ありふれた錬成師と空の少女で世界最強【完結】   作:傘ンドラ

73 / 173
これにてグリューエン大火山、クリアです。

おや!?香織のようすが……。


炎と水の脱出行

 

「……えらい目にあったな」

 

ごろりと寝転び、【グリューエン大火山】攻略の証であるペンダントを、

自身の目の前で揺らすハジメ。

 

「人の未来が、自由な意思のもとにあらんことを切に願う……か」

 

習得のための魔法陣以外、一切の生活感のない部屋に唯一刻まれた。

遺言めいた言葉を思い起こすハジメ。

 

「すっごく寡黙な人だったってミレディさん言ってたね」

「オスカーの手記にもそう書いてたしな」

 

ミレディのアルバムのなかで、唯一笑ってる写真が一枚もなかった、

ツンツンヘアの青年の姿を思い出すジータ。

 

そこで、キッチンタイマー風の小物がアラームを鳴らす。

 

「休憩終わりっと」

 

うーんと猫のように大きく伸びをし、起き上がるハジメ、

 

空は地平の彼方まで晴れ渡り、太陽の光は燦々と降り注ぎ、

優しく頬を撫でるそよ風は何とも心地よく、そして、その目に見渡す限りの青が飛び込む。

そう、ここは大海原のど真ん中だった。

 

火山の奥底にいた筈の彼らが何故こんなところにいるのか?

 

 

要石が何者かによって破壊され、留まることを知らずに荒れ狂う炎とマグマと溶岩の中、

中央の島にあった、解放者の住居にて空間魔法を入手したものの、

すでに外は炎の海と化していることは明白だった。

この住居の中こそ炎と熱を遮断する効果があるようだが、

いつまでもこんな所に籠ってはいられない。

 

「メド子ちゃん、炎を石に出来ない?」

「出来るけど、多分勢いが違い過ぎるわ、アタシの力でも間に合わない」

「いや……その僅かの時間でいい、頼めるか」

「なんか考えあんの?」

 

ハジメに問い返すメドゥーサ、その声には怪訝さだけではなく、

期待も籠っているように思えた。

 

「ああ、マグマの中を泳いで進む」

 

「「「「「「はい!?」」」」」」

 

余りにも突拍子のないハジメの言葉に、一瞬耳を疑う一同。

ビームが掠った時にきっと……ううん、頭にダメージはなかったはずだよとか

心配しているのか、疑っているのか判断に苦しむ失礼な声を咳払いで遮ると

ハジメは改めて説明を始める。

 

「いや、ちゃんと説明するからそんな風に言わないでくれ、えっとな、実は

次のメルジーネ海底遺跡で必要になるだろうと思って作っておいた潜水艇があるんだ

金剛で覆っただけの小舟でも大丈夫だったから、マグマの中でも耐えられる筈だ

……ただ問題は」

 

部屋を見渡すハジメ。

 

「ここじゃ狭すぎてな、外じゃないと展開出来ないんだ、で」

「じゃあその潜水艇に乗り込む時間をアタシが稼げばいいのね!」

 

メドゥーサが声を弾ませる、もちろんいつもの言い訳もセットで。

 

「勘違いしないでよね!流石ハジメ!なんて思ったりなんかしてないんだからねっ!」

「はいはい、じゃあお願いね」

 

メドゥーサの髪を撫でてやりながら、ジータはハジメと視線を交わす、

と、その一瞬だけで二人は意思を疎通させ、互いに頷きあう。

その様を垣間見た香織が拳を僅かに震わせる。

 

ユエが"聖絶"を三重に重ね掛けし、七人は小声で数字をカウントし、

タイミングを合わせ。

 

「さん、に…いち、行くぞ!」

 

煮えたぎるマグマで満たされているであろう、外界への扉を開く。

瞬間、まずはジータが右手を掲げガブリエルを召喚する。

 

「チャンスは一瞬よ」

 

そんな声が聞こえたかと思うと、ガブリエルの力によりハジメたちの、

周囲のマグマが完全に収まり、その間に宝物庫からハジメは潜水艇を取り出す。

 

「ユエ!金剛を」

「……んっ」

 

強度は十分のように思えたが、念には念をと潜水艇へと出来うる限りの強化魔法を

かけていくユエ。

 

「まだ!早くしなさいよ!」

 

メドゥーサの瞳が紫の光を放つ度に、マグマや溶岩が次々と石と化していくが

その上を乗り越えるようにマグマは次々と溢れ出していく。

 

「OKだ!皆急ぐぞ!」

 

ハジメの号令に従い、次々と潜水艇の中へと乗り込んでいく仲間たち。

誰一人欠けていないことを確認し、ハジメが一息ついた時だった。

 

ドォゴォオオオ!!!

