ところでGBVSのベリアルいいですよね、
今日を世界の終末記念日としようだなんて言ってみてえ。
怒気を孕んだジータの顔を真っすぐに見据える香織。
たまにはハジメ抜きで、女の子だけで美味しい物食べようと、
当初はそんな和やかムードな女子会だったのだが。
不意に香織が魔物肉を食べさせて欲しいとジータに頼んでから、その雰囲気は一変し、
現在、そら見たことかと香織を心配げに見るティオ、怯えたようにジータの横顔を見るシア、
沈黙を貫くユエ、そんな三者三様の表情に囲まれる中で、二人は睨み合っていた
ちなみにメドゥーサは興味ないと言いたげに、もくもくと舟盛りになった刺身を食べている。
「ハジメちゃんの身体見たでしょ!あんなに変わってしまって!……それに」
あの、初めて魔物肉を口にした時のハジメの苦悶の叫びは、
己の身体にまで伝わったその痛みは、決して忘れられぬ傷として刻まれている。
あんな苦痛を"親友"に味わせるわけにはいかない。
「許せるわけないじゃないの!」
「だからだよ!ジータちゃん、私もハジメくんと同じに……」
それ以上は言わせないとばかりにジータは香織の頬を平手でぶつ。
そうなんだ……やっぱり…と呟く、香織の唇の端から血が流れる。
「気安く言わないでよ!」
香織がずっとずっとハジメを想っていたことは承知している、"同じ"になりたい、
という気持ちも理解できないわけでは決してない、いや、むしろ理解できる。
だが、愛というものが、そこまで刹那的な物であっていい筈がない、
愛しているからと言って愛する者と同じ傷を、枷を背負う必要はないのだから。
まして彼女の父親が香織を溺愛していることは、ジータとて承知している。
例え無事に帰還したとしても、魔と変じた娘の姿を目の当たりにしようものなら……。
「だってだって!ズルいよ!」
香織の大きな瞳から涙が零れ落ちる。
「ハジメちゃんとジータちゃんは、心も痛みも共有しあってる、だったら私だって
ハジメくんの痛みを分かち合いたい!」
「それにあの時……」
自分だけが檜山の放った一撃を察知することが出来なかった。
もしもジータが盾になってくれなければ、間違いなく致命の一撃となっていただろう。
「大火山でのことを気にしてるんだったら、それはもう別に……」
「そんなの耐えられるわけないじゃない!」
今度は香織がジータの言葉を遮る。
「私はっ……一緒に戦うためにここに来たの、守って貰うためじゃない!
帰りを待つためじゃない!」
「けど……家族って、仲間って強いとか弱いとか、きっとそんなじゃないと思う」
何故か強く言い返すことが出来ないことに、ジータは内心戸惑いを覚えていた。
確かに指標としての成績や数字は大切だし、それを無視することは出来ない。
自分だってステータスが上がれば嬉しかったのだから。
だからといって、それがハジメたちとの全てだとは思わないし、思いたくはない。
中身の無い人間ほど数字に拘るのだから。
「香織ちゃんだって、ハジメちゃんの表面的な強さに惹かれたわけじゃないよね?」
「……私は」
言葉を詰まらせる香織、しかし引き下がるつもりはないのは明白だ。
「戦う必要のない人が、無理に戦う……誰かを傷つける道を選ぶ必要なんてないの」
正しいことを言っているつもりなのに、どうにも詭弁めいた気分を拭えない。
そんなモヤモヤを抱えつつ、ジータがそっと香織の掌に自分の掌を重ねた時だった。
「ジータは……香織が怖い?」
ユエの言葉に身じろぐジータ、これは決して不意を打たれたからではない、
心の中の蟠りを、香織の想いをずっと知っていながら……という。
裏切りに似た後ろ暗さを未だ抱えていることを、思い知らされる一言だったからだ。
(順番が……違うよね、本当なら)
「ハジメの特別はジータ、それは間違いない、けど香織は……それでも、
あえて挑むと言っている、だから」
真にハジメの特別ならばお前も受けて立てと、ユエは言っているのだ。
香織の決意とその挑戦を、何より一度は資格はないと切って捨てたユエも、
また香織の、人を捨ててでもハジメと共にありたいと願う心を、
受け止める決意を固めていたのだから。
「私は……ハジメくんのお嫁さんになりたい、ハジメくんの子供を産みたい
……けど、それ以上に」
ジータの目を正面から見据える香織、その瞳の光に迷いはない。
「私は、ハジメくんの……ううん、みんなの仲間として胸を張って戦いたい、
そしていつか全てが終った時に、みんなで一緒に頑張ることが出来たんだって、
心からそう思いたい」
例え、それが自分の本当に望む形での特別ではなくとも……。
(そんな目で見られたら……もう)
ハジメが獣に……思いだすのも身の毛がよだつ、あんなおぞましい未来を変えれるのならば、
ハジメを真に愛し想い、人の世界に繋ぎとめて貰えるのならば、
それが自分でなくても構わないとさえ思っていた、だがそれは。
(逃げだよね)
