ありふれた錬成師と空の少女で世界最強【完結】   作:傘ンドラ

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分けた分の続きです。
ところでガマンって大事だと思います、し過ぎてもいけませんが。




母娘再会

 

 

「パパ、パパ、お家に帰るの!ママが待ってるの! ママに会いたいの」

「そうだな……早く、会いに行こう」

 

声弾ませるミュウとは対照的にハジメの表情はやや居心地悪げに沈んでいる。

ハジメたちは現在馬車に乗せられ、かつ、騎士たちの先導のもと、

ミュウの家へと向かっている。

ミュウいわく、ここからすぐ近くとのことだったので、

何もそこまではと、一度は断ろうとしたのだが、こちらが何か言うたびに、

信号機のように顔色を変えるサルゼ隊長を見ていると、どうにも断ることが出来なかった。

 

―――流石に楽隊に関しては丁重に断ったが。

 

「浅見〇彦の気分が少し分かったというか……」

 

その身をさらに小さく屈めるハジメ、自分が偉くないのに過剰に歓待されることが、

これほど居心地が悪いとは思わなかった。

 

(せめて桟橋くらいは、立派なのを作り直してやらないとな)

 

「ジータちゃん、さっきの兵隊さんとの話って……」

 

香織が、不安そうな小声でジータに尋ねる、その視線の先は

早くママに会いたいのぉ~と、ハジメの膝の上で大ハシャギするミュウに向けられている。

 

「うん、命に関わるようなものじゃないらしいんだけどね」

 

ジータは海人族の青年たちやサルゼらから聞いた話を、かいつまんで香織へと説明する。

 

ミュウの母親であるレミアは、はぐれたミュウを捜している途中、

怪しげな男たちに暴行を受け、一命は取り留めたものの、足の神経をやられ

歩くことも泳ぐことも出来ない状態になってしまっているのだそうだ。

 

「精神の方もかなり参ってしまっているみたい、でも、そっちは

ミュウちゃんが戻れば大丈夫なはずだから、後はケガの方を~」

「私にやらせて!ジータちゃん」

「え……あ、うん、お願い」

 

やはり大火山の時から、香織は少し変わったような気がする。

普段から前のめりなのは、よく知ってるが……。

 

(何か焦ってる?香織ちゃん)

 

そんな会話をしていると、通りの先で数人の男女が何やら騒いでる声が聞こえてくる。

 

「レミア、落ち着くんだ!その足じゃ無理だ!」

「そうだよ、レミアちゃん、ミュウちゃんならもうこっちに向かってるって兵隊さんたちが」

「いやよ!ミュウが帰ってきたのでしょう!?なら、私が行かないと!

迎えに行ってあげないと!」

 

どうやら、家を飛び出そうとしている女性を、数人の男女が抑えているようである。

おそらく、知り合いがミュウの帰還を母親に伝えたのだろう。

 

そのレミアと呼ばれた女性の必死な声が響くと、ミュウが顔をパァア!と輝かせた。

そして、玄関口で倒れ込んでいる二十代半ば程の女性に向かって、

馬車から飛び出……そうとする前に、ハジメがその襟元を掴む。

 

「さっき怒られたこと、もう忘れたのか?」

「あ……ごめんなさい」

 

今度はちゃんと馬車が完全に止まったのを確認してから、飛び降りると、

ミュウは精一杯大きな声で呼びかけながら駆け出し。

 

「ママーー!!」

「ッ!?ミュウ!?ミュウ!」

 

未だ倒れ込んだままのレミアの胸元へ満面の笑顔で飛び込んだのであった。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい……ミュウ」

「大丈夫なの、ママ、ミュウはここにいるの……だから、大丈夫なの」

「ミュウ……」

 

互いの身体を固く抱きしめ合う母娘。

レミアの目から涙が零れ落ちる、それは娘が無事だった事に対する安堵か

それとも母として娘を守れなかった事に対する不甲斐なさか。

そんな母の頭をミュウは優しく撫でる。

 

自分よりも遙かに辛い思いをしたに違いないのに、自分よりも、

母親の身を案じている、まだ四歳に過ぎないというのに。

そんな娘の確かな成長を実感すると共に、また大きく見開いた瞳から

涙を流す、もちろんこれは嬉し涙だ。

 

「これでパパ稼業からも卒業だね」

「ああ、荷物は軽いに限るってな」

「……ハジメ、もしかして少し寂しい?」

 

