ありふれた錬成師と空の少女で世界最強【完結】   作:傘ンドラ

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グリューエンに突入開始です。


灼熱の因縁

【グリューエン大火山】

 

それは、アンカジ公国より北方に進んだ先、約百キロメートルの位置に存在している。

見た目は、直径約五キロメートル、標高三千メートル程の巨石だ。

普通の成層火山のような円錐状の山ではなく、

いわゆる溶岩円頂丘のように平べったい形をしており、

 

「山というより巨大な丘?エアーズロックみたいだったかな?」

 

王宮の図書館にあった絵を思い出すジータ。

 

「あっちよりずっとバカでかいけどな!」

 

この【グリューエン大火山】は、七大迷宮の一つとして周知されているが、

【オルクス大迷宮】のように、冒険者が頻繁に訪れるということはない。

それは人里から隔絶された砂漠の奥地にあるということや、【オルクス大迷宮】の魔物と違い、

内部の危険性の割りに、良質な魔石を回収できないということもあるが。

一番の理由は……。

 

「まるで竜の巣、ラ〇ュタみたいだね、ハジメくん」

「……ラピュタ?」

 

得意げな香織と、自分の知らないことをまた……と、不満気なユエの顔を、

交互に見比べ、肩を竦ませるハジメ。

 

そう、【グリューエン大火山】は、壁の如く渦巻く巨大な砂嵐に包まれているのだ。

まさしく天空の城を包み込む巨大積乱雲のように。

 

「風の魔力が満ちているわ……ナマイキ」

 

砂嵐を一瞥し、吐き捨てるとメドゥーサは車内の奥で縮こまる。

土属性の彼女にとって風属性は苦手……失礼、あまり相手にしたくない属性なのだそうだ。

 

「ここを歩きで抜けてく人もいるんですねぇ」

「流石の妾もためらうの」

 

そんなシアとティオの声を聞き流しつつ、ハジメはそれじゃ行くかと

四輪のアクセルを勢いよく踏み込む。

四輪備え付けの魔眼石カーナビが、障害物の有無を教えてくれる。

このまま真っすぐ突っ切れば、火山までは何の障害もなく辿り着ける筈だ。

 

「急ごう、アンカジの人たちが待ってる」

 

所詮行きずりだろう?どうしてそこまでやる?という気持ちがないわけではない。

だが、背負うと決めたからには途中で投げ出したくはなかった。

 

「それだけだよ」

 

そんなハジメの声は、すぐに嵐の轟音に掻き消され、少女たちに耳に届くことはなかった。

 

 

砂嵐のみならず、大量の魔物たちの襲撃をも受けつつ、これを一蹴し

なんとか火山内部へと突入したハジメたちだったが。

その内部はマグマの赤に彩られたまさに灼熱地獄だった。

 

しかもそのマグマに紛れ、魔物たちが次々と間断なく奇襲を仕掛けてくる。

そして、なにより厄介なのは、刻一刻と増していき、否応なく集中力を削っていく暑さだ。

 

「流石にこの暑さはヤバイ、もっといい冷房系のアーティファクトを揃えておくんだった……」

「そんな黒い服着てるからよ」

 

魔法少女を思わせる、ウォーロック姿のジータが帽子を脱いで額の汗を拭う。

 

「ホラ暫く休みなさい……アタシとティオが見といてあげるから」

「ああ……すまない」

 

暑さには強いと豪語していたティオ程ではないが、

灼熱の砂漠の中でも平然としていただけあって、メドゥーサもハジメらに比べると

まだまだ余裕といった風だ。

 

ともかく、ハジメらは錬成で横穴を作り、その中に避難すると、

ユエに氷塊を作って貰って、その中で暫しの休息を取る。

 

「バルツ公国みたいね」

 

天井付近を流れるマグマを眺めながら誰ともなしに話し出すメドゥーサ。

 

「そのバルツって?どんなところなの」

「炎と鋼の国よ……火山の炎を利用した製鉄、製鋼が盛んなの」

 

それは理に適ってる、と思う一同。

 

「きっとハジメなら気に入ると思うわ、工廠が一杯あってね、巨大ロボみたいの

だって作ってるトコ……か……勘違いしないでよね!同じ景色ばっかりでっ、

退屈してただけなんだから!」

「はいはい」

 

ジータは微笑みながら、うねうね動くメドゥーサの髪を梳いてやる。

 

「同じ景色……ねぇ、ん?」

 

怪訝な目付きで周囲に目を凝らすハジメ、同じ景色と言われて意識することで、

マグマの流れに違和感があることに気が付いたのだ。

具体的には、岩などで流れを邪魔されているわけでもないのに、

大きく流れが変わっていたり、何もないのに流れが急激に遅くなっていたりといった……。

 

ささいなこととはいえど、暑さと奇襲の対応に追われ、全く気にも留めてなかった。

やや反省しつつ、ハジメはその不自然なマグマの流れの辺りに"鉱物系探査"を

行ってみる、何気なく、すると。

 

「お宝発見、だぜ」

 

変わり映えしない景色の中、マグマに紛れ大量の静因石が埋蔵されている箇所を、

ハジメの瞳はしっかりと捉えていた。

 

 

そして暫し時間は経過し、彼らは大火山のさらなる深層、おそらく五十層くらいか?

