で凄まじい爆発音と共に巨大な水柱が噴き上がった。

 

「やったか……いや」

 

ハジメは口惜し気に呟くと、今度は十個くらい同じものを取り出し、

ポイポイとオアシスに投げ込もうとして……先にランズィに了解を取る。

 

「オアシスの底に魔物が潜んでる、燻り出すのにさっきのようなかなり手荒な方法を

取らないといけない……構わないか?」

「魔物だと!そのような……」

「この光のバリア、多分地下まではカバーできないんじゃないのか?

それよりどうする?もし他の手を使うなら暫く考える時間が欲しいが」

 

この美しきオアシスの環境や景観を出来る事なら壊したくはない。

ハジメとてそういう思いはある、一瞬沈黙するランズィだったが。

 

「事は一刻を争う……背に腹は代えられん……許可しよう」

 

呻くような口調でハジメに許可を出す。

そしてそんな領主の判断にハジメはペコリと頭を軽く下げると、そこからは躊躇うことなく、

次々とペットボトルを、【メルジーネ海底遺跡】攻略用に開発した魚雷を投下していく。

 

「あぁ! 桟橋が吹き飛んだぞ! 魚達の肉片がぁ! オアシスが赤く染まっていくぅ!」

「威力はこんなもんとして、追尾性と速度は要改良か……」

 

ランズィの悲鳴を尻目に、ごく冷静に赤く染まった水面を見つめるハジメ。

ハジメとて少しは心が痛んでいるのだ、しかし許可が下りた以上はテッテーテキにやるだけだ。

 

「よし、さらに五十個追加だ」

 

そんなハジメの独り言が聞こえたか聞こえないか、ランズィがさらなる悲鳴を上げた時だった。

 

シュバ!

 

風を切り裂く勢いで無数の水が触手となってハジメ達に襲いかかった。

咄嗟に、ハジメはドンナー・シュラークで迎撃し水の触手を弾き飛ばす。

ユエは氷結させて、ティオは炎で即座に蒸発させて防ぐ。

 

そして彼らの目前で、水面が突如盛り上がったかと思うと、

重力に逆らってそのまませり上がっていく。

 

「散々環境破壊させやがって、覚悟しろ」

 

オアシスに潜む魔物の正体、それは無数の触手をくねらせ、赤く輝く魔石を持つ、

十メートル近い小山のごときスライムだった。

 

「なんだ……この魔物は一体何なんだ?バチェラム……なのか?」

「なんでもいいさ、それよりあんまりこっち来ないほうがいい」

 

怒り心頭、といった風に、触手攻撃をしてくるオアシスバチュラム。

ハジメ。ユエ、ティオはそれぞれのやり方で対処しつつ、

核と思われる赤い魔石を狙うが、魔石はまるで意思を持っているかのように、

縦横無尽に体内を動き回り、中々狙いをつけさせない。

 

「めんどいな……おい」

「待ってました!私にまかせて!石になっちゃいなさい!」

 

メドゥーサの瞳が輝く、と、バチュラムは抵抗の余地すら許されず、

あっという間に石と化してしまう。

そしてハジメは悠々と巨大な漬物石を思わせるバチュラムの中心に位置する

魔石を撃ち抜くのであった。

 

魔石を砕かれ、完全にその構成する魔力が失われたことを確認すると、

メドゥーサは、かつてバチュラムだった漬物石の石化を解いてやる。

と、同時にドザァー! と大量の水が周囲に降り注ぎ、オアシスは激しく波立っていく。

 

「……終わったのかね?」

 

まるで狐につままれたような表情でランズィはハジメへと尋ねる。

 

「ああ、もう、オアシスに魔力反応はないな、ただ原因を排除した事イコール

浄化と言えるのかは、まだ分からないが」

 

慌ててランズィの部下の一人が水質の鑑定を行う。

 

「……どうだ?」

「……いえ、汚染されたままです」

 

やはり元凶である、オアシスバチュラムを倒しても一度汚染された水は残るという事実に

部下は落胆した様子で首を振った、もっとも予想自体は出来ていたのかもしれないが。

 

「まぁ、そう気を落とすでない、元凶がいなくなった以上、これ以上汚染が進むことはない、

新鮮な水は地下水脈からいくらでも湧き出るのじゃから、上手く汚染水を排出してやれば、

そう遠くないうちに元のオアシスを取り戻せよう」

 

そんなティオの言葉に、ランズィら元気を取り戻し、やるぞ諸君!やりましょう領主様!

