オルクスにそろそろ向かわないと…ううう古戦場までに間に合うのか
なんだ?こんなじゃまっすぐ飛ばねぇぞ
オイ、敵じゃなくテメェの手を吹き飛ばしたいのか!
ハジメの作る試作品に次々とダメ出しをするカリオストロ、
夜更けの工房内で怒声が響く。
「カリオストロさんが作ればいいのに」
背後の声に言い返すカリオストロ。
「アホか?オレ自身今後どうなるのかわからねぇのにか?
最悪数秒後にこの世界からサヨナラバイバイするかもしれねぇんだぞ」
「もしオレがいなくなって、さぁ作れと言われて出来なきゃ
どうなると思ってる?だから!」
カリオストロはハジメの肩をポンと叩く。
「オレ様は教えるのみだ、作るのはあくまでも南雲ハジメでなきゃならねぇ」
「そもそもこういうのは基本専門外だ、ま、オレ様は天才だからなんでも出来るが」
「でもあの薬は…」
「ありゃ特別だ、それにあんなもん知ってて道具と材料がありゃ
誰でもつくれるわ、事実作ったのは」
コイツだとカリオストロはハジメの髪をもしゃもしゃと撫でる。
クククと不敵に笑うその顔は今にも唆るぜこれはと言い出しかねない。
色々あった講義初日が幕を閉じた夜。
ジータとハジメを前になるほどなるほどとカリオストロは頷く。
ちなみにポケットの中には皆から貰ったお菓子が大量に入っている。
そう、見事な擬態を以って目の前の錬金術師は、
完璧な美少女を演じて見せたのだった。
(女は顔…結局顔なの…ううう)
かの女神の言葉を思い出しジータは頭を抱える。
「ジータ、お前さんの願い、このカリオストロ様が確かに聞き届けてやるぜ
で、コイツを鍛えりゃいいんだな」
カリオストロはハジメの顔を見る。
(……)
ふと遠い目をするカリオストロ、自分がまだ正真正銘の人間だった頃をだろうか?
(やっぱり似てやがる、参ったな)
ポリポリと頭を掻くカリオストロ…こいつはなにか贈り物をしてやらないとな。
「南雲ハジメだったか、たった今からおめぇはこの天才美少女錬金術師カリオストロ様の弟子だ」
ハジメの顔が明るくなる、この地に降り立って初めて見せる顔に、ジータも胸を撫でおろす。
「でもね!与えるのは知識だけ!技は自分で磨こ!」
強く頷くハジメ。
「じゃあ!まずは鉱石からステキなものの作り方教えてあげる、
カリオストロちゃんからのお祝いだよっ♪」
何を?と聞き返すハジメにカリオストロは天使の笑顔で応じる。
「オクスリ♪」
え?石から?一瞬ハジメは耳を疑った、が、カリオストロは続ける。
「まずはこの石砕いてーそれからこことここの光ってるトコ
取り出してーくっつけてもらおっかなー」
カリオストロの懸念はここが、
石が泳いで木の葉が沈むようなことがまかり通る
法則そのものがワヤな世界である可能性だった。
もしそうならば自分は役にたたない。
ただ美少女の擬態が得意なユカイな生き物になりさがる。
だから美少女の外見を最大限利用した必殺ねぇねぇなぜなにビームで、
召喚されたこの一日、ありとあらゆる質問と観察を繰り返した。
幸いにもこの世界はどうやらそうではなさそうだ。
違うといえば違うが己の培った知識のその殆どは
適用・応用可能だと判断できた。
ともかくオクスリこと我々筆者の世界で言うサルファ剤にも似た万能薬は、
カリオストロの知識とハジメの技術で滞りなく完成した。
ありふれた鉱石から薬が生産できるということ、
そしてその一翼を担ったのが、無能と思われていた
錬成師というありふれた職業の少年だった、
これはインパクトが十分すぎる。
その功あってハジメたちは訓練を事実上免除され、
工房を一つ自由に使えるようになったのである。
そして口では厳しいがハジメの物造りの才能に、
カリオストロは内心舌を巻いていた。
「辿り着けるかもしれねぇな…お前なら」
「え?何が」
「うるせえ、ハジメ、おまえは集中しろ」
「と、しゃべりすぎたな、おい、喉乾いた…茶ァ貰ってこい」
え?おれが…とまた背後から声。
「お前以外ダレがいるんだ?」
「お願い、遠藤くん」
「はい♪」
ジータのお願いに先ほどの不満げな声はどこにやら
嬉々としてパシリを買って出る遠藤。
何故遠藤がここにいるのか…それは。
深夜の庭園。
「ウロボロス!」
カリオストロの叫びに呼応して魔法陣が傍らの空間に展開されるが数瞬で掻き消える。
「チッ…やはりダメか」
召喚モードに縛られるのは仕方がない、だが術者の力が弱すぎる。
せめて天之河、あるいは白崎レベルの魔力が、
あの二人に備わってさえいれば…
(暴れられるのはせいぜい数分、全力なら一分も持たねぇ、
戦力…としては難しいか)
だが力が無くとも知識でならいくらでも貢献は出来るのは実証済みだ。
しかし季節がいつなのかは知らないが夜は冷える、