周囲からの温かい視線と、そして時折すすり泣く声に包まれた母娘を、

感慨深げに見守るハジメたち、とはいえまだ解決せねばならぬことがある。

 

「ママ!あし!どうしたの!」

 

ミュウがレミアの包帯でぐるぐる巻きにされた両足を見咎める。

 

「けがしたの!?いたいの!?」

 

どうやらレミアがあんまり泣くのは傷が痛むのだと、ミュウは勘違いしたようだ。

香織が待ってましたとばかりに、ミュウに微笑みかける。

 

「ミュウちゃん、大丈……」

「パパぁ!ママを助けて!ママの足が痛いの!」

 

「「「「「パパぁ!」」」」」

 

ミュウの声にあらあらと困惑を隠せないレミア、周囲の人々もザワザワと騒ぎ出す。

特に海人族、兵士問わず、男たちの様子が尋常ではない。

そして天を仰ぎ頭を抱えるハジメ、パパ稼業、留年決定の瞬間だった。

 

「じゃあ……」

「ハジメくん、私に任せて」

 

ハジメが動くより先にやはり香織が動き、今にも泣きそうなミュウへと微笑みかける。

 

「大丈夫だから、ミュウちゃん……ちゃんと治してあげるから」

「……香織お姉ちゃん」

 

ミュウの頬の涙をハンカチで拭いてやりながら、香織はレミアを家の中に入れる様、

周囲へと呼びかける。その結果男たちが俺が俺がとレミアへと殺到しそうになり、

結局ハジメがお姫様抱っこで、レミアを家へと運び入れるのであった。

 

「では見てみますね……レミアさん、足に触れますね。痛かったら言って下さい」

「は、はい?えっと、どういう状況なのかしら?」

 

レミアは治療を受けつつも、未だ混乱冷めやらぬといった風に、

キョロキョロと周囲を見渡している……無理もない話ではあるが。

 

「香織、どうだ?」

「……大丈夫、治るよ、三日ほどあれば」

 

香織の力強い言葉に、流れで家に上がり込んだ周囲の人々から安堵の息が漏れる。

 

「もう、歩けないと思っていましたのに……何とお礼を言えばいいか……」

 

今にも漏れそうな嗚咽を抑えるように、手で口を押さえつつも香織に礼を言うレミア。

 

「と、ところで皆さんは、ミュウとはどのような……それに、その……どうして、

ミュウは、貴方のことを"パパ"と……」

 

香織がレミアの足を治療している間、ハジメたちは事の経緯を説明していく。

無論、オークションのことなど刺激が強いであろう箇所は適当にぼやかして。

 

「本当に、何とお礼を言えばいいか……娘とこうして再会できたのは、全て皆さんのおかげです、

このご恩は一生かけてもお返しします、私に出来ることでしたら、どんなことでも……

そ、そうですわ!この街にいらっしゃる間は、どうか私どもの家をご自由にお使い下さい!」

 

この提案には流石のハジメも意表を突かれたか、しどろもどろでレミアへと聞き返す。

 

「え、い、いや、やっぱり母娘二人で水入らずの団欒が……」

 

パパ卒業を未だに諦めないハジメ、この提案に乗ってしまうと、

数日かけてゆっくりと距離を取って、バイバイするプランが頓挫してしまう。

 

「?、パパ、どこかに行くの?」

 

何かを察したかミュウがハジメのシャツの襟を掴み、上目遣いで不安気にハジメを見上げる。

その瞳を潤ませて。

 

「いずれ、旅立たれることは承知しています、ですが、だからこそ、

お別れの日までこの子のパパでいてあげて下さい、母親の身勝手な願いとは存じております

ですがどうか」

 

そんな母娘の様子を眺めていたジータだが、何か決心したかのように小さく頷く。

 

「折角だからご厚意に甘えなよ、ハジメちゃん」

「え?お……おい」

 

ジータからの思わぬ言葉に、口を詰まらせるハジメ、確か予定では……。

 

「隊長さんに用意して貰った宿は私たちが泊まるから、ね」

 

『このエリセンの街一番の宿をご用意させて頂きますっ!』

 

そう直立不動で叫ぶ隊長の顔を思いだすハジメ。

 

「それに、ちゃんとさようならしないとね、パ・パ」

 