などと威勢のいい声が聞こえ始める、そんな彼らの姿からは、領主一族への忠誠心と、

そして揺ぎ無き愛国心が伝わってくる。

 

「……しかし、あのバチュラムらしき魔物は一体なんだったのか……

新種の魔物が地下水脈から流れ込みでもしたのだろうか?」

「おそらくだが……魔人族の仕業じゃないかと俺は思う」

 

ハジメは、その特異性から見て、オアシスバチュラムが魔人族の神代魔法によって

造り出された新たな魔物だと推測していた。

 

「!?魔人族だと?ハジメ殿、貴殿がそう言うからには思い当たる事があるのだな?」

「ああ、色々あってな」

 

ハジメはウルの街とオルクスで起きた出来事をかいつまんでランズィに語る。

 

「かの豊穣の女神様までも狙われるとは……」

「ここアンカジは交易と食料供給の要所だ、魔人族としては潰しておきたい拠点だろうな」

 

ハジメの言葉に苦り切った表情を見せるランズィ。

 

「魔人族が近年攻勢を強めていること、そして新種の魔物のことは聞き及んでいる、

こちらでも独自に調査はしていたが……よもや、あんなものまで使役できるようになっているとは

……見通しが甘かったか」

「それは仕方ないんじゃないか? 王都でも新種の魔物なんて情報は

"いるだろう"程度の話だったしな、なにせ、勇者一行が襲われたのも、つい最近だ

今頃、あちこちで大騒ぎだろうよ」

「いよいよ、本格的に動き出したということか……」

 

遠い目をして考え込むランズィ、しかしその眼光は領主として国民を、

迫る困難から何としてでも守るという決意の光に満ちていた、しかしそれよりも今は。

 

「ハジメ殿、ユエ殿、ティオ殿、メドゥーサ殿、

アンカジ公国領主ランズィ・フォウワード・ゼンゲンは、国を代表して礼を言う、

この国は貴殿等に救われた」

 

そう言うと、ランズィを含め彼等の部下達も深々と頭を下げた。

まさかここまで一国の長に、ストレートに感謝の意を見せられるとは思わず、

また、普段から感謝された経験が少ないがゆえに、何と返していいものかと、

言葉をぐるぐると巡らせるハジメだったが。

 

「へっへーん!どう!たっぷり感謝して恩に着なさいよね!」

「コラッ!失礼だぞメド子!」

 

必死で考えてる最中に耳に飛び込んできた、清々しいまでに恩着せがましい言葉に、

慌ててメドゥーサを嗜めるハジメだが、一方のランズィは愉快そうな笑いを浮かべ頷く。

 

「ああ、もちろんだ、末代まで覚えているとも」

 

政治家として、あるいは貴族として、腹の探り合いが日常であるランズィに取っては、

むしろメドゥーサの率直な態度が却って意に沿ったのかもしれない。

しかしハジメにとっては、そういう人情の機敏という物について、まだまだ疎いようだった。

 

(考えるだけ……だったのか?難しいよな……色々と)

 

「……だが、アンカジには未だ苦しんでいる患者達が大勢いる……それも、頼めるかね?」

 

 

一方の医療院では香織を中心としたメンバーたちが、獅子奮迅の活躍を見せていた。

まずは香織が重症患者から魔力を一斉に抜き取っては、その魔力を魔晶石にストックし、

半径十メートル以内に集めた患者の病の進行を一斉に遅らせ、

同時に衰弱を回復させるよう回復魔法も行使する。

症状が治まったところでジータが経口ワクチンを接種させ、再発を防ぐという段取りだ。

 

ジータは順調に稼働するポーションメイカーの前で用意して貰った小型の盃に、

試験管の液体を注いでいく、試験管一本で数十人分の経口ワクチンを賄える計算だ。

とはいえど、アンカジの国民全体に行き渡るようになるまでは、相応の時間が必要だ。

 

「重症者の後は、ワクチンの接種は医療関係者を最優先とさせて頂きますね」

 

さらにワクチンの効果には限りがある。

試薬の色の感じを見る限り、二月ほどは持ちそうだが……。

 

そして医療院の外では本来非力な筈の兎人族の少女であるシアが、各収容施設を巡っては、

馬車に詰めた患者たちをその強力で以って馬車ごと持ち上げて、

香織らの元へと運んでくるという、豪快にしてありえない光景が展開されていた。

 

医療院の職員達も上級魔法を連発したり、複数の回復魔法を当たり前のように、

同時行使する香織や、治療薬を次々と生産していくジータの姿に、

驚愕を通り越すと同時に、深い尊敬の念を抱いたようで、

今や、全員が一丸となって患者達の治療に当たっていた。

 