ジータは香織の肩を掴み、まっすぐにその目を見つめる。
「受けるよ、その想い……でもそのかわり、私も、もう遠慮はしない、
ハジメちゃんの特別は私だから、譲らないから」
「……んっ、それでこそジータ」
ユエもまたジータの肩を背中から抱きしめる。
「望むところだよ、これで私たちは友達だけじゃなくライバルになったんだね」
香織も負けじとジータの視線に、それ以上の熱視線をもって返礼する。
「わ、私たちだって負けてないですぅ、ほらティオさんも!」
「うーん、塩を送ってしまったかの、ま、妾は別に二号さんでも……」
遅れてならじと、こちらもアピールの声を上げるシアとティオ。
そしてそんな彼女らを横目に、メドゥーサは一人四本ずつと決めていたカニの脚を、
独りで全部食べてしまい、後で全員から激しく怒られることになるのだった。
そして数日後、ミュウとレミアに行ってきますと告げ、
メルジーネへと向かい出立したその夜、香織は意を決して魔物肉を食べさせて欲しいと、
ハジメに頼み込んだのであった。
「ダメに決まってるだろう!」
口調こそ厳しかったが、ここにきてジータが反対しないのを鑑みるに、
もう外堀はやはり埋められているのであろうと、ハジメはすでに悟っていた。
これだから女の友情というものは、男にとって時に厄介で始末に負えないのだ。
「……なんでさ」
例え今のままであったとしても、ハジメにとって香織は、
ジータらとベクトルが違ってはいても、特別な存在であることは間違いない。
それでも何故か聞き返す語気は弱く、かつ真っすぐに自分を見据える香織の目を、
ハジメは直視することが出来なかった。
香織は宿屋でジータへと訴えかけたままの言葉を、ハジメにもぶつける。
それは香織にとって原初の願いだった、南雲ハジメを守りたいという。
「私はハジメくんと共に戦いたいの、例えそれが……」
自分の本当に望む形ではなくなったとしてでも。
そして香織のその必死な姿は、ハジメにとってはいつかの教室での、
あの過剰なまでの自らへのアピールと重なりつつあった。
(あの時の俺は……)
何故、自分をここまで素直に想う少女の気持ちを受け止めることが、
出来なかったのだろうか?
そこで、どうして清水を撃たなかったのか、"敵"と思えなかったのか、
ハジメは改めて理解する。
(俺もアイツも同じなんだ、好意を受け止められる自信がなかった
大切に想われることに、疑問を持ってしまっていたんだ……)
「後悔、しないんだな」
一切の迷いなき香織の瞳を、ハジメは今度は真っ向から覗き込む。
「例え……お前が望むような関係になれないとしても」
「後悔しない、なんてことは言いきれないよ……私だって、正直ちょっと怖いから」
今度は香織の方がハジメから視線を一旦外す、バツの悪さを隠すかのような、
少し照れたような仕草と共に。
「けど、この想いが間違いじゃないってことだけは、どんなに時が経ったって絶対だから」
もし、後悔しないと、何らの躊躇もなく香織が口にすれば、
ハジメは香織の願いを却下するつもりだった、人の身体を捨てるということが、
そんなに軽いことであってはならない。
だが、香織は、揺れる自分を理解しつつ、それでも変わることを恐れずに
先に進もうとしている、覚悟をもって、だからこそ。
「ハジメちゃんも……ちゃんと受け止めてあげて」
ジータの言葉に頷くハジメ、ここまで言われて揺れるわけにはいかない、男なら。
「本当にお前が望んだような関係にはなれないかもしれない……俺とお前とは、それでも」
ハジメは香織の肩に手をやると、はっきりと力強く宣言する。
「お前の覚悟と決断だけは決して後悔させない、そんな南雲ハジメになって見せる」
もちろん今は、この異郷の地で生き抜くことを、皆で日本に帰ることを、
最優先しなければならない、そのため必要ならば、いかなる非道でも行う覚悟はある、
……だが、それだけを理由に、ただ生きること、守ることを理由に力を際限なく奮う、
獣や蟲に落ちぶれるつもりはない、例え、奪うことに躊躇は無くとも、
奪った命の重さを忘れてはならない、これでまた、そういうわけにはいかなくなった。
「俺は錬成師だ、魔王じゃない、魔王になんかならない」
そう小声でしかしはっきりと呟くハジメ、
だって、こんなに自分のことを信じてくれる仲間たちが、
これまでの旅で出会った多くの人々が、
そしてあの夜の誓いをずっと抱き続けていてくれた少女がいるのだから。
(今でも守ってくれてるよ、ちゃんと俺を)
そんな二人の様子を見守るジータの胸には不意に痛みが走る。
しかしこれは決して嫉妬ではなく、かといって焦りでもない。
この胸の痛みは……きっと。
(罪悪感)
ハジメを孤独な魔王の運命から救い出す、
これは言うまでもなくジータの決して変わる事のない誓いである。
だが……同時にこうも思う、もしかすると自分は運命を変えるという名目で、
ハジメの未来を可能性を奪ってしまっているのではないのか?