の、マグマの大河の上を、赤銅色の岩石で出来た小舟に乗って漂流する憂き目にあっていた。

 

「少し欲張り過ぎたね」

「全くだ、申し訳ない」

 

ペコリと頭を下げるハジメ、ジータの言う通り、静因石の回収に夢中になりすぎて、

周囲の環境への注意が散漫になっていた。

大量の静因石が埋まった鉱脈を見つけ出したはいいが、静因石がマグマの流れを、

阻む作用があるという、肝心なことをすっかり失念してしまっており。

結果、鉱脈の中の静因石を全て取り除いた瞬間、

間欠泉の如くマグマが勢いよくハジメの足元から噴き出したのだった。

 

咄嗟に飛び退いたハジメだったが、噴き出すマグマの勢いは激しく、

まさしく濁流のごとく、唸りを上げてハジメたちを取り囲んでいく。

 

ユエが障壁を張って凌いでいる間に、ハジメが錬成で小舟を作り出し、

それに乗って一同は泡を喰いつつも何とか脱出する。

小舟は、直ぐに灼熱のマグマに熱せられたが、ハジメが"金剛"の派生"付与強化"により,

小舟に金剛をかけたので問題はなかった。

 

こうしてマグマの激流の中を時に必死で舵を取り、また時には魔物の襲撃を退け、

なんとか現在一息を着けている、といった状況だった。

 

「そろそろ、標高的には麓辺りじゃ、何かあるかもしれんぞ?」

「ああ……マグマの流れも怪しくなってきてるしな」

 

ティオの言葉を裏付けるかのように、今まで下り続けていたマグマが、

突然上方へと向かい始める、ここまでの熱気とは別の空気が混じりつつあるのを

幾人かは敏感に感じ取る。

 

「「「「掴まれ!」」」」

 

誰彼ともなく叫んだ号令に、小舟にしがみつくハジメたち。

小舟は、まるでブランコから勢いよく飛び降りた子供のように、

放物線を描いて、洞窟の外へと放り出された。

 

少し懐かしい感覚を覚えながら、ハジメは素早く周囲の状況を把握する。

そこはさらなる深紅に彩られたマグマの大海だった。

何とか落ち着ける足場はないか……なおも周囲を見渡すハジメの視界に、

マグマの海のほぼ中央、小さな島が映る―――マグマのドームで覆われた。

 

「……あそこが住処?」

 

小舟の姿勢を魔法で調整しながらユエが呟く。

 

「階層の深さ的にも、そう考えるのが妥当だろうな……だが、そうなると……」

「最後のガーディアンがいるはず……じゃな? ご主人様よ」

「ショートカットして来たっぽいですし、とっくに通り過ぎたと考えてはダメですか?」

「本気で言ってる?シアちゃん」

 

大迷宮の最終試練までショートカット出来たと考えるのは虫が良すぎるというもの。

ジータの言葉に、シアは鋭い視線で答えを返す、

ライセンで散々な目にあったことを忘れていない目だ。

 

「来たよ!ハジメくんっ!」

 

香織の叫びと時を同じくして、マグマの海や頭上のマグマの川から、

マシンガンのごとく炎塊が撃ち放たれる。

 

「みんな逃げろっ!」

 

ハジメの声と同時に小舟から飛びのく一同、やや反応が遅れた香織の襟元を掴んで

ジータが飛んだ瞬間、凄まじい物量の炎塊が一瞬前までハジメ達がいた小舟を

粉砕し、マグマの海へと沈めていく。

 

「ごめんね、ジータちゃん、みんな」

「いいのよ」

 

ジータの背中にしがみ付いたまま、バツの悪い表情を見せる香織、

やはりステータスが他のメンバーに比べて低いことを、気にしているのだろう。

アンカジに残るといったのも、もしかするとそれも理由だったのかもしれない。

 

「今更気にするなんて、香織ちゃんらしくないよ」

「だよね、ゴメン」

 

その一方で炎塊を迎撃しつつ、メドゥーサがその場で即席の足場を作っていくが、

それもすぐにマグマによって埋没してしまう。

 

「キリがないわね、たく……」

「ユエ、あの場所だ、何とか出来るよな」

 

マグマのドームに囲まれた小島を示すハジメ。

 

「……んっ!"絶禍"」

 

炎塊を縫いつつ、一瞬出来た隙をついてユエは重力魔法を発動させる。

響き渡る魔法名と共にハジメたち六人の中間地点に黒く渦巻く球体が出現し、

飛び交うマグマの塊を次々と引き寄せ、呑み込んでいった。

 

「これってブラックホール?凄い」

 

ジータの背中で呟く香織、そして勝ち誇ったようなユエの顔が脳裏に過り

そんなこと考えてる場合じゃないと、慌ててぶんぶんと頭を振り、

恋敵の幻影を頭の中から消し去っていく。

 