 

今までの比ではない激震が空間全体を襲った。

そして、突如、マグマが一定方向へと猛烈な勢いで流れ始める。

潜水艇は、その激流に翻弄され、中のハジメたちはミキサーにかけられたように、

上に下に右に左にと転げまわる事になった。

 

「天井に行くのは……ムリか」

 

ショートカットを利用し、脱出を目論んでいたハジメは、

なんとか操縦桿を手放さないようにしながら、苦虫を噛み潰したかのような表情で呟く。

 

「外に……出れないですかぁ!」

 

潜水艇内部の揺れはユエが"絶禍"を使うことにより収まったようだ。

早速、頭のたん瘤を摩りながら、悲鳴めいた声をシアが上げる。

 

「ああ、出口から遠ざかってやがる……どうやらすぐには外には出れないようだが

こんな所でくたばってたまるか、だからお前もそんな声あげんな」

 

それは決して気休めではない、力強いハジメの言葉に笑顔で頷くシア。

いや、シアだけではない、誰もがいかなる状況、困難であろうが

必ず活路は開ける、開いてみせるという強い意思の籠った笑顔で一様に頷く。

 

「"どこまでも"ですよ!」

 

シアの決意の声が響く中にあっても、潜水艇は灼熱の奔流に流されていく、

そして、重力石で座席を作ったり、緑光石で室内灯を改良したりと、

荒れる船内で試行錯誤しつつ、丸一日が経過した頃だった。

 

これまでで最大の衝撃が潜水艇に走る。その衝撃は凄まじく"金剛"の防御をも

貫き、潜水艇の計器が一斉にアラームを鳴らし始める。

そして、その衝撃と共に、潜水艇は猛烈な勢いで吹き飛ばされた。

 

激しい衝撃に、急いで"金剛"を張り直し、ハジメはモニターで周囲を確認する。

 

「……」

「どしたの?」

 

ジータは、やや言葉を失ったかのようなハジメの顔を覗き込む。

 

「……ここ、海の中だ」

「へ?」

 

やや間の抜けたような声をあげ、ジータはハジメを押しのける様にモニターを覗く、

彼女の目に入った光景は、マグマの赤とは正反対の、

猛烈な勢いで湧き上がる気泡で荒れ狂った"海"だった。

 

「水蒸気爆発ってやつだな」

「水漏れとか……大丈夫?」

「水漏れは今んとこ大丈夫だが、動力をやられちまった……魔力による直接操作に

切り替える、また噴火に巻き込まれない内に逃げるぞ」

 

その後、全長三十メートルはあると思われるクラーケンや、サメ型の魔物の大群を

何とか撃退し、一行はようやく海面へと浮上する。

そこは激闘の痕跡すら感じられない、一八〇度見渡す限りの穏やかな大海原だった。

 

「すっごい大冒険だったね」

「私、もうどんなジェットコースター乗っても泣かない自信出来た」

 

そんな言葉を漏らしながら、死屍累々と言った感の船内を振り返るジータと香織。

潜水艇の武装が尽きて以降、攻撃を一手に引き受けたユエは、

魔晶石にストックした分の魔力すら使いきり、ハジメやシアからの吸血で

なんとか凌いだものの、やはり無理がたたったか、安全圏に脱出したのを確認するや否や、

ばたんきゅーとばかりに倒れ込み、そんな彼女に限界ギリギリまで血液を提供した、

ハジメとシアも完全にダウンしており、推進のための魔力を担当したメドゥーサも、

床にへたり込んでしまっている。

 

ともかく、ジータはハッチを開けて海面に出ると、現在位置を確認すべく、

オルニスを飛ばす。

 

(確かこういう場合での陸への最短距離は4.5kmくらいだったかな?)