そして彼らの元にハジメらを伴って現れたランズィの口から、

水の確保と元凶の排除がなされた事が大声で伝えられると、一斉に歓声が上がった。

多くの人が亡くなり、砂漠の真ん中で安全な水も確保できず、

絶望に包まれていた人達が笑顔を取り戻し始め、感極まった何人かがハジメに握手を求めてくる。

 

そして、戸惑いつつも握手に応じるハジメの姿を、

ジータは微笑ましくも誇らしい思いを抱きながら見つめていた。

 

(怖がられるより感謝される方がずっといいもんね)

 

「香織、これから【グリューエン大火山】に挑もうと思うんだが、ここにいる患者たちは

どれくらい持ちそうだ?」

「うん、ジータちゃんのお薬もあるし、ハジメくんたちが行って帰って来れるだけの

時間は充分にあるよ、それでも……」

 

香織はハジメへと明確な決意をもって伝える。

 

「やっぱり私はここに残って患者さんたちの治療をするよ、静因石をお願い

貴重な鉱物らしいけど……大量に必要だからハジメくんじゃなきゃだめだと思う」

「分かってる、ここまでやったんだ、だったらな」

 

あくまでも自分たちの目的はクラスの皆で故郷に帰る方法を見つけること、

それは変わりはないが、目的に固執し、結果、救えるものも救わなかったのなら、

例え無事帰れたとしても、生涯釈然としないモヤモヤを抱えて生きることになるだろう。

 

(出来る時に"良いこと"をやっておかないとな)

 

後悔覚悟で救える何かを見捨てる……そんな時も訪れるかもしれないのだ、だったら。

 

「ジータちゃん、ミュウちゃんも私が見て置くから、ハジメくんをお願い」

「う……うん」

 

しかし……ジータはすでに香織の足元がふらつきつつあるのを見逃さなかった。

何事にも一途で懸命な彼女の性格をジータは良く知っている。

このままここに残して置けば、逆に香織の方が倒れてしまうだろう。

そんなことになってしまえば自分たちだけではなく、アンカジの人々にとっても、

後味の悪い思いを残してしまうことになりかねない。

 

いっそ自分が……と、ジータが思いを巡らした所で、精神に直接呼びかける声が届く。

 

『皆よく頑張ったわ、ここから先は任せなさい』

「いいんですか?」

『ほんのご褒美みたいなものよ、気にしないで』

 

その言葉を聞き終わるか終わらないかの間に光が走り、ガブリエルが姿を現す、

例によってクラシカルなナース服の姿で。

 

「ですけど……」

 

やや戸惑い気味のジータ、次の目的地【グリューエン大火山】は灼熱の地だ、

出来れば彼女の加護を受けたい所だが。

 

「大丈夫よ、これはあくまでも写し身、本当に危ないと思ったらいつでも呼びなさい」

 

確かに、いつもの彼女が纏う圧倒的なまでの神聖な気が、今のその身体からはあまり感じられない。

 

「ミュウちゃんの面倒も私が見て置いてあげるわ」

 

そのミュウはママとおんなじ匂いがすると、早くもガブリエルの豊かな胸に顔を埋めている。

そんなミュウを抱いたまま、追いつかなきゃねと、香織の耳元で囁きその肩を叩くのも忘れない。

どうやらそれも目的の一つだったようだ。

 

「アンタ、理由を付けてナース服着たいだけなんじゃないの……」

 

という、メドゥーサの声は笑って無視して、次いでガブリエルは、

まだ歓喜の輪の中にいる、ハジメの姿をジータと共に目を細め見つめる。

 

「まだまだ荒っぽくって……すいません」

 

あのオアシスでの雷撃の音はここまで聞こえてきていた。

 

「それでもきっとハジメちゃんの未来は変わりつつあるって、私は信じてます」

 

確かに今の彼の、南雲ハジメの生き方は、彼本来の進む筈の未来とは少し異なりつつある。

しかしその結果、戦って勝つほどに、より大きく深刻な壁が、

立ち塞がることになるのかもしれない、と、ガブリエルは思わずにはいられない、

それでも。

 

(魔王と畏れられるよりずっといい筈よ)

 

そう、平和的なインテリジェンスを喪失した人間は、どれほど強く賢くとも、

いずれ大切な何かを失ってしまうのが常なのだから。

 

 





次回から大火山編、香織が同行することで展開がどう変わるか…… 
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