そんな忸怩たる思いを香織が抱いているのを知ってか知らずか、

ハジメはマグマを除去され剥き出しになった中央の島へと乗り込もうとする、が、

 

"空力"で宙を走るハジメの直下から大口を開けた巨大なマグマの蛇が襲いかかる。

不意打ちを受けるような形になったが、ハジメはなんとかその顎門による攻撃を回避すると、

お返しとばかりに、ドンナーでもってマグマ蛇の頭を吹き飛ばす。

 

しかしマグマ蛇はまるでハジメの足跡を追うように次々と飛び出し、

聖域への侵入者を喰いちぎらんとばかりに牙を剥いてくる。

マグマの海から長い蛇身が生えてくる様は、どこぞの水族館のアナゴのようだと、

真上から避けながら少しだけハジメは思った。

 

(無事に帰れたら、皆で行きたいな……水族館)

 

「……ハジメ、無事?」

「ああ、問題ない、それよりようやく本命が現れたようだ」

 

それなりの広さの足場に集結したハジメら七人、彼らの眼前には、

中央の島への道を阻むかの如く、二十匹のマグマ蛇がその鎌首をもたげ、睨みつけている。

 

「やはり、中央の島が終着点のようじゃの、通りたければ我らを倒していけと

言わんばかりじゃ」

「でも、さっきハジメさんが撃った相手、普通に再生してますよ?倒せるんでしょうか?」

 

ハジメは汗でやや曇ったゴーグルを磨きながらシアに答える。

 

「おそらくマグマを形成するための核、魔石があるんだろう、

マグマが邪魔でゴーグルでも位置を特定出来ないが……それをぶち壊すしかない」

 

「単純でいいね、だったら!」

 

ジータの声と同時にマグマの海を滑るようにマグマ蛇が一斉に襲いかかる。

 

『エーテルブラスト!』

 

ジータが握る、花を模した短剣、クリスタルベルフラワーから放たれた、

地下風水光闇、六属性の閃光がマグマ蛇の頭部を次々と砕いていく。

 

「久しぶりの一撃じゃ! 存分に味わうが良い!」

 

ジータに続き、ティオもまた膨大な魔力を込めた黒色のブレスを両の手から放ち、

蛇たちを一気に消滅させる。

 

「よし!やったぞ魔石らしきものが砕けたのを確認した……?」

 

しかし、そんなハジメの言葉とは裏腹に、一度はマグマの海に散った蛇たちが

また鎌首をもたげ再生する、しかも数も二十体きっかりだ。

 

「倒すことがクリア条件じゃないのか?、だとすれば厄介だな」

 

この【グリューエン大火山】、ミレディが言うところの攻略順序では、

シュネー雪原と並び、最初の方に挙げられていた。

だからこそ、そうそう難題を課せられることはないと踏んでいたが……。

 

「ハジメさん!見て下さい!岩壁が光ってますぅ!」

「なに?」

 

中央の島に視線をやると、確かに岩壁の一部が拳大の光を放っている。

さらに"遠見"で確認すると、かなりの数の鉱石が規則正しく中央の島の岩壁に埋め込まれている。

 

(島の広さからいって鉱石は百個ほどか……そして)

 

現在、光を放っている鉱石は……先程、ジータとティオが消滅させたマグマ蛇と同数だった。

 

「なるほど……このマグマ蛇を百体倒すってのがクリア条件ってところか」

「……この暑さで、あれを百体相手にする……迷宮のコンセプトにも合ってる」

「暑さによる集中力の阻害と、その状況下での奇襲への対応……ってとこか」

 

そこから先は早かった、すでにオルクス、ライセンと、ここクリューエン以上の難所を

彼らは潜り抜けてきているのである。

事実、マグマ蛇はみるみる間にその数を減らしていく、そして。

 

「これでラスト」

 

ハジメがドンナーを構え、ユエやジータたちが試練の完遂を祝福するかのように

その雄姿を見守る中、トリガーを引き終わった瞬間だった。

 

「!!」

 

自分の背後に感じた異質な魔力に咄嗟に身を屈めると、

その肩のあたりがあった箇所を横薙ぎの刃のような一撃が通過する。

 

「上じゃっ!」

 

ハジメは何も見ず、声のする方へ全速で飛びのく、と、同時に

眩いばかりの極光が、ハジメの背後に着弾する。

あと僅かでも挙動が遅れていれば、マトモに喰らっていたに相違ない。

 

そして、その光が晴れた跡地には……。

 

「なぁ~~ぐ~~もぉ~~~久しぶりだなぁ~~へへへへ」

 

そこには黒き鎧を纏い、異形の左腕をぶら下げた男が立っていた。

ガリガリにやせ細り、その髪は白く染まっていても、

かつて教室で散々目の当たりにした下卑た眼光は、自分の方が上だと信じ切ってる、

捕食者の笑いは忘れようとしても忘れられる筈もなかった。

 

「ここで会ったが百年目、てなっ」

「檜山……ッ!」

 

思わぬ再会にハジメといえど、驚きの声を上げずにはいられない、

その後頭部にティオの豊満な乳房の感覚を味わいつつも。




ここでまさかの檜山登場。
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