 

そこまで都合よくはいかないだろうが……ともかくオルニスからのデータを、

モニターで確認すると、かなりの遠方ではあるが、東に陸地が存在することが確認出来た。

 

「ここからアンカジまで飛べる?ティオさん」

 

インストールしてあったトータスの地図と、海岸線のデータを重ねながら

ジータはティオに問う。

 

「静因石と、それからミュウのことじゃな」

 

待っていた、といった口調で応じるティオ、

この役目があったがゆえに、窮地であっても彼女には待機して貰っていた。

 

「ああ、当分心配はいらないとしても、荷物は早く降ろしておきたいからな」

「そこは早く安心させてやらないとな、でしょ」

 

起きて来たハジメの背中をバシと叩くジータ。

 

「じゃあ、私もティオさんに付いていきたんだけど……」

 

その口調と表情には、少し思いつめたような、そんな雰囲気があった。

それは単にアンカジでのやり残した仕事を気にしているだけでは無さそうに思えた。

 

「さっきのことなら本当に気にしないで」

 

全快をアピールするかの如く、ぱんと自身の胸をジータは叩く。

香織の防御・回復魔法があったればこそ、ジータは超攻撃的ジョブである、

ウォーロックを担当することが出来、それが迷宮攻略、

そしてフリード戦での優位に繋がったのだ。

 

もしも香織を欠いた状況で迷宮に突入した場合、自身が防御・回復ジョブの、

スパルタ、ないしはセージを受け持つこととなり、火力面でかなりの不利を、

被ることになったのは間違いない。

 

(気にするよ……だって)

 

だが、香織が気にしているのは決して自身の戦力だけではなかった。

 

 

そしてエリセンで合流することを約束し、アンカジへと飛んだティオと香織を見送り、

暫しの日向ぼっこを楽しんだ後、ハジメは、度重なる無理を重ねた結果、

ボロボロになってしまった潜水艇の修理を再開していた。

 

そんなハジメの横顔を見守りながら、土属性の竪琴、裁考天の鳴弦を爪弾くジータは、

現在、機能優先のプロテクターに、少し野暮ったいチェックの作業服を身に纏っている。

どこか樵を思わせるその姿は、ランバージャック、

動植物の力を借りて戦うジョブの証だ。

 

その証拠に、ジータの奏でる音色に魅せられたか、イルカを思わせる海獣や、

海鳥たちが、潜水艇を守るように囲んでいる。

 

「魔物が来たら皆が教えてくれるって」

 

こうして、ぎゃあぎゃあと少々煩い海鳥たちの鳴き声をバックに、

二人は潜水艇の修理を進めていく。

思ったよりも損傷は軽く、これならば日没までには運行が可能になりそうだ。

 

「フリード・バウアーって言ったか、どう思った?」

「……あんまり話が出来る相手じゃなさそう、残念だけど次は戦うしかないね」

 

修理の手は休めずに、大火山での出来事を語り合う二人、

檜山が魔人族の中で、客人として相応の扱いを受けていたことは、

清水から聞いている。

 

(それを……あんなに簡単に)

 

やはりイシュタル同様、根底にあるのは狂信じみた信仰と、

そして選民思想なのだろうと、ジータは判断せざるを得なかった。

 

「そういや死んだかな……檜山」

「でなきゃ却ってマズイね、こうなってしまうと」

「次に会う時は……敵か」

 

檜山は空間魔法を習得している、もしも十全に使いこなせるようになったとしたら、

難敵となる可能性も考慮しないとならない。

それに……ハジメはあの時、檜山が見せた笑顔が気になってならなかった。

狂気と恐怖に歪んだ中の、何やら確信めいた笑顔を。

 

 

そう、二人の危惧した通り檜山大介は生きていた。

ただし、炎の洗礼を受けた身体は無残に焼け爛れており、

咄嗟に空間魔法を行使し、自身の灰竜の元に辿り着けなければ、

溶岩の中に生き埋めか、骨まで残らず焼き尽くされ、灰となっていただろう。

 