絆という鎖で縛り上げその翼を手折ろうとしているのではないか?
自分に取って都合のいい存在へと貶めようとしているのではないか?
そんな自身の揺れを近い内に、かつ意外な形で、
彼女は突き付けられることになるのだが、それはまだ別の話である。
そして、香織の眼前には魔物肉と、そして神水が用意されていた。
(これ……食べるんだ)
ギラリと光沢を放つ肉を前に、さすがに身じろぎを見せつつも、肉に手を伸ばそうとする香織。
「怖かったらやめても全然いいんだからね」
そんな香織へと耳打ちするジータ、このまま諦めてくれたらいいのにとの思いも、
まだ少しだけ残っていた。
そんな思いが籠ったジータの声で、伸ばした香織の手が一旦止まる、だが……。
香織の胸の中に、あの忘れ得ぬ傷が、オルクスで奈落へと消えていくハジメの姿が
ありありと甦る。
(自分がもう少し高く飛べたら、もう少し早く走れたら……きっと、だから私は)
そして、逡巡を断ち切るかのように神水と共に肉を喉へと流し込んだ。
(望んだ自分になるんだ!……だああ、ああああああああああ!)
「うぎゃああああああああああ!いだいいいいいいいい~」
変化は劇的だった、咀嚼とほぼ同時に衣服もろとも香織の全身が弾け、
水風船が破裂するかのように鮮血が噴き出したかと思うと、
即座に再生し、またまるで逆再生を見てるかのように肉体が崩壊していく。
「ああああああっ~~ああっ~~~ぎゃあああああああ~」
繰り返される破壊と再生、その度に苦悶の叫びを上げ、地を這い、のたうち回る香織、
その凄惨さに、目を背けることこそないが、
激痛に苛まれる香織を、ただ悲痛な表情で見守ることしかできないハジメたち。
唯一、ティオだけがその目を爛々と輝かせ、苦悶の絶叫を上げながら破壊と再生を繰り返し、
少しずつ変貌していく香織の姿をうっとりと見つめていた。
「……美しい」
そして激痛に苛まれる中で、香織は自分の肉体が変化していく奇妙な充実感を
何より幸福感を確かに覚えていた。
(嬉しい、嬉しいよ、私、ハジメくんとおんなじに、同じ痛みを分かち合ってるんだ)
そして身体だけではなく、精神もまた魔の洗礼を受けようとしていた。
痛みはすでに遠のきつつあるが、代わりに今度は意識が深い闇の中へと、
引きずり込まれるようなそんな感覚が全身に広がっていく、それは眠りにも似ていた。
そして次に目覚める時は、もう自分は今までの白崎香織では、
なくなってしまっているであろうということも。
つまり自分の、白崎香織の根幹を為していた中の何かが、
自分の中から消えて行こうとしているのを、香織ははっきりと自覚していた。
(さようなら……私)
そして一筋の涙がその瞳から零れ落ち、香織は精神を作り変えるべく、
眠りの世界へと誘われる。
先程までの狂乱がまるで嘘のように思える程の安らかな笑みを浮かべながら。
どれくらい時間が経ったのか?毛布に包まれ浜辺に寝かされた状態で
目を覚ます香織。
「長い夢から……醒めたみたい」
文字通り、そんな感覚だった。
それはもはや自覚できないが、自分の中の何かが消えてしまった証でもある。
しかし、それにも勝る充実感が喪失感を遙かに上回っていた。
「大丈夫?」
看病をしてくれていたのだろう、白衣を纏ったジータが顔を覗き込むが。
大丈夫と立ち上がる香織、毛布がするりと解け、一糸纏わぬ裸身が月明かりに晒され、
感嘆の息を漏らすジータたち。
香織の豊かな黒髪は銀の輝きを放つ白髪に変じ、そして黒真珠の瞳はルビーの瞳となり、
その体つきも、より女性らしく変化していた。
だが、付き合いの長いジータにはわかった、変化したのは身体だけではないことに。
そう、その証拠にハジメの姿を見つけるなり、口元を綻ばせ、
全裸であるにも関わらず縋りつく香織。
全てが白に染まった肉体を艶めかしくくねらせ絡みつくその姿は、
まさに白蛇を彷彿とさせ、明らかに今までの白崎香織とは微妙に何かが異なっていた。
そんな妖女の如き充足の笑みを浮かべる香織の姿とは対照的に、ジータの表情は苦い。
やはり止めるべきだったのではないだろうか……との思いが一瞬頭を過る。
「あ……アンカジの人たちどうしよう、これじゃ私って気が付いて貰えないかも」
「染髪料とカラコン用意しないとね」
もっとも、そんな香織の普段と変わらない、ややズレた心配の声を聞くことで、
不安は消えていったが。
(大丈夫……だよね)
というわけで、香織ちゃんが魔物肉を口にしました。
そして、この作品を書く上で目標としてきた、辛すぎず、かといって甘すぎない、
そんな南雲ハジメですが、今回で一応の結果は得られたかなという感じです。少なくとも原作とはまた違った道を歩むかと思います。
次回はクラスメイト回です。