もよおしてきた、ここからトイレは遠い…か、
カリオストロはキョロキョロと周囲を見回し、誰もいないことを確認する。
「生やすか…」
見た目は美少女、中身は悠久の時を生きるジジイ。
それがカリオストロ、通称カリおっさんの正体だった。
彼女…正確には彼はホムンクルスの肉体に己の魂を移植することで、
疑似的な不老不死を実現しているのだ。
もっとも千年以上に渡る封印の影響で全盛期の能力の殆どを喪失してはいたが。
木陰に入ると特製ボディの"ごく一部"を変化させ、
そのままスカートごとパンツを降ろして、
ちょろちょろと用を足すカリオストロだったが。
「あ…」
「……」
いつの間にだろうか、自分の隣に一人の少年が驚愕の表情で立ちすくんでいた。
まったく気配を感じさせることなく…。
そして少年の視界には、カリオストロの…女の子には決してあってはならない
"ごく一部"がはっきりと写っていた。
「見たな…」
「ひぃ!」
カリオストロの凶眼を目の当たりにして言葉も出ずに立ちすくむ少年。
逃げなきゃいけないのにまるで石になったように身体が動かない。
「みみみみ…見てっ、見て…ないっ」
必死で言葉を絞りだす少年。
その様が妙に新鮮に思えて少し楽しくなってくるカリオストロ。
「レディのお花摘みを覗くなんてぇ~お兄ちゃんのえっちぃ~」
「レディってアンタっ…おと…」
「やっぱり見てたじゃねぇか!」
少年の胸倉を掴んで凄むカリオストロ。
「おおお…俺眠れないから夜風に当たってたんだ!それをアンタが目の前で
自分からいきなりスカートを…」
「何テメェ人の事、痴女みたいに言ってるんだ、アァ!」
「まぁいいさ、オレ様があの天之河のガキにお兄ちゃん~カリオストロぉ、
このお兄ちゃんにお花摘みを覗かれちゃったのぉ、とでもチクりゃ
それでお前の人生は終わる…あばよ、名も知らぬガキよ」
酷い、酷すぎる、何が酷いかというとカリオストロ本人は別にバレても、
大して困らないと思っているところだ。
むしろ勇者がこの秘密を知ったら何を謳うか知りたい。
「隠れるつもりも覗くつもりも無かったんだよぉ、俺は普通に歩いてただけなんだよぉー」
「普通に歩いててオレ様が気がつかねぇ筈ないだろうが!嘘も休み休み言え!」
「ホントなんだよぉ、聞いてくれぇ」
遠藤浩介と名乗るその少年はいかに自分が影の薄い存在として
扱われていたかを切々と訴えかける。
「最近は自動ドアすら三回に一回しか開いてくれねぇんだよ
つまり俺はもうすぐ機械にまで見捨てられる男なんだぁ!ううううう」
遠藤の嘆きを聞きながらため息を付くカリオストロ。
「…難儀な人生だな、お前も」
それでもやっぱり覗きとか泥棒とかやり放題じゃないかと思ってしまう。
「あーもう」
分かった行けよと追い払おうとして考える。
(…待てよ)
この怯えようからして無罪放免にしてやると却って疑心暗鬼に陥りそうだ。
なら…
「このことをチクられたくなきゃ、オレ様の言うことを聞け」
「な…何を」
「簡単だ、ハジメとジータ、それからオレ様の手伝いをしろ」
「え…でも俺、訓練が」
「空き時間でいい…ちゃんと二人きりの時間作ってやるからよ
あーでも…ジータっていいよな」
強張った遠藤の表情が少し変化する。
カリオストロは続ける。
「あの白崎や八重樫と違って頑張ればワンチャンって思わせるオーラがあるよな」
遠藤の目がびくりと動く。
「でも…」
「ハジメとあいつの関係は家族みたいなもんだ…今んとこは」
逆を言えばジータとそういう仲になるということは、
ハジメとも深く関わることになるということだ。
ハジメが普段からどういう扱いを受けていたかはジータから聞いている。
事実、南雲が凄いんじゃねぇ、蒼野が呼んできたあのガキのお陰だろうがと
檜山とかいう連中が陰口を聞いているのを耳にしたことがある。
彼も関与こそしてなかったのだろうが、やはり蟠りがあるのだろう。
遠藤は俯き加減で唇を噛みしめている。
その表情は嫉妬や侮りもあったのかもしれないが、
見て見ぬ振りを心の中で恥じていた証とカリオストロは見て取った。
「……」
「オレ様に脅されて仕方なくやるんだ…それでいいだろ今は」
「それに仲直りのいい機会だよ!お兄ちゃんっ♪」
「プッ」
いきなりの口調の変化に思わず吹き出す遠藤。
決まりだな行くぜと右手を差し出すカリオストロだが、その手は空を切る。
「申し訳ないですけど、俺ここです」
自分の左側から遠藤の声がした。
「あ…テヘ♪カリオストロちゃん失敗しちゃった」
ともかく
「オイ、ハジメぇ、人手連れてきてやったぞ!」
こうして遠藤浩介が仲間に加わった。
サルファ剤のくだりを書くかどうかは悩みました
でも鉱物繋がりということでひとつ。
あと"ごく一部"はやはりやり過ぎでしょうか?