「ひゃ…は、はははははっ」

 

しかしながら火傷の痛みよりも、生存の、いや"秘密"を掴んだ喜びの方が大きいのだろう、

檜山は熱砂の中を転がりまわって、歓喜の哄笑をあげる。

その歪んだ笑顔はドス赤く爛れた顔と相まって、まるで猿のようだった。

 

「なぁ!天使さまよぉ!どうせ見てるんだろうぉ!」

 

硫黄の臭いが立ち込める空に向かい、檜山は叫ぶ。

 

「いーこと教えてやるぜ!ハハハ、どうもおかしいと思ってたんだ、

あの無能め、蒼野に寄生していやがった」

 

事実は真逆に近いが、今さら真実を究明する気など毛頭ない。

 

「だからよ!どっちか片方をブッ殺せば、残った方もオッ死ぬって寸法よ!

ヒャハハハ、ヒーヒーヒー、ザマァ」

 

ようやく掴んだ反撃の糸口を決して忘れまいと、何度も何度も頭の中で

ハジメとジータの身体に同時に傷が刻まれた光景をリピートさせる。

その映像に、クラスメイトらの姿も重なっていく。

そう、復讐せねばならないのはあの二人だけではない。

 

「白崎も中村も天之河も八重樫も坂上も近藤も畑山もフリードもクソガキも、みんな死んじまえ……ヒャハ」

 

猿の笑顔で叫ぶ檜山、しかしその声音は何処か自嘲的な響きを帯びていた。

所詮、自分たちは駒だ、駒が指し手に逆らえる筈もない、という。

 

(クソ神が、だったらせめて暴れてやる、テメーらの望む通り)

 

だからこそ、こうして今も自分は生きていられる、

生かして貰えてるのだと檜山は思う、

そしてそれがもしも"神"の意に沿うことがあれば……。

 

「だからよぉ!聞こえたら俺だけ助けてくれぇ!汚名は必ず"挽回"すっからよぉ

……ハ、ハハハ……ちくしょう!」

 

哄笑はいつの間にか嗚咽へと変わっていた、こんな身体で生き永らえて、

もはや何になるのか?

しかしそれでも、例えこんなバケモノじみた身体でも、彼は死にたくはなかった。

……少なくとも。

 

「南雲ぉ!お前のせいだからなぁ~テメェがくたばるまで俺は絶対に死なねぇぞぉ~~」

 

 

「香織……気持ちは分かる」

 

一方、ティオの背に乗り、アンカジへと向かう香織。

砂漠を照らす夕日はその殆どを地平線の彼方に隠し、薄闇が二人を包み込もうとしている。

 

「お主は今よりも強くなって、ご主人様の役にたちたいのじゃろ」

「……」

 

それだけではない。

香織もまた見ていた、ジータとハジメの身体に同じ傷が刻まれるところを。

そして、そのことに嫉妬と敗北感を抱いていることに。

 

「方法はある……が、じゃが、お主の望む形では、おそらくご主人様の傍には

いられなくなるぞ」

 

ハジメが魔物肉を喰らい、強くなったということはティオも聞いている。

聞いた時には、そのあまりの無謀さに耳を疑った。

ハジメ自身も力と引き換えに、痛みと苦しみの果てに半ば肉体が崩壊し、

現在の姿になったと聞いている。

 

それだけの重い事を、自身に想いを寄せている女が行えば、

果たして相手の男はどう思うだろうか?

 

それに少なくともティオには、ハジメが人の評価を戦力のみで判断するような男には、

思えなかった。

 

「どの道、妾の一存では決められぬ……」

「私は……ハジメくんのお嫁さんになりたい、ハジメくんの子供を産みたい

……けど」

 

このままでは戦わずして負けを認めることになってしまう。

逡巡を抱えた香織の頭の中に、ユエの言葉が甦る。

 

(在り方は一つじゃない)

 

「……なら」

 

そんな二人の目にアンカジの街の灯が近づいていくのであった。

 




色々考えましたが、当初の構想通り檜山はまだ生存させることにしました、
彼にはまだやって貰いたいことがあるので。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。