パパの部分をジータに強調され、よせやいといった風に苦笑するハジメ。

大体、別れが名残惜しいのは自分だって否定できない。

 

「……まぁ、それもそうか……」

「うふふ、別に、お別れの日までと言わず、私たちの本当のパパになって

貰ってもいいのですよ? 先程、"一生かけて"と言ってしまいましたし……」

 

その言葉に場の空気が一変する、しかしそんなことはお構いなしに、

あらあらまあまあ的に、少し赤く染まった頬に片手を当てながら、

おっとりとした微笑みをこぼすレミア。

助けを求めるかの様に、ハジメは仲間の少女たちに目で訴えるが。

 

「!!」

 

少女たちの背後に浮かぶ般若やら竜やらの幻影?を垣間見てしまい

慌てて視線を逸らしてしまうのであった。

 

 

「いい、未亡人とだなんていくら何でも絶対ダメだからね」

「……分かってるよ」

「あとそれから……暴力禁止、ね、隠してもスグに分かるんだから」

 

確かにこの目の前の少女に隠しごとは出来ない。

 

(俺、もしかして何か試されてる?)

 

かくして、ハジメは一人残されることとなった、完全アウェーの地に。

 

 

「ところでご客人、で、ホントにパパになる気かや」

 

早速、海人族の若い衆らが、ハジメを囲むようにして腰を下ろす。

 

「定時過ぎたけぇ、じっくりナシ聞かして貰うけんのう、隊長がナンボのもんじゃい」

 

さらに兵士たちも鎧を脱ぐと、穏やかならざる視線をハジメに向けてくる。

人間族である彼らに取っても、レミアたち母娘はアイドル的な存在なのだろう。

 

ともかくそんな彼らに絡まれた、ハジメの奥歯がギリッ!と鳴るが、

良かったねミュウちゃんと、男たちに変わる変わる抱っこされるミュウ。

レミアさんお祝いですと、獲れたての山海の幸を持って訪ねる者。

そんな平和な風景が目に入ってしまうと、自重せざるを得ない。

もちろん、ミュウとレミアがいなければ、暴力禁止と言い含められてなければ、

瞬き一つで制圧出来るのである。

 

救いを求める様にジータの姿を探し……あ、ここにはいないんだっけな、

と、思った刹那、そこで、自分がジータやユエを介さない限り

未だ暴力を背景にした以外のコミュニケーションツールを、

殆ど持ち合わせていないことに、ハジメは気が付いてしまう。

 

 

『俺は……俺たちは絶対に日本に帰る……そう、日本にだ

理不尽を理不尽で砕いてまかり通るような生き方を……

邪魔者は皆排除するなんてことは、当たり前だけど許されない世界に』

 

 

ウルでの夜、愛子へ言った自らの言葉を思い出すハジメ。

そしてジータが何故、自分をここに一人で残したのかを、彼はようやく理解する。

要は不必要に力に頼るなということなのだ。

力があるのだからこそ、普通に過ごしてみせろと。

 

(だよな、俺たちが帰るのは……)

 

かくしてご町内の人々総出の宴が始まるなり、ハジメは上座に強引に座らされ、

今度は母娘の過剰なまでの接待を受けることとなる。

 

「パパァ、あーんしてあーん」

「ご飯粒ほっぺに付いてますよ、ほらっ、お口もふきふきしましょうね」

 

ミュウの差し出す匙に、戸惑いつつ口を付ける度、レミアの指がハジメの頬に触れる度に、

男たちの険しい視線がハジメの顔に集中し、

こっちの方は果たして誘惑に耐えられるのかと、ハジメはついつい股間に目を落としてしまう。

 

(こりゃ……今夜は徹夜で桟橋修復だな)

 

ここにいると危ない、と、思ったところでドンと目の前に酒瓶が置かれる。

 

「わりゃあ、こっちはイケる口け?のう」

「ナマ白い顔しおってに、ひっくり返ってまうで、ハハハ」

「……未成年ですから、どうかお構いなく」

 

そんな声にギクシャクとしながらも、何とか笑顔を向けるハジメ。

我慢するのも出来るのもきっと人の証なんだろうな、と思いながら。

 

 

そして、その夜。

 

「何考えてるの香織ちゃん!絶対ダメーっ!」

 

ジータの叫びが宿に響き渡った。





ハジメ抜きの女子会で何が起きたのかは